1問1答 論文 歯周病

根分岐部病変、水平の度数だけで足りる?──縦の深さを測る分類

1問1答 論文 歯周病

ペリオ / 分類 ・ Tarnow & Fletcher 1984

同じ”2度”の根分岐部でも、予後や術式(分割・切除)の選びやすさはまるで違う。水平の度数(Glickman)だけでは足りない。furcaの天蓋から根尖方向へ何mm骨が失われたか——垂直成分をA・B・Cで測り、病変を数字で語れるようにした古典的短報です。

論文
Tarnow D, Fletcher P. J Periodontol 1984;55(5):283-284.
PMID
6588186
デザイン
短報(分類の提唱・Short Communication)
ひとことで
水平のGlickman度数に、天蓋からの垂直骨吸収をA:0-3/B:4-6/C:7mm+で足す。予後と術式判断が定量化できる。

その根分岐部、”2度”だけで予後を決めていませんか?

下顎大臼歯の分岐部にプローブが横から入った。「Class II(2度)だな」——そこで止めていないでしょうか。でも同じ2度でも、天蓋のすぐ下で骨が止まっている歯と、furcaの奥深くまで縦に骨が抜けている歯とでは、予後も、分割・切除で救えるかどうかも、まるで違います。この「横の度数」では拾えない垂直方向の骨吸収を、mm単位のサブクラスで測れるようにしたのが、Tarnow & Fletcher 1984——今も根分岐部を語るときの共通言語になっている、ニューヨーク大学発の短報です。

従来の分類は”横”しか見ていなかった

根分岐部病変(furcation involvement)は、複根歯の分岐部に骨吸収が及んだ状態です。長く使われてきたGlickmanのGrade I〜IVや、Easley & Drennon、Heins & Canterの分類は、いずれもプローブが分岐部へ”横から”どこまで入るか=水平成分を基準にしています。「入口が触れるだけ(I度)」「途中まで入る(II度)」「貫通する(III/IV度)」というあの尺度です。
ところが、furcationの予後や”最終的に修復・保存できるか”を左右するのは、水平成分だけではありません。分岐部の天蓋(fornix=roof)から根尖方向へ、垂直的にどれだけ骨が失われているか——この縦の情報が、従来の分類にはほとんど盛り込まれていませんでした。だから同じ「II度」でも中身がバラバラになり、根分岐部病変は”誤解・誤診されやすい”病変だったのです。

今回の一手:天蓋からの垂直の深さをA・B・Cで足す

著者らの提案はシンプルです。従来の水平のGrade(I〜IV)は残したまま、furcaの天蓋からの垂直的な骨吸収の深さ(プローブで測れる深さ)を3段階のサブクラスで併記するというもの。

  • サブクラスA:天蓋から 0〜3mm の垂直的深さ
  • サブクラスB:天蓋から 4〜6mm
  • サブクラスC:天蓋から 7mm以上

これを水平のGradeと組み合わせると、IA・IB・IC・IIA・IIB・IIC・IIIA・IIIB・IIIC というふうに、1つの病変を「横×縦」の2軸で言い表せます。たとえば「II度で垂直はごく浅い」なら Class IIA、「II度だが縦に深く抜けている」なら Class IIC。同じ2度が、はっきり別物として記録されるわけです。

furcaの天蓋(fornix)=垂直の起点

サブクラス A 0〜3mm

サブクラス B 4〜6mm

サブクラス C 7mm 以上

水平のGlickman度数に、天蓋(fornix)からの垂直的な骨吸収の深さをA(0〜3mm)・B(4〜6mm)・C(7mm以上)で併記する。色バーが furca の縦の抜けを表し、深いほど(A→C)保存の難度が上がる(Tarnow & Fletcher 1984 の概念を図示)。

なぜ縦を測るのか:予後と”分割・切除できるか”に効く

垂直成分が効いてくるのは、根分岐部を残すか、分割(hemisection)や根切除(root resection)で救うかを考える場面です。著者はWheelerの歯の解剖学を引き、下顎第一大臼歯ではCEJから天蓋までの歯根幹(root trunk)が平均約4mm、根の全長は約13〜14mmと紹介しています。つまり天蓋の下にはまだ長い根が残っている。
だから、同じ「II度」でも垂直がA(浅い)なら、天蓋の下の骨支持がまだ豊富で、分割・切除後に個々の根を独立させて機能させやすい。逆にC(7mm以上)まで縦に抜けていれば、根の支持は乏しく、術式の選択肢も予後も厳しくなります。横の度数が同じでも、縦の深さで意思決定が変わる——これが「垂直を数字で持っておく」価値です。

つまり: 水平のGrade(I〜IV)は”分岐部にどこまで横から入るか”、垂直のサブクラス(A/B/C)は”天蓋から根尖方向へ何mm抜けたか”。両方をIIA・IICのように併記すると、同じ2度でも予後と術式(分割・根切除)の見通しがぶれずに共有できる。

明日の臨床へ:カルテに”横×縦”で残す

やることは難しくありません。根分岐部を触知したら、①水平:プローブが分岐部へ横からどこまで入るか(従来のGrade)に加えて、②垂直:天蓋を起点に根尖方向へ何mmの深さで探れるかを測り、「IIB」のように2軸でカルテに書くだけです。とくに、分割・根切除・意図的再植などを検討する多根歯では、垂直のmmが術式の判断材料になります。数字で残しておけば、術者間の申し送りも、次回来院時の経時比較(進行しているか)も、同じ物差しで語れます。第二大臼歯では分岐部がより根尖寄りにあり根も短めなので、同じ度数でも救いにくい——という補正も、垂直mmがあると説明しやすくなります。

ここだけ、冷静に補助線これは1984年の「分類の提唱」を目的とした短報で、A/B/Cの区切り(3mmごと)や、それが予後・治療成績にどう対応するかを前向き試験で検証した論文ではありません。あくまで臨床所見を整理・伝達するための”物差し”という位置づけです。実際の予後は、垂直成分だけでなく歯根幹の長さ・根の離開度・全身/プラーク因子など多くの要素で決まります。それでも、根分岐部を「横の度数」だけで語っていた時代に縦の軸を数字で足した意義は大きく、furcaを定量的に記録・比較する共通言語として、今も価値を失っていません。

今日のひとこと

根分岐部を見たら”度数”だけで止めず、furcaの天蓋(fornix)から根尖方向へ何mm失われたかも測ってカルテに残す。IIA と IIC は同じ2度でも別物——垂直が浅い(A)ほど分割・切除で救いやすく、深い(C)ほど厳しい。数字で記録すれば、術者間の伝達も、経時比較も、術式の意思決定もぶれない。

出典(PubMed):Tarnow D, Fletcher P. Classification of the vertical component of furcation involvement. J Periodontol 1984;55(5):283-284. PMID: 6588186
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。