1問1答 論文 歯周病

4mmを超えたら、SRPは届いているのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

深いポケットをSRPしたあと、器具の先はツルツルになった。手応えもあった。それでも再評価で炎症が残ることがあります。あのとき、歯石は本当に取り切れていたのでしょうか。1986年、抜歯予定の歯を実際に抜いて顕微鏡で数えた研究が、その答えをポケットの深さ別に並べています。

論文
Scaling and root planing with and without periodontal flap surgery
著者
Caffesse RG, Sweeney PL, Smith BA
掲載
Journal of Clinical Periodontology 1986;13(3):205-210
種類
ヒト抜去歯を用いた対照試験(21名・127歯)
PMID
3517073

「ツルツルになった」は、取り切れた証拠にならない

歯周治療の第一の仕事は、歯面から沈着物を取り除いて「生物学的に受け入れられる歯面(biologically acceptable tooth surface)」をつくることです。ここは動きません。問題は、それができたかどうかを私たちがチェアサイドで確かめられないことにあります。

著者らは冒頭で、この分野の不都合な事実を並べています。臨床家がどれだけ丁寧に根面を滑沢にしても、かなりの量の歯石が残っている——臨床的には滑らかに感じるにもかかわらず。しかもエキスプローラーの先端は、磨かれた(burnished)歯石とセメント質を区別できず、歯石除去の正確な評価手段にはならなかったと報告されています。

先行研究(Rabbani ら)はさらに踏み込んで、1回のスケーリングでは歯肉縁下の歯石を完全には除去できず、ポケットが深いほど除去は不完全になることを示していました。ならば次の問いは一つです。歯肉弁を開いて直視下で行えば、その差はどれだけ埋まるのか。

先に結論: 浅いポケットでは、開けても開けなくても結果は同じ。差が出るのは4mmからで、歯石ゼロの歯面は43%対76%まで開く。深さこそが、届く/届かないを分ける。

抜いて、染めて、顕微鏡で数える

参加したのは抜歯が予定されていた21名(男性15名・女性6名、29〜88歳、平均52.7歳)。全員、歯科医院での通常のクリーニング以外に歯周治療を受けたことがない人たちです。1人につき最低6歯を対象にしました。

手順はこうです。まず全歯の遊離歯肉縁の高さをインバーテッドコーンバーで刻み、歯肉縁上と縁下の境目を後から判別できるようにする。そのうえで同じ口の中を3群に分けました。

①スケーリングのみ(SO):2歯を、手用器具で徹底的にスケーリング・ルートプレーニング。②フラップを開けてスケーリング(SF):2歯は、頬側・舌側に粘膜骨膜弁を開いて直視下で同じ処置。③対照:2歯は無処置。最終的に127歯(SO 43歯・SF 42歯・対照42歯)が集まりました。

処置が終わった歯はそのまま口腔外科で抜歯され、流水で洗って1%メチレンブルーで2分間染色(結合組織性付着の位置を染め出す)。実体顕微鏡(6.3〜12.5倍)の接眼部に10mm×10mmを100マスに区切ったウィップル・ネット・マイクロメーターディスクを置き、頬側・舌側・近心・遠心の4面について、結合組織性付着の線からバーの刻みまでの区画数を数え、そのうち歯石が乗っているマスを1つずつ数えました。ごく小さな破片でも1マスとしてカウントしています。統計はχ²検定

公平さの担保として、開始時の歯石量(PDI)とポケットの深さの分布は3群でほぼ揃っていたことも示されています。

4mmを境に、差が開く

0 33.3% 66.7% 100% 歯石が残っていない歯面の割合 (%) 86% 43% 32% 86% 76% 50% スケーリングのみ フラップを開けて 淡い棒ほど深いポケット。1〜3mmでは差がなく、4mmを超えると開く(21名・127歯)
歯石がまったく残っていない歯面の割合(ポケットの深さ別)

