ペリオ|Phase1 初期治療
歯間清掃といえばフロス——長らくそれが「正解」でした。ところが2015年のヨーロッパ歯周病学会ワークショップは、その推奨を大きく書き換えます。では実際、10種類の歯間清掃具を同じ土俵に載せたら、どう並ぶのでしょうか。22試験をつないだベイズ流ネットワークメタ解析が、順位表を出しています。
①「フロスが金字塔」が、揺らいだ
市販の口腔ケア用品は2012年の調査で年間およそ50億ドルの売上があり、フロス・歯間ブラシ・ウォータージェット・つまようじがその大きな部分を占めています。それだけの市場がありながら、製品どうしを比較できるデータはほとんど存在しない——著者らはここから始めます。
そこへ第11回ヨーロッパ歯周病学会ワークショップのコンセンサスが投じられました。曰く、「フロスは、歯間ブラシが外傷なく通過できない歯周組織の健康な部位を除いて、推奨できない」。長らく歯間清掃の金字塔とされてきたフロスにとって、これは大きな方針転換でした。
問題は、個々の試験の作りにもあります。歯間清掃具の臨床研究はしばしば業界主導であり、関心のある製品を「歯みがき単独」とだけ比べる設計が一般的。つまり製品どうしが直接ぶつかっているデータがほとんどない。従来型のペアワイズ・メタ解析では、この状況に歯が立ちません。
そこで用いられたのがベイズ流ネットワークメタ解析(BNMA)です。直接比較と間接比較を同時に扱い、全体の順位づけまで出せる——「どれを勧めるか」という臨床の問いに、いちばん近い形で答えが出ます。
②10種類を、1枚のネットワークに載せた
検索は1980年1月から2015年4月まで、Ovid Medline・EMBASE・Web of Scienceに加えて主要4誌のハンドサーチ。2名の評価者が独立して重複して行い、意見が割れたら3人目が最終判断という手順です。
採択条件は①RCTであること ②身体的に問題なく口腔清掃ができる人が対象 ③歯肉の炎症・プラーク・ポケット深さのいずれかを報告 ④追跡2週間以上。各群10名未満の研究は除外されました。最終的に22試験が残り、18の介入が10のカテゴリに整理されています。
採択された研究の顔ぶれも押さえておきましょう。各群の人数は10名から110名とばらつき、バイアスリスクは4編が低リスク、1編が高リスク、残りは不明。そして22編のうち9編(40.9%)が業界資金による研究で、残りは資金源を報告していません。
統計手法にも理由があります。個々の研究の症例数が小さいため、従来型のペアワイズ・メタ解析では信頼できる結果が出ない。また過去のレビューの比較は3試験未満に基づくものが多く、ランダム効果モデルが使えない。BNMAは間接的な証拠から強さを借りてくることで、この制約を越えます。
③出血で見るか、歯肉炎で見るかで、1位が変わる
BOPの減少で最大だったのはつまようじ+徹底した口腔衛生指導(TO)で26.4%(95%CI 7.50〜45.4)。次いでウォータージェットが19.3%(95%CI 16.2〜22.4)でした。
フロスと電動フロスも、対照より有意に優れています。ただし効果量は小さく、フロスの95%信頼区間は5.1〜10.3%、電動フロスは2.0〜11.2%にとどまりました。
一方歯肉指数(GI)で見ると、順位が入れ替わります。歯間ブラシが最大で平均0.23の減少(95%CI 0.09〜0.37)、ウォータージェットが0.19(95%CI 0.14〜0.24)。「最良である確率」は歯間ブラシ64.7%、ウォータージェット27.4%で、つまようじとフロスはほぼゼロでした。
プラーク指数でも歯間ブラシが最良で、対照との差は0.34(95%CI 0.12〜0.56)、SUCRAは95.5%。ポケット深さの減少でも歯間ブラシが1位で、2位はそのSUCRA値のほぼ半分という差がついています。
そしてもう一つ、重要な事実。つまようじ単独を除けば、すべての歯間清掃具が対照より歯肉炎を減らしていました。ただし製品どうしの21の比較のうち、BOPでゼロと有意に異なったのは6つだけ——横並びで見ると、意外に差はついていないのです。
④フロスが下位に来た理由を、著者は説明している
