口腔顔面痛|慢性の口腔顔面痛に対する、薬を使わない心理社会的介入(認知行動療法・バイオフィードバックなど)の効果を調べたランダム化試験17本の系統的レビューとメタ解析(Aggarwal ほか 2011・Cochrane Database of Systematic Reviews)
スプリントを入れても、咬合を調整しても、顎の痛みが続く患者さんがいます。このコクランレビューは、慢性の口腔顔面痛に対する心理社会的介入(認知行動療法、バイオフィードバックなど)のランダム化試験を17本集めました。通常のケアと比べると、3か月より後の痛みは標準化平均差 -0.34(95%信頼区間 -0.50〜-0.18、7試験・658人)、抑うつは -0.35(-0.54〜-0.16、6試験・455人)で、どちらも心理社会的介入が有利でした。いちばん根拠がそろっていたのは認知行動療法(CBT)です。ただし、17本のうち15本はバイアスのリスクが高く、著者らによると、通常のケアとの比較で統合できた試験はすべて顎関節症のもの。著者らの結論は「根拠は弱い。それでも、体を傷つけない方法なので、侵襲的で元に戻せない治療より先に使うべき」です。
①スプリントも咬合調整もした。それでも痛い
顎の痛みが何か月も続く患者さん。スプリントを作り、咬合を調整し、それでも「まだ痛い」と言われたとき、次に何を考えますか。
歯科の道具箱には、歯と噛み合わせに働きかける方法がたくさん入っています。けれど、痛みを長引かせているのが考え方・行動・気持ちだとしたら、その道具は届きません。
この論文は、慢性の口腔顔面痛に対する心理社会的介入の効果を調べたコクランレビューです(2011年・英国マンチェスター大学)。コクランレビューは、決まった手順で世界中のランダム化試験を集め、質を評価してまとめる系統的レビューです。
・集まったランダム化試験は17本。通常のケアと比べ、心理社会的介入は3か月より後の痛みと抑うつを改善していた
・いちばん根拠がそろっていたのは認知行動療法(CBT)。単独でも、バイオフィードバックとの併用でも
・3か月以内の痛みは、種類別に見て3つが統計的な差なし。併用の1つは、通常のケアのほうが有利だった(主に1試験の影響)
・17本のうち15本はバイアスのリスクが高い。著者らは根拠を「弱い」と評価した
・それでも著者らは、体を傷つけない方法なので、侵襲的で元に戻せない治療より先に使うべきと結論した
②なぜ、歯科で「心理社会的介入」なのか
著者らが「慢性口腔顔面痛」としてまとめたのは4つ。顎関節症、非定型顔面痛、非定型歯痛、口腔灼熱症候群です。どれも、病理的な変化では症状を説明しきれない痛みとされてきました。
背景で著者らが挙げた研究があります。非定型顔面痛の患者さん30人を調べた報告(Pfaffenrath 1993)です。
・患者さん1人あたり、平均7.5人(1〜20人)の医師・歯科医師を受診していた
・受診先は歯科医師が91%でいちばん多い
・60%が手術を受けていた
・手術が役に立ったと考えた患者さんはいなかった。多くは、痛みが悪化していた
著者らはさらに、咬合調整とスプリントについての別のコクランレビューが有益な効果を示さなかったことを挙げます。一方で、慢性口腔顔面痛が心理的な要因と結びつき、ほかの説明のつきにくい症状と重なることには、強い根拠があるとします。
だとすれば、体に手を加える治療を重ねることは正当化しにくい。考え方・行動・気持ちに働きかける方法を、早い段階で試す価値があるのではないか。それがこのレビューの出発点です。
③今回の一手:ランダム化試験を集めて、まとめる
・対象:18歳を超える成人の慢性口腔顔面痛(顎関節症・非定型顔面痛・非定型歯痛・口腔灼熱症候群)
・介入:痛みを悪化させる考え方・行動・気持ちを変えることをねらった、薬を使わない心理社会的介入
・比較:通常のケア、順番待ち、薬、手術など、ほかの治療
・評価:痛みの強さ(3か月以内/3か月より後)、生活への支障、抑うつなど
・検索:5つのデータベースを2010年10月25日まで。言語の制限なし
検索で見つかった文献は525件。題名と抄録で38件に絞り、最終的に23件の論文、17本の試験が含まれました(6件は同じ試験の追跡報告)。
本文によると、17本のうち15本が顎関節症、2本が口腔灼熱症候群です。顎関節症の試験の多くは、通常のケア(教育、カウンセリング、平面型のスプリントからなる保存的な治療)と比べていました。
