エンド|7種の根管充填材料・シーラーと牛の象牙質の試料に、根管の感染にかかわる菌5種と唾液の菌を2時間触れさせ、付着した菌の量を比べた実験室研究(Sengesら 2011・Journal of Endodontics)
根管充填の材料そのものに、菌は付きやすいのか。Sengesらは2011年、7種の根管充填材料・シーラーと牛の象牙質の試料に、口腔の菌を2時間触れさせて比べました。どの材料にも菌は付き、付着の量は材料で違いました。E. faecalis では、付着した菌の数が最も多かったのは Real Seal SE、次いでガッタパーチャで、最も少なかったのは水酸化カルシウム系シーラーの Apexit Plus でした。ほかの菌でも Apexit Plus や Tubli Seal(酸化亜鉛ユージノール系)が少ない傾向でしたが、カンジダ(C. albicans)だけはこの傾向に当てはまりませんでした。2時間の初期付着を実験室で測った研究で、その後の増殖や臨床の成績は調べていません。
①根管充填材料、菌が付きやすいのはどれ?
根管充填が終わった歯に、菌が残っていたら。あるいは、歯冠側から唾液が入り込んだら。そのとき菌が最初に触れるのは、ガッタパーチャやシーラーの表面です。材料によって、菌の付きやすさは違うのでしょうか。
この問いを実験室で調べたのが、Sengesらが2011年に Journal of Endodontics に報告した研究です。7種の根管充填材料・シーラーと、対照の牛の象牙質で試料を作り、根管の感染にかかわる菌5種と唾液の菌を2時間触れさせて、付着した菌の量を比べました。
・どの材料にも菌は付いた。電子顕微鏡でも、全ての材料の表面に付いた菌が見えた
・E. faecalis では、付着した菌の数が最も多かったのは Real Seal SE、次いでガッタパーチャ。最も少なかったのは水酸化カルシウム系シーラーの Apexit Plusだった
・ほかの菌でも Apexit Plus や Tubli Seal(酸化亜鉛ユージノール系)で少ない傾向だったが、カンジダ(C. albicans)は傾向が違い、Tubli Seal で最も多かった
・著者らは「根管の微生物は充填材料、特にガッタパーチャへの親和性が高い」と結論している。ただし、2時間の初期付着を実験室で測った研究で、その後の増殖や臨床の成績は調べていない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、根管治療がうまくいかなかった歯を調べた研究では、根管内に微生物が見つかる割合が35〜100%と報告されている、と引いています。失敗した歯で最も多く見つかる菌として、E. faecalis を挙げる研究もあります。
根管の清掃と消毒を生き延びた菌や、充填材料の中に残った菌は、充填材料に付着することで治療の失敗につながりうる。付着はバイオフィルムを作る最初の段階です。ここまでは、著者らが引いた文献にもとづく整理です。
それなのに、根管充填材料への菌の初期付着を比べた研究はこれまで無かった、と著者らは書いています。そこで、よく使われる材料をそろえて、付着の量を比べた、という流れです。
③何をどう比べたか
比べた試料は次の8種類です(材料の種類は原著の記載)。
・ガッタパーチャ:コア材。130℃に温めた板の上で、熱で軟らかくしたガッタパーチャを詰めて試料にした
・AH-Plus:エポキシ樹脂系シーラー
・Tubli Seal:酸化亜鉛ユージノール系シーラー
・Apexit Plus:水酸化カルシウム系シーラー
・Real Seal SE・EndoREZ:Bis-GMA と UDMA を基にした接着性シーラー
・GuttaFlow:シリコーン(ポリジメチルシロキサン)に細かく砕いたガッタパーチャを混ぜた、常温で流れる充填材
・牛の象牙質:対照。2歳の牛の切歯から作った
シーラーは硬化させた円柱(直径8.4mm)の面を研磨し、ガッタパーチャと GuttaFlow は研磨ができないので、スライドガラスに接した面を使っています。象牙質は直径5mmの円板です。
