1問1答 論文 虫歯

深いう蝕、どこで削るのをやめる?——文献にもとづく手順の提案(総説)。窩洞の周り1〜3mmは検知液に染まらない面まで削り、その内側では薄いピンクに染まる内層のう蝕象牙質を残し、歯髄に近い所は検知液に赤く染まっていても、咬合面から5mmを超えていれば掘るのをやめる(露髄を避けるため)、という「周囲の封鎖(peripheral seal)」の考え方。この手順の成績を調べた臨床試験ではない(Alleman 2012)

1問1答 論文 カリオロジー

カリオロジー|生活歯の中等度〜深いう蝕について、う蝕検知液・レーザー蛍光(DIAGNOdent)・深さの計測を組み合わせて、う蝕除去の終点を決める手順を提案した総説(Alleman・Magne 2012・Quintessence International)。1980年以降の文献をもとにしているが、文献の探し方や選び方は書かれておらず、手順そのものを検証した研究ではない

深いう蝕を前にして、どこまで取るか。硬い象牙質まで追えば露髄が近づき、残しすぎれば接着が心配になる。AllemanとMagneは2012年、この「取りすぎか、取り残しか」に、場所ごとに終点を分けるという答えを提案しました。窩洞の周り1〜3mm(エナメル質・象牙エナメル境・表層の健全な象牙質)は検知液に染まらない面まで削って接着の土台にし、その内側では薄いピンクに染まる内層のう蝕象牙質を残す。歯髄に近い所で赤く染まる外層のう蝕象牙質が残っても、咬合面から5mmを超えていれば掘るのをやめる、という考え方です。著者らはこの周りの帯を「周囲の封鎖帯(peripheral seal zone)」と呼んでいます。ただし、これは文献にもとづく総説と手順の提案です。この手順どおりに治療した歯の歯髄の生死や修復の成績を調べた臨床試験ではありません。出てくる数値は、著者らが引いた研究と著者らの記載による目安です。

論文
A systematic approach to deep caries removal end points: The peripheral seal concept in adhesive dentistry
著者
David S. Alleman, Pascal Magne(米国・ユタ州 Alleman-Deliperi Center for Biomimetic Dentistry、南カリフォルニア大学 Herman Ostrow 歯学部)
掲載
Quintessence International 2012;43(3):197-208
種類
総説と手順の提案。抄録には「1980年以降の、う蝕・う蝕の診断・う蝕の治療と、それらの接着技法との関係についての公表文献をレビューした」とある。文献の検索方法・選択基準・質の評価についての記載はなく、系統的レビューではない(表題の systematic approach は、う蝕除去の進め方が体系的という意味)。引用文献は101本。う蝕病変の組織学、う蝕検知液、レーザー蛍光(DIAGNOdent)、う蝕象牙質への接着についての文献を整理し、治療の目標5項目と、11段階の手順を示している。症例写真が数枚載っているが、症例数や経過のデータはない
資金・利益相反
資金や利益相反についての記載は、読んだ範囲に見当たらない。本文には、う蝕検知液・DIAGNOdent・接着材などの製品名が多く出てくる。図書館のPDFは、DIAGNOdentの写真を表紙に付けた業者配布の別刷り(supplier reprint)である
PMID
22299120

①深いう蝕、どこで削るのをやめる?

X線で歯髄に近いう蝕が見える。開けてみると、軟らかい象牙質が奥まで続いている。硬い所まで取りきろうとすれば、露髄が頭をよぎる。かといって、軟らかい象牙質を広く残せば、接着が心配になる。深いう蝕の「終点」は、毎回迷うところです。

この迷いに、1つの整理を提案したのが、AllemanとMagneが2012年に Quintessence International に発表した論文です。う蝕検知液、レーザー蛍光(DIAGNOdent)、深さの計測を組み合わせて、場所ごとに終点を分けるという考え方を示しました。

