ペリオ|Phase2 歯周外科
「ポケットは自己増殖する欠陥で、放置すればさらに付着を失う」——長くそう語られてきました。ではポケットを外科的に無くせば、付着は守られるのか。1973年、Ramfjordらがミシガンで104名をスプリットマウスで10年追い、その前提を検証しました。
①ポケットを消すことは、付着を守ることか
ポケットの除去は、歯周治療の共通の目標とされてきました。「ごくわずかな例外を除き、歯周ポケットは自己増殖する欠陥であり、遅かれ早かれ、さらなる歯周付着の喪失につながる」——文献ではそう述べられ、あるいは前提とされてきたのです。
その結果、治療の評価は「治療後のある時点での溝の深さ」で行われ、新しい溝の深さが3〜4mmを超えたら結果は不満足、という含みで語られるようになりました。そして2〜3mmより深い歯周溝を除去するために、さまざまな治療法が開発されてきた。
ただし、それらの方法には見苦しい根面の露出、根面カリエス、知覚過敏、そして歯周支持の部分的な喪失といった望ましくない副作用があります。そうした審美的・機能的な犠牲を正当化できるのは、歯周付着の保存に対する長期的な利益が実際に示された場合だけ——これがこの研究の出発点です。
そしてこれらの術式の有効性は、付着レベルの長期維持とポケット除去について、臨床試験で検証されたことが一度もありませんでした。「ポケット除去が歯周支持の維持にとって必要である」という原則そのものも、検証されていなかったのです。
②スプリットマウスで、同じ口の中を比べる
1961年6月1日に始まり、本報告は1972年1月1日までを対象としています。これまでに124名を治療し、現時点で113名が参加中。21名が死亡(5名)または転出(16名)で脱落しました。脱落した患者の解析では、全体標本との統計学的な差も系統的な傾向も認められていません。本報告は、直近10年に治療を受けた104名が対象です。
組み入れ基準は、セメント-エナメル境より4mm以上根尖側へ及ぶ歯周ポケットを1つ以上持つこと。歯髄壊死のリスクなしには歯周治療ができないほど根尖に近いポケットを持つ歯と、歯内・修復の面で治療不能な歯は抜去されました。軽度の歯肉炎から、進行した根分岐部病変を伴う重度歯周炎まで、すべての重症度が含まれます。
年齢は13〜64歳(平均39.7歳、SD 13.54)、女性50名・男性54名。治療した歯は合計2,604歯、1人あたり約25歯。治療前の隣接面ポケットの平均は、遠心頬側線角で4.04mm(SD 1.766)、近心頬側線角で3.93mm(SD 1.717)。同じ部位の付着の喪失は、それぞれ3.53mm(SD 2.140)と3.14mm(SD 2.011)でした。
設計がこの研究の要です。研究開始から最初の2年間は、患者の約半数をキュレッタージュ、残り半数を外科的ポケット除去で治療していました。しかし口腔衛生や反応の個人差が大きく、これを均すには膨大な無作為症例が必要になること、また群の人数が不揃いだと標本の性格が変わってしまうことが明らかになりました。
そこで採用されたのがスプリットマウス設計です。片側をキュレッタージュ、反対側を外科的ポケット除去に無作為に割り付けることで、衛生面・生物学的な差を2つの術式のあいだで最小化できます。1963年以降、乱数表による割り付けで、各患者の右半分と左半分に異なる治療を行ってきました。1966年には第3の術式として改良ウィドマンフラップが加えられています(本報告の対象はキュレッタージュと外科的ポケット除去の2つ)。
術式の定義も明確です。①キュレッタージュ=局所麻酔下で根面とポケットの軟組織壁を掻爬し、歯周パックを置く ②外科的ポケット除去=歯肉切除または歯肉弁根尖側移動術(全層・逆斜切開)で歯肉を整形し、必要に応じて骨整形・骨切除を加える。歯肉切除はポケットが比較的浅く付着歯肉内にあり、骨手術が不要な場合に選択されました。
全患者が初期治療(スケーリング・初期ルートプレーニング・口腔衛生指導・咬合調整)を受け、術後は3か月ごとに歯科衛生士による予防処置とホームケア指導。評価は、患者を担当しない1名の研究者が処理し、検者は前回のスコアを知らされません。較正試験のプールされた標準偏差は、近心+遠心のポケット深さで0.14mm、付着レベルで0.17mmでした。
③3年まではキュレッタージュが優る
全4面(近心+遠心+頬側+舌側)を合計して比べると、術後3年までは付着レベルがキュレッタージュのほうが有意に良好でした。
1年目:キュレッタージュ+0.90mm、外科的ポケット除去−0.50mm、差1.40mm(p<.01)。2年目:+0.38mm対−0.70mm、差1.08mm(p<.01)。3年目:+0.62mm対−0.39mm、差1.01mm(p<.05)。
