保存修復|ヒトの抜去第三大臼歯の象牙質を7通りの方法(アルミナ研磨・耐水研磨紙3種・バー3種)で削り、セルフエッチ(Clearfil SE Bond)とリン酸処理のトータルエッチ(Single Bond)で接着して、24時間後の剪断接着強さとスメア層を比べた実験室研究(Oliveira ほか 2003・Dental Materials)
セルフエッチは、リン酸で処理して洗い流す方式と違い、スメア層を取り除かずに接着します。では、窩洞を何で削ったかで接着は変わるのか。Oliveira らは2003年、ヒトの抜去第三大臼歯の象牙質を7通りの方法で削り、Clearfil SE Bond(セルフエッチ)と Single Bond(トータルエッチ)で接着して、24時間後の剪断接着強さを1条件12試料で測りました。Clearfil SE Bond では、粗いダイヤで削った象牙質の接着強さが平均28.9 MPa と7通りの中で最も低く、バーの中ではカーバイドバーが平均36.2 MPa と最も高い値でした。Single Bond では、アルミナ研磨を除くと削り方による差は検出されませんでした。削り方が粗いほどスメア層は厚く、セルフエッチのプライマーを塗ったあとの象牙細管の開き具合(点数の平均)は低くなっていました。全体の平均は Clearfil SE Bond 35.5 MPa、Single Bond 21.8 MPa でした。
①セルフエッチの前、象牙質を何で削っている?
窩洞形成の最後に、象牙質を何で仕上げているでしょうか。粗いダイヤのまま、ファインのダイヤ、それともカーバイドバー。リン酸で処理して洗い流す接着材なら、削りかすの層(スメア層)はほぼ取り除かれます。ところがセルフエッチは洗い流さず、スメア層ごと接着層に取り込みます。だとすると、削り方の違いがそのまま接着に響くのではないか。
この問いを実験室で確かめたのが、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校の Oliveira らが2003年に Dental Materials に出した研究です。ヒトの抜去歯の象牙質を7通りの方法で削り、セルフエッチとトータルエッチの2つの接着材で、接着強さとスメア層を比べました。
・ヒトの抜去第三大臼歯の象牙質を7通りに削り、Clearfil SE Bond(セルフエッチ)と Single Bond(35%リン酸で処理するトータルエッチ)で接着、24時間後の剪断接着強さを1条件12試料で測った
・Clearfil SE Bond では、粗いダイヤで削った象牙質が平均28.9 MPa と7通りの中で最も低く、バーの中ではカーバイドバーが平均36.2 MPa と最も高かった(カーバイドとの差は7.3 MPa、95%信頼区間2.2〜12.4・著者らの推定)
・Single Bond では、極端に滑らかなアルミナ研磨を除くと、削り方による差は検出されなかった
・削り方が粗いほどスメア層は厚く、Clearfil SE Bond のプライマーを塗ったあとの象牙細管の開き具合(点数の平均)は低かった
・全体の平均は Clearfil SE Bond 35.5 MPa、Single Bond 21.8 MPa(p<0.001)
②なぜ削り方が問題になるのか
スメア層は、歯を削ったときに表面にできる削りかすの層です。厚み・粗さ・密度・歯への付き方は、削り方によって変わるとされてきました(著者らが引いた文献)。初期の接着材の成績が悪かったのは、このスメア層の上に接着していたからだと考えられ、酸で処理してスメア層を溶かし、洗い流す方法(トータルエッチ)が広まりました。トータルエッチでは、削り方の違う象牙質でも接着強さに差が見られなかったという研究がある一方、スメア層を除いた後の表面の凹凸が接着に影響するという考えもありました。
セルフエッチは、酸性のモノマーを含むプライマーがスメア層に浸透し、その下の象牙質まで染み込むとされ、洗い流しません。スメア層の成分は接着層の中に残ります。そのため、スメア層の違いがセルフエッチの接着強さに影響するという報告が出始めていました。
もう1つの背景は、実験室の試料の作り方です。多くの接着試験は、象牙質を600番の耐水研磨紙で削って作られていますが、それが臨床のバーで削った面に近いかどうかは示されていませんでした。そこで著者らは、臨床のバーに近いスメア層を実験室で作る方法を探すことも目的にしました。
③何をどう比べたか
・歯:無作為に選んだヒトの抜去第三大臼歯(う蝕なし・抜歯から3か月以内・ガンマ線を照射)。歯の本数は書かれていない
・7通りの削り方:0.05µmのアルミナ研磨(最も滑らか)/耐水研磨紙の600番・320番・240番(数字が小さいほど粗い)/バー3種=カーバイドバー(#245)・ファインダイヤ(#250.9 F)・粗いダイヤ(#250.9 C)。バーは高速ハンドピースで注水しながら、装置で150gの一定の荷重をかけて削った(引用文献にある、臨床医がバーにかける平均の圧と著者らが説明)。1本のバーで削ったのは最大5面
