1問1答 論文 歯周病

歯周治療でHbA1cは0.36%下がった

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

「歯周治療をすると糖尿病もよくなります」——患者さんにそう説明したことがある方は多いはずです。ではその「よくなる」は、数字にするとどれくらいなのでしょうか。2013年、EngebretsonとKocherは、2型糖尿病患者を対象とした9つのランダム化比較試験(計719名)を束ね、HbA1cがどれだけ動くのかを1つの数字にまとめました。

論文
Evidence that periodontal treatment improves diabetes outcomes: a systematic review and meta-analysis
著者
Engebretson S, Kocher T
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2013;40(Suppl 14):S153-S163
種類
システマティックレビュー・メタ解析(RCT 9件/計719名)
PMID
23627325

「糖尿病にも効きます」の中身を、数字で持っているか

糖尿病の患者さんは、歯周炎を発症するリスクが2〜3倍高い。HbA1cが高い人ほど歯周炎の有病率が高く、喪失歯も多い。ここまでは疫学が繰り返し示してきたところです。

問題はその逆向きです。歯周治療をすると、血糖コントロールは本当に改善するのか。改善するとして、それは臨床的に意味のある幅なのか。

理屈は通っています。HbA1cは全身の炎症によって悪化する。歯周炎は慢性の炎症源である。ならば炎症源を減らせば、血糖の指標も動くはずだ——この「生物学的にありそうな筋道」は数十年前から議論されてきました。

ですが臨床の場で使える形の答え、つまり「何%下がるのか」という一つの数字は、長らく定まっていませんでした。2013年、EngebretsonとKocherは2010年の2つのシステマティックレビューを更新し、その数字を出しに行きます。

先に結論: 歯周治療を受けた群のHbA1cは、無治療群より3か月後に0.36%低かった(95%CI -0.54〜-0.19、p<0.0001)。研究間のばらつきは小さく(I²=9%)、過去2つのメタ解析(いずれも-0.40%)とほぼ同じ場所に落ち着いた。

9つのRCT、719人を1本に束ねる

組み入れの条件は明快です。①18歳以上で糖尿病と歯周炎の両方がある ②歯周治療(外科でも非外科でもよい)を、無治療または待機群と比べている ③HbA1c・フルクトサミン・空腹時血糖・OGTTのいずれかを主要評価項目にしている ④追跡が3か月以上ある——このすべてを満たすランダム化比較試験だけを集めました。

MEDLINEで56本が挙がり、条件を満たしたのは9件治療群398名・無治療対照群321名、計719名です。2010年のレビュー(対象約350名)の倍近い規模になりました。

内訳を見ると、治療の中身は施設ごとに違います。3件はスケーリング・ルートプレーニング(SRP)のみ、1件はSRP+抜歯、残りはドキシサイクリンの全身投与・0.12%クロルヘキシジン洗口・ミノサイクリンの局所投与・フラップ手術などを併用していました。参加者の国もばらけていて、中国206名・米国165名・ギリシャ60名・日本49名・インド45名・トルコ44名・イラン40名。1型糖尿病を対象にした試験は条件を満たすものが1本もなく、結果はすべて2型糖尿病の話です。

統合はランダム効果モデル、評価時点は3か月(1件のみ4か月)に揃えました。

答えは、0.36%

0 0.4% 0.8% 1.2% HbA1cの低下幅(%) 1.1% 0.4% 0.1% Kiran 2005(最大) 9研究の統合値 Katagiri 2009(最小) 統合値は治療群と無治療群の差(95%CI -0.54〜-0.19)。両端は個別研究で報告された治療群の低下幅
統合値は0.36%。個別研究では1.11%下がったものから0.05%しか動かなかったものまで幅がある

統合された治療効果はHbA1c -0.36%(95%CI -0.54〜-0.19、p<0.0001)。統計学的に有意です。

個別に見ると、9件のうち8件で治療群のHbA1cが下がり、そのうち5件が統計学的に有意でした。低下幅は最大1.11%(Kiran 2005)から最小0.05%(Katagiri 2009)までと幅があります。

ここで見落としたくないのが対照群の動きです。無治療の対照群でも9件中5件でHbA1cが下がっていました。ただし、そのどれも統計学的に有意ではありません。研究に参加すること自体で生活が整う分を差し引いても、治療群の側に差が残った——この比較の形が効いています。

異質性の指標I²は9%。治療の中身も国もこれだけ違うのに、効果の大きさは研究間でほぼ揃っていたことになります。

ここが要点: 0.36%という数字は、過去のメタ解析(Teeuw 2010=-0.40%、Simpson 2010=-0.40%)とほぼ同じ場所に着地した。別の研究者が別の時期に別の試験群を集めても同じ幅に収束する、という点にこの一致の価値がある。

