ペリオ|歯周病の診断・予後評価
2018年の新分類が入って数年。ステージⅠ〜ⅣとグレードA〜C、枠組みは頭にあるのに、いざ一人の患者さんに付けようとすると手が止まる。分類を設計した本人たちが、正しく使うための「基本ルール」と「グレーゾーン」を解説しました。
①「そのペリオ、ステージは? グレードは?」——即答できますか
初診の歯周病の患者さん。全顎のプロービングを終えて、X線を並べる。ここで一呼吸。「この人、ステージいくつだろう。グレードはA? それともC?」
2018年の新分類が入って、もう数年が経ちました。ステージⅠ〜Ⅳ、グレードA〜C、範囲(限局型・広汎型)。枠組みは頭に入っている。それでも、いざ一人の患者さんに実際に付けようとすると手が止まる——そんな経験はないでしょうか。
基準表を前に、「歯槽骨吸収は根長の三分の一だからステージⅡ、いや動揺があるからⅢか…」と、表の当てはめゲームになってしまう。これは多くの臨床家が通る道です。
今回の論文は、その迷いにまっすぐ答えてくれます。書いたのは Kornman と Papapanou。新分類そのものを設計した中心人物たちが、「現場で正しく使うための基本ルールと注意点」を解説した一本です。
②なぜ、新分類で迷うのか
かつての1999年分類は、歯周炎を「軽度・中等度・重度」でざっくり括るものでした。シンプルですが、同じ「重度」でも中身がまるで違う。若くて急速に進む人と、高齢でゆっくり進んだ人が同じ箱に入ってしまう。予後も治療計画も、これでは語れませんでした。
2018年の新分類は、そこを二軸に分けました。ステージ(Ⅰ〜Ⅳ)=病気がどこまで進んだか(重症度と治療の複雑さ)と、グレード(A〜C)=これからどれだけ速く進みそうか(進行リスク)。「今どこにいるか」と「これからどう動きそうか」を分けて表現できる、優れた設計です。
ところが、情報量が増えたぶん付け方の判断も増えました。どの歯を基準にするのか。治療で良くなったらステージは下がるのか。複雑性の因子はどう扱うのか。設計者たち自身が「普及には、基本ルールの強調と、曖昧な点の明確化、そしてグレーゾーンの特定が役立つ」と考えて、この解説を書いたわけです。
③この論文が示したこと——分類は「読む」ための枠組み
著者らのメッセージは、一言でいえばこうです。新分類は、基準に機械的に当てはめる採点表ではない。患者さん一人ひとりの状態を、重症度・複雑さ・将来のリスク・全身との関わりまで含めて総合的に解釈するためのフレームだ、と。
そのうえで、混乱しやすい点を「基本ルール」として整理し、判断に迷う典型を「グレーゾーン」として名指ししました。やることは2つ。ルールをおさえることと、ルールだけでは決まらない場面があると知っておくことです。
まずは、その基本ルールを図で押さえましょう。
④4つの基本ルール——ステージは「上がるが、戻らない」
著者らが強調する運用の芯は、次の4つです。ここだけは丸暗記でよい部分です。
ルール1:ステージは患者単位。 歯1本ごとに付けるのではなく、最も進行した部位を基準に、患者に1つのステージを割り当てます。「この歯はⅡ、あの歯はⅣ」ではなく、その人全体としてどこにいるか、です。
ルール2:ステージは上がるが、戻らない。 歯周状態が悪化すればステージは上へ移り得ます。しかし治療でどれだけ改善しても、当初割り当てたステージは保持する。図のラチェット(一方向のギア)が要点です。良くなったからといってⅢをⅡに下げたりはしません。一度たどり着いた病期は、その患者の「経てきた重症度」の記録だからです。
ルール3:複雑性因子は総合で見る。 ステージを上げる複雑性の因子(垂直性骨欠損、根分岐部病変、咬合外傷、咀嚼機能の障害など)は、1つあれば即上位、という単純な足し算ではありません。全体の中でどれだけ治療を難しくしているかを総合的に判断します。
ルール4:グレードは「症例の生物学的な織り目」を読む。 グレードは、これまでの進行の既往やリスク、喫煙・糖尿病などの危険因子、そして歯周炎と全身の健康が及ぼし合う双方向の影響を熟慮して、患者に1つ割り当てます。そしてこちらは時間とともに双方向に動き得る——リスク管理がうまくいけば見直される、という性質を持ちます。
⑤グレーゾーンと、明日の付け方
ここからが、この論文のもう一つの真価です。著者らは「ルールだけでは決まらない場面」を正直に名指ししました。
グレーゾーンの典型。 ①高齢で、X線的にはおおむね健全、付着喪失もごくわずか——これは加齢による生理的なものか、緩徐に進んだ歯周炎か。②1本の歯だけに明白な歯周炎がある——これを患者全体の病期にどう反映するか。③ある因子が「治療の複雑性を上げているかどうか」の見極め。いずれも、基準表をなぞるだけでは答えが出ません。
だからこそ、著者らの結論はこうです。ステージⅠ/ⅡとⅢ/Ⅳの大きな区別は比較的やさしい。しかし、より細かいステージ分け(ⅠとⅡ、ⅢとⅣの境目)や、正しいグレードの付与には、熟練した臨床家による総合的で丁寧な解釈が要る、と。
明日からの付け方は、この順で。
1. まず大きく2つに割る。 全顎を見渡して「Ⅰ/Ⅱ(比較的軽い)」か「Ⅲ/Ⅳ(重い)」か。ここは骨吸収と歯の喪失で迷いにくい。最初にここを決めると、その後がぶれません。
2. 最重症部位で病期を、複雑性で微調整。 患者単位のステージは最も進んだ部位が基準。そこに複雑性因子(垂直性骨欠損・根分岐部・咬合など)を総合して、境目のⅠ↔Ⅱ・Ⅲ↔Ⅳを決めます。
3. グレードは「速さ」を別立てで。 過去の進行の記録があれば直接(骨吸収%÷年齢など)、なければ喫煙・糖尿病といったリスクで間接的に。重症度(ステージ)とは別の軸として、将来の進みやすさを付ける。
4. 迷ったら「下げない・患者に1つ・双方向はグレードだけ」に立ち返る。 3つのルールに戻れば、多くの迷いは整理できます。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
新分類は基準の当てはめではなく、患者を総合的に読むための道具です。ステージは患者に1つ・悪化で上がっても治療で下げない、グレードは進行リスクで決まり双方向に動く。ⅠとⅡ、ⅢとⅣの細かい区別や正しいグレード付与には、熟練した臨床判断が要ります。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


