痛み・口腔顔面痛|Finnerupらのナラティブレビューから、神経障害性疼痛の定義と診断の確かさを読む
「電気が走る」「軽く触れると痛い」。その言葉は手掛かりになりますが、痛みの形容だけでは診断を確定できません。神経障害性疼痛の軸は、体性感覚神経系の病変または疾患による痛み。Finnerupらの総説が紹介するのは、病歴と痛みの分布に、感覚所見と病変を裏付ける検査を重ねる考え方です。歯痛患者で診断精度を検証した研究ではありません。
①電撃のような痛み。それだけで神経障害性?
「電気が走るように痛い」「軽く触れただけで痛い」。歯の痛みを相談されたとき、この言葉から神経障害性疼痛を思い浮かべることはないだろうか。
確かに、電撃のような発作痛や触れて起こる痛みは、この総説が挙げる症状だ。ただし、痛みの形容だけでは診断を確定できない。Finnerupらの2021年の総説は、病歴・痛む場所・感覚所見・検査を重ね、神経障害性疼痛と考える根拠を整理している。
②「神経の機能がおかしい」から、病変・疾患の確認へ
神経障害性疼痛とは、体性感覚神経系の病変または疾患による痛み。体性感覚神経系は、触覚や温度、痛みなどの感覚を伝え、処理する神経系を指す。
著者らが紹介する以前の定義には、神経系の「機能障害」も含まれていた。しかし、客観的に確かめられない症状や曖昧な所見だけを基準にする難しさから、この言葉は定義から外された。病変・疾患が関わる場所も、神経系全般から体性感覚神経系へと明確になった。
つまり、痛み方がいかにも「神経らしい」ことと、その痛みを説明する神経の病変・疾患があることを分けて考える。定義を押さえると、次に何を確認したいのかが見えてくる。
③診断から治療までを見渡したナラティブレビュー
この論文は、神経障害性疼痛の臨床像・機序・治療を整理したナラティブレビューだ。ヒトの臨床研究に加え、げっ歯類の実験で得られた機序の知見も扱っている。新たな患者群を集めた診断精度の試験ではない。
その中から、この記事では定義と診断の確かさを読む。診断の章で著者らは、神経障害性疼痛を証明するゴールドスタンダードや、特定の検査の組み合わせ・生物学的指標がないと述べる。また、症状と所見の分類・点数化で、妥当性・再現性・幅広い病態への適用をすべて満たす仕組みは得られていないとしている。
そこで紹介されるのが、先行研究に基づく診断の確かさを3段階で考える枠組みだ。この総説で新しく作った診断基準ではない。
④病歴と分布から始め、所見と検査を重ねる
原著の診断図と説明を、確認する順に読むとこうなる。
- possible:可能性がある。関連する神経の病変・疾患を疑う病歴があり、痛む範囲が、その病変・疾患から神経解剖学的に説明できる。
- probable:可能性が高い。病歴と痛みの分布に加え、診察で、それに整合する範囲の感覚所見がある。
- definite:確認検査で裏付けられる。病歴・痛みの分布・感覚所見に加え、その痛みを説明しうる体性感覚神経系の病変・疾患が、検査で確認される。
感覚所見では、一般に感覚低下を必要とする。ただし原著の図注には、診察時には触覚や温度刺激によるアロディニアだけが所見となる場合もある、と書かれている。アロディニアは、通常なら痛くない刺激で生じる痛みのことだ。
また、感覚が変わった範囲と痛む範囲は、ぴったり同じとは限らない。感覚変化の範囲が痛む範囲を越える、内側に収まる、一部重なる場合がある。見るのは輪郭の完全一致ではなく、疑う病変・疾患との整合だ。
⑤「痛い」と「感じにくい」が重なる
強い痛みがあるなら、感覚もすべて敏感になっていそうに思える。ところが、多くの神経障害性疼痛では、感覚低下と痛みが同じ領域に併存する。著者らは、この一見矛盾した組み合わせを特徴として挙げる。そこに過敏な反応が加わる場合もある。
「触れたら痛い」だけでなく、「触れたことを感じにくい」も大事な情報になる。一方、自覚する誘発痛と、定量的感覚検査で示される感覚過敏の所見は、必ずしもよく対応しない。通常の診察と定量的感覚検査の所見にも食い違いが報告されている、と総説は述べている。
著者らはその理由として、検査がアロディニアを十分に捉えられない可能性や、症状が間欠的で診察時には現れない可能性を挙げる。患者さんが経験した症状とその日の所見が違いうることも、この総説の大切な指摘だ。
⑥中枢性感作と、中枢の病変は同じではない
神経障害性疼痛の機序として、この総説は傷ついた神経などの異所性活動と、末梢・中枢の感作を挙げる。異所性活動とは、通常の刺激の受け取り方とは別に、神経の途中などで信号が生じること。感作は、刺激への反応が高まる仕組みだ。
末梢神経損傷後の痛みでも、アロディニアや痛覚過敏が隣接する領域へ広がることなどに、脊髄・脳幹の中枢性感作が関与する可能性が述べられている。一方、分類上の中枢性神経障害性疼痛は、中枢の体性感覚神経系の病変・疾患による痛みを指す。感作という仕組みと、病変がある場所による分類は分けて読む必要がある。
脊髄の神経回路の詳細を示した知見の多くは、げっ歯類の実験に由来する。著者ら自身、ヒトの回路との違いを除外できないと書いている。仕組みが分かってきたことを、そのまま目の前の患者さんの診断を証明する検査に置き換えることはできない。
⑦明日の臨床へ
この総説が示したのは、先行研究に基づく定義・診断の枠組みだ。歯科での診療手順の効果を新たに確かめた研究ではない。ここから先は筆者の臨床的な読みだ。歯の痛みを相談された場面へ、次のように持ち帰りたい。
- 歯に異常が見つからないだけでは、神経障害性疼痛とは決めない。歯の所見が乏しいことは、この定義が求める神経の病変・疾患の根拠の代わりにはならない。
- 病歴・痛む範囲・感覚所見を記録する。痛みが始まった経緯、神経の損傷や疾患を疑う病歴、痛む場所と感じにくい場所、刺激で痛む場所を、別々に残す。痛みの形容と所見の両方をそろえる。
- 確認できた所見と、まだ足りない根拠を分けて専門診療へつなぐ。どの病変なら説明できるか、その裏付けが必要な段階なら、記録を添えて相談する。
- 中枢性感作や心理的負担だけを診断の根拠にしない。総説は末梢神経損傷後の痛みに心理的要因が関与する可能性にも触れるが、それを体性感覚神経系の病変・疾患と同じものとして定義してはいない。薬への反応だけから病名を逆算することも、この診断の枠組みからは導けない。
これは広い領域を扱うナラティブレビューであり、歯痛患者で診断精度を検証した研究ではない。原著の診断図の最終段階は「Confirmed」、本文と図注は「definite」と表記されている。ここでは本文・図注の語を用いた。図注が説明するのは、病変の場所と性質がその痛みを説明しうると検査で確認された状態で、他の痛みの評価も必要だ。
この記事は定義と診断の確かさに範囲を絞っている。口腔顔面痛の各疾患の鑑別を網羅した手順ではない。それでも、痛みの言葉に、神経の所見を重ねるという読み方は、次に確かめるべき点を整理する助けになる。
今日のひとこと
痛みの言葉に、神経の所見を重ねる。神経障害性疼痛は、病歴・痛む範囲・感覚所見・病変を裏付ける検査から診断の確かさを考える。