・接着材:Clearfil SE Bond(クラレ。セルフエッチングプライマーとボンドの2本)と Single Bond(3M ESPE。35%リン酸で処理して水洗するトータルエッチ)。メーカーの指示どおりに使い、レジン(Z100)を築盛した
・接着強さ:浅い層の象牙質に直径3mmで接着し、37℃・湿度100%で24時間置いてから、単一面の重ね合わせ剪断試験で測った。1つの削り方×1つの接着材あたり12試料(筆者の計算で計168試料)
・スメア層:別に作った象牙質の円板(咬合面側を、歯髄角の約2mm上で切り出したもの)で、粗さ(原子間力顕微鏡)、厚み(走査電子顕微鏡の断面)、Clearfil SE Bond のプライマーを20秒塗ったあとの細管の開き具合(完全に開く100・一部開く66・栓でふさがる33・閉じる0と細管1本ずつに点数を付けた平均。開いた本数の割合ではない)を走査電子顕微鏡で調べた。比べとして、観察用に85%リン酸を薄めて作った35%リン酸水溶液(Single Bond に付属の酸は、含まれるシリカの増粘剤が観察の邪魔になるため使っていない)も当てた
解析は2段階で、まず接着強さを削り方ごとに比べ、Clearfil SE Bond で最も高かったバーを「基準のバー」として、耐水研磨紙と比べました。次に、スメア層の3つの性質を、基準のバーと耐水研磨紙で比べています。
④結果1:Clearfil SE Bond は、粗いダイヤで最も低い
全体の平均は、Clearfil SE Bond 35.5 MPa(標準偏差8.8)、Single Bond 21.8 MPa(標準偏差7.3)で、Clearfil SE Bond の方が高い値でした(p<0.001)。
Clearfil SE Bondでは、削り方が粗いほど接着強さは下がりました(図1の濃い棒)。最も低かったのは粗いダイヤの平均28.9 MPa(標準偏差7.0)で、最も高かったのは600番の耐水研磨紙の42.0 MPa(7.5)です。バーの中ではカーバイドバーが36.2 MPa(5.3)と最も高く、ファインダイヤ34.1 MPa(5.8)、粗いダイヤ28.9 MPa の順でした。著者らの推定では、カーバイドバーとの差は、ファインダイヤで2.1 MPa(95%信頼区間 −2.9〜7.1)、粗いダイヤで7.3 MPa(2.2〜12.4)です。アルミナ研磨を除いた解析では、粗さ(p=0.005)とバーか研磨紙か(p=0.003)の両方が接着強さに関係していました。
なお、表2の Tukey の検定の文字で、粗いダイヤ(28.9 MPa)と有意に違ったのは600番の耐水研磨紙(42.0 MPa)だけです。上のカーバイドバーとの差の信頼区間は0をまたいでいませんが、表2の多重比較では、この2つの間に有意差は示されていません。
Single Bondでは、アルミナ研磨を含めると粗さ(p=0.039)とバーか研磨紙か(p=0.029)が関係していましたが、アルミナ研磨を除くと、削り方による差は検出されませんでした(p=0.53)。アルミナ研磨の平均は17.0 MPa と、Single Bond の中で最も低い値でした。
壊れた面を電子顕微鏡で見ると、ほとんどの試料は接着層の中で壊れていました。ただし Clearfil SE Bond で最も粗い2つ(粗いダイヤと240番の耐水研磨紙)では、剥がれた面にスメア層が残っており、著者らはスメア層の中で壊れたと判断しています。
⑤結果2:粗いほどスメア層は厚く、細管の開き具合は低い
図2は表3をそのまま並べたものです。
・粗さ:削り方が粗いほど粗く(p<0.001)、バーか研磨紙かでは差が検出されなかった(p=0.20)。粗いダイヤは1000 nm を超えて測れず、アルミナ研磨は他と大きく違ったため、解析から外された
・スメア層の厚み:削り方が粗いほど厚く(p<0.001)、バーか研磨紙かでは差が検出されなかった(p=0.68)。アルミナ研磨は薄すぎて測れなかった。カーバイドバーは平均1.8µm で、バーの中では最も薄い値だったが、表3の文字では3つのバーの間に有意差は示されていない
・細管の開き具合:Clearfil SE Bond のプライマーを20秒塗ったあとの開き具合(完全に開く100・一部開く66・栓でふさがる33・閉じる0と細管1本ずつに点数を付けた平均。開いた本数の割合ではない)は、削り方が粗いほど低く、バーは研磨紙より低かった(どちらも p<0.001)。粗いダイヤは15.5、カーバイドバーは22.2。観察用の35%リン酸水溶液で処理した面は、どの削り方でも細管がすべて開いていた(点数100)
