ペリオ|ペリオ論文100選
上顎第一大臼歯の分岐部病変は、なぜあれほど見立てが難しいのか。20本の抜去歯を1mmずつ輪切りにして根の表面積を測ったこの研究は、その答えを数字で示しました。根面積は分岐部のあたりで最も大きく膨らみ、最も浅い近心の分岐部入口はCEJからわずか3.6mm。そして水平的アタッチメントロスが6mm以上あれば、調べた20歯すべてでGrade IIIの分岐部病変になっていた計算になる——著者らはそう述べています。
①「あと何ミリで分岐部に届くのか」が、わからない
上顎6番の頬側から、プローブが4mm入る。X線を見ると根の間が少し暗い。分岐部に届いているのか、まだなのか——上顎大臼歯の分岐部病変は、下顎に比べて格段に見立てにくい相手です。
理由ははっきりしています。分岐部の解剖が複雑で、入口が見つけにくく、根同士が近い。プローブが物理的に入らないことも珍しくありません。
この1985年の研究は、その「見えない場所」を数字にしました。抜去した上顎第一大臼歯20本を1mmずつ輪切りにして、断面ごとに根の周囲長を測るという、地道きわまりない方法です。
②1mmずつ輪切りにして測る
方法は次のとおりです。無作為に選んだ上顎第一大臼歯20本(癒合根のみ除外)を、3.25%次亜塩素酸ナトリウムで3時間処理して軟組織を除去し、超音波スケーラーで根面の沈着物を落とす。自家重合レジンに包埋し、TMSセクショニングマシンで1mmごとに輪切りにする。
各断面の歯冠側と根尖側の両面を撮影し、投影したスライド上でオピソメーター(曲線計)を使って根の周囲長を測定。倍率補正をかけて実寸に直し、両面の平均周囲長 × 1mm で、その1mmぶんの根面積(RSA)を計算しています。
あわせて、CEJから何mm下に分岐部の入口(根の凹みが分岐部へ進入する最初の明確な点)、根の分離点(各根が根幹から独立する点)、分岐部の天蓋(3根の間で最も歯冠側にある根幹の部分)があるかも数えました。
結果、20歯の平均根長は13.6 ± 1.7mm(10.5〜16.0mm)、平均総根面積は477.0 ± 71.1mm²(336.4〜584.0mm²)でした。
③根面積は、分岐部で膨らむ
これがこの論文の核心です。
CEJから歯冠側3mm——つまり根幹の部分——では、1mmあたりの根面積の割合は6.96〜7.53%とほぼ横ばいでした。ところがそこから根尖側へ進むと、8.80%、10.10%、9.90%とはっきり大きくなります。ピークはCEJから5mmの高さで10.1%。ちょうど根が分かれるゾーンです(この研究では統計検定は行われておらず、著者らは記述として「はっきり増えた」と書いています)。
著者らはこの膨らみを、根の凹み(フルーティング)や複雑な形態が分岐部の周囲に集中しているためだと説明しています。——幾何学的にも、平滑な円筒より、くびれと溝のある形のほうが表面積は大きくなります。
数字をまとめると、こうなります。
- 根の分離部から2mm以内に、全根面積の約38%が集中している
- 歯冠側6mmだけで、全根面積の約50%(根長は平均13.6mm)
- 歯冠側半分で、全根面積の約60%(平均根長13.6mmから計算すると約6.8mm)
言い換えれば、上顎6番の支持の半分は、CEJから6mmまでの範囲に置かれているということです。
④分岐部の入口は、思っているより浅い
CEJからの平均距離は次のとおりでした。
- 分岐部の入口:近心 3.6 ± 0.8mm、頬側 4.2 ± 1.0mm、遠心 4.8 ± 0.8mm
- 根の分離点:近心頬側根 5.0 ± 0.7mm、遠心頬側根 5.5 ± 0.8mm
- 分岐部の天蓋:4.6 ± 0.6mm
20歯中10歯で近心の分岐部入口が最も歯冠側にあり、残り10歯のうち9歯でも、近心の入口は次に歯冠側にある入口と同じ高さでした。つまり水平的なアタッチメントロスが起きたとき、まず巻き込まれるのは近心の分岐部である可能性が高いということです。
発育性の根面の凹み(フルーティング)や溝は、根幹の近心面・頬側面のCEJ付近から始まり、根尖方向へ分岐部へと続きます。著者らはここをGlickmanの分類でいうGrade I(初発)が診断されうる場所としています。
そのうえで入口の平均位置から、「CEJから4〜5mmに及ぶアタッチメントロスとポケット形成があれば、初期の分岐部病変が起こりうる」と述べています。
そして、いちばん実務に効く結論がこれです。20歯中17歯では3根すべてがCEJから6.0mm以内で根幹から分離しており、残る3歯でも1根は6.0mm以内で分離していました。したがって6.0mm以上の水平的アタッチメントロスがあれば、調べた20歯すべてでGrade IIIの分岐部病変になっていた計算になります。
⑤明日の臨床へ
- 上顎6番で4mmを超えたら、近心の分岐部を疑ってプローブを当てる。近心の入口は平均3.6mm。頬側から見ているだけでは届きません
- 目安は2段構え。著者らは5mm以上の水平的アタッチメントロスで近心頬側根のGrade IIIを想定でき、6mm以上なら3根すべてのGrade IIIを疑うべきだと書いています。下顎大臼歯についてのTalの目安(骨頂からCEJまで5〜6mm以上で貫通型を疑う)と並べた発想です
- 「あと1mm」の重みが場所で違うことを説明に使う。歯冠側3mmでは1mmあたり7%でも、5mmの高さでは10.1%。同じ1mmでも失う支持が違います
- 分岐部に及ぶ外科は、得るものと失うものを天秤にかける。著者らは、全層弁の剥離や骨切除はさらなる根面の支持喪失につながるため、有効性が示されている術式であっても個々の状況で慎重に判断すべきだと釘を刺しています
- 逆に、分岐部でのアタッチメント獲得は価値が大きい。この領域はわずかな増減が支持全体に大きく響く場所だからです
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
上顎第一大臼歯の根面積は根尖に向かって一様に細るのではなく、分岐部のあたりで膨らむ。CEJから5mmの高さの1mmが、全根面積の10.1%を占める(歯冠側3mmは1mmあたり7.0〜7.5%)。根長平均13.6mmのうち、歯冠側6mmだけで全根面積の約50%、歯冠側半分で約60%を占め、根の分離部から2mm以内に全根面積の約38%が集中している。分岐部入口はCEJから近心3.6mm・頬側4.2mm・遠心4.8mmと浅く、4〜5mmのアタッチメントロスとポケット形成があれば初期の分岐部病変が起こりうる。そして20歯中17歯で3根すべてがCEJから6mm以内で分離しており、著者らは5mm以上で近心頬側根、6mm以上なら3根すべてのGrade IIIを疑うべきだと述べている(実際の貫通を確かめたのではなく、解剖から導いた推定である)。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