ただ、まとめて計算できた試験は多くありません。通常のケアと比べた12本のうち3本は、平均と標準偏差が手に入らず、統合に使えたのは9本。その9本も、介入の中身や測った項目がばらばらでした。著者らは介入を、CBT単独/バイオフィードバック単独/CBTとバイオフィードバックの併用/姿勢の自己調整の4つに分けて解析しています。
④結果:3か月より後の痛みと抑うつは、改善していた
主な結果を図にまとめました。
標準化平均差は、試験ごとに違う物差しで測った結果をそろえて比べるための数字です。0なら差なし。目安として、0.2は小さい、0.5は中くらいの効果とされます(この目安は筆者の補足です)。
・痛みの強さ:-0.34(95%信頼区間 -0.50〜-0.18)。7試験・658人。試験間のばらつきは小さい(I² = 13%)。著者らは17%の改善に当たると書いている
・抑うつ:-0.35(-0.54〜-0.16)。6試験・455人(I² = 21%)。著者らは27%の改善に当たると書いている(補助線を参照)
・介入の種類別では、CBT単独(痛み -0.25、抑うつ -0.31)とCBTとバイオフィードバックの併用(痛み -0.52、抑うつ -0.49)で統計的な差があった
・バイオフィードバック単独(1試験・35人)と姿勢の自己調整(1試験・44人)は、痛みに統計的な差がなかった
筆者の目安に当てはめると、効果の大きさは小さい〜中くらいです(著者らは大きさの評価を書いていません)。劇的に痛みが消える、という数字ではありません。ただ、比べた相手は「何もしない」ではなく、教育やスプリントを含む通常のケアです。
⑤結果:3か月以内の痛みには、介入に有利な差がなかった
3か月以内の痛みでは、話が違います。7試験のデータがありましたが、ばらつきが大きく(I² = 63%)、全体をまとめることはできませんでした。
・CBT単独:0.03(-0.17〜0.22)。統計的な差なし
・バイオフィードバック単独:-0.41(-1.06〜0.25)。統計的な差なし
・姿勢の自己調整:-0.49(-1.09〜0.11)。統計的な差なし
・CBTとバイオフィードバックの併用:0.46(0.02〜0.90)。統計的な差があり、通常のケアのほうが有利
最後の結果は、主に1つの試験(Turk 1993)の影響です(この項目の解析は2試験)。治療直後はスプリント群のほうが改善していましたが、6か月後には介入群と同じになっていた、と著者らは説明しています。
生活への支障(3か月より後)もばらつきが大きく(I² = 91%)、全体はまとめられませんでした。種類別では、CBT単独が -0.27(-0.51〜-0.03、4試験・285人)で統計的な差がありました。
著者らはこの形を、CBTの働き方と結びつけて読んでいます。CBTは痛みへの対処の仕方に働きかけるので、短期の痛みの強さには効果がなく、長期の痛み・生活への支障・抑うつに効果があった、という見方です。
⑥根拠の質:17本のうち15本が「バイアスのリスクが高い」
ここが、このレビューのいちばん大事な但し書きです。
・割り付けの隠蔽を報告していたのは1本だけ(Turner 2006)
・評価者の盲検化を適切に報告していたのは4本
・欠けたデータについて報告し、その点のリスクが低いと判定されたのは17本中7本
・試験は慢性口腔顔面痛を専門に診る三次医療機関で行われていて、重く治りにくい患者さんに偏っている可能性がある
・介入の回数、届け方、誰が行うかは、試験ごとに大きく違った
・統合できた試験は少なく、著者らは最大で3試験と書いている(解析表には4試験の行もある)
心理社会的介入は、患者さんにも治療者にも、どちらの群かを隠せません。それは仕方のないことです。ただ、結果を測る人を盲検化することはでき、それができていた試験は少なかった、と著者らは指摘しています。
⑦通常のケア以外との比較:どれも1〜2試験
・口腔灼熱症候群への認知療法(Bergdahl 1995、30人、対照は注意プラセボ):灼熱感の強さが治療後と6か月後に統計的に有意に改善(P < 0.001)。ただし1試験で、バイアスのリスクが高い
・習慣逆転法(Townsend 2001、対照は順番待ち):治療後の痛みが統計的に有意に改善。1試験で、バイアスのリスクが高い
・催眠(対照はリラクセーション、2試験・81人、同じ研究グループ):測ったのは短期の結果だけ。痛みの強さと抑うつに統計的な差があった
