口腔顔面痛|睡眠時ブラキシズムと臨床診断された100人と対照43人を睡眠検査室で記録し、研究診断基準とクラスター分析でグループ分けして痛みの訴えを比べた研究(Rompré, Lavigne ら 2007・J Dent Res)
家族に歯ぎしりを指摘され、咬耗があり、朝は顎がだるい。そんな患者さんほど夜に強く噛んでいる——と思いがちです。モントリオール大学のグループが臨床で睡眠時ブラキシズムと診断された100人と対照43人を睡眠検査室で記録したところ、46人は睡眠検査の研究診断基準(SB-RDC)を下回る少ない歯ぎしりで、データに自然なグループ分けをさせると、そのうち45人が「低頻度」のグループに入りました。そして、この回数の少ない人たちのほうが、朝起きたときの顎の痛み(78.9%対48.9%、オッズ比3.9)と咀嚼筋の疲れ(70.0%対31.3%、オッズ比5.1)を訴える割合が高かったのです(両群の割合から計算したリスク比は約1.6と約2.2)。痛みを訴えることは、夜の歯ぎしりが多いことを意味しないことを示した一本です。
①「朝、顎が痛い」歯ぎしりの人は、夜もたくさん噛んでいるのか
「家族に歯ぎしりを指摘される」「朝起きると顎がだるい、痛い」。咬耗もあり、咬筋も張っている。問診票がここまで揃うと、つい「夜にかなり強く歯ぎしりしているのだろう」と考えたくなります。
ところが、睡眠検査室で実際に測ってみると、話はそう単純ではありませんでした。モントリオール大学のLavigne先生らのグループが、臨床で睡眠時ブラキシズムと診断された100人を睡眠検査で記録したところ、46人は睡眠検査の研究診断基準を下回る「少ない」歯ぎしりでした。そして、その少ない人たちのほうが、朝の顎の痛みや咀嚼筋の疲れを訴える割合が高かったのです。
・臨床で睡眠時ブラキシズムと診断された100人のうち、46人は睡眠検査の研究診断基準(SB-RDC)を満たさなかった。統計的なグループ分けでは、この46人のうち45人が「低頻度」のグループに入った
・基準を満たさなかった人は、満たした人より朝起きたときの顎の痛み(78.9%対48.9%、オッズ比3.9)と咀嚼筋の疲れ(70.0%対31.3%、オッズ比5.1)を訴える割合が高かった。両群の割合から計算したリスク比は約1.6と約2.2
・つまり、痛みを訴えることは、夜の歯ぎしりが多いことを意味しない。むしろ逆の場合がある
②睡眠検査で歯ぎしりを判定する「3つの目安」
睡眠時ブラキシズムは、睡眠中の運動障害に分類されています。研究の場では、睡眠検査(ポリグラフ)で咀嚼筋の筋電図と音声・映像を記録し、数で判定します。その物差しが、同じグループが1996年に作った研究診断基準(SB-RDC)です。目安は次の3つでした。
・睡眠1時間あたりのブラキシズムのエピソード(まとまった咀嚼筋の活動)が4回を超える
・睡眠1時間あたりのバースト(エピソードを構成する個々の筋収縮)が25回を超える
・歯ぎしりの音を伴うエピソードが1回を超える
ただ、この基準は歯ぎしりの人18人と対照18人という少人数から作られていました。しかも研究グループは、15年ほどの記録のなかで、家族から「よく歯ぎしりしている」と言われている人の約半数が、検査では目安を下回ることに気づいていました。
なぜなのか。著者らが立てた仮説は、「痛みがあるから、顎の動きがかえって減っているのではないか」というものです。痛みがあると、その部位の筋肉の動きが抑えられるという考え方(Pain Adaptation Model)に沿った発想です。
③今回の一手:143人の睡眠検査を、基準とグループ分けの両方で見直した
対象は、1990年以降に睡眠検査室で記録された睡眠時ブラキシズムの100人と対照43人。平均年齢は25歳前後の若い成人です。
