エンド|抜去したヒトの単根・単根管の歯120本を、水酸化カルシウムをレンツロで入れる群・ペーパーポイントだけで入れる群・根管に生理食塩液を入れた対照群(それぞれ7日・28日)の6群(各20本)に分け、根管壁と根管から1mm内側の象牙質のpHを電極で測った実験室研究(Teixeira・Levin・Trope 2005・Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)
水酸化カルシウムの貼薬は、入れ方で効き方が変わるのか。Teixeira らは2005年、抜去したヒトの単根・単根管の歯120本を6群(各20本:2つの入れ方と生理食塩液の対照、それぞれ7日・28日)に分け、水酸化カルシウムをレンツロで入れてペーパーポイントの鈍端で押さえる方法と、ペーパーポイントだけで入れる方法を比べました。7日後の根管壁のpH(平均)は、レンツロの群が歯頸側・中央・根尖側で11.74・11.50・11.01、ペーパーポイントだけの群が11.05・9.72・8.53で、3部位とも有意差がありました。28日後は歯頸側で有意差を検出せず、中央と根尖側でレンツロの群が高い値でした。一方、根管から1mm内側の象牙質では、水酸化カルシウムを入れた4群(7日・28日)でも平均pHは7.32〜9.06でした(表Iから筆者がまとめた範囲)。測ったのはpHだけで、細菌や治りは調べていません。
①水酸化カルシウム貼薬、どうやって入れていますか?
根管の拡大と洗浄が終わって、次回まで水酸化カルシウムを入れておく。そのとき、ペーパーポイントで押し込んでいますか。それともレンツロ(らせん状の充填器)で送り込んでいますか。毎回のことなので、入れ方まで考える機会は意外と少ない場面です。
この入れ方の違いを、象牙質のpHで比べたのが、Teixeira・Levin・Trope が2005年に Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, Oral Radiology, and Endodontics に出した研究です。抜去したヒトの歯に水酸化カルシウムを入れ、7日後と28日後に根管壁と、根管から1mm内側の象牙質のpHを電極で測りました。
・抜去したヒトの単根・単根管の歯120本を6群(各20本)に分けた実験室研究。測ったのはpHだけで、細菌や治りは調べていない
・根管壁のpH(7日・平均)は、レンツロで入れてペーパーポイントで押さえた群が歯頸側・中央・根尖側で11.74・11.50・11.01、ペーパーポイントだけの群が11.05・9.72・8.53。表の記号では3部位とも有意差あり
・28日では、歯頸側は両群に有意差を検出せず、中央と根尖側はレンツロの群が高かった(10.89・10.7 対 9.46・7.86)
・根管から1mm内側の象牙質では、水酸化カルシウムを入れた群でも平均pHは7.32〜9.06(表Iから筆者がまとめた範囲)で、根管壁よりずっと低かった
・著者らは、レンツロで入れてペーパーポイントの鈍端で押さえる方法が、ペーパーポイントだけより根管壁と内側の象牙質のpHを高くしたと結論した
②なぜ入れ方を比べたのか
水酸化カルシウムは、飽和溶液でpH12.5〜12.8と高いアルカリ性を示します。著者らは、その治癒への働きの多くは殺菌作用によると考えられる、と引用した研究をもとに書いています。さらに序論では、引用した研究をもとに次のように整理しています。感染根管の細菌は根管壁だけでなく、象牙細管の中へ375マイクロメートルまで入り込んでいる。多くの微生物はpH9.5で死ぬが、pH11以上でも生き残るものがいる。だから貼薬として効くには、根管の中だけでなく、象牙細管の少し奥までpHが高くなる必要がある、という考え方です。
もう一つのきっかけが、入れ方です。著者らによると、水酸化カルシウムを入れても細菌が減らなかったと報告した Peters らの研究では、薬剤を滅菌ペーパーポイントの鈍端で押し込んでいました。一方、細菌を減らす効果を報告した研究の多くはレンツロで入れていました。そこで著者らは、入れ方の違いが根管壁と象牙質の奥のpHを変えるのかを、pHを測る電極で確かめることにしました。
