保存修復|抜去した大臼歯のエナメル質を、粒度の違う4種類のダイヤモンドバーと2種類のカーバイドバーで削り、Clearfil SE Bond と Clearfil AP-X を接着して、24時間後の微小せん断接着強さを比べた実験室研究(Jeongら 2011・韓国歯科保存学会誌。原著は韓国語)
2ステップのセルフエッチングシステムは、エナメル質へのエッチングの力が弱いので、エナメル質を一層削ってから接着するのが勧められてきました。Jeongらは2011年、その「削る」バーの違いで接着強さが変わるかを、抜去した大臼歯42本で調べました。超微粒子(20〜30µm)のダイヤモンドバーで削ったエナメル質の微小せん断接着強さが平均32.95MPaで最も高く、粗い(125〜150µm)・標準・細かいダイヤモンドバーとクロスカットのカーバイドバーより有意に高い値でした。プレーンカットのカーバイドバー(30.55MPa)とのあいだには有意差は検出されていません。接着システムは Clearfil SE Bond の1種類、各群7本の歯から取った20個の試料の実験室研究(in vitro)で、24時間後の値だけです。原著は韓国語で、筆者が全文を訳して照合しました。
①セルフエッチングでエナメル質に接着するなら、どのバーで削る?
2ステップのセルフエッチングシステムは、エナメル質へのエッチングの力が弱いと言われます。そのため、エナメル質の表層を一層削ってから接着するのが勧められてきました。では、その「削る」バーは何でもよいのか。粗いダイヤモンドバーで削った面と、細かいバーで削った面とで、接着強さは変わるのか。
この問いを抜去歯で調べたのが、Jeongらが2011年に韓国歯科保存学会誌(Journal of Korean Academy of Conservative Dentistry)に報告した実験室研究です。抜去した大臼歯42本のエナメル質を、粒度の違う4種類のダイヤモンドバーと2種類のカーバイドバーで削り、Clearfil SE Bond と Clearfil AP-X を接着して、微小せん断接着強さを比べました。原著は韓国語で、この記事は筆者が全文を訳して照合しています。
・超微粒子(エクストラファイン、20〜30µm)のダイヤモンドバーで削ったエナメル質の接着強さが、平均32.95MPaで最も高かった。粗い(125〜150µm)・標準(106〜125µm)・細かい(53〜63µm)のダイヤモンドバーと、クロスカットのカーバイドバーより有意に高い値だった
・プレーンカットのカーバイドバー(30.55MPa)とのあいだには、有意差は検出されなかった
・粗いダイヤモンドバーで削った面は平均22.40MPaで最も低かった
・著者らは、Clearfil SE Bond でエナメル質に接着するなら、超微粒子のダイヤモンドバーかプレーンカットのカーバイドバーを勧める、と結論している
・抜去した大臼歯42本(各群7本、接着した試料は各群20個)の実験室研究(in vitro)。接着システムは1種類で、24時間の水中保管のあとに測った。表面の粗さや電子顕微鏡の観察はしていない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、こう整理しています。エナメル質の表層の約70%は小柱のない層(無小柱層)で、下の層より石灰化が進んでおり、エッチングでうまく溶けず接着が低くなりうる。30〜40%のリン酸はエナメル質をよく脱灰するので、削っていても削っていなくても高い接着強さを示すが、セルフエッチングプライマーは酸性が弱いため、削ったエナメル質で接着強さが高くなると報告されている。そのため、エナメル質の最表層を削ることが勧められてきた。
一方で、バーで削ると、表面に有機質と無機質の削りかすからなるスミヤー層ができる。同じ接着システムでも、削る道具が作るスミヤー層によって、接着強さが変わりうる。象牙質では、削る道具と接着強さの研究が多くある一方、エナメル質を削る道具とセルフエッチングの接着強さの研究はほとんどない。ここまでは、著者らが引いた文献にもとづく整理です。
③何をどう比べたか
使ったのは、歯冠に欠損や修復物のない、抜去したばかりの上下顎の大臼歯42本です。歯根を切り、歯冠の頬側面か舌側面をレジンのブロックに貼り付け、反対側の面の最表層のエナメル質を平らに削ったあと、厚さ1.2mmの板に切り出しました。42個の試料を、無作為に7個ずつ6つの群に分けています。
・1群:粗いダイヤモンドバー(コース、粒度125〜150µm)
・2群:標準のダイヤモンドバー(106〜125µm)
・3群:細かいダイヤモンドバー(ファイン、53〜63µm)
・4群:超微粒子のダイヤモンドバー(エクストラファイン、20〜30µm)
・5群:プレーンカットのカーバイドバー(245番)
・6群:クロスカットのカーバイドバー(557番)
ダイヤモンドバーは4種類とも同じメーカー(マニー)のものです。高速のハンドピースを台の上に指で固定し、各群のバーでエナメル質の表面を約0.2mm削りました。水とエアーで洗って乾かしたあと、Clearfil SE Bond のプライマーを塗って20秒待ち、エアーで乾かし、ボンドを塗って10秒光照射しています。その上に、内径0.5mm・高さ1mmのチューブを置いて Clearfil AP-X(A3)を詰め、40秒光照射しました(光の強さは500mW/cm²)。1つのエナメル質の面に3個のレジンを接着しています。
試料は蒸留水に24時間保管してから、レジンの根元に細いワイヤー(0.3mm)をかけ、毎分1.0mmで引いて、レジンが外れるまでの力から微小せん断接着強さを求めました。統計は一元配置分散分析とTukeyの検定です(有意水準5%)。
④結果:超微粒子のダイヤモンドバーが最も高かった
