エンド|3つの根管シーラー(AH Plus・MTA Fillapex・EndoSequence BC)から溶け出した液を、大腸菌のLPS(細菌の毒素)で刺激したマウスの前骨芽細胞にかけ、炎症の遺伝子と骨づくりの指標を比べた実験室研究(Leeら 2019・Journal of Endodontics)
MTAと同じカルシウムシリケートを含むシーラーには、根尖の炎症を抑えたり骨の治りを助けたりする力があるのか。Leeらは2019年、この問いを細胞培養の実験で調べました。大腸菌のLPSで刺激したマウスの前骨芽細胞に、硬化させたシーラーから溶け出した液(10倍に薄めたもの)をかけると、MTA Fillapex と EndoSequence BC では炎症の遺伝子 IL-6 と TNF-α の発現が、LPSだけの細胞より有意に低くなりました。LPSで下がった骨づくりの指標(OCN の遺伝子・ALP の活性・石灰化)も、この2つでは LPSだけの細胞より有意に高くなりました。AH Plus は TNF-α・OCN・石灰化では同じ向きの有意な差を示しましたが、IL-6 と ALP の活性では有意な差が示されませんでした。一方、薄めない濃い液では細胞の生存率が下がり、実験に使った10倍に薄めた液でも MTA Fillapex と AH Plus では対照より有意に低い値でした。細胞培養の実験で、患者さんの歯での治りを調べたものではありません。
①カルシウムシリケート系シーラーは、炎症を抑えて骨づくりを助ける?
「バイオセラミック系のシーラーは、根尖の炎症を抑えて骨の治りを助ける」。そんな説明を聞いたことはないでしょうか。では、それはどんな実験で、何を測って言われているのでしょう。
この問いに細胞培養の実験で迫ったのが、Leeらが2019年に Journal of Endodontics に報告した研究です。3つのシーラー、AH Plus(エポキシレジン系)、MTA Fillapex と EndoSequence BC(どちらもカルシウムシリケート系)から溶け出した液を、マウスの前骨芽細胞(骨芽細胞になる手前の細胞)にかけて比べました。
・大腸菌のLPS(細菌の毒素)で刺激した細胞に、硬化させたシーラーから溶け出した液(10倍に薄めたもの)をかけると、MTA Fillapex と EndoSequence BC では、炎症の遺伝子 IL-6 と TNF-α の発現が、LPSだけの細胞より有意に低かった
・LPSで下がった骨づくりの指標(OCN の遺伝子・ALP の活性・石灰化)も、この2つでは LPSだけの細胞より有意に高かった。ALP の遺伝子が有意に上がったのは EndoSequence BC だけ
・AH Plus は、TNF-α・OCN・石灰化では同じ向きの有意な差を示したが、IL-6・ALP の遺伝子・ALP の活性では有意な差を示さなかった
・薄めない濃い液では、細胞の生存率が下がった。実験に使った10倍に薄めた液でも、AH Plus(対照の約70%)と MTA Fillapex(約70%)は対照より有意に低かった(値は図から筆者が読んだおおよその値)
・マウスの細胞1種類を使った実験室の研究で、患者さんの根尖病変の治りを調べたものではない
②なぜこの研究が必要だったか
根管治療のあとに残ったわずかな細菌が、根尖性歯周炎の始まりや長引く原因になる。そう考える研究がある、と著者らは考察で書いています。根尖性歯周炎は、根尖の周りの炎症と骨の破壊が特徴です。そこで著者らは、シーラーには生体親和性と抗菌性に加えて、骨をつくる力も望ましいと考えました。
AH Plus は、エックス線での見えやすさ、重合のときの縮みの少なさ、封鎖性などに優れ、「ゴールドスタンダード」とされてきたシーラーです。これに対して、新しくカルシウムシリケート系のシーラーが出てきました。MTA Fillapex は MTA にサリチル酸塩や樹脂(希釈用・天然の樹脂、ナノレジン)、三酸化ビスマスを組み合わせたもの、EndoSequence BC はケイ酸カルシウムやリン酸カルシウム、水酸化カルシウムなどを含むバイオセラミック系のシーラーです(原著の説明)。これらの新しいシーラーの生体親和性・炎症を抑える働き・骨をつくる細胞への働きは、まだ十分に分かっていない、というのが著者らの出発点です。
③何をどう調べたか
・細胞:マウス由来の前骨芽細胞株(MC3T3-E1)