結果はきわめて明快でした。歯石が完全に消えていた歯面の割合を、ポケットの深さ別に並べると——

1〜3mmでは、スケーリングのみ86%、フラップを開けて86%。まったく同じです。浅いポケットなら、盲目的な操作でも直視下と変わらない仕事ができている。

4〜6mmになると、43%対76%。ここで一気に開きます。6mmを超えると32%対50%。開けても半分しか完全除去できていない一方で、開けなければ3分の1です。

著者らのまとめはこうです。スケーリングのみ(SO)でも歯石のない根面の割合は増えるが、フラップを開けたスケーリング(SF)は4mm以上の深いポケットで歯石除去を助けた残存歯石の量はポケットの深さに直接関係し、スケーリングのみの方が多かった

残るのは、いつも同じ場所

もう一つ、器具の当て方に直結する所見があります。残存歯石が最も多かったのは、CEJ(セメント-エナメル境)と、溝・小窩・根分岐部でした。逆に、前歯と臼歯のあいだ、また歯面(頬側・舌側・近心・遠心)のあいだには差がありませんでした

つまり取り残しは「奥歯だから」「隣接面だから」起きるのではなく、解剖学的な段差と凹みに沿って起きる。キュレットの刃は平らな面には素直に当たりますが、CEJの段差や縦溝、分岐部の入口では、刃先が浮くか、歯石を磨いて(burnish)平らにしてしまう。冒頭の「エキスプローラーでは磨かれた歯石を見分けられない」という話と、ここで線がつながります。

ここが要点: 取り残しは腕前だけの問題ではなく「深さ」と「かたち」の問題4mm以上のポケットと、CEJ・溝・根分岐部——この2つが重なる場所が、いちばん危ない。

明日の臨床へ

1つ目。再評価の設計に、この数字を持ち込む。 4mm以上のポケットに1回のSRPを行ったとき、歯石が完全に消えている歯面は4割前後という前提で再評価に臨めば、「治らない=患者さんのプラークコントロールが悪い」と短絡せずに済みます。残っているかもしれない、という目で診る。

2つ目。器具を当てる順番を、解剖から決める。 CEJ・縦溝・根分岐部を「最後に軽く撫でる場所」ではなく最初に時間を割く場所にする。刃の当て方を変える、器具を替える、超音波の細いチップを足す。同じ処置時間でも、配分を変えるだけで結果は変わります。

3つ目。外科の位置づけが変わる。 この論文は「外科をしましょう」と言っている論文ではありません。深いポケットでは、視野を確保することが歯石除去の精度そのものを上げるという事実を示しているだけです。それでも6mm超では、開けてなお半分。外科は魔法ではないことも同時に示しています。

ここだけ、冷静に補助線。 これは抜歯が予定されていた歯を対象にした研究です。抜歯に至るような歯は、歯石の付き方も根面の形態も平均より厳しい可能性があり、健全な保存対象の歯にそのまま当てはめると悲観的に振れるかもしれません。評価しているのも「歯石が残っているか」という代理指標であって、アタッチメントゲインや歯の生存といった治癒のアウトカムではない点は押さえておきたいところです(歯石が少し残っていても治る部位はあります)。加えて1986年・手用器具中心の検討で、現在の細径超音波チップや拡大視野のもとでは数字が動く余地があります。それでも「深さが増すほど届かなくなる」「残るのはCEJと溝と分岐部」という骨格は、40年経っても日々のSRPの手元を正してくれます。

今日のひとこと

抜歯予定の歯を持つ21名(29〜88歳・平均52.7歳)で、同じ口の中の歯をスケーリングのみ43歯・フラップを開けてスケーリング42歯・無処置の対照42歯に振り分け、処置直後に抜歯して実体顕微鏡で歯石の残存を数えました歯石がまったく残っていない歯面の割合は、1〜3mmのポケットでは86%対86%と差がありません。ところが4〜6mmでは43%対76%、6mm超では32%対50%と、深くなるほど差が開きます。残存歯石の量はポケットの深さに直接関係し、スケーリングのみの方が多く、最も残りやすいのはCEJ(セメント-エナメル境)と、溝・小窩・根分岐部でした。前歯と臼歯の差、歯面による差はありませんでした。

出典:Caffesse RG, Sweeney PL, Smith BA. Scaling and root planing with and without periodontal flap surgery. J Clin Periodontol 1986;13(3):205-210. PMID: 3517073
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。