1問1答 論文 歯周病

なぜ効くのかを、犬の歯で確かめた

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

線維芽細胞増殖因子(FGF-2)が骨・セメント質・歯根膜を増やすことは、動物でもヒトでも示されてきました。では、なぜ効くのか。2015年、Nagayasu-Tanakaらはビーグル犬の骨欠損を4つの時点で切り取り、治り方の順番そのものを観察しました。差は、3日目にはもうついていました。

論文
Action Mechanism of Fibroblast Growth Factor-2 (FGF-2) in the Promotion of Periodontal Regeneration in Beagle Dogs
著者
Nagayasu-Tanaka T, Anzai J, Takaki S, Shiraishi N, Terashima A, Asano T, Nozaki T, Kitamura M, Murakami S
掲載
PLOS ONE 2015;10(6):e0131870
種類
動物実験(ビーグル犬の3壁性骨欠損モデル・組織学的解析と遺伝子発現解析)
PMID
26120833

効くことは分かっていた。順番が分からなかった

歯周組織の再生は、歯周治療の最終目標です。けれど従来の歯周治療や外科では、失われた歯周組織とその機能を元に戻すことはできませんそこでGTRやエナメルマトリックスデリバティブが導入され、一定の成果を上げてきました

もうひとつの流れが、サイトカイン(成長因子)の応用です。線維芽細胞増殖因子(FGF-2)は、線維芽細胞の増殖・血管新生・骨形成を促すとされ、ビーグル犬やサルの人工的な歯周欠損モデルで、新生骨・セメント質・歯根膜のバランスの取れた再生を誘導することが示されてきました。ヒトでも2壁性・3壁性の垂直性骨欠損に対する臨床試験が行われ、改良ウィドマンフラップ手術における骨充填率で、溶媒のみに対する有意な優越性が示されています

ただし、「なぜ効くのか」——生体内での作用機序は、十分に解明されていませんでした再生した組織の量は測られてきたのに、その組織が「どういう順番で」できてくるのかは分かっていなかったのです。

先に結論: 差は3日目にはついていた増殖のピークが1週間前倒しになり、その後の骨とセメント質の再生につながっていた

治り方を、4つの時点で切り取る

ビーグル犬の下顎第一大臼歯の近心に、人工的な3壁性骨欠損(近遠心幅5mm×頬舌幅3mm×深さ4mm)を左右に作成しました。支持骨とセメント質をバーで除去し、露出根面をグレーシーキュレットで滑らかにしていますそこへ0.3%のFGF-2溶液、または溶媒(3%ヒドロキシプロピルセルロース)のみを60μL塗布し、3日・7日・14日・28日の4時点で組織を採取しました。

評価は3方向から行われています①組織計測(血餅・肉芽組織・結合組織・新生骨の面積、新生骨の高さ、根面の結合組織と上皮の高さ)②増殖細胞(PCNA陽性細胞)の局在と数、および7日目の血管面積③リアルタイムPCRによる骨形成関連遺伝子(BMP-2・オステリックス・アルカリホスファターゼ・オステオカルシン)の発現

PCNA陽性細胞の計測では、骨欠損を「外側・辺縁・中央・上方」の4つのゾーンに区分し、盲検の1名が数えています組織学的解析に16頭、血管面積に4頭、PCR解析に12頭を使用しました。

3つの働きが、重なって起きていた

FGF-2を欠損に置くと、3つの働きが同時に始まる

① 細胞をふやす 骨髄と歯根膜から 線維芽細胞が増殖して 欠損を早く満たす ② 血管をふやす 新しくできた組織に 血管が入り込み 酸素と栄養が届く ③ 骨をつくらせる BMP-2などの発現が上がり 骨芽細胞への分化と 骨の形成が進む

肉芽組織が早くでき、そこが骨に置き換わる 歯肉の高さが保たれ、再生のための空間ができる

新しい骨・セメント質・歯根膜がそろって再生する

ビーグル犬の3壁性骨欠損モデルでの観察にもとづく(Nagayasu-Tanaka 2015)

