エンド|慢性根尖性歯周炎の患者10人の根管から採った細菌で、抜去歯の根尖の象牙質片にバイオフィルムを作り、6%・3%・1%次亜塩素酸ナトリウム、1%の後にMTAD、2%クロルヘキシジンに浸して(MTADは1%次亜塩素酸ナトリウム15分の後にMTAD 5分、ほかは15分)、電子顕微鏡(SEM)と培養で比べた実験室研究(Clegg・Vertucci・Walker・Belanger・Britto 2006・Journal of Endodontics)
細菌を「殺す」ことと、バイオフィルムを「剥がす」ことは同じなのか。Clegg らは2006年、患者の根管の細菌で抜去歯の象牙質片に7日間バイオフィルムを作り、洗浄液に浸して(次亜塩素酸ナトリウムとクロルヘキシジンは15分、MTADは1%次亜塩素酸ナトリウム15分の後に5分。かき混ぜ・器具の操作なし)、SEMと培養で調べました。SEMで細菌が見えず、培養でも育たなかったのは6%次亜塩素酸ナトリウムだけでした。2%クロルヘキシジンは培養では育たなかった(0%)ものの、SEMではバイオフィルムがほぼそのまま残っていました。培養で細菌が育った割合は3%で20%、1%で90%で、6%(0%)と3%の差は検定では示されていません。実験室の結果で、臨床の成績は調べていません。
①根管洗浄液は、バイオフィルムを「剥がせる」?
根管洗浄に使う次亜塩素酸ナトリウム。濃さは何%にしていますか。クロルヘキシジンに替えても同じでしょうか。細菌を「殺す」ことと、根管壁のバイオフィルムを「剥がす」ことは、同じなのでしょうか。
この問いを、患者の根管から採った細菌で作ったバイオフィルムを使って実験室で確かめたのが、Clegg・Vertucci らが2006年に Journal of Endodontics に出した研究です。
・慢性根尖性歯周炎の患者10人の根管から採った細菌で、抜去歯の根尖5mmを縦に割った象牙質片に7日間バイオフィルムを作り、各液に浸した実験室研究(次亜塩素酸ナトリウムとクロルヘキシジンは15分、MTADは1%次亜塩素酸ナトリウム15分の後に5分。かき混ぜや器具の操作はしていない)
・電子顕微鏡(SEM)で細菌が見えなくなったのは6%と3%の次亜塩素酸ナトリウム(バイオフィルムも消えていた)。1%と、1%の後にMTADではバイオフィルムは崩れたが細菌が残り、2%クロルヘキシジンではバイオフィルムがほぼそのまま残った
・象牙質を削って培養すると、細菌が育った割合は、6% 0%・3% 20%・1% 90%・1%の後にMTAD 0%・2%クロルヘキシジン 0%(リン酸緩衝液に浸した対照 100%)
・SEMで細菌が見えず、培養でも育たなかったのは6%だけで、著者らは6%を「細菌を育たなくし、かつバイオフィルムを物理的に取り除けた唯一の洗浄液」とした
・ただし培養の比較で、ほかの液と有意な差があったのは陽性対照と1%次亜塩素酸ナトリウムだけと報告されており、6%(0%)と3%(20%)の差は検定で示されていない
②なぜこの研究が必要だったか
根尖性歯周炎は根管の細菌感染で起こり、細菌は根管の届きにくい場所や根の表面でバイオフィルムとして見つかってきました。著者らは序論で、バイオフィルムの中の細菌は代謝が低く抗菌物質に強いこと、基質が強い酸化剤を打ち消しうること、浮遊した細菌に効く薬が同じようには効かないことを、引用文献をもとに整理しています。
また、初めての根管の感染の多くは複数の菌種によるもので、複数の菌種のバイオフィルムは1菌種のものより殺菌剤に強いとされます(引用文献の結果)。そこで著者らは、患者の根管の細菌そのもので作ったバイオフィルムで、洗浄液の効き目を比べることにしました。
③何をどう比べたか