0.36%は、大きいのか小さいのか

0 0.3% 0.7% 1% HbA1cの追加的な低下幅(%) 0.4% 0.8% 0.6% 0.4% 歯周治療 SU薬を追加 α-GI薬を追加 TZD薬を追加 薬剤の値はメトホルミン単剤に2剤目を追加したときの追加低下幅(本論文が引用したMonami 2008の数値)
糖尿病薬を1剤足したときの追加効果と並べてみる

「0.36%」と聞いて大きいのか小さいのか、歯科側の感覚では判断がつきません。著者らはそこで、糖尿病治療の側の物差しを持ってきました

2型糖尿病の第一選択薬はメトホルミンです。それでは足りないときに2剤目を足しますが、その追加による低下幅はSU薬で0.85%、α-グルコシダーゼ阻害薬で0.61%、チアゾリジン薬で0.42%

著者らはこう書いています——歯周のスケーリング・ルートプレーニングが代謝コントロールを0.4〜0.5%改善できるのなら、その効果は追加の薬物療法に匹敵しうるものであり、したがって糖尿病患者の治療の中に位置を占めるかもしれない

もう一つ補助線があります。HbA1cの低下には「ここから下は意味がない」という閾値が存在しないことが、DCCTやUKPDSといった大規模研究から示されています。つまりベースラインがどこであっても、下がった分だけ合併症リスクは下がる方向に働くと期待できる、という理屈です。

この論文には、もう一つ意外な指摘が入っています。組み入れた9件のうち3件は歯肉炎か軽度歯周炎、3件は軽度〜中等度、3件が中等度〜重度と、対象の重さがばらばらでした。にもかかわらず効果は揃っていた。著者らは「深いポケットの減少が代謝コントロールに必須なのか、それとも歯肉炎レベルの炎症を抑えるだけで足りるのか」は未解決だと書いています。Kiranら(2005)は「深いポケットがない患者で代謝が改善したのだから、これは歯肉炎の改善による効果だ」とまで述べました。深く削ることが条件ではないかもしれない——歯周側にとっては、ここが一番面白い問いの立て方です。

明日の臨床へ

1つ目。数字を持って説明する。「糖尿病にも良い影響があります」ではなく「研究を束ねると3か月でHbA1cが0.36%ほど下がっており、これは糖尿病の薬を1剤足したときと同じ土俵の数字です」と言えると、患者さんの受け取り方が変わります。誇張ではなく、実測の統合値です。

2つ目。効果が出た試験の中身は、特別な処置ではない。9件の骨格はSRPと口腔衛生指導です。抗菌薬や外科を併用した試験もありますが、著者らは併用の有無で効果を分けられるほどの症例数はなかったと述べています。いま自院でやっているPhase1の延長線上にあると考えて差し支えありません。

3つ目。医科と組むときの共通言語になる。HbA1cは内科側の指標です。「歯周ポケットが浅くなりました」では伝わらない相手に、同じ物差しで話せる材料がここにあります。

ここだけ、冷静に補助線。 組み入れられた9件は1群15〜82名の小規模試験ばかりで、著者ら自身が「バイアスのリスクと小さなサンプルサイズは依然として問題である」と明記しています。ファンネルプロットにはわずかな非対称があり、出版バイアスの可能性も示唆されました。検索はMEDLINEのみ、一次スクリーニングは1名。そして最大の点として、この分野には決着をつけられる規模の大規模試験(フェーズ3相当)がまだ1本もないと書かれています。実際この論文は本文の中で、大規模多施設試験(NCT00997178)の結果が近く出ると期待を寄せていました。その試験(DPTT)は同じ2013年にJAMAで報告され、514名・6か月・多施設という規模で、HbA1cの群間差は-0.05%(95%CI -0.23〜0.12、P=.55)=有意差なしという結果でした(無益性のため登録は早期中止。歯周ポケットやBOPは有意に改善しています)。つまりこの0.36%は「小規模試験を束ねると一貫して見える効果」であり、「大規模試験で確定した効果」ではない、という位置づけになります。患者さんへの説明では、そこまで含めて誠実に扱いたいところです。歯周治療をする理由は、それ自体で十分に足りている——血糖はその先の期待値、という順序で置くのが今の妥当な線でしょう。

今日のひとこと

9つのRCT(治療群398名・無治療対照群321名)を統合した結果、歯周治療を受けた群のHbA1cは無治療群に比べて3か月後に0.36%低い(95%信頼区間 -0.54〜-0.19、p<0.0001)という結果でした。研究間のばらつきは小さく(I²=9%)、過去の2つのメタ解析(いずれも-0.40%)とほぼ同じ大きさに着地しています。著者らはこの0.36〜0.5%という幅を、メトホルミンに2剤目の糖尿病薬を足したときの効果(0.42〜0.85%)と同じ土俵に並べて論じました。ただし組み入れられたのは1群15〜82名の小規模試験ばかりで、決定的な大規模試験は当時まだ存在していませんでした。

出典:Engebretson S, Kocher T. Evidence that periodontal treatment improves diabetes outcomes: a systematic review and meta-analysis. J Clin Periodontol 2013;40(Suppl 14):S153-S163. PMID: 23627325
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。