顎関節症以外の痛みについては、試験がほとんどありません。著者らは、ほかの慢性口腔顔面痛に対する根拠の強さは疑わしいと書いています。
⑧なぜ効くのか:著者らが想定した2つの道筋
著者らは、心理社会的介入が働く仕組みを2つのモデルで説明しています。どちらも想定で、このレビューで確かめたものではありません。
・動かなくなる:痛みが悪くなるのが怖くて体を動かすことを避け、その考え方と行動が症状を長引かせ、強める。介入は、この恐怖と回避に働きかける
・働きすぎる:生活のストレスや不安が、歯ぎしりや顔の筋肉の持続的な収縮を引き起こす。それが痛みを生み、痛みがさらに不安を呼ぶ(不安・痛み・緊張の輪)。介入は、もとにあるストレスへの反応に働きかける
レビューに含まれた試験の中で、バイアスのリスクがいちばん低かったのは Turner 2006 です。この試験は、CBTの効果を何が橋渡ししているかも調べていて、痛みを自分で制御できるという感覚と、自己効力感の変化が、効果を説明するうえで重要だったと紹介されています。
⑨明日の臨床へ
・心理社会的介入には、弱いながらも根拠がある。いちばん有望なのはCBT(単独、またはバイオフィードバックとの併用)
・侵襲的で元に戻せない方法(一部のスプリントや咬合調整)は、先行するコクランレビューで効果がほとんど、またはまったく示されておらず、医原性の害を生むと受け止められている
・CBTは体を傷つけず、副作用も起きにくいと考えられるので、慢性口腔顔面痛の早い段階の管理で使うことを考えるべき
・ただし、効果を確かめるには質の高い試験がさらに必要
・順番を決めておく。長引く顎の痛みには、削る・噛み合わせを変えるといった元に戻せない処置より先に、説明、セルフケア、体を傷つけない方法を置く
・短期の結果だけで判断しない。このレビューで、通常のケアと比べて介入に有利な差が出たのは3か月より後。患者さんにも、すぐに結果が出る方法ではないことを伝えておく
・CBTそのものは、訓練を受けた専門家の仕事。歯科ができるのは、痛みの仕組みの説明、食いしばりへの気づき、生活とストレスの聞き取り、そして紹介先を持っておくこと
・日本で、歯科からCBTを受けられる場所へどうつなぐかは、地域ごとに確かめる必要がある
効果の大きさも控えめです。標準化平均差 -0.34 は、筆者の目安では小さい〜中くらいの効果に当たります。心理社会的介入は群を隠せないので、治療者との関係や期待の効果が結果に混ざっている可能性があり、著者らも今後の研究課題に挙げています。
原著の中で、記述が合わない箇所があります。本文は「17本のうち15本が顎関節症、2本が口腔灼熱症候群」としていますが、試験の特徴の表では、催眠の1本(Abrahamsen 2008)の対象は持続性特発性口腔顔面痛です。考察では口腔灼熱症候群の試験を「1本だけ」とも書いています。また、生活への支障の解析表では姿勢の自己調整が大きな差(-2.95)を示していますが、本文は「結論を出すには根拠が足りない」としています(1試験・44人)。バイアスの総合判定も、本文は「15本が高い」としていますが、本文が「高い」とした15本のうち3本(Abrahamsen 2008・2009、Dworkin 2002b)は、原著 Figure 1 の領域ごとの判定に「高い」が1つもありません。抑うつの「27%」は、原著の文では「長期の痛みの27%の改善」と書かれています(抑うつの段落の記述です)。催眠・習慣逆転法・口腔灼熱症候群の効果の数値は、本文と解析表で指標の書き方が合わないため、この記事では載せていません。
検索は2010年10月まで。その後の試験は含まれていません。
それでも、「体に手を加える前に、考え方と行動に働きかける」という選択肢に、ランダム化試験をまとめた数字を与えたコクランレビューです。弱い根拠を弱いと書いたうえで、害の少ない方法を先に、と結論する。その筋の通し方ごと、参考にしたい1本です。
今日のひとこと
このレビューが示したのは、慢性の顎の痛みに対する心理社会的介入、とくに認知行動療法は、3か月より後の痛みと抑うつを通常のケアより改善していたということです。ただし、17本のうち15本はバイアスのリスクが高く、著者ら自身が根拠を「弱い」と評価しています。歯科が持ち帰れるのは、長引く顎の痛みには、削る・噛み合わせを変えるといった元に戻せない処置より先に、体を傷つけない方法を考えるという順番です。効果の大きさは筆者の目安では小さい〜中くらいで、顎関節症以外の痛みについては、このレビューからは言えません。