③何をどう比べたか
・歯:抜去したヒトの単根・単根管の歯120本。歯髄と根尖周囲の状態は不明。付着した組織とセメント質はカーバイドバーで除き、滅菌生理食塩液に保管
・根管の準備:#40(解剖学的根尖から1mm手前)まで拡大。1.0%次亜塩素酸ナトリウム10mLとRC-Prep、17%EDTAを3分置いてスミヤー層を除き、生理食塩液10mLで洗い流した
・6群(各20本・無作為に割り付け):①レンツロで入れ、滅菌ペーパーポイントの鈍端で押さえる(7日・28日)/②ペーパーポイントだけ(スパチュラで根管口まで運び、ペーパーポイントで押し込む。7日・28日)/③対照:根管に滅菌生理食塩液(7日・28日)。水酸化カルシウムは粉末と蒸留水の懸濁液(pH12.3)。同じ術者が行い、1本ずつ密閉容器に入れて37℃で保管
・測り方:各群の10本は横に15枚(各3分の1から5枚)に切って水で洗い、根管から1mm内側の象牙質のpHを測った。残り10本は縦に割って水酸化カルシウムを洗い流し、根管壁の表面のpHを測った。どちらも歯頸側・中央・根尖側の3分の1ごと。電極は先端が丸い直径約1mmの平坦膜pH電極で、各測定時期の前後に既知のpHの溶液で較正した
・統計:一元配置分散分析とTukey検定。同じ表・同じ部位(列)の6群のあいだで比べ、同じ英字の記号を持つ群どうしは有意差なし(P>.05)とした
④結果1:根管壁のpHは、レンツロの群が高く、差は根尖側で大きかった
根管壁の表面を見ると(図1)、7日後の平均pHは、レンツロの群が歯頸側11.74・中央11.50・根尖側11.01、ペーパーポイントだけの群が11.05・9.72・8.53、対照(生理食塩液)は7.31〜7.48でした。表IIの記号では、3部位ともレンツロの群とペーパーポイントだけの群は別の記号で、有意差がありました。ペーパーポイントだけの群は、根尖側へ行くほど値が下がっています。
28日後は、レンツロの群が11.09・10.89・10.7、ペーパーポイントだけの群が10.98・9.46・7.86でした。歯頸側は両群が同じ記号(有意差を検出せず)、中央と根尖側はレンツロの群が別の記号で高い値でした。ペーパーポイントだけの群の根尖側(7.86)は、対照の群と有意差が検出されていません。
著者らは、7日から28日へpHが上がることは見られなかったと書いています。根管壁(表II)では、どちらの入れ方でも28日の平均は7日を上回っていません。ただし1mm内側(表I)では、ペーパーポイントだけの群の歯頸側が7日8.27から28日8.50へ上がっています(記号は共通で、有意差は検出されていません)。7日の群と28日の群の比較は、同じ表の英字の記号から読めます(例:表IIのレンツロの群の歯頸側は、7日11.74(a)と28日11.09(b)で別の記号)。時間の効果だけを独立に評価した解析の結果は示されていません。
⑤結果2:根管から1mm内側の象牙質では、平均pHは最高でも9.06
輪切りにして根管から1mm内側の象牙質を測ると、値は根管壁よりずっと低くなりました(図2の上半分)。7日後の平均pHは、レンツロの群が歯頸側9.06・中央8.62・根尖側8.43、ペーパーポイントだけの群が8.27・8.18・7.71、対照は7.25〜7.59でした。水酸化カルシウムを入れた4群(7日・28日)の平均pHは、表Iの12の値をまとめると7.32〜9.06の範囲です(筆者がまとめた範囲)。
表Iの記号で両群を比べると、7日は歯頸側と根尖側で別の記号、中央は同じ記号でした。28日は歯頸側が同じ記号、中央と根尖側で別の記号です。ペーパーポイントだけの群は、7日と28日の根尖側、28日の中央で、対照の群と同じ記号を持っていました(有意差を検出せず)。