ここは丁寧に読む価値があります。著者らは「本研究のNMAは、フロスが歯間のプラークを除去する有効性を否定するものではない」と明記したうえで、順位が低かった理由を述べます。
「フロスのような技術的に要求の高い口腔衛生習慣を実行することの難しさが、他の歯間清掃具に対する相対的に低い順位を説明するのに役立つかもしれない。効果的に行われれば、フロスはおそらく歯肉の炎症に対して、そしておそらくう蝕に対しても有効な方法である」。
裏づけもあります。学校で専門家が平日毎日フロスを行った研究では、小児のう蝕発生が40%減少しました。ところが自分で行うフロスとう蝕を評価した試験は、ほとんど効果を示せていません。フロスは有効だが、その効果的な実行は捉えどころがない——これが著者らの立てた仮説です。
だからこその一文が続きます。「効果的にフロスを使えている人に、その習慣をやめるよう指導すべきではない」。
さらに歯周炎の患者さんについては、別の理由が挙げられています。歯周炎で生じた隣接面のアタッチメントロスは、歯間部の形態を変え、清掃具の性能を変えてしまう。実際歯周炎のある人では、フロスは歯間ブラシに比べてプラーク減少が50%少なかったという報告があります。理由は歯間乳頭というガイドの喪失——フロスの設計は、隣接する2歯の間に軟組織のピークがあることを前提にしているからです。
⑤明日の臨床へ
1つ目。全員に同じ道具を勧めるのをやめる。 著者らの結論は明快です。「唯一の歯間清掃具を金字塔として選ぶことは、既存のデータからは不可能である。有効性は、使いやすさ・適切な指導・歯間の解剖・歯周組織の状態に依存する」。そして「普遍的に推奨される清掃具の使用指導に固執するのではなく、推奨をその人に合わせ、代替案を提示すべき」と。
2つ目。歯間が開いている患者さんには、歯間ブラシを第一に。 GI・プラーク・ポケット深さのすべてで歯間ブラシが1位でした。歯周炎でフロスの効率が半減するという報告もあります。通せるなら歯間ブラシ——EFPの見解とも一致します。
3つ目。フロスを使えている人には、そのまま続けてもらう。 著者らが明記しているとおりです。この論文を「フロスは無駄」と読むのは誤読で、患者さんへの説明でも避けるべき言い方です。
4つ目。「指導」そのものが効いている可能性を忘れない。 BOPで1位になったつまようじ+徹底した口腔衛生指導について、著者ら自身が「利益が清掃具によるものか、用いられた徹底的な口腔衛生指導によるものかは不明」と警告しています。裏を返せば道具より指導のほうが効いているかもしれない——これは指導する側にとって、むしろ心強い示唆です。
今日のひとこと
歯間清掃具(IOH)を比較したRCT22編を集め、18の介入を10のカテゴリ——フロス/電動フロス/つまようじ/つまようじ+徹底した口腔衛生指導/ウォータージェット/歯間ブラシ/歯肉マッサージ器/歯ブラシのみ/電動歯ブラシ/電動歯ブラシ+ウォータージェット——に整理し、ベイズ流ネットワークメタ解析で順位づけした研究。採択条件はRCT・追跡2週間以上・各群10名以上です。主要評価項目は歯肉の炎症(歯肉指数GI/プロービング時出血BOP)。BOPの減少は、つまようじ+徹底指導が最大で26.4%(95%CI 7.50〜45.4)、次いでウォータージェット19.3%(16.2〜22.4)。フロスと電動フロスも対照より有意でしたが、効果量は小さい(フロス 95%CI 5.1〜10.3%、電動フロス 2.0〜11.2%)。GIの減少では歯間ブラシが最大で0.23(95%CI 0.09〜0.37)、次いでウォータージェット0.19(0.14〜0.24)。プラーク指数でも歯間ブラシが0.34(0.12〜0.56)で最良、SUCRAは95.5%、ポケット深さの減少でも歯間ブラシが1位でした。「最良である確率」はGIの減少で歯間ブラシ64.7%・ウォータージェット27.4%に対し、つまようじとフロスはほぼゼロ。著者らの結論は「監督なしのフロス使用は、歯肉の炎症を実質的に減らさない」。ただし同時に「本研究はフロスがプラークを除去する有効性を否定するものではない」「効果的にフロスを使えている人に、習慣をやめるよう指導すべきではない」とも明記されています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