FGF-2の3つの働きと、それがつながる先。著者らが示した作用機序の骨格

まず細胞の増殖です。3日目、対照群では骨髄細胞の中にわずかな増殖細胞が見えるだけでした。FGF-2群では、既存の骨髄から伸びた線維芽細胞に増殖細胞が見られ、その数は外側ゾーンで2.5倍、辺縁ゾーンで10倍7日目には、対照群では増殖細胞が辺縁ゾーンに集まっているのに対し、FGF-2群では全ゾーンで高密度に分布していました。

もっとも重要なのは、ピークの位置です増殖細胞数のピークは、対照群では14日目、FGF-2群では7日目しかもFGF-2群の7日目の細胞数は、対照群のピーク(14日目)よりも明らかに多いつまりFGF-2は、増殖のフェーズを前倒しし、かつ強めていたことになります。

次に血管新生7日目の血管数はFGF-2群で増加していました。根面に形成された結合組織の中にも、明らかな血管新生が観察されています

そして骨の形成7日目に血餅の面積が有意に減り(p<0.01)、肉芽組織と結合組織が欠損を横断して形成され、辺縁部にかなりの量の新生骨が出現14日・28日には、対照群が肉芽・結合組織・骨の混在にとどまるのに対し、FGF-2群では欠損のほぼ全域に新生骨が形成され、面積も高さも有意に大きい(p<0.05)という結果でした。遺伝子発現でも、BMP-2と骨芽細胞分化マーカー(オステリックス・ALP・オステオカルシン)がFGF-2で高まっています

同じ4つの時点で切り取ると、治り方の順番が前へずれている

3日 7日 14日 28日

溶媒だけ 血餅のまま動きなし まだ血餅が大半を占める 増殖のピーク肉芽と骨が混在 セメント質は4例中1例のみ

FGF-2 線維芽細胞が既存骨から伸びる 増殖のピーク血管と新生骨が出現 肉芽が骨へ置き換わる セメント質は4例中3例で形成

増殖のピークが1週間前へ

3日目の時点で、欠損の辺縁の増殖細胞は10倍、外側でも2.5倍に増えていた 骨性癒着(アンキローシス)は、どちらの群でも観察されなかった

同じ4時点で見た治り方の順番。FGF-2群では出来事が前へずれている

根面でも同じことが起きていました。7日目、FGF-2群では線維芽細胞の組織塊が根面の全域に広がり、結合組織の高さが有意に増加(p<0.001)表層では線維芽細胞が根面に沿ってびっしりと縦に積み重なり、欠損底からの上皮の位置も高い水準で維持されました(p<0.01)14日目には、コラーゲン線維の緊密な結合組織が伸び、その一部が新生セメント質と歯槽骨をつなぐシャーピー線維を形成28日目、新生セメント質と新生歯根膜が観察されたのは、対照群で4例中1例、FGF-2群で4例中3例でした。骨性癒着(アンキローシス)は、どちらの群でも一例も観察されていません

「早く場所をつくる」ことが再生になる

著者らの解釈を、ひとつの流れにするとこうなります。FGF-2が線維芽細胞の増殖を前倒しで強める → 血餅が早く肉芽組織に置き換わる → その組織に血管が入る → 骨芽細胞への分化と骨形成が進む

ここで見逃せないのが、根面側で起きていたことです。早期に形成された結合組織が、歯肉組織の高さを高い位置で保ったその結果、再生のための空間(regenerative space)が確保され、最終的に新生セメント質と歯根膜の再生につながった——というのが著者らの読みです。

これは、これまでの再生療法の設計思想と地続きですGTRは膜で空間を確保し、低侵襲術式は乳頭を残して軟組織の落ち込みを防ぐFGF-2は、それを「早く組織を作らせる」という別の道筋で実現していると読めます。

