ペリオ / 歯周外科・予後 ・ Hellden 1989
頬舌に貫通したClass III根分岐部。抜歯かヘミセクションが定石でしたが、根を残して分岐部を清掃できる「トンネル」に変える手があります。156歯を平均3年追った予後研究です。
Class III の根分岐部、もう抜くしかない?
大臼歯の根分岐部が頬舌に貫通した「Class III」。器具も歯ブラシも通り抜けてしまい、清掃はほぼ不可能。かつては抜歯か、根を切る(ヘミセクション・分割抜歯)かの二択が定石でした。でも、根を残したまま分岐部をあえて広げて"トンネル"にし、そこを清掃できるようにする——そんな保存的な一手は、長い目で見て本当に使えるのか。Hellden 1989は、156歯を平均3年追ってこの問いに答えました。
従来の常識:分岐部貫通=予後不良、切るか抜くか
根分岐部病変は清掃性が悪く、進行すると予後が一気に悪くなります。とくにClass III(貫通)は「治療困難」の代表格で、長く悲観的に扱われ、抜歯やヘミセクション、ルートリセクションが選ばれてきました。ただしこれらは根管治療と補綴が必須で、時間も費用もかかり、根を減らせば動揺も増える。もっと歯を保存できる道はないか——その候補が「トンネル形成術」でした。
今回の一手:分岐部を"通れるトンネル"にして清掃する
トンネル形成術は、フラップを開けて根間の骨と分岐部の入口をラウンドバーで意図的に広げ、器具や歯間ブラシが通り抜けられる「トンネル」を外科的に作る術式です。この研究では107人・156歯(多くは下顎大臼歯)に施術し、術後はクロルヘキシジン洗口・フッ化物・歯間ブラシによる徹底したメインテナンスを指導。平均37.5か月後に再評価しました。最大の懸念は、露出した根面に起こる根面う蝕です。
結果①:最大の弱点は根面う蝕。でも"清掃できていれば"防げる
予想どおり、う蝕は最大の弱点でした。ただ、その内訳が示唆的です。プラークスコアが0だった歯は、1本もう蝕になりませんでした。一方でプラークが残る歯(スコア1〜3)では約25%がう蝕に。しかも興味深いことに、プラークスコアの高さとう蝕発生率のあいだに明確な段階的関係はなく——「ゼロか、そうでないか」が決定的でした。トンネルのう蝕リスクは"宿命"ではなく、清掃が届くかどうかで大きく変わる、というわけです。
結果②:平均3年で約8割はう蝕なく機能
全体として、再評価できた132歯のうち約83%はう蝕なく機能していました。う蝕は17%(初期8%・進行9%)で、そのうち根面う蝕を理由に抜歯・ヘミセクションに移行したのはごく一部。156歯中、抜歯は10歯(6.7%)、ヘミセクション等は7歯(4.7%)でした。かつて悲観的に語られたClass IIIが、約4分の3以上、そのまま保存できていたのです。著者は、根を切るヘミセクション/リセクション(別報告では5年で約16%、10年で約38%が破折などで失敗)と比べても、トンネル形成術の予後は「以前考えられていたより良い」と結論しています。
なぜ?──「切らずに清掃できる形に変える」発想
トンネル形成術の強みは、問題の本質=「分岐部が清掃できない」を、歯を削り分けるのではなく"清掃できる形に地形を変える"ことで解く点にあります。根管治療も補綴も原則不要で、根を残すので動揺も増えにくい。弱点の根面う蝕も、CHX・フッ化物・歯間ブラシという枯れた予防手段で相当抑えられる。そして必要なら後からヘミセクションや抜歯へ移ることもできる——「まず保存を試す」入口として置けるのが大きい。ただし本術式は、歯間ブラシが通るだけの十分な広さを外科的に作れることが前提で、術者の技術と患者のセルフケアの両輪で初めて成立します。
明日の臨床へ:Class IIIに"保存の選択肢"を1枚持つ
実務にこう活かせます。①下顎大臼歯のClass III貫通で、患者がセルフケアに前向きなら、抜歯・ヘミセクションの前にトンネル形成術を選択肢に入れる。②成功の生命線は術後のプラークコントロール——歯間ブラシが確実に通る広さを作り、CHX・フッ化物で根面う蝕を予防する。③リコールでは露出根面のう蝕を最優先でチェックし、プラークスコア0を目標に管理する。④うまくいかなくても後からヘミセクションや抜歯に移れる——退路のある一手だと患者さんに説明する。「Class III=抜歯」という反射を、一度立ち止まって見直すための古典です。
今日のひとこと
Class III貫通でも、患者がセルフケアに前向きなら抜歯・ヘミセクションの前にトンネル形成術を選択肢に。成功の生命線は術後のプラークコントロールで、プラークスコア0を保てば根面う蝕は実質ゼロにできる。うまくいかなくても後からヘミセクションや抜歯に移れる、退路のある一手。


