エンド|歯根端切除後の逆根管充填材としてMTAとアマルガムを使い、サルの根尖周囲組織を5か月後に組織学的に比べた動物実験(Torabinejad ら 1997・Journal of Endodontics)。サル3頭・各群6根で、統計的な検定の記載はない
歯根端切除のあと根の先に詰める材料として、アマルガムは長く使われてきました。ロマリンダ大学のTorabinejadらは、サル3頭の上顎切歯を無菌的に根管充填したうえで歯根端切除し、逆根管窩洞にMTAかアマルガムを詰めて、5か月後の組織を比べました。MTAは6根中5根で根尖周囲に炎症がなく、同じ5根で充填材の上を厚いセメント質が覆っていました(残る1根には重度の炎症)。アマルガムは6根すべてに中等度〜重度の炎症があり、充填材の上にセメント質はできていませんでした(0/6)。切断面の象牙質の上のセメント質と新生骨は、どちらの群も6根すべてで見られています。サル3頭・各群6根の組織所見で、統計的な検定の記載はありません。先行するイヌの実験に続き、サルでも同じ向きの結果を確かめた1本です。
①逆根管充填、アマルガムのままでいい?
歯根端切除のあと、根の先に何を詰めるか。アマルガムは、そのための材料として長く使われてきました。
1990年代、ロマリンダ大学のTorabinejadらは、MTA(mineral trioxide aggregate)という実験的な材料を、逆根管充填材の候補として調べていました。封鎖性、細胞毒性、イヌでの実験と続いた一連の研究のうち、この論文はサルの歯で5か月後の組織を見た1本です。
・MTAを詰めた根は、6根中5根で根尖周囲に炎症がなかった(残る1根は重度の炎症)
・同じく6根中5根で、MTAの上を厚いセメント質が覆っていた(残る1根は不完全な層)
・アマルガムを詰めた根は、6根すべてに中等度〜重度の炎症があり、充填材の上にセメント質はできていなかった(0/6)
・切断面の象牙質の上のセメント質と、新生骨は、どちらの群も6根すべてで見られた
・サル3頭・各群6根の動物実験
②どんな実験だったのか
対象は、健康な4歳のカニクイザル3頭の、上顎の中切歯と側切歯です。著者らがこだわったのは、根管に細菌感染を持ち込まないことでした。
・ラバーダム防湿で抜髄し、根管形成のあとガッタパーチャとシーラーで根管充填。髄腔はアマルガムで封鎖
・根管充填の1週間後に、粘膜骨膜弁を開けて歯根端切除
・逆根管窩洞は、バーで深さ2mm
・左右どちらかの側を無作為に選び、片側はMTA、反対側はアマルガムで充填
・5か月後に、歯と周囲の組織を取り出して切片を作り、染色して観察(細菌を見る染色を含む)
・評価者2名が、どちらの材料かを知らされずに、共同で判定
先行する組織学的研究では、アマルガムの周りに炎症が出ることが報告されていました。ただ、それらは根管が感染した条件での研究でした。著者らは、「感染をできるだけ除いた条件なら、アマルガムはどうなるか」を確かめ直そうとしたわけです。
③結果:6根ずつの組織所見
評価できたのは、アマルガム6根、MTA6根です。どの歯でも、根尖や根管の中に細菌は見つかりませんでした。
・炎症:重度4根、中等度2根。6根すべてに炎症があった
・主な炎症細胞はリンパ球。アマルガムのすぐ近くには多形核白血球がよく見られた
・線維性の被膜:6根中4根
・充填材の上のセメント質:0根。切断面の象牙質の上には、6根ともセメント質ができていた
・炎症:5根は炎症なし。1根だけ重度の炎症があった
・線維性の被膜:0根
・充填材の上のセメント質:5根で厚い層が覆っていた。残る1根は不完全な層が一部にできていた、と結果の項にある
・切断面の象牙質の上には、6根ともセメント質ができていた
切断面の象牙質の上のセメント質と新生骨は、材料にかかわらず12根すべてで見られました。原著の表は「あり・なし」を数えたもので、量までは比べていません。そのうえで筆者がまとめると、両群で数に違いが出たのは、充填材の上のセメント質と、その周りの炎症、線維性の被膜でした。