結論を先に書きます。
・この論文は、文献にもとづく総説と手順の提案。この手順どおりに治療した歯の成績を調べた臨床試験ではない
・提案の柱は「周囲の封鎖帯(peripheral seal zone)」。窩洞の周り幅1〜3mmを、エナメル質・象牙エナメル境(DEJ)・表層の健全な象牙質にして、接着の土台にする
・その内側では、検知液で薄いピンクに染まる内層のう蝕象牙質を残す
・歯髄に近い所で赤く染まる外層のう蝕象牙質が残っても、咬合面から5mmを超えていれば掘るのをやめる(露髄を避ける)
・著者らの結論は「解剖と病理組織の知識に、う蝕検知液とレーザー蛍光を組み合わせれば、深いう蝕のある生活歯で理想的な終点に到達できる」
・DIAGNOdentの値や接着強さの数値は、著者らが引いた研究と著者らの記載による目安。対象は生活歯の中等度〜深いう蝕

②なぜこの整理が必要だったか

著者らの出発点は、こうです。エナメル質と表層の象牙質にとどまる小さなう蝕なら、従来どおり見た目と手ざわりで取りきれる。しかし中等度から深いう蝕では、見た目と手ざわりだけでは、歯質を残しながら感染を取り除き、しかも露髄させない終点を、安定して決めにくい。研究者も臨床家も「取りすぎか、取り残しか」に悩んできた、と。

土台にあるのは、総山孝雄らが東京医科歯科大学で行い、1980年に発表した研究です。著者らの紹介によれば、う蝕病変は性質の違う2層に分けられます。

・外層のう蝕象牙質:感染が強く、酸性で、脱灰している。コラーゲン線維は変性しており、酸性の環境が中和されても自然には再石灰化しない
・内層のう蝕象牙質:部分的に脱灰し、わずかに感染しているが、コラーゲン線維は象牙細管の周りで本来の構造を保っている。中和されれば正常な石灰化に戻りうる

外層だけを取り、内層は再石灰化のために残す。この目標自体は1960年代の終わりから知られていた、と著者らは書いています。問題は、硬い・軟らかいの感覚が術者によって違うこと、象牙質は歯髄に近づくほど解剖学的に軟らかくなること、器具によって取れる量が違うことでした。

総山はう蝕検知液で前進をもたらしました。外層は濃い赤に、内層は薄く(赤の検知液ならピンクに)染まります。著者らは内層をさらに、混濁層、透明層、透明層の下の層の3つに分けて説明しています。透明層では、象牙細管の内腔がウィットロカイトという結晶である程度埋まり、細菌の侵入を遅らせ、象牙質の透過性を下げる。そして、硬い象牙質に届こうとして透明層とその下の層まで取ることが、露髄の大半の原因だ、というのが著者らの主張です。

ここまでは、著者らが引いた文献にもとづく整理です。著者らによれば、総山自身は「染まる・染まらない」としか書いておらず、赤と薄いピンクの区別には触れていませんでした。薄く染まった象牙質を、細菌が多いと考えて全部取ると、露髄が増えた。薄く染まる部分はほとんど感染しておらず、再石灰化のために残すべきだ、と結論した日本の研究者もいた、と紹介されています。

③この論文がしたこと

抄録には、1980年以降の、う蝕・う蝕の診断・う蝕の治療と、接着技法との関係についての公表文献をレビューした、とあります。ただし、文献をどう探し、どう選んだかは書かれていません。系統的レビューではなく、著者らの立場から文献を整理した総説です。表題の「systematic approach」は、う蝕除去の進め方が体系的だ、という意味で使われています。