・シーラー:AH Plus、MTA Fillapex、EndoSequence BC。製造者の指示どおりに練和し、直径5mm・高さ3mmの円板にして、24時間かけて硬化させた
・抽出液:硬化させた円板を紫外線で滅菌し、40mLの培養液に7日間浸して、溶け出した液をろ過した
・炎症の状態:大腸菌のLPS(細菌の外膜の成分。炎症を起こす毒素)を細胞にかけた
調べたのは4つです。
(1)生存率:抽出液をそのまま、または5倍・10倍・50倍・100倍に薄めて24時間かけ、生きている細胞の量を発色の試薬(WST-1)で測った(培養液だけの細胞を1とした相対値)
(2)遺伝子の発現:LPS(100 ng/mL)で24時間刺激したあと、培養液を10倍に薄めた抽出液に替えて最長2日培養し、炎症の遺伝子(IL-6・TNF-α)と骨づくりの遺伝子(ALP・OCN)をPCRで測った
(3)ALP の活性:LPS(50 ng/mL)で24時間処理し、10倍に薄めた抽出液を使って培養し、7日目に ALP の染色の濃さを測った(培養液・抽出液は3日ごとに交換)
(4)石灰化:同じ流れで LPS(200 ng/mL)で24時間処理し、14日目にカルシウムの沈着をアリザリンレッドで染めて測った
(3)(4)で、LPS を7日・14日のあいだずっと加えていたかは、原著に明記されていません
炎症と骨づくりの実験で抽出液を10倍に薄めて使ったのは、濃い抽出液では生存率が下がったため、と著者らは書いています。各実験は3つずつ用意して2回以上くり返し、群の差は一元配置分散分析と Tukey の検定(有意水準5%)で調べています。PCR・染色の図では、シーラーの群は「LPSだけの群」と比べた検定の結果が示されています。シーラー同士を比べた結果は示されていません。
④結果:炎症の遺伝子が下がり、骨づくりの指標が上がった
まず、LPSだけをかけた場合、試した濃さ(10〜1000 ng/mL)では、対照に比べて生存率の有意な低下は示されませんでした(著者らは「細胞毒性なし」と記載)。一方で、ALP の活性と石灰化は、LPS の濃さに応じて有意に下がった、と著者らは書いています(ALP の染色は、LPSなしを1として 10 ng/mL で0.81、50 ng/mL で0.12、100 ng/mL で0.06。石灰化は 10・50・100・200 ng/mL で0.91・0.87・0.87・0.58)。
生存率は、シーラーによって違いました。AH Plus はどの濃さでも対照の約60〜70%で、全て有意に低い値でした。MTA Fillapex は100倍・50倍に薄めた液では有意な低下はなく、10倍・5倍・そのままの液で約60〜70%と有意に低くなりました。EndoSequence BC は、薄めないそのままの液(約80%)だけが有意に低い値でした。
炎症の遺伝子は、LPSで上がりました(対照1.00に対して、IL-6 が1.95、TNF-α が2.38。どちらも有意)。そこへ抽出液をかけると、IL-6 は MTA Fillapex で0.99、EndoSequence BC で0.98 と、LPSだけの細胞より有意に低くなりました。AH Plus は1.74で、有意な差は示されませんでした。TNF-α は3つとも有意に低くなりました(AH Plus 1.22、MTA Fillapex 1.39、EndoSequence BC 1.16)。
骨づくりの指標は、LPSで下がりました。OCN の遺伝子は0.37、ALP の活性は0.56、石灰化は0.58 と、いずれも対照より有意に低い値です(ALP の遺伝子は0.71 でしたが、対照との有意差の印はありません)。
抽出液をかけると、OCN の遺伝子(1.58〜1.92)と石灰化(0.82〜0.89)は、3つのシーラーとも LPSだけの細胞より有意に高くなりました。ALP の活性は MTA Fillapex(0.83)と EndoSequence BC(0.71)で有意に高く、AH Plus(0.54)は LPSだけ(0.56)を上回らず、有意な差は示されていません。ALP の遺伝子が有意に上がったのは EndoSequence BC(1.98)だけです。
⑤結果の読み方
著者らの結論は、MTA Fillapex や EndoSequence BC のようなカルシウムシリケート系のシーラーは、この細胞で炎症を抑える働きを示し、骨をつくる方向への分化を促した、というものです。