・細菌:歯髄が壊死し、直径3mm以上の透過像がある慢性根尖性歯周炎の患者10人(治療前に抗菌薬を飲んでいない)。ラバーダムを掛け、術野を6%次亜塩素酸ナトリウムで拭き、注水なしで髄腔を開け、滅菌したペーパーポイントで根管の内容を60秒吸わせて採った
・象牙質片:1根管の単根の抜去歯70本の根尖5mmを縦に割り、140片を作った。患者ごとに10群(各14片。うち2片は細菌を接種しない陰性対照)に分けた。17% EDTAと6%次亜塩素酸ナトリウムで超音波4分をかけてスミヤー層を取り、オートクレーブで滅菌。その患者の唾液に24時間浸けてペリクルを作った
・バイオフィルム:各群14片のうち12片に患者の根管の試料を接種し(残り2片は接種しない陰性対照)、嫌気条件で7日間育てた(48時間ごとに培地を交換)
・浸した液:6%・3%・1%の次亜塩素酸ナトリウム各15分/1%次亜塩素酸ナトリウム15分の後にMTAD 5分(メーカーの推奨)/2%クロルヘキシジン15分。対照は、滅菌したリン酸緩衝液に15分浸した片(陽性対照)と、細菌を接種しなかった片(陰性対照)。かき混ぜや器具の操作はしていない
・液の打ち消し:次亜塩素酸ナトリウムはチオ硫酸ナトリウムに5分、クロルヘキシジンはレシチンとTween 80の混合液で打ち消した。MTADは、全成分を打ち消せる薬が無いため打ち消さなかった
・評価:各群で各液に2片ずつ浸し、1片をSEMで見て細菌の有無とバイオフィルムの状態を判定、もう1片は滅菌したバーで象牙質を削り、血液寒天培地で72時間嫌気培養して細菌が育つかを見た。χ²検定で比べた
方法の記載から数えると、各液はSEMで10片、培養で10片(10人分×1片)を調べたことになります(筆者が数えた)。
④結果1:電子顕微鏡では、6%と3%で細菌が見えず、2%クロルヘキシジンはほぼそのまま
原著の表1の全行を、そのまま表にしました。SEMで細菌が見えなかったのは6%と3%の次亜塩素酸ナトリウムで、バイオフィルムも「消失」とされました(細菌を接種しなかった陰性対照も、細菌とバイオフィルムを認めませんでした)。1%と、1%の後にMTADでは、バイオフィルムは「崩れた」ものの細菌が残っていました。2%クロルヘキシジンでは、バイオフィルムは「そのまま」でした。
SEMでの細菌の有無は、液の間で全体として有意に違い(χ²=71.000、p<0.0001)、陰性対照・3%・6%(細菌なし)と、陽性対照・1%・1%の後にMTAD・2%クロルヘキシジン(細菌あり)の間に差があった、と報告されています。原著の図1では、1%と1%の後にMTADで残った細菌は主に象牙細管の中に見られた、と説明されています。
⑤結果2:培養で細菌が育たなかったのは、6%・1%の後にMTAD・2%クロルヘキシジン
象牙質を削って培養すると、細菌が育った割合は、6%で0%、3%で20%、1%で90%でした。1%の後にMTADと2%クロルヘキシジンは0%でした(図)。
培養の結果も液の間で全体として有意に違い(χ²=57.192、p<0.0001)、陽性対照と1%次亜塩素酸ナトリウムが、ほかの液と p<0.05 で異なった、と報告されています。つまり、6%の0%と3%の20%の差は、この検定では示されていません。
2つの結果を合わせると、SEMで細菌が見えず、培養でも育たなかったのは6%だけでした。逆に2%クロルヘキシジンと1%の後にMTADは、培養では育たなかったのに、SEMでは細菌やバイオフィルムが残っていました。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、次のように考察しています。
・6%次亜塩素酸ナトリウム:細菌を育たなくし、かつバイオフィルムを物理的に取り除けた唯一の液。濃いほど抗菌の力が強く、濃度による違いがあった(著者ら)
