エンド|米国の大学の歯内療法外来で、4か月間の根管治療の来院946回を1回ずつ記録し、予約外の来院と処置を要した強い痛み・腫れ(フレアアップ)との関係を調べた前向きの観察研究(Walton・Fouad 1992・Journal of Endodontics)
根管治療のあとのフレアアップは、どのくらい起こり、どんな来院で多いのか。Walton と Fouad は、大学の歯内療法外来で4か月間に行われた946回の来院を前向きに記録しました。フレアアップは30件(3.17%)。来院時に重度の痛みがあると19.2%、腫れがあると15.2%、歯髄壊死で6.5%、急性根尖膿瘍で13.1%と有意に多く、1回法(2.6%)と複数回法(3.3%)、初回治療と再治療、年齢・性別・歯種では有意差を認めませんでした(複数回の間、根管内に薬剤は置いていません)。因子を1つずつ比べた観察研究で、処置を変えれば防げるとまでは示していません。
①根管治療のフレアアップ、どんな患者さんで多い?
根管治療を終えた夜、「痛くて眠れない」「顔が腫れてきた」と電話が入る。誰もが一度は経験する、いわゆるフレアアップです。患者さんにはつらく、予約の詰まった診療にも響きます。
では、フレアアップはどのくらいの頻度で起こり、どんな患者さん・どんな処置で多いのでしょうか。米国の Walton と Fouad は、大学の歯内療法外来で4か月間に行われた946回の来院を1回ずつ記録し、その後にフレアアップが起きたかどうかを前向きに調べました(著者らの所属はアイオワ大学)。
・前向きの観察研究:大学の歯内療法外来で根管治療を受けた患者さんの来院946回(4か月間)。術者は学部学生・大学院生・教員
・フレアアップは946回中30件(3.17%)
・来院時に重度の痛みがあると19.2%、腫れがあると15.2%で、有意に多かったと報告(痛み・腫れがない来院は1.5%・2.5%)
・歯髄壊死は6.5%(生活歯髄は全体で1.3%)、急性根尖膿瘍は13.1%で有意に多かった。瘻孔のある歯では0件
・1回法(2.6%)と複数回法(3.3%)、初回治療と再治療、年齢・性別・歯種では有意差を認めなかった(複数回の間、根管内に薬剤は置いていない)
・注意:フレアアップは30件と少なく、因子を1つずつ比べた解析で、ほかの因子の影響は調整していない。関連を見た研究で、処置を変えれば防げるとは示していない
②なぜ調べる必要があったのか
フレアアップの頻度は、それまでの報告でばらばらでした。著者らの引用では、症状のない歯髄壊死・慢性根尖性歯周炎の歯で腫れだけを数えた報告では約20%、別の後ろ向きの研究では同様の歯で約5.5%、診断を問わない全患者では1.4%。考察では11〜33%という報告も挙げています。
関係する因子についても、性別・年齢、根尖病変の有無と大きさ、術前の痛み・腫れ、アレルギー、再治療、オーバーインスツルメンテーションなどが挙げられてきました。ただし、その多くは後ろ向きの研究で、対照が無い、人数が少ない、定義があいまいといった問題があった、と著者らは書いています。
そこで、大人数の患者さんを前向きに追い、①全体の発生率と、②患者さんの背景・来院時の症状と診断・処置の内容・術者の違いとの関係を調べることにしました。
③どう調べたのか
4か月間に歯内療法外来で根管治療を受けた患者さんの来院946回が対象です。来院のたびに、年齢・性別、来院時の症状と徴候、歯髄と根尖の診断、その日に行った処置を用紙に記録しました。
処置はふだんどおりで、時間や難しさに応じてできるところまで進めます。複数回にわたる時は、根管内に薬剤(水酸化カルシウムやステロイドなど)は置かず、乾いた綿球と仮封で閉じました。咬合の調整はしていません。帰る時には「1〜2日は痛むことがある。市販の鎮痛薬で収まらない・腫れてきたら連絡を」と伝えています。
この研究のフレアアップの定義は厳しめです。治療の数時間〜数日後に強い痛みか腫れ(または両方)が出て、生活に支障が出るほどで患者さんから連絡があり、予約外の来院と、切開・根管の清掃・開放などの処置が両方必要だったものだけを数えました。電話で話すだけ、薬を出すだけで済んだものは含めていません。1件のフレアアップのあとの2回目も数えていません。
解析は、全来院に対する発生率と、因子ごとのフレアアップの割合の比較です。検定はカイ二乗検定(p≦0.05)で、因子を1つずつ比べています。
④結果:多かったのは、来院時に重い痛み・腫れがある時