微小せん断接着強さは、超微粒子のダイヤモンドバーの4群が平均32.95MPaで最も高く、次がプレーンカットのカーバイドバーの5群(30.55MPa)でした。細かいダイヤモンドバーの3群は27.80MPa、クロスカットのカーバイドバーの6群は26.60MPa、標準のダイヤモンドバーの2群は25.05MPa、粗いダイヤモンドバーの1群は22.40MPaです(各群20個の試料)。
原著の本文によれば、4群は1・2・3・6群より有意に高く(p<0.05)、5群とのあいだには有意差は検出されませんでした(p>0.05)。1群は4群と5群より有意に低い値でした。5群と6群のあいだにも、有意差は検出されていません。
ただし、表2の有意差の印(同じ文字を持つ群どうしは有意差なし)では、1群(a,b)と5群(b,c)が同じ「b」を持っており、本文の「1群は5群より有意に低い」と合いません。この記事は、本文の記述と表の印のどちらが正しいかを判断できないので、両方を示しました。
⑤結果の読み方
著者らの結論はこうです。バーの種類とダイヤモンドバーの粒度は、セルフエッチングプライマーのシステムのエナメル質への接着強さに影響した。Clearfil SE Bond でエナメル質によく接着させるには、超微粒子のダイヤモンドバーか、プレーンカットのカーバイドバーを使うことを勧める。
理由について、著者らは考察でこう推測しています。粗いダイヤモンドバーで削った面は凹凸が深く、エナメル質とレジンのあいだに気泡を巻き込みやすい。また、厚いスミヤー層を、酸性の弱い Clearfil SE のプライマーが十分に処理できなかったのだろう。逆に、超微粒子のダイヤモンドバーやプレーンカットのカーバイドバーで削った面は滑らかで、スミヤー層も薄く、プライマーが処理しやすかったと考えられる。これは著者らの推測で、この実験は表面の粗さもスミヤー層の厚さも測っていません。著者ら自身、電子顕微鏡での観察が必要だと書いています。
著者らは、削る道具による表面の粗さの違いが self-priming のボンドの接着強さに影響しなかったという先行研究も紹介しています。また、セルフエッチングでもリン酸と有意差のない接着強さが得られたとする研究の多くは、600番の耐水研磨紙(粒度15µm)で表面を仕上げていた、この実験の粗いダイヤモンドバー(125〜150µm)の面はそれより粗かったはずだ、と違いを説明しています。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この実験が教えてくれるのは、セルフエッチングでエナメル質に接着するとき、「削ったかどうか」だけでなく「何で削ったか」も接着強さに関わるかもしれない、という見方です。この条件では、粗いダイヤモンドバーの面より、超微粒子のダイヤモンドバーの面のほうが接着強さが高い値でした。
一方で、分かっていないことも多くあります。調べたのは平らに削ったエナメル質の板で、窩洞の形でも、窩縁のベベルでもありません。接着システムは Clearfil SE Bond の1種類で、24時間後の値だけです。リン酸でのエッチングを足したときにどうなるか、長い期間の耐久性や、修復物の辺縁の成績は、この実験からは分かりません。
接着の前の「仕上げのバー」を選ぶときの材料の1つ。その位置づけで読みたい実験です。
(1)実験室研究(in vitro)です。抜去した上下顎の大臼歯42本から切り出したエナメル質の板(各群7個)に、1面あたり3個のレジンを接着しています。7個×3個で21個のはずですが、表2の試料数は各群20個で、1個の扱いは書かれていません。同じ歯から取った3個の値を、別々の試料として扱っているように見えます。
(2)表2の有意差の印と本文の記述が、1群と5群の比較で食い違っています(④)。また、考察の一部の段落では、指標が「微小引張接着強さ」と書かれており、方法・表2・表題の「微小せん断接着強さ」と食い違います。この記事は方法と表2に従いました。
(3)バーで削る作業は、ハンドピースを指で台に固定して約0.2mm削ったもので、削る力や時間の管理は書かれていません。
(4)表面の粗さ、スミヤー層の厚さ、破壊の様式(接着面で外れたか、エナメル質やレジンが割れたか)は調べていません。理由の説明は著者らの推測です。
(5)接着システムは Clearfil SE Bond、レジンは Clearfil AP-X の1種類ずつで、24時間の水中保管だけです。温度変化などの負荷はかけていません。
(6)原著は韓国語で、DOI・英語の表題・著者と年で PubMed を検索しても見つかりません(2026-10-15)。この記事は筆者が韓国語の全文を訳して照合しました。
(7)研究は、2011年度の朝鮮大学校歯科病院の学術研究費の援助を受けています。著者らは、利益相反はないと記載しています。
窩縁や接着面を仕上げるバーを、接着の「下ごしらえ」として見直す。そのきっかけをくれる実験、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この実験が示したのは、セルフエッチングでエナメル質に接着するとき、削ったバーによって接着強さが違ったということです(超微粒子のダイヤモンドバーが平均32.95MPaで最も高く、粗いダイヤモンドバーが22.40MPaで最も低い)。著者らは、Clearfil SE Bond なら超微粒子のダイヤモンドバーかプレーンカットのカーバイドバーを勧めています。ただし、平らなエナメル質の板に1種類の接着システムで接着し、24時間後に測った値で、表面の粗さやスミヤー層は測っておらず、表の有意差の印と本文の記述には食い違いもあります。接着の前の仕上げのバーを選ぶときの、材料の1つとして読みたい1本です。


