ペリオ|ペリオ論文100選
骨縁下欠損に移植材を入れる。手技は同じでも、歯が動いているかどうかで結果が変わるのではないか——2000年、ケルン大学のグループが45名の患者・70の骨縁下欠損を4群に無作為に割り付け、固定(スプリント)のタイミングだけを変えて48週間追いました。術前に固定するか、抜糸のときに固定するか、固定しないか、そして移植材そのものを使わないか。分かれたのは、想像以上にはっきりした差でした。
①移植材を入れたのに、思ったほど付着が増えない
骨縁下欠損に移植材を入れる。フラップを開け、根面を掻爬し、欠損を埋めて縫合する。手技は毎回ほぼ同じはずなのに、48週後の結果は症例によってずいぶん違う——そういう感覚を持っている方は少なくないと思います。
この論文は、その差の一因を「歯が動いていたかどうか」に求めました。45名の患者・70の骨縁下欠損を4群に無作為に割り付け、固定(スプリント)のタイミングだけを変えて48週間追った研究です。
②変えたのは「固定のタイミング」だけ
対象は歯周外科を受けた45名、骨縁下欠損70部位。移植材には天然サンゴ由来の炭酸カルシウム(Biocoral 450+1000を1:1)を用いています。全例で粘膜骨膜弁を翻転し、根面と骨欠損を徹底的に掻爬したうえで、欠損を「そのまま閉じる」か「移植材で埋める」かに分けました。
- 術前固定群:移植材+術前に少なくとも2本の安定した歯へ固定(18歯・11名)。隣接面のコンポジット、暫間補綴物、固定性補綴物のいずれかで固定
- 術後固定群:移植材+術後1回目のチェック(抜糸時)に固定(16歯・11名)
- 固定なし群:移植材のみ、固定しない(17歯・11名)
- デブライドメント単独群:移植材を使わず、固定もしない(19歯・12名)
評価はプロービングデプス(PPD・最深部を0.5mm単位)、臨床的付着レベル(CPAL)、そして動揺度。CPALは可撤式の光重合レジンスプリントを固定基準点として使い、術前と48週後の差を付着の獲得/喪失としています。動揺度は主観に頼らず、デスモドントメトリー(DDM)とペリオテスト(PTV)という2つの機械的計測で測りました。測定時点は術前・術後6・12・24・36・48週です。
固定装置は、術後8か月より前には外していません。
③差は、固定のタイミングでついた
CPALの獲得量は、術前固定5.1mm(SD1.4)、術後固定3.5mm(SD0.8)、固定なし1.7mm(SD0.9)、デブライドメント単独0.6mm(SD0.8)。術前固定群では6mm以上の獲得が得られた症例もありました。
統計的には、術前固定と「固定なし・デブライドメント単独」の間、および術後固定と「固定なし・デブライドメント単独」の間に有意差があり、術前固定と術後固定の間、固定なしとデブライドメント単独の間には有意差がありませんでした。つまり、大きな分かれ目は「移植材を使ったかどうか」ではなく、「固定したかどうか」だったということです。
ポケットの動きも同じ向きでした。術前の最大PPDは各群8.3〜10.3mm。術前固定群は48週で平均3.5mm(SD0.7)まで浅くなり、減少量は5.4mm(SD1.4)。一方固定なし群は術後6.7mm(SD1.5)で、減少は2.2mm(SD0.8)にとどまりました。デブライドメント単独群の減少は4.5mm(SD1.1)で、術前固定・術後固定と同程度です。
ここは読み方に注意が要ります。デブライドメント単独でもポケットは浅くなっている。しかしCPALの獲得は0.6mmしかない。つまりポケットが浅くなった主因は付着の獲得ではなく、歯肉の退縮だったと読むのが自然です。「ポケットが浅くなった=再生した」ではない、という教科書的な原則が、そのまま数字に出ています。
④動揺量も、術前固定がいちばん減った
術前はすべての群の歯が高い動揺を示していました。48週後の減少量は、術前固定257μm(SD60)、術後固定185μm(SD62)、固定なし148μm(SD13)、デブライドメント単独72μm(SD8)。