別に行った追加の実験では、240番の耐水研磨紙でできた厚いスメア層に、Clearfil SE Bond のプライマーと、濃さの違うリン酸を当てました。洗い流してスメア層が取れたのは35%リン酸だけで、プライマーと同じ pH 2 の0.13%リン酸や20%リン酸では、スメア層が残っていました(電子顕微鏡写真による観察)。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、次のように考察しています。
・スメア層はセルフエッチの邪魔をする:粗い削り方ほど接着強さが下がり、スメア層が厚く、剥がれた面にスメア層が残っていたことは、スメア層がセルフエッチングプライマーの接着を妨げるという考えを支える(著者ら)
・それでもセルフエッチの方が高い:スメア層を取り切れないのに、Clearfil SE Bond の接着強さは Single Bond より高かった。スメア層を取り除かないと高い接着強さは得られない、という通説に疑問を投げかける結果(著者ら)
・臨床では薄いスメア層を作るバーを:Clearfil SE Bond では、カーバイドバーがバーの中で最も高い接着強さと、最も薄いスメア層を示した。現在のセルフエッチを使う時は、臨床でもスメア層の薄くなるバーを使うことが大切(著者ら)
・実験室では320番の耐水研磨紙を:接着強さとプライマーへの反応(細管の開き具合)を合わせて見ると、320番がカーバイドバーに近い結果だった。セルフエッチの実験室の試験では、320番の耐水研磨紙で試料を作ることを勧める(著者ら)。なお細管の開き具合だけを見ると、カーバイドバー22.2に対して320番33.4・240番16.4で、どちらもカーバイドバーとの差は検出されていない
読み方として大事なのは、これが抜去歯で、24時間後に測った接着強さだという点です。粗いダイヤで削った象牙質の値が低かったことは、詰めた修復物が外れやすいことや、臨床の成績が悪いことを示したものではありません。また、カーバイドバーと粗いダイヤの差は、著者らの推定(95%信頼区間2.2〜12.4 MPa)では0をまたいでいませんが、表2の多重比較の文字では有意差が示されていない、という2つの見え方があります。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・リン酸で処理する Single Bond では、削り方の差は検出されなかった:アルミナ研磨を除いた解析での結果。観察用の35%リン酸水溶液では、どの削り方でも細管がすべて開いていた
・結果は1つの製品の組み合わせ:調べたセルフエッチは Clearfil SE Bond、トータルエッチは Single Bond の1つずつ。ほかの接着材に同じ差が出るかは、この研究では分からない
・実験室のデータを読む時は、試料の削り方を見る:600番の耐水研磨紙で作った試料は、バーで削った象牙質より高めの値が出ている可能性がある(この研究の Clearfil SE Bond では600番42.0 MPa、カーバイドバー36.2 MPa。この2つの間に有意差は検出されていない)
なお、この研究の接着強さは、接着して37℃・湿度100%で24時間置いてから剪断試験で測った値で、長期の耐久性や辺縁の封鎖、術後の知覚過敏は測っていません。
(2)試料数は1条件12試料で、歯の本数は書かれていません。接着試験は隣接面の浅い層の象牙質、スメア層の観察は咬合面側の円板(歯髄角の約2mm上)と、別の試料で、採り方も違います。
(3)製品は2つだけ(Clearfil SE Bond と Single Bond)。バーも各1種類で、注水下・150gの一定荷重という装置の条件です。
(4)原著の中の食い違い:結果の本文は「粗いダイヤと240番の耐水研磨紙で有意に低かった」と書いていますが、表2の Tukey の文字では240番(35.7 MPa)に有意差は付いておらず、粗いダイヤに有意差が付いたのも600番との間だけです。スメア層の厚みの解析数は「36切片・1条件9切片」と書かれていますが、方法の節は1条件6切片で、6条件×6=36と合います。320番とカーバイドバーの粗さの差は本文で280 nm、表3の平均の差では332 nm(筆者の計算)です。
(5)資金は米国国立歯科頭蓋顔面研究所の研究費と筆頭著者の奨学金で、メーカーからの資金の記載は無く、利益相反の記載は見当たりませんでした。
今日のひとこと
セルフエッチはスメア層の上から接着します。この実験室研究では、粗いダイヤで削った象牙質に Clearfil SE Bond を使うと、24時間後の剪断接着強さが7通りの削り方の中で最も低く、スメア層は厚く、細管の開き具合は低めでした。リン酸で処理する Single Bond では、アルミナ研磨を除くと削り方による差は検出されませんでした。セルフエッチを使う窩洞は、粗いダイヤのままにせず、スメア層の薄くなる削り方で仕上げる。著者らのこの提案を、24時間・1製品の実験室の結果だと承知したうえで、日々の形成の一手に生かしたい論文です。