946回の来院で、フレアアップは30件(3.17%)でした。来院のほとんどでは起きていません。
いちばん強く関係したのは来院時の症状です。痛みの程度で分けると、なし1.5%・軽度1.7%・中等度6.8%に対し、重度は19.2%。腫れも、なし2.5%に対しあり15.2%でした。原典の図1では、重度の痛みと腫れありの2群に有意の印が付いています(何と比べた検定かの詳しい記載はありません)。著者らは「最も重要な因子は術前の重度の痛み」と書いています。
診断でも差が出ました。歯髄では、正常と可逆性歯髄炎で0%、不可逆性歯髄炎で1.3%(生活歯髄全体でも1.3%)に対し、歯髄壊死は6.5%で、生活歯髄より有意に多かったと報告されています。
根尖の診断では、急性根尖膿瘍が13.1%で、より症状や病態の軽い根尖の状態より有意に多い結果でした。一方、瘻孔のある歯(SAP)ではフレアアップは0件でした。
⑤回数・再治療・年齢・性別では、有意差を認めなかった
処置の側では、1回法(2.6%)と複数回法(3.3%)、初回治療(3.1%)と再治療(3.5%)のあいだに有意差を認めませんでした。患者さんの背景でも、年齢層・歯種では有意差を認めず、性別は女性4.3%・男性2.2%でしたが p=0.067 で有意ではありませんでした。
その日の処置で見ると、根管充填をした来院(1.8%)と、拡大形成と充填を同じ日にした来院(1.3%)で有意に少なく、拡大形成だけの来院(部分的4.3%・完全5.5%)や断髄(5.3%)より低い値でした。部分的な拡大形成と完全な拡大形成のあいだには、統計的な違いはありませんでした。
治療前から鎮痛薬を飲んでいた患者さんでは7.7%と、飲んでいない患者さん(2.2%)より有意に多く、抗菌薬では6.3%と2.8%で有意差を認めませんでした。術者別では、学部学生の患者さんで1.5%と、教員(4.2%)・大学院生(4.6%)より有意に少ない結果でした。
⑥結果の読み方:著者らは「来院時の状態」を重く見た
著者らの結論は、フレアアップを予測するうえで最も大きいのは来院時の症状・徴候・診断だ、というものです。処置の内容や回数は、おおむね関係しませんでした(1回法と複数回法の比較は、根管内に薬剤を置かない条件での結果です)。
鎮痛薬・抗菌薬を飲んでいた患者さんで割合が高かった点について、著者らは「症状の強い患者さんほど、来院前に薬を飲んでいることが多い」ためと考え、薬がフレアアップを起こしたとは考えにくいとしています。あわせて、抗菌薬の服用に予防的な効果は見られなかったと書いています。ここは著者らの考察で、この研究で確かめたものではありません。
学部学生の患者さんで少なかった理由もはっきりしません。著者らは、学生の患者さんで救急や重い病態が少ないのかを確かめましたが、そうではなかったと書き、教員・大学院生が難しい症例を受け持つ可能性、学生の患者さんが我慢して申し出ない可能性、学生は1回の処置に時間がかかり、組織が洗浄液(次亜塩素酸ナトリウム)に触れる時間が長い可能性を挙げています。いずれも調べていない仮説です。
根管充填の来院で少なかった点も、充填そのものが防いだのか、充填まで進めた時点で症状の落ち着いた歯が多かったのかは、この解析では分けられません。
⑦明日の臨床へ
この研究がいちばん役立つのは、治療を始める前の見込みです。来院時に重い痛みや腫れがある、歯髄壊死、急性根尖膿瘍。こうした来院では、この研究でもフレアアップの割合が高めでした。
・術前の説明:痛みや腫れが強くなる可能性があること、その時の連絡先と受診の流れを、治療の前に伝えておく
・予定の組み方:急性症状の歯は、術後に予約外の対応が要るかもしれない前提で枠を考える
・1回法か複数回法か:この研究では有意差を認めなかった。ただし根管内に薬剤を置かない条件での結果で、薬剤を使う今の手順にそのまま当てはまるとは限らない
反対に、「処置をこう変えればフレアアップを防げる」とまでは、この研究からは言えません。関係を見た観察研究で、処置を割り付けて比べたものではないからです。
今日のひとこと
大学の歯内療法外来の946回の来院で、フレアアップは30件(3.17%)。来院時の重度の痛み(19.2%)・腫れ(15.2%)、歯髄壊死(6.5%)、急性根尖膿瘍(13.1%)で有意に多く、1回法と複数回法では有意差を認めませんでした(根管内に薬剤を置かない条件)。因子を1つずつ比べた観察研究です。処置で防げるとは言えませんが、来院時の状態から起こりやすさを見込み、術前に説明と連絡の方法を伝えておく手がかりになります。