・低い濃度:培養で細菌が育ったのは、細菌が象牙細管に入り込んで液から逃れたためだろう(著者らの推測)。液を入れ替えたり時間を延ばしたりすれば、もっと効いたかもしれない(著者ら)
・2%クロルヘキシジン:培養では育たなかったが、SEMではバイオフィルムがほぼそのまま。クロルヘキシジンが細胞を固定したためかもしれない(著者らの推測)。洗浄に使うなら、バイオフィルムを物理的に崩す別の手段が要るかもしれない。予備実験では12%クロルヘキシジンでも5片中5片で殺菌も除去もできなかった(著者らの予備実験)
・MTAD:培養では育たなかったが、バイオフィルムを完全には取り除けなかった。崩れたのは最初の1%次亜塩素酸ナトリウムのせいかもしれない。MTADは打ち消さずに培養したので、打ち消していれば培養で細菌が育った可能性がある(著者ら)
・剥がす意味:死んだ細菌の成分も炎症を起こしうる(引用文献)ので、細菌を育たなくするだけでなく、物理的に崩せる洗浄液を使うのが理にかなう。残ったバイオフィルムは根管充填、特にレジン系の材料の接着を妨げうる(著者らの考察)
読み方として大事なのは、これは抜去歯の象牙質片を液に浸した実験室の結果だという点です。「6%だけ」という結論は、SEMと培養の両方で細菌を認めなかったのが6%だけ、という意味で、培養だけを見ると6%と3%の差は検定で示されていません。また、原著の中で3%のSEMの所見の書き方が食い違っています(表1は細菌なし・バイオフィルム消失、考察は1%と並べて「一部が崩れ取り除かれた」)。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・次亜塩素酸ナトリウムの濃さで結果が変わった:浸すだけ(15分)の条件では、培養で細菌が育った片の割合は1%次亜塩素酸ナトリウムで90%、6%で0%だった
・クロルヘキシジンだけでバイオフィルムを剥がすことは、この研究からは期待しにくい:著者らは、使うなら物理的に崩す別の手段が要るかもしれないとしている
・かき混ぜや器具の操作は、この研究では一切していない:著者らは、機械的なかき混ぜでもっと崩れた可能性を書いている
なお、この研究は臨床の成績や、濃い次亜塩素酸ナトリウムの組織への害は調べていません。著者らも、組織を傷つけずにより強く効く方法の研究を今後の課題としています。
(2)規模が小さいです。細菌は患者10人分、各液はSEMで10片・培養で10片(方法の記載から筆者が数えた)。SEMは各片で細菌の有無とバイオフィルムの状態を見た評価で、観察した範囲や、評価した人がどの液か知っていたかは書かれていません。
(3)培養で6%(0%)と3%(20%)の差は検定で示されていません。培地がすべての菌を育てるとは限らないこと、MTADを打ち消さずに培養したことも、著者ら自身が限界に挙げています。
(4)3%のSEMの所見は、表1(細菌なし・バイオフィルム消失)と考察(一部が崩れ取り除かれた)で書き方が食い違っています。
(5)臨床の成績や組織への害は評価していません。
(6)資金と利益相反の記載は見当たりませんでした(製品名とメーカー名は記載あり)。
今日のひとこと
この実験室研究では、培養で細菌が育たなくても、バイオフィルムが象牙質片の上に残ることがありました(2%クロルヘキシジン)。SEMと培養の両方で細菌を認めなかったのは6%次亜塩素酸ナトリウムだけでした。「殺す」と「剥がす」を分けて考え、かき混ぜのない浸漬(次亜塩素酸ナトリウムとクロルヘキシジンは15分、MTADは1%次亜塩素酸ナトリウム15分の後にMTAD 5分)という条件と、6%と3%の培養の差が検定で示されていないことを頭に置いて使うのが、この論文に合った読み方です。