歯ぎしり群は、①週3晩以上の歯ぎしりを6か月以上、同室で寝る人が確認している ②咬耗がある ③咬筋が肥大している ④朝に顎の疲れや圧痛を訴える、という臨床の条件で選ばれました。対照は、歯ぎしりの既往も臨床所見もない人です。顎関節症が主訴の人、神経・精神・睡眠の病気がある人、服薬中の人は除かれています。
全員が睡眠検査室で2晩連続で記録し、1晩目は慣れと睡眠障害の除外に、2晩目を解析に使いました。筋電図に加えて音声と映像も同時に記録し、歯ぎしり以外の口の動きと区別しています。判定は、誰がどちらの群かを伏せて行われました。
そのうえで、2つの切り口で分けました。
・基準で分ける:歯ぎしり群は3つの目安のうち2つ以上を上回れば「基準を満たした」、対照は2つ以上が目安以下なら「基準どおり」
・データに分けさせる:クラスター分析(TwoStep法)で、歯ぎしりの数値が似た人どうしを自動的にグループにまとめる
さらに、電話での聞き取り・歯科での診察・睡眠検査室の就寝前と起床後に質問票をとり、朝の顎の痛み、咀嚼筋の疲れ、くいしばりの自覚、ストレスなどを比べました。
④結果①:歯ぎしり群の46人は、基準を下回っていた
基準で分けると、歯ぎしり群100人のうち基準を満たしたのは54人、満たさなかったのは46人。対照43人のうち34人は基準どおりでしたが、9人は基準より多く噛んでいました。
目を引くのは、歯ぎしり群で基準を満たさなかった人(中央値2.1回)が、対照群で基準より多かった人(4.3回)よりも少なかったことです。「歯ぎしりの人」と「歯ぎしりでない人」は、夜の筋活動の数で見ると、きれいに2つに分かれるわけではありません。
一方、睡眠の長さ・睡眠効率・睡眠段階の割合・覚醒の回数は、4つのグループでほとんど差がありませんでした。
⑤結果②:データに分けさせると、歯ぎしりは3つのグループになった
クラスター分析では、歯ぎしり群(解析対象99人)は低頻度・中等度・高頻度の3グループに分かれました。
・低頻度 49人:1時間あたり平均2.3回
・中等度 37人:平均6.2回
・高頻度 13人:平均9.6回
そして、基準を満たさなかった46人のうち45人が、この低頻度グループに入っていました。対照群(解析対象42人)は低頻度34人・高頻度8人の2グループに分かれ、基準より多かった9人のうち7人が高頻度グループでした。
基準による線引きと、データが自然に作ったまとまりが、ほぼ重なったわけです。著者らはこれを、1996年の基準が歯ぎしりの人と対照をよく見分けている裏付けだと述べています。ただし、全員(歯ぎしり群と対照群)で評価し直すと、「1時間4回」の線引きの感度は72%から55%に、特異度は94%から84%に下がり、感度・特異度をともに約70%にするには目安を2.5回まで下げる必要がある、とも著者らは書いています。基準の線引き自体は、少ない歯ぎしりの人をこぼしやすいということです。同時に、夜の顎の筋活動は少ない人から多い人まで連続した幅を持つ、という見方も補強されました。
⑥結果③:回数が少ない人のほうが、痛みを訴えていた
質問票を比べると、はっきりした差が出たのは痛みでした。
・朝起きたときの顎の痛み:78.9%対48.9%(P=0.006)。オッズ比3.9(95%CI 1.5–10.4)、リスク比 約1.6(両群の割合から計算)
・咀嚼筋の疲れ:70.0%対31.3%(P=0.001)。オッズ比5.1(95%CI 2.1–12.8)、リスク比 約2.2(同)
・くいしばりの自覚:93.3%対74.0%(P=0.014)。オッズ比4.9(95%CI 1.3–18.6)、リスク比 約1.3(同)
ほかに、むずむず脚の訴え(58.3%対29.5%、オッズ比3.3)や、検査の直前のストレス(50.0%対22.2%、オッズ比3.5、P=0.05)も、回数が少ない側で多く見られました。