4〜6年になると、どちらの術式でも付着の喪失が起こります。ただしその程度はキュレッタージュのほうが有意に小さい。4年目−0.73mm対−1.62mm、5年目−2.06mm対−2.44mm、6年目−2.31mm対−2.62mm。
隣接面(近心+遠心)だけを取り出すと、結果はさらに良好です。キュレッタージュは1年目+0.69mm、2年目+0.45mm、3年目+0.69mmと獲得側にとどまり、外科的ポケット除去との差は最初の2年で統計学的に有意(p<.05)でした。
そして著者らが強調するのが、「7年間で、どの歯面の付着の喪失も平均1mm未満である」という事実です。
④ポケットは、じわじわ戻る
全患者のデータを術式を問わず合算すると、ポケットの減少は6年目まで統計学的に有意ですが、その幅は年々小さくなります。1年目4.45mm、2年目3.44mm、3年目2.85mm、4年目2.33mm、5年目1.38mm、6年目0.98mm、7年目0.67mm(7年目は有意でない)。
ポケット深さは7年の観察では、治療前の水準まで完全には戻りませんでした。
ただし面によって様子が違います。隣接面のポケット減少は7年すべてで有意(1年目2.81mm→7年目0.71mm)。舌側は5年目まで有意。そして頬側は術後3年までは有意に減るものの、徐々に戻り、7年後には治療前よりわずかに深くなっていました(1年目+0.63mm→7年目−0.14mm)。
付着レベルの推移も、同じ形を描きます。1年目にはわずかな獲得(+0.14mm)、2〜3年でわずかな喪失、3年目から4年目のあいだに統計学的に有意な——ただしそれほど大きくない——喪失が起こり、4年目以降はそれ以上の有意な喪失はありませんでした。
歯の喪失について。2,604歯のうち53歯が研究期間中に失われました。内訳は歯髄疾患のみ2歯、事故3歯、補綴的理由4歯、審美的理由で上顎義歯を希望した1名の14歯、そして残る30歯が歯周疾患または歯周・歯髄合併疾患による不快感のための抜歯です。失われた歯のうち20歯が外科的ポケット除去、19歯が歯肉縁下キュレッタージュ、9歯が改良ウィドマンフラップで治療されており、2群からほぼ等しい割合で失われています。失われた歯の付着の喪失は全体より大きく(1年で0.52mm、6年で6.85mm)、また32歯は治療後1〜2年目に失われました。
⑤明日の臨床へ
①「ポケットを消す」ことが、そのまま「付着を守る」ことにはならない。 少なくともこの研究の7年の範囲では、外科的ポケット除去がキュレッタージュより付着を守ったという結果は出ていません。
②隣接面では、キュレッタージュが3年間プラスを保つ。 +0.69/+0.45/+0.69mm。露出や知覚過敏という代償を払わずに、この水準が得られています。
③ポケットは戻る。それでも付着は1mm以内に収まる。 「深さが戻った=失敗」ではありません。評価軸を溝の深さから付着レベルへ移す——この研究がいちばん強く投げかけている問いです。
④3か月ごとのメインテナンスが前提にある。 この数字は、術後に3か月ごとの予防処置とホームケア指導を続けた集団のものです。術式の比較として読むときは、この土台を外さないこと。
⑤失う歯は、最初の2年に集中する。 失われた53歯のうち32歯が治療後1〜2年目でした。予後不良歯の見極めは、この時期に決まります。
今日のひとこと
「ポケット除去は付着の維持に必要か」を正面から検証した縦断研究(1961年開始・本報告は直近10年に治療した104名・2,604歯・平均約25歯/人・年齢13〜64歳(平均39.7±13.54歳))。1963年以降は乱数によるスプリットマウス設計で、左右の半顎に別々の術式を無作為に割り付けています。比較したのはキュレッタージュ(根面と歯周ポケットの軟組織壁の掻爬)と外科的ポケット除去(歯肉切除または歯肉弁根尖側移動術+必要に応じて骨整形・骨切除)。全例が初期治療(スケーリング・ルートプレーニング・口腔衛生指導・咬合調整)を受け、術後は3か月ごとのメインテナンス。結果、全4面を合計した付着レベルは、術後3年までキュレッタージュのほうが有意に良好でした(1年目の差1.40mm p<.01、2年目1.08mm p<.01、3年目1.01mm p<.05)。4〜6年ではどちらも付着を失いますが、その程度はキュレッタージュのほうが小さい。隣接面(近心+遠心)だけを見ると結果はさらに良好で、キュレッタージュは1年目+0.69mm、3年目でも+0.69mmと獲得側にとどまりました。ポケットの減少は7年かけて徐々に戻り、全4面合計で1年目4.45mm→7年目0.67mm、頬側では7年後に治療前よりわずかに深くなりました。それでも7年間の付着の喪失は、どの面でも平均1mm未満。2,604歯のうち失われたのは53歯で、うち歯周・歯髄疾患によるものは30歯でした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


