朝礼小噺

正論は「相手が必要としている時」にしか届かない

朝礼小噺

正論は「相手が必要としている時」にしか届かない

どれだけ正しくても、受け取る準備ができていない相手には響かない。伝え方の重心を「教える」から「聞きたくなる」へ。

資料で熱心に説明する衛生士と、心に壁を作ってしまう聞き手

正しいことほど、聞いてもらえない

予防の話をしていて、いつも痛感することがあります。それは、どれだけ正しい情報でも、相手が必要としていない時には届かないということです。

「フッ素が大事です」「間食の回数を減らしましょう」——どれも間違ってはいません。でも、まだ困っていない相手にいきなりそれを言うと、「なんだこの人は」と壁ができてしまう。正論を振りかざすほど、かえって遠ざかってしまうのです。

正しさは、それだけでは人を動かさない。
悩みに直面して前のめりに質問する人と、穏やかに応える歯科医師

いちばん届くのは、困った瞬間

では、いつなら届くのか。僕は、相手が実際に困ったタイミングこそ最大のチャンスだと考えています。

たとえば、お子さんが虫歯になってしまった時。親御さんにとってはショックな出来事ですが、じつはそこが「虫歯対策を知るきっかけ」になります。乳歯で一度つまずいた経験があるからこそ、次に生えてくる大切な永久歯を守ろうと、行動が変わっていく。マイナスに見える出来事が、予防への入り口になることは少なくありません。

これは、じつは人とのコミュニケーション全般に通じる話だと思います。よく言われる「男性はつい解決策を先に言ってしまうが、相手はただ話を聞いてほしいだけ」というすれ違いと同じ構造です。求められていない解決策は、正しくても響かない。

待合室で魅力的な予防情報のサイネージを整える歯科衛生士

「教える」より「聞きたくなる」を作る

だから最近は、伝え方の重心を変えようとしています。こちらから教え込むのではなく、相手のほうから聞きたくなる状況をつくるという発想です。

まだ困っていない人に病気の説明をするのは、本当に難しい。でも、ちょっとした問いかけをしたり、自分から情報に触れられる仕掛けを用意しておくと、「これ何ですか?」と向こうから質問が生まれます。自発的に取りにいった情報は、押しつけられた情報よりずっと深く残る。

ポイント

院内の掲示やサイネージの質を上げていきたいのも、このためです。一方的に語るのではなく、患者さんが自分から予防に関心を持ってくれる——そんなきっかけを増やしていきたいと思っています。

相手が受け取れる状態か、を見て、届く形を選ぶ。
今日も一日、よろしくお願いします。