エンド|全部被覆冠の種類(4種類)とグラスファイバーポストの有無で、失活した上顎切歯の破折抵抗と壊れ方がどう変わるかを比べた抜去歯の実験(Salameh・Sorrentino・Ounsi・Sadig・Atiyeh・Ferrari 2008・Journal of Endodontics)。フェルール2mmの上顎切歯120本・8つの小群・斜め45°の荷重を1回かけて壊した実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない
根管治療した上顎前歯をレジンで築造してクラウンをかぶせるとき、歯の折れにくさを左右するのはクラウンの材質か、ファイバーポストか。Salamehらは2008年、抜去した上顎切歯120本をフェルール2mmで切りそろえ、クラウン4種類(PFM・Empress II・SR Adoro・Cercon)とグラスファイバーポストの有無を組み合わせた8つの小群(各15本)で、口蓋側から斜め45°の荷重を壊れるまでかけました。破折荷重に有意に影響したのはポストの有無で(二元配置分散分析、p=0.001)、クラウンの種類は有意な要因ではありませんでした(p=0.4)。壊れ方(再修復できる/できない)には、ポストの有無(p=0.002)とクラウンの種類(p=0.02)の両方が有意に関係していました。抜去歯に荷重を1回かけた実験室の研究で、臨床での破折率や歯の予後を調べたものではありません。
①フェルールが2mmある失活前歯。決め手は冠の材質か、ポストか
根管治療した上顎の前歯。歯冠はほとんど失ったが、フェルールは2mm確保できた。レジンでコアを築造して、クラウンをかぶせる予定です。このとき迷うことが2つあります。ファイバーポストを入れるかどうか。そして、クラウンの材質で歯の折れにくさは変わるのか。
Salamehらは2008年、抜去した上顎切歯120本を使い、クラウン4種類とファイバーポストの有無を組み合わせて、口蓋側から斜め45°の荷重を壊れるまでかけました。抜去歯に荷重を1回かけて壊した実験室の研究で、患者さんの口の中で何年後に何本が破折したかを調べた研究ではありません。
・破折荷重に有意に影響したのはポストの有無(二元配置分散分析、p=0.001)。ポストありの方が高い値だった
・クラウンの種類は、破折荷重に有意に影響する要因ではなかった(p=0.4)
・壊れ方(再修復できる/できない)には、ポストの有無(p=0.002)とクラウンの種類(p=0.02)の両方が有意に関係した(カイ二乗検定)
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、次のように整理しています。金属ポストは弾性係数が象牙質と大きく違い、応力の分散がよくないために歯根破折につながる、と報告されてきた。それでも2008年当時、前歯の修復では金属ポストが標準とみなされていた。ファイバーポストは弾性係数が象牙質に近い。ただし前歯では歯軸から外れた向きの力が主になるので、臼歯とは違うふるまいをする。
クラウンの側も選択肢が増えました。陶材焼付金属冠(PFM)に加えて、オールセラミック、ジルコニア、コンポジットのクラウンがあります。著者らによれば、こうしたクラウンの違いが失活歯の破折抵抗や壊れ方にどう影響するかを調べた研究はありませんでした。抄録には、補綴の教科書は一般に、失活した切歯へのファイバーポストを勧めていない、とも書かれています。
③実験の組み立て:クラウン4種類 × ポストあり/なし
使ったのは、う蝕も修復もない上顎切歯120本です(中切歯か側切歯かは書かれていません)。全歯に同じ手順で根管治療を行い、セメントエナメル境の2mm上で歯冠を切り落としました。フェルールを2mm残すためです。歯はアクリルレジンのブロックに植え、歯根のまわりにシリコーン印象材の層を作って歯根膜を再現しています。
120本を無作為に4群(各30本)に分け、各群を半分に分けました。15本にはグラスファイバーポスト(FRC Postec Plus)を深さ9mmで接着し、残りの15本にはポストを入れていません。コアは全歯、同じデュアルキュア型のレジン(Multicore Flow)で高さ4mmに築造しています。
・PFM:陶材焼付金属冠
・Empress II:二ケイ酸リチウムのオールセラミッククラウン
・SR Adoro:繊維強化コンポジットのクラウン
・Cercon:ジルコニアのクラウン
支台歯形成はシャンファーで、クラウンはすべて同じレジンセメント(Multilink)で装着しました。
荷重は、先端の直径2mmの金属の棒で、クラウンの口蓋面(切縁から3mm下)に、歯軸に対して45°の角度でかけています。クロスヘッド速度は1mm/分で、壊れるまで増やしました。壊れたあとは墨汁で破折線を染め、壊れ方を「再修復できる」「再修復できない」の2つに分けています。