なお、抄録には「7日の輪切りでは、レンツロの群が統計的に異なったのは根尖側だけ」とあります。表Iの記号では、7日の根尖側はレンツロの群の記号を他の5群のどれも持たない一方、歯頸側でもレンツロの群(a)とペーパーポイントだけの群(b)は別の記号です。本記事は表の記号で読みました。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、水酸化カルシウムをレンツロで入れて滅菌ペーパーポイントの鈍端で押さえると、ペーパーポイントだけより、根管壁でも内側の象牙質でも高いpHが得られたと結論しています。考察では次のようにも述べています。
・Peters らの研究との関係:この研究のペーパーポイントの入れ方は Peters らと同じで、結果は満足できるものではなかった。Peters らで水酸化カルシウムが効かなかったのは入れ方のせいで、中央と根尖側まで実際には詰まっていなかったのではないか(著者らの推測。この研究で詰まり具合は測っていない)
・内側の象牙質でpHが低い理由:水酸化物イオンの拡散が乏しいか、象牙質(ハイドロキシアパタイト)が中和・緩衝するためと考えられる(著者らの考察。引用した研究にもとづく)
・細菌への意味:象牙質の奥ほどpHが低い勾配ができると、細管の中の細菌は致死的なpHから守られ、耐性のある菌が残る場になるかもしれない(著者らの考察。この研究で細菌は調べていない)
読み方として大事なのは、この研究が示したのは抜去歯の象牙質のpHの違いだということです。入れ方で根管壁のpH、特に根尖側の値が変わったことは、表の数値と記号から読めます。しかし、それで細菌が減るか、根尖病変が治るかは測っていません。また、根管から1mm内側の平均pHは最も高い群・部位でも9.06で、著者らが序論で引いた「多くの微生物はpH9.5で死ぬ」という値には届いていません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・ペーパーポイントだけで押し込むと、根尖側の値が低かった:28日の根尖側の根管壁の平均pHは7.86で、生理食塩液の対照群と有意差が検出されなかった
・長く置けば奥まで効く、とはこの研究からは言えない:7日から28日へのpHの上昇は認めなかった、と著者らは書いている
・貼薬だけで象牙質の奥まで消毒できるとは考えない:根管から1mm内側の平均pHは最高でも9.06。水酸化カルシウムだけに象牙質の奥の消毒を期待しない、という位置づけで使う
なお、この研究の水酸化カルシウムは粉末と蒸留水を混ぜたもので、市販の製剤やシリンジで入れる方法は比べていません。
(2)測ったのはpHだけです。細菌の数、根管がどこまで詰まっていたか、治りはどれも調べていません。
(3)各群・各測り方は10本と少なめです。電極は直径約1mmで、「1mm内側」の値はその広さで測った値です。
(4)原著の中の記載のずれ:抄録の「最も高いpH」の文には、有意差を示す向きとは逆の「P>.05」が添えられています(表の注では、P>.05 は「有意差なし」の意味)。抄録の「7日の輪切りで異なったのは根尖側だけ」も、表Iの歯頸側の記号とは合いません。考察の「ペーパーポイントの群は中央と根尖側で対照と同程度」も、表の記号でそうなっているのは一部(表Iの7日・28日の根尖側と28日の中央、表IIの28日の根尖側)です。
(5)資金と利益相反の記載は見当たりませんでした。
今日のひとこと
水酸化カルシウムは、入れたつもりではなく根尖側まで届ける入れ方を選ぶ。この抜去歯の実験では、レンツロで入れてペーパーポイントで押さえた群の方が、ペーパーポイントだけの群より根管壁のpHが高く、差は中央と根尖側で目立ちました。ただし根管から1mm内側の象牙質では、平均pHは最も高い群・部位でも9.06で、測ったのはpHだけで、細菌や治りは調べていません。入れ方を見直すきっかけにしつつ、水酸化カルシウムだけで象牙質の奥まで消毒できるとは読まない。それがこの論文に合った使い方です。