一方で、歯ぎしりの自覚・歯ぎしりの音・咬耗は、2つのグループで差がありませんでした。問診票で拾える「歯ぎしりらしさ」は同じなのに、睡眠検査の数と痛みの訴えは逆向きだった、ということです。
なお、いまの顔の痛みの強さ(0〜100のVAS)は中央値10対0で、少ない側がやや高かったものの、P=0.06で統計的な有意差には届きませんでした。検査前日の不安・ストレス・疲れ・いらいらにも差はありませんでした。
⑦なぜ、痛みを訴える人のほうが回数が少なかったのか
著者らは2つの説明を挙げています。
1つ目は、冒頭のPain Adaptation Modelです。朝の顎の痛みや頭痛が検査の時期と重なっていたとすれば、痛みによって顎の筋活動が抑えられ、その夜の回数が減った可能性があります。
2つ目は、夜ごとのばらつきです。同じグループの以前の研究では、1時間あたりのエピソード数は夜によって約25%、歯ぎしりの音を伴うエピソードは50%以上変動していました。1晩の記録で「少ない」と出ても、別の夜には多いかもしれません。
この研究の形(ある時点での比較)では、痛みが先か、回数の少なさが先かは決められません。ここは読み過ぎないほうがよい部分です。確かに言えるのは、「朝の痛みを訴える人は、夜の歯ぎしりの回数も多い」という単純な対応は、この研究の歯ぎしり群100人では成り立っていなかった、ということです。
⑧明日の臨床へ
この論文から持ち帰れるのは、問診のときの頭の置き方です。
・朝の顎の痛みや筋の疲れを、夜の歯ぎしりの強さの物差しにしない。痛みを訴える人のなかに、睡眠検査では回数が少ない人がかなり含まれていた
・家族の指摘・咬耗・咬筋の張りは、いまの夜の回数を表すとは限らない。この研究では、臨床の条件で選ばれた100人の約半数が基準を下回った
・痛みの訴えがある人では、「歯ぎしりが強いから痛い」と決めつけず、痛みそのもの(どこが、いつ、どのくらい)を別に評価する視点を持っておく
患者さんへの説明でも、「痛いのは夜にすごく噛んでいるからですね」と言い切るより、「歯ぎしりの量と痛みは、必ずしも比例しないことがわかっています」と伝えるほうが、この研究に沿った言い方になります。なお、この研究はスプリントなどの治療の効果を調べたものではありません。
⑨ここだけ、冷静に補助線
対象は平均25歳前後の若い成人で、歯ぎしり群は女性が60%。顎関節症が主訴の人は除かれているので、顎関節症の外来に来る患者さんにそのまま当てはめることはできません。
痛みや疲れははい・いいえの質問票で、項目によっては回答者が限られます(検査前日と直前の心理状態は各群27〜28人)。多くの項目を比べていますが、多重比較の補正は書かれていません。また、痛みの強さそのもの(VAS)の差は有意ではありませんでした(P=0.06)。
オッズ比は、アウトカムの多い集団では「何倍なりやすいか」より大きめに出ます。本文ではリスク比(約1.6〜2.2)を併記しました。
それでも、歯ぎしりと臨床診断された人の約半数が睡眠検査の基準を下回り、その人たちのほうが痛みを訴えていたという結果は、とても面白い。「痛み=歯ぎしりが強い」という思い込みを、いったん脇に置かせてくれる一本です。
今日のひとこと
この研究がいちばんはっきり示したのは、臨床で睡眠時ブラキシズムと診断された人の約半数(100人中46人)は、睡眠検査では回数が基準を下回ること、そしてその回数の少ない人たちのほうが、朝の顎の痛み(78.9%対48.9%)や咀嚼筋の疲れ(70.0%対31.3%)を訴えていたことです。歯科が持ち帰れるのは、朝の痛みの訴えや問診票の「歯ぎしりらしさ」を、夜の歯ぎしりの強さの物差しにしないという頭の置き方。痛みを訴える人では、痛みそのものを別に評価する視点を持っておきたいところです。