破折荷重の解析は、クラウンの種類とポストの有無を要因とした二元配置分散分析です(有意水準5%)。壊れ方の割合はカイ二乗検定で比べています。
④結果(1):破折荷重に有意に影響したのは、ポストの有無
二元配置分散分析では、ポストの有無が有意な要因でした(p=0.001)。ポストを入れた歯の方が、高い荷重まで壊れていません。クラウンの種類は有意な要因ではありませんでした(p=0.4)。
・PFM:ポストなし 781.67 ± 215.6 N、ポストあり 895.94 ± 198.69 N
・Empress II:ポストなし 728.7 ± 144.46 N、ポストあり 837.17 ± 127.95 N
・SR Adoro:ポストなし 728.58 ± 133.13 N、ポストあり 843.42 ± 111.87 N
・Cercon:ポストなし 803.79 ± 137.52 N、ポストあり 840.21 ± 113.44 N
平均の差(ポストあり−ポストなし)は、PFMが114.27 N、Empress IIが108.47 N、SR Adoroが114.84 N、Cerconが36.42 Nです(表1の平均の引き算。筆者の計算)。
表1の「有意性」の列は、ポストなしの4つの小群がすべてA、ポストありの4つの小群がすべてBになっています。原著は、クラウンごとにポストあり・なしを比べた検定の方法も、2つの要因の交互作用の結果も書いていません。「どのクラウンでもポストの効果が有意だった」とまでは、この表からは読めません。
参考までに、表1の平均・標準偏差・本数から筆者がクラウンごとにt検定(等分散を仮定した独立2標本・両側)を計算すると、p値はPFM 約0.14、Empress II 約0.04、SR Adoro 約0.02、Cercon 約0.44でした(多重比較の補正なし。原著の解析ではありません)。
⑤結果(2):壊れ方には、ポストの有無とクラウンの種類の両方が関係した
壊れ方の分け方は、原著の図2の説明にあります。「再修復できる」は、水平の破折、セメントエナメル境に達しない斜めの破折、修復物の破折。「再修復できない」は、垂直の破折と、セメントエナメル境を越える斜めの破折です。
ポストの有無は、再修復できる壊れ方とできない壊れ方の割合に有意に関係していました(カイ二乗検定、p=0.002)。ポストがあると、再修復できる壊れ方が多かった、という結果です。クラウンの種類も有意に関係していました(p=0.02)。
原著は、壊れ方の割合を数字では示していません。図1の棒グラフから読み取ると、次のようになります。
・PFM:ポストなし 10%、ポストあり 60%
・Empress II:ポストなし 20%、ポストあり 60%
・SR Adoro:ポストなし 50%、ポストあり 70%
・Cercon:ポストなし 60%、ポストあり 80%
・4つの小群の平均:ポストなし 約35%、ポストあり 約67.5%(各小群の本数が同じとして、筆者が計算。図の読み取りからの概算)
この読み取り値で計算すると、再修復できない壊れ方の割合は、ポストなしが約65%、ポストありが約32.5%。リスク比は約0.5です(図1の読み取り値から筆者が計算した概算。原著には載っていません。各小群15本という本数と図の10%刻みが合わない点は、下の補助線に書きました)。
・PFMは、SR Adoroより再修復できない破折が有意に多い(p=0.038)
・PFMは、Cerconより再修復できない破折が有意に多い(p=0.009)
・Empress IIは、Cerconより再修復できない破折が有意に多い(p=0.035)
・ほかの組み合わせ(PFMとEmpress II、Empress IIとSR Adoro、SR AdoroとCercon)の結果は書かれていない
図1の読み取り値をポストあり・なしで平均すると、再修復できる壊れ方の割合はPFM 約35%、Empress II 約40%、SR Adoro 約60%、Cercon 約70%になります(筆者の計算による概算)。原著の検定結果と向きは合っています。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・斜め45°の荷重では、歯は片持ち梁のようにふるまう。測った破折荷重は主に、歯根・クラウン・ポストとコアを合わせた構造の「曲げへの抵抗」を表す
・弾性係数の低いグラスファイバーポストは、曲げへの抵抗を高め、再修復しやすい壊れ方になるようだ、とする報告がある
・PFMとEmpress IIは、コアを覆って守るように働いたとみられ、変形がクラウンの縁に近い歯根象牙質に集まった