菌は、E. faecalis、S. mutans、S. sanguis、C. albicans(カンジダ。真菌)、P. nigrescens の5種と、健康な1人の刺激唾液です。どれも二次感染や難治性の根管感染から分離されうる、と著者らは書いています。37℃で2時間、菌の液に試料を浸し、洗って付いていない菌を除いてから、次の3つで評価しました。
・菌数の値(CFU):試料から超音波で菌を剥がして培養し、コロニーを数えた。各材料3試料を、独立した実験3回で(計9試料)
・走査電子顕微鏡:各材料1試料で、付いた菌を撮影した
・共焦点レーザー顕微鏡:E. faecalis だけで、菌が覆った面積の割合(被覆率)を測った
統計は一元配置分散分析と Tukey の検定です。
④結果:E. faecalis は Real Seal SE とガッタパーチャで多く、Apexit Plus で少ない
E. faecalis の菌数の値は、Apexit Plus が 4.63 と最も少なく、Real Seal SE が 5.90 と最も多く、ガッタパーチャが 5.75 で続きました。著者らは本文で、Apexit Plus の少なさは高度に有意で、Real Seal SE は AH-Plus・Tubli Seal・EndoREZ・Apexit Plus・象牙質との差が高度に有意だった、と書いています。AH-Plus・Tubli Seal・GuttaFlow のあいだには有意差が無く、中くらいでした。
表1の値には単位が書かれていません。値の大きさから見て、菌数を対数で表した値と読めます(筆者の読み)。そうだとすると、1の差はおよそ10倍の差にあたります。
共焦点レーザー顕微鏡の被覆率でも、Real Seal SE(21.87%)とガッタパーチャ(12.73%)が高く、Apexit Plus(0.35%)は低い値でした。一方で、牛の象牙質は菌数の値では 5.63 と多い側なのに、被覆率は 0.22% と8試料で最も低く、2つの方法で順位が合いませんでした。EndoREZ も、菌数の値は中くらい(5.46)ですが、被覆率は 1.12% と低い値です。
ほかの菌でも、少ない側は Apexit Plus と Tubli Seal でした。表1の7行(菌5種と、好気・嫌気で培養した唾液の菌)のうち6行で、最も少なかったのはこの2つのどちらかです(筆者が表1の数から数えた)。著者らは、S. mutans・S. sanguis・嫌気で培養した唾液の菌で Apexit Plus が最も少なく、P. nigrescens で Tubli Seal が最も少なく、好気で培養した唾液の菌では Tubli Seal と Apexit Plus が有意に少なかった、と書いています。
多い側は、菌によって違います。S. sanguis はガッタパーチャ、嫌気で培養した唾液の菌は Real Seal SE が最も多く、S. mutans は GuttaFlow、P. nigrescens と好気で培養した唾液の菌は牛の象牙質が最も多い値でした(筆者が表1の数から読んだ)。
カンジダ(C. albicans)は、ほかの菌と傾向が違いました。Tubli Seal(6.36)で最も多く、AH-Plus と EndoREZ で少ない値でした。著者らは本文で、Tubli Seal・Apexit Plus・Real Seal SE・象牙質・ガッタパーチャのあいだに有意差は無かった、と書いています。ただし表1では、Tubli Seal の値(6.36)に象牙質との有意差の記号(†)が付いており、本文と表1の記載が食い違っています。どちらが正しいかは、論文からは決められません。
⑤結果の読み方
著者らは、材料ごとの差の主な理由を、化学的な組成の違いと推定しています。試料の作り方をそろえたからです。水酸化カルシウム(Apexit Plus の主成分)は水酸化物イオンによる抗菌作用、酸化亜鉛(Tubli Seal の主成分)も抗菌作用が知られており、これが初期付着を抑えたのかもしれない、という考察です。Real Seal SE とガッタパーチャに多く付いたのは、抗菌作用が無いためかもしれない、とも書いています。いずれも、この実験で確かめた機序ではなく、著者らの推定です。