なぜそうなるのかについて、著者らは、これらのシーラーから溶け出すカルシウムイオンが骨芽細胞の分化と石灰化を促すのではないか、と考えています。カルシウムイオンが硬組織の形成に大切だという先行研究にもとづく推測で、この研究ではカルシウムイオンの量は測っていません。著者らも、仕組みを明らかにするにはさらに研究が必要だと書いています。
読むときに気をつけたいのは、抄録と図の細かい違いです。抄録は「AH Plus を含む3つとも炎症の物質を下げ、骨をつくる力を高めた」とまとめていますが、図では AH Plus の IL-6(1.74)と ALP の活性(0.54)に、LPSだけの細胞との有意な差は示されていません。また、論文の冒頭の要点の欄で著者らは「臨床では根尖の組織の治りに大いに役立つだろう」と書いていますが、これは著者らの見通しで、この研究で確かめたことではありません。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
「バイオセラミック系のシーラーは炎症を抑えて骨を作る」という説明の土台の一つは、こうした細胞の実験です。この研究で分かったのは、細菌の毒素で刺激した骨の前駆細胞に、硬化したシーラーから溶け出した液をかけたときの、遺伝子と染色の変化です。根尖病変のある歯で、シーラーによって治りが変わるかを調べたものではありません。
また、この研究では、AH Plus も一部の指標で同じ向きの変化を示しました。逆に、濃い抽出液では細胞の生存率が下がり、実験に使った10倍に薄めた液でも MTA Fillapex は対照の約70%でした。「カルシウムシリケート系なら細胞にやさしく、骨も作る」と一言でまとめられる結果ではない、という点も持ち帰りたいところです。
シーラーを選ぶときの材料の一つとして読みつつ、根管の清掃と緊密な充填という基本の上に置いて考えたい1本です。
(1)マウスの前骨芽細胞(細胞株1種類)を使った実験室の研究です。ヒトの細胞や、根尖の組織そのもの、生体の中での反応は調べていません。
(2)炎症と骨づくりの実験(PCR・染色)では、細胞をLPSで刺激したあとに抽出液をかけています。この実験で LPSなしでシーラーの液だけをかけた群の結果は示されていないので、シーラーの働きが炎症の状態に限ったものかどうかは分かりません(LPSなしの抽出液の結果があるのは、生存率の実験だけです)。LPSの濃さも実験ごとに違います(PCR は100、ALP は50、石灰化は200 ng/mL)。
(3)同じ LPS 50 ng/mL でも、LPSの濃さを比べた実験では ALP の染色が0.12 まで下がり、シーラーと比べた実験では0.56 でした。別々の実験の値で、この違いについて原著に説明はありません。
(4)生存率の値は図から筆者が読んだおおよその値です。また本文は、MTA Fillapex と EndoSequence BC の生存率が「高い希釈で」下がったと書いていますが、図で有意の印が付いているのは濃い側(MTA Fillapex は10倍・5倍・そのまま、EndoSequence BC はそのまま)です。
(5)シーラー同士を比べた検定の結果は示されていません。「カルシウムシリケート系のほうが AH Plus より優れていた」とまでは言えません。
(6)抽出液は、硬化させた円板を7日間浸して作ったものです。練ったばかりのシーラーが根尖の外に出た場合の反応は調べていません。
(7)資金は大学病院の研究所と韓国政府の研究費で、著者らは利益相反なしとしています。
シーラーと炎症・骨づくりの関係を、細胞の段階で一通り見せてくれた1本、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
LPSで刺激したマウスの前骨芽細胞では、カルシウムシリケート系の2つのシーラー(MTA Fillapex・EndoSequence BC)から溶け出した液で、炎症の遺伝子の発現が下がり、LPSで下がった骨づくりの指標が上がりました。AH Plus も一部の指標では同じ向きでした。ただし、細胞1種類を使った実験室の研究です。根尖病変が治るかどうかを調べたものではなく、濃い液では細胞の生存率も下がっていました。「バイオセラミックは骨を作る」と言い切る前に、どんな実験で何が測られたのかを確かめる。その練習にもなる1本です。