・SR Adoroは変形しやすく、歯根象牙質に大きな力が伝わる前にクラウンが壊れた
・ジルコニア(Cercon)は、ほかのクラウンよりよいふるまいに見えた。著者らは「意外にも」と書き、結晶の相が変わることで応力を吸収した可能性を挙げたうえで、さらに検討が必要としている
著者らは、同じグループが2007年に行った上顎小臼歯の実験(垂直の荷重)にも触れ、斜めの荷重では力のかかり方が違うことを断っています。
⑦明日の臨床へ
・抄録は「この結果は、失活した切歯にファイバーポストを使うと、破折への抵抗が増し、破折した場合の予後がよくなることを示す」と結んでいる
・考察では、前歯の最大の咬合力はほぼ常に200 Nを下回るという報告を引き、全群の破折荷重(728.5〜895.9 N)はそれを上回ったと述べている
・そこから「2mmのフェルールがあり、ファイバーポストと全部被覆冠で修復した前歯は、通常の咬合力に耐えると考えられる」としている
・同時に、くり返しの荷重や咀嚼の条件での検討がさらに必要で、クラウンの下の修復の形が変われば力学的なふるまいも変わりうる、と書いている
200 Nという値は別の研究の報告で、この実験で測ったものではありません。また、表1ではポストなしの小群の平均も728.58〜803.79 Nで、この値を上回っています。1回の荷重で壊した値との比較で、目安の話です。
・この実験では、クラウンの材質は破折荷重の有意な要因ではありませんでした。一方で、壊れ方には材質が有意に関係しています。「どこまで耐えるか」と「どう壊れるか」は、分けて見たほうがよさそうです
・ポストの有無で違いが目を引くのは、壊れ方です。壊れるとしても再修復できる形かどうかは、歯を残せるかどうかに関わります。ただし、これも抜去歯に斜めの荷重を1回かけたときの話です
・条件は、歯冠をほぼ失い、フェルールが2mmある上顎切歯です。フェルールがない歯、歯質が多く残った歯、臼歯のことは、この論文からは言えません
・ポスト孔の形成で歯質を削ることの不利益(穿孔のリスクや歯質の喪失)は、この実験では評価されていません
クラウンの種類が破折荷重の有意な要因でなかった(p=0.4)ことは、「材質で差がない」と示されたのではなく、「この実験では有意な影響が検出されなかった」という意味です。
原著の中で、気をつけて読みたい箇所が3つあります。(1)各小群は15本とされていますが、図1の棒は10%刻みです。90%・50%・30%は、15本では整数の本数になりません。このため、この記事は割合だけを示し、本数には直していません。原著が報告したp値を、筆者は再計算で確かめられていません。(2)結果の本文は、クラウンの種類と壊れ方の関係について「図2」を参照していますが、図2は壊れ方の例の写真です。図1が示すのは8つの小群ごとの割合で、ポストあり・なしを合わせたクラウンの種類ごとの割合を示した図や表はありません。(3)表1の記号は、ポストなしがすべてA、ポストありがすべてBです。クラウンごとの比較の方法と個別のp値は書かれていません。
資金・利益相反:King Saud大学(リヤド)歯学部研究センターの助成(F1149)を受けたと記載されています。利益相反についての記載は見当たりません。使われたポスト・コア材・接着材・セメントと、クラウン4種類のうち2種類(Empress II、SR Adoro)はIvoclar Vivadent社の製品、ジルコニア(Cercon)はDegudent社の製品です。企業からの資金提供の記載はありません。
それでも、同じ歯種、同じフェルール、同じコア材とセメントという条件をそろえて、クラウン4種類とポストの有無を一度に比べた実験です。前歯にかかる斜めの力で「強さ」と「壊れ方」の両方を見た点が、この1本の面白さです。くり返しの荷重での続報が待たれます。
今日のひとこと
この実験が示したのは、フェルール2mmの失活上顎切歯をレジンコアとクラウンで修復し、斜め45°の荷重を1回かけたとき、破折荷重に有意に影響したのはファイバーポストの有無で、クラウンの種類は有意な要因ではなかったということです(二元配置分散分析。ポストの有無 p=0.001、クラウンの種類 p=0.4)。壊れ方には、ポストの有無(p=0.002)とクラウンの種類(p=0.02)の両方が有意に関係し、ポストがあると再修復できる壊れ方が多くなりました。抜去歯に荷重を1回かけた実験で、くり返しの力は与えていません。臨床での破折率や歯の予後を調べた研究ではありません。著者らも、くり返しの荷重や咀嚼の条件での検討が必要だと書いています。筆者の読みでは、「どこまで耐えるか」と「どう壊れるか」を分けて考えるきっかけになる1本です。