そのうえで著者らは、治療の目標を5つ挙げ、11段階の手順にまとめました。この論文に、手順どおりに治療した患者さんの数や、その後の経過のデータは載っていません。

④提案の中身:場所ごとに終点を分ける

提案を、場所ごとにまとめたのが下の図です。

図:著者らが提案する、場所ごとのう蝕除去の終点の目安 場所 検知液の染まり DIAGNOdentの値 見込む接着強さ 周囲の封鎖帯 染まらない 約12 約45〜55 MPa 封鎖帯の内側の内層う蝕象牙質 薄いピンク 約24(許容12〜36) 約30 MPa 歯髄の近くに残す外層う蝕象牙質 赤 36より高い 約15 MPa 周囲の封鎖帯=窩洞の周り幅1〜3mmのエナメル質・DEJ・表層の健全な象牙質。内側の内層う蝕象牙質は中間層〜深層。歯 髄の近く=咬合面から5mm超(DEJから3mm超)で、露髄を避けるために小範囲に残す場合。 染まりは、う蝕検知液(赤)での見え方。総説と手順の提案(Alleman・Magne 2012)にもとづく整理。この手順どおり に治療した歯の成績を調べた臨床試験ではない。 DIAGNOdentの値と接着強さは、著者らが引いた研究と著者らの記載による目安で、この論文で測った値ではない。 著者らが引いた研究のDIAGNOdent値:表層の終点 8.26±2.69、中間〜深層 18.75±17.10(ばらつきが大きい)。 別の箇所では、中間層の象牙質で約20〜24、深層の象牙質で約36とも書かれている。対象は生活歯の中等度〜深いう蝕。
図:著者らが提案する、場所ごとのう蝕除去の終点の目安。数値は、著者らが引いた研究と著者らの記載による目安で、この論文で測った値ではない。

(1)周囲の封鎖帯。窩洞の周り幅1〜3mmを、エナメル質、DEJ、DEJに近い表層の健全な象牙質にします。ここは、検知液にまったく染まらない面まで削ります。DIAGNOdentなら、およそ12という値で確かめられる、と著者らは書いています。この帯で、およそ45〜55MPaの接着強さが得られる、というのが著者らの見込みです。

(2)封鎖帯の内側。ここでは、赤く染まる外層のう蝕象牙質を取り、薄いピンクに染まる内層のう蝕象牙質は残します。DIAGNOdentの値はおよそ24(許容範囲は12〜36)。著者らは、この内層の象牙質でおよそ30MPaの接着強さが見込めるとしています。

(3)歯髄の近く。髄角のあたりは最後に触ります。赤く染まる外層のう蝕象牙質を慎重に取っていき、深層の象牙質(咬合面から5mm)に達する。それでもまだ赤く染まり、歯周プローブで測って咬合面から5mmを超えている(DEJから3mmを超えている)なら、露髄を避けるために掘るのをやめます。残した小さな範囲の接着強さは、およそ15MPaになる、と著者らは書いています。

深さの目安として、著者らは、中間層の象牙質は咬合面から平均3〜4mm、深層の象牙質は4〜5mmとしています。健全な歯質を基準に、1〜2本の歯周プローブで測る方法がすすめられています。

DIAGNOdentの値については、著者らが引いた研究の数値も示されています。表層の象牙質の終点は8.26±2.69、中間〜深層は18.75±17.10。深い所では、値のばらつきがかなり大きいことが分かります。著者らは、その理由を、歯髄に近いほど象牙細管が密になること、内層の透過性の違いで説明しています。この部分は著者らの解釈です。

接着については、著者らが引いた研究にもとづき、内層のう蝕象牙質は接着性を25〜33%失い、外層は66%を超えて失う、とされています。だからこそ、確実に接着できる健全な面を周りに確保する、という組み立てです。

手順には、このほか次のような項目が入っています。歯髄の生活反応を冷刺激で確かめてから始める。ラバーダムなどで防湿する。検知液は10秒おいて洗い流す。周りの帯は、直径1mmの球形のダイヤモンドバーでDEJの近くから作る。任意の手順として、0.2〜2.0%のクロルヘキシジンで30秒処理する。接着は、3ステップのトータルエッチか、マイルドな2ステップのセルフエッチの接着システムで行う。拡大視野(6.5〜8.0倍のルーペか、同程度の顕微鏡)で行う。

⑤提案の読み方

この提案は、3種類の材料を組み合わせたものとして読むと、整理しやすくなります。

1つ目は、う蝕象牙質の組織学です。外層と内層の違い、透明層の役割。これは、総山らをはじめとする研究の蓄積にもとづいています。2つ目は、検知液とレーザー蛍光の値。値と細菌の量との対応は、著者らが引いた研究によるもので、深い所ではばらつきが大きいと著者ら自身が書いています。3つ目は、接着強さの数値です。これは実験室での接着試験にもとづく見込みで、この論文で測ったものではありません。

そして、3つを1本の手順にまとめたところが、著者らの提案です。「露髄をほとんどなくせる」「より多くの生活歯髄を残せる」という記述は、著者らの見通しとして書かれています。直接覆髄を避けると、あとの根管治療が減る、という点については、著者らは文献を引いていますが、この手順そのものを対照と比べた試験の結果ではありません。