MTAで炎症のあった1根について、著者らは理由は不明としています。このサルは実験の終わり近くに断続的な発熱があり、歯から離れた海綿骨にもリンパ球が強く浸潤していました。著者らは、炎症が充填材と関係のない可能性がある、と書いています。同じサルのもう1本のMTAの歯には、セメント質の層があり、炎症はありませんでした。
④なぜ充填材の上にセメント質ができるのか
ここは、切片で観察した所見と、そこからの著者らの推測を分けて読みます。
・MTAの上のセメント質は、切断面の象牙質の上のセメント質とつながっていた
・セメント質の成長線は、表面と平行に走っていた
・セメント質の表面に芽細胞が見られた。歯根膜の線維が入り込んでいる場所もあった
・成長線の向きと芽細胞から、セメント質を作る細胞は、歯根膜の横からではなく、骨から入り込んだ結合組織に由来する可能性がある
・セメント質ができる理由の候補は、MTAの封鎖性、生体親和性、硬化時のアルカリ性のpH
・アマルガムの近くに多形核白血球が見られた理由は不明で、腐食生成物の作用と関係するかもしれない
感染をできるだけ除いた条件でも、アマルガムの6根すべてに炎症が見られた。著者らはこの点を重く見て、アマルガムは逆根管充填材に向かないと述べています。
⑤明日の臨床へ
・この研究と先行研究から、アマルガムは逆根管充填材として不適切で、使用をやめるべきである
・この研究と先行研究(封鎖性・細胞毒性・イヌでの実験など)は、ヒトでMTAを逆根管充填材として使うことを支持する
・根の数が少ないのは、適した歯の数が限られること、サルの数を最小限にする必要、費用のため。両群の差がはっきりしていたので、数を増やす必要はないと判断した
・いま逆根管充填にMTAなどの材料が使われている背景に、こうした動物での組織所見があることは、知っておいて損がありません
・紹介する側としては、紹介先が逆根管充填に何を使っているかを知っておくと、患者さんへの説明の材料になります
・自院で使うなら、MTAは操作性や硬化時間、費用の面でアマルガムと勝手が違います。そこは別に確かめることになります
条件も臨床とは違います。感染させていない歯を、根管充填の1週間後に手術しています。逆根管窩洞はバーで深さ2mmです。見ているのは5か月後の組織で、X線や症状でみる臨床的な治癒ではありません。ヒトでの治癒率は測っておらず、比べた相手もアマルガムだけです。
MTAで炎症のあった1根について、結果の項は「不完全なセメント質の層が一部にできていた」、考察は「MTAの上にはセメント質ができていなかった」と書いており、原著の中で表現が食い違っています。この記事では表1の数(5/6)に従いました。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。MTAは筆頭著者の所属するロマリンダ大学から供給された実験的材料で、ヒトでの使用を勧める根拠として引かれる先行研究(文献1〜9)は、いずれも同じ研究グループのものです。
それでも、「充填材の上にまでセメント質ができる」という姿を、イヌに続いてサルの組織でも示したことは、材料選びを考えるうえで大事な土台です。この先を確かめるのは、ヒトでの臨床研究の役目です。
今日のひとこと
サルの感染させていない歯で、MTAの逆根管充填は6根中5根で炎症がなく、同じ5根で充填材の上までセメント質が覆っていました(残る1根は重度の炎症)。アマルガムは6根すべてに炎症があり、充填材の上のセメント質は0根でした。著者らはこの結果と先行研究から、ヒトでのMTAの使用を勧めています。各群6根の動物実験で、統計的な検定の記載はなく、ヒトでの治癒率を測ったものではありません。筆者の読みでは、充填材の表面にまでセメント質ができうることを、イヌに続いてサルの組織でも確かめた1本です。