ここが要点: 再生の勝負は、術後1週間の細胞の動きで決まっているそこを早めることが、28日後のセメント質と歯根膜につながっていた

明日の臨床へ

1つ目。最初の1週間の意味が変わる。 この研究で差がついたのは3日目から7日目です血餅が早く肉芽に置き換わることが、すべての起点になっていました「創が動かない1週間」を守ることの重みが、細胞レベルで裏づけられたと読めます。

2つ目。空間の確保は、膜だけの仕事ではない。 この研究では、早期にできた結合組織が歯肉の高さを保ち、空間をつくっていました膜・弁の設計・生物学的製剤は、同じ目的を違う手段で達成しようとしているということです。

3つ目。骨性癒着が起きていない。 骨だけが早く増えれば癒着のリスクが心配になりますが、この研究では両群とも観察されませんでしたセメント質と歯根膜が同時に再生していたことと、整合しています

4つ目。ただし、ここまでは犬の話。 次項のとおり、この結果をヒトの臨床成績としてそのまま語ることはできませんヒトでの臨床試験は別に行われており、そちらの数字で語るのが筋です

ここだけ、冷静に補助線。 これはビーグル犬に人工的に作った3壁性欠損の実験です——自然に進行した歯周炎の欠損とは、細菌環境も骨壁の形態も違います各時点4頭という標本数は小さく、新生セメント質・歯根膜の高さには群間の有意差が出ていません(4例中3例と1例、という個体数の比較です)そして研究資金は製薬企業と大学から出ており、著者の多くが同社の社員、一部は関連特許の発明者として記載されています——著者ら自身がPLOS ONEの方針に従って開示している内容です。動物実験の結果を、ヒトの臨床効果として読み替えてはいけません。それでも、「効く」と分かっていたものについて「どういう順番で効くのか」を時間軸で示したことに、この論文の価値があります。再生を「材料の話」から「時間の話」へ引き戻す一本です。

今日のひとこと

ビーグル犬の下顎第一大臼歯の近心に人工的な3壁性骨欠損(5×3×4mm)を作り、0.3%のFGF-2溶液(またはヒドロキシプロピルセルロースの溶媒のみ)を60μL塗布して、3日・7日・14日・28日の4時点で組織を観察した研究3日目の時点で、FGF-2群の増殖細胞(PCNA陽性細胞)は欠損の辺縁ゾーンで対照の10倍、外側ゾーンで2.5倍増殖のピークは、対照群の14日目に対しFGF-2群では7日目へ前倒しされ、FGF-2群の7日目の増殖細胞数は、対照群の14日目(ピーク)よりも明らかに多いという結果でした。7日目には血餅が有意に減り(p<0.01)、肉芽組織と結合組織が欠損を横断して形成され、新生骨の面積も有意に増加(p<0.05)根面では、7日目の結合組織の高さがFGF-2群で有意に高く(p<0.001)、歯肉上皮の位置も高い水準で維持されました。血管も7日目にFGF-2群で増加しています。28日目には、新生セメント質と新生歯根膜がFGF-2群では4例中3例で観察されたのに対し、対照群では4例中1例のみ骨性癒着(アンキローシス)は、どちらの群でも観察されませんでした遺伝子発現では、FGF-2がBMP-2と骨芽細胞分化マーカー(オステリックス・アルカリホスファターゼ・オステオカルシン)の発現を高めていました。著者らの結論は「線維芽細胞の増殖・血管新生・骨芽細胞分化という3つの働きが重なって、再生の初期に新しい組織の形成を早めている」というものです。

出典:Nagayasu-Tanaka T, Anzai J, Takaki S, et al. Action mechanism of fibroblast growth factor-2 (FGF-2) in the promotion of periodontal regeneration in beagle dogs. PLoS One 2015;10(6):e0131870. PMID: 26120833
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。動物実験の結果であり、ヒトの臨床成績を直接示すものではありません。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。