⑥明日の臨床へ

ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。

この論文からいちばん持ち帰りやすいのは、道具よりも考え方の枠組みです。終点を「硬くなるまで」「染まらなくなるまで」という1つの基準で決めず、窩洞の周りと歯髄側とで分ける。周りは接着の土台なので妥協しない。歯髄側は、無理をしない。この整理は、検知液だけでも、プローブ1本でも使えます。

検知液を使うなら、「赤」と「薄いピンク」を分けて見る、という指摘が実用的です。薄いピンクまで追いかけると取りすぎになる、という著者らの注意は、検知液で露髄させた経験のある人には響くところだと思います。

一方で、数値の扱いには慎重でいたいところです。DIAGNOdentの12、24、36という目安や、45〜55MPa、30MPa、15MPaという接着強さは、著者らが引いた研究と著者らの記載による目安です。自分の診療室で同じ値になるとは限りません。機器を持っていない場合、この部分はそのままでは使えません。

手順全体には、拡大視野、防湿、3ステップか2ステップの接着システム、応力を抑えた修復といった前提が並んでいます。時間と手間のかかる方法であることは、踏まえておく必要があります。

ここだけ、冷静に補助線深いう蝕の終点を、組織学・診断機器・接着の3つをつないで整理した、読みごたえのある1本です。そのうえで、読むときの補助線をいくつか。
(1)総説と手順の提案です。文献の探し方や選び方は書かれておらず、系統的レビューではありません。著者らの立場に合う文献が多く引かれている可能性があります。
(2)この手順どおりに治療した歯の、歯髄の生死や修復の長期成績を調べた臨床試験ではありません。症例写真はありますが、症例数や経過のデータはありません。
(3)接着強さの数値(約45〜55MPa、約30MPa、約15MPa)は、著者らが引いた実験室の接着試験にもとづく見込みです。口の中での修復の持ちを直接示すものではありません。
(4)DIAGNOdentの目安には、幅とばらつきがあります。内側の象牙質の目安は、「中間層で約20〜24、深層で約36」と書かれた箇所と、「約24(許容範囲12〜36)」と書かれた箇所があります。著者らが引いた研究では、中間〜深層の値は18.75±17.10でした。
(5)深さの数値にも、書き方の揺れがあります。深層の象牙質は「咬合面から4〜5mm」、歯髄周囲は「5〜6mm」「5mmより深い」と、箇所によって表現が違います。歯の大きさや部位による違いは、大臼歯と小臼歯についての短い記述があるだけです。
(6)う蝕検知液、DIAGNOdent、接着材など、特定の製品名が多く出てきます。図書館のPDFは、DIAGNOdentの写真を表紙に付けた業者配布の別刷りでした。資金や利益相反についての記載は、読んだ範囲に見当たりません。
(7)対象は、冷刺激に反応する生活歯です。反応があいまいな歯や、症状のある歯にどこまで当てはまるかは、この論文からは分かりません。
「周りは確実に、歯髄側は無理をしない」。この考え方を自分の言葉で説明できるようにしておくと、深いう蝕の前で迷う時間が少し短くなる。そういう位置づけで読むのがよさそうです。

今日のひとこと

この総説が提案しているのは、深いう蝕の除去の終点を1つの基準で決めず、窩洞の周りと歯髄側とで分けて考えるという整理です。周りの1〜3mmは検知液に染まらない面まで削って接着の土台にする。内側では、薄いピンクに染まる内層のう蝕象牙質を残す。歯髄の近くでは、検知液に赤く染まっていても、咬合面から5mmを超えていれば、露髄を避けるために掘るのをやめる。著者らは、解剖と病理組織の知識に、う蝕検知液とレーザー蛍光を組み合わせれば、理想的な終点に到達できると述べています。ただし、文献にもとづく提案で、この手順の成績を調べた臨床試験ではありません。DIAGNOdentの値や接着強さは、著者らが引いた研究と著者らの記載による目安で、ばらつきも大きいものです。「周りは確実に、歯髄側は無理をしない」という考え方の地図として読みたい1本です。

Alleman DS, Magne P. A systematic approach to deep caries removal end points: The peripheral seal concept in adhesive dentistry. Quintessence Int. 2012;43(3):197-208. PMID: 22299120
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。