結論として著者らは、根管治療の失敗は、よく使われるコア材のガッタパーチャへの菌の付着の多さが原因になりうる、特に付着の少ないシーラーで完全に覆われていない時に、と述べています。Real Seal SE の使用も、初期付着の点からは慎重に考えるべきで、Apexit Plus は付着を減らすように見える、という結論です。
ただし、この研究が測ったのは2時間の初期付着です。著者ら自身も、付着した菌がその後どう増えるかは調べていない、と書いています。付着が多い材料で、根管治療の成績が悪くなるかどうかは、この研究からは分かりません。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この研究から言えるのは、「根管充填材料は菌を寄せつけない壁ではない」ということです。ガッタパーチャを含め、試した全ての材料の表面に、2時間で菌が付きました。充填材料に頼るより先に、根管の清掃と消毒で菌を減らすこと、仮封や最終修復で歯冠側からの漏れを防ぐことが土台になる、という見方を材料の側から裏づける結果です。
一方で、「Apexit Plus を選べば成績が上がる」「Real Seal SE やガッタパーチャは避ける」とまでは言えません。測ったのは2時間の付着で、臨床の成績ではありません。菌の種類によって順位は入れ替わり、カンジダでは傾向が違いました。シーラーを選ぶときは、封鎖性や操作性などほかの性質と合わせて考える材料の1つ、という位置づけになります。
(1)実験室研究で、測ったのは37℃で2時間触れさせた後の初期付着だけです。付着した菌がその後に増えるか、バイオフィルムになるか、臨床の成績に響くかは調べていません。
(2)菌数の値は各材料3試料×独立した実験3回、電子顕微鏡は各材料1試料、被覆率は E. faecalis だけです。唾液は健康な1人から採ったものです。
(3)表1の値に単位の記載がありません。また、象牙質の試料(直径5mm・19.63mm²)はほかの試料(直径8.4mm・55.42mm²)より小さいのに、面積で値をそろえたかどうかの記載が見当たりません。
(4)ガッタパーチャと GuttaFlow は、スライドガラスに接した面を使い、ほかの材料は研磨した面を使っています。表面の作り方が違うので、表面の粗さの違いが結果に入っている可能性があります(筆者の読み)。
(5)表1の有意差の記号(*†)は、牛の象牙質と比べたものだけです。材料どうしの有意差は本文に一部が書かれているだけです。また、本文と表1の記載が食い違う所が2つあります。E. faecalis の Real Seal SE と象牙質の差を、本文は「高度に有意」、表1の記号は「有意」(†)としています。カンジダでは、本文は Tubli Seal と象牙質のあいだに有意差が無いと書き、表1は Tubli Seal に†を付けています。
(6)牛の象牙質は、菌数の値では多い側、被覆率では最も低い値で、2つの方法の順位が合いませんでした。著者らは「おおむね一致した」と書いていますが、試料によっては方法で結果が変わります。
(7)研究はドイツ研究振興協会の一部助成で、著者らは利益相反を否定しています。
どの材料にも菌は付く。その付き方に材料の差がありそうだ、という出発点を、具体的な数字で示してくれた1本として読むのがよさそうです。
今日のひとこと
どの根管充填材料にも、口腔の菌は2時間で付いた。付く量は材料で違い、著者らのまとめでは、多くの菌で Apexit Plus(水酸化カルシウム系)や Tubli Seal(酸化亜鉛ユージノール系)が少なく、Real Seal SE やガッタパーチャが多い傾向でした。ただし、カンジダは傾向が違い、菌数を数える方法と顕微鏡で面積を測る方法で順位が合わない試料(象牙質)もありました。これは2時間の初期付着を実験室で測った結果で、根管治療の成績の差を示したものではありません。材料選びの決め手にするより、「根管に菌を残さない・歯冠側から入れない」ことの大切さを、材料の側から見直す1本として読みたい論文です。