実測値で見るとこうなります。術前固定群のH100は371μm→114μm(元の約30%)、術後固定群は340μm→155μm(元の約45%)、固定なし群は371μm→223μm、デブライドメント単独群は384μm→312μm。ペリオテスト値も、術前固定群だけが他の3群より有意に大きく低下しました(36.0→14.2)。
注目したいのは、これが「固定装置を外したあとの動揺量」だという点です。固定は8か月以上経ってから撤去され、そのうえで測っています。固定によって一時的に動きを止めていただけなら、外した時点で元に戻るはずです。戻らなかったということは、歯周組織の支持そのものが回復していたことを意味します。CPALの増加と動揺量の減少が同じ順に並んでいることが、その傍証になっています。
⑤なぜ、術前でなければならないのか
著者らが挙げている理由は、きわめて物理的です。動く歯の周囲では、移植材がその場に留まらない。実際、固定しなかった中等度動揺歯の症例では、エックス線写真で移植材の約60〜70%が失われていることが確認されています。
整形外科の骨折治療との対比も出てきます。骨折部を安定させたほうが治癒が良いのと同じで、動揺部位を安定させることが治癒に有利に働くという発想です。ただし著者らは「広範な固定であっても、各歯に残る生理的な動きは、再生期間中の機能的な刺激として十分に存在する」とも書いています。完全に動きを封じるという話ではありません。
そして、なぜ「術前」なのか。術後固定では、外科処置から抜糸までのおよそ1週間、いちばん壊れやすい初期の血餅と移植材が、動く歯とともに揺さぶられることになります。この論文の術前固定群と術後固定群の差(CPAL 5.1mm vs 3.5mm)は統計的有意差には届いていませんが、方向としてはこの1週間の説明と一致します。
⑥明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次の3点です。
- 再生療法の適応を考えるとき、欠損形態だけでなく「その歯が動いているか」を判断材料に入れる。動揺があるなら、固定を術式の一部として計画に組み込む
- 固定するなら術前に。抜糸時からの固定でも固定なしよりは良い結果だったが、術前固定のほうが数字は一貫して良い
- 固定は8か月以上維持し、外す時期は残存歯の支持状態・咬合を見て個別に判断する。この論文でも「いつ外すか、あるいは恒久的に維持するかは個々の状況による」と保留されている
そして、著者らが最後に釘を刺していることを添えておきます。「固定は決して適切な口腔清掃を妨げてはならない。再燃した炎症は再生治療を失敗させうる」。清掃性を犠牲にした固定は、本末転倒になります。
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
移植材が仕事をするには、動かない足場が要る。動揺歯に再生療法を計画するときは、固定を「できればやること」ではなく「術式の一部」として、しかも術前に組み込む。それだけで、48週後に手元へ残る数字が変わる可能性があります。
今日のひとこと
45名の患者・70の骨縁下欠損を、①天然サンゴ由来炭酸カルシウム(BRG)+術前固定 ②BRG+術後固定(抜糸時) ③BRG+固定なし ④デブライドメント単独・固定なし の4群へ無作為に割り付けた。48週後の臨床的付着レベル(CPAL)の獲得量は、術前固定5.1mm(SD1.4)、術後固定3.5mm(SD0.8)、固定なし1.7mm(SD0.9)、デブライドメント単独0.6mm(SD0.8)。プロービングデプスは術前固定群で5.4mm(SD1.4)減り、48週で平均3.5mm(SD0.7)になった。固定なし群の減少は2.2mm(SD0.8)にとどまった。水平方向の動揺量(DDM-H100)の減少は、術前固定257μm・術後固定185μm・固定なし148μm・デブライドメント単独72μm。固定しなかった歯では、移植材の60〜70%が失われている症例が確認された。著者らの結論は「術前の固定が再生療法の結果に最も大きな好影響を与えた。固定しない歯では、移植材を使ってもデブライドメント単独とほぼ同じ結果になる」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


