1問1答 論文 エンド

根尖の影が大きい。それだけで嚢胞?——手術を受けた無症状の持続病変93例では、大きさや白い縁取りだけでは分けられなかった

1問1答 論文 エンド

エンド|根管治療後も病変が残り、歯根端顕微鏡手術に至った前歯を対象とする後ろ向き研究。手術前のデンタルと採取した組織を突き合わせた(Çalışkan 2016・International Endodontic Journal)

根尖の影が大きく、周囲に白い縁取りもある。そこから「嚢胞」と言い切れるでしょうか。Çalışkanらは、根管治療後に病変が残り、手術に至った単根の前歯93歯の病変を調べました。大きい群ほど嚢胞の割合は高い一方、10–20 mmの31病変でも肉芽腫は16病変(51.6%)。白い縁取りがある13病変にも、嚢胞と肉芽腫の両方が含まれていました。大きさや縁取りは、病変の正体を確定する根拠には足りなかったのです。

論文
Radiographic and histological evaluation of persistent periapical lesions associated with endodontic failures after apical microsurgery
著者
M K Çalışkan, M E Kaval, U Tekin, T Ünal(トルコ・エーゲ大学)
掲載
International Endodontic Journal 2016;49(11):1011-1019. doi:10.1111/iej.12554
種類
後ろ向き観察研究。根管治療後に病変が残り、歯根端顕微鏡手術を受けた単根の前歯110歯のうち、採取時に壊れた17検体を除く93病変を解析。術前のデンタル上の最大径・白い縁取りの有無と病理組織診断を比較
PMID
26384024

①根尖の影が大きい。それだけで嚢胞?

根管治療を終えた前歯に、大きな根尖の影が残っている。周囲には白い縁取りも見える。「これは嚢胞でしょうか」と聞かれたら、どこまで言い切れるだろう。

Çalışkanらは、根管治療後に無症状の病変が残り、歯根端顕微鏡手術を受けた前歯の93病変を組織で確認した。大きい群ほど嚢胞の割合は高かった。それでも、大きさや白い縁取りだけでは、嚢胞と肉芽腫を区別できなかった。画像の印象と、病変の正体には距離がある。

②疑う手がかりと、確定する根拠

大きさを手がかりにしたくなるのには理由がある。原著が紹介する先行研究では、病変が大きいほど嚢胞の割合が高いという関連が報告されてきた。白い縁取りも、嚢胞を疑う所見として検討されている。

ただし、この論文で調べた「境界」は、漠然とした境界の明瞭さではない。病変を縁取るX線不透過性の線、radiopaque laminaの有無だ。「大きい」「白い縁取りがある」という所見が、実際の組織診断とどこまで対応するのか。それが今回の問いである。

③110歯から93病変を解析

これはトルコ・エーゲ大学の後ろ向き研究。2007年6月〜2014年12月に歯根端顕微鏡手術を受けた、根管治療後も根尖病変が残る単根の前歯が対象だった。手術前のデンタルと、手術時に採取した組織を比較している。歯根端切除後に再び残った病変を追跡した研究ではない。

対象は110歯だったが、採取時に壊れて組織診断ができなかった17検体を除き、93病変を解析した。進行した歯周病、垂直性歯根破折、ポストによる穿孔のある歯は対象から除かれている。

  • 画像:平行法で撮影したデンタルを読み取り、病変の水平・垂直方向の最大径と白い縁取りの有無を評価。
  • 読影:基準を合わせた2名が、組織診断の結果を知らずに判定。
  • 組織:手術で採取した病変を連続切片にし、光学顕微鏡で診断。

つまり、X線で推測した病名を集めたのではなく、採取した組織を比較の基準に置いた研究だ。

④大きい群でも、肉芽腫が過半数

全体では肉芽腫が67/93病変(72%)と最多だった。では、大きい病変に絞れば嚢胞と言えるのか。まず、原著の表で「Cysts」とされた病変の割合を見てみよう。

嚢胞(角化嚢胞を除く)

0 25% 50% 75% 100% 嚢胞(角化嚢胞を除く)の割合(%) 5% 14.3% 35.5% 2–5.9 mm 6–9.9 mm 10–20 mm 表5:各群の病変数は20・42・31。嚢胞は1・6・11病変。角化嚢胞は大きい群に別途2病変(6.45%)。大きい群でも肉芽腫は51.6%。

表5の全サイズ群。分母は各サイズ群の病変数。2–5.9 mm:1/20病変(5%)、6–9.9 mm:6/42病変(14.3%)、10–20 mm:11/31病変(35.5%)。角化嚢胞は別欄で、大きい群の2/31病変(6.45%)。肉芽腫は大きい群でも16/31病変(51.6%)だった。

嚢胞の割合は大きい群ほど高い。著者らは、病変の大きさと肉芽腫・嚢胞の組織診断に有意な関連を報告している(P=0.007)。しかし、10–20 mmでも、肉芽腫は51.6%。大きいという所見で、病名がひとつに決まるわけではなかった。

数字の読み方をそろえておこう。原著本文の大きい群の「嚢胞42%」は、角化嚢胞を含む13/31病変を指す。表5では、嚢胞11病変(35.5%)と角化嚢胞2病変(6.45%)が別欄に分かれている。上の図は表の区分を保ち、角化嚢胞を除く嚢胞の割合を示した。

つまり: 大きい群ほど嚢胞は多い。それでも、大きさだけで確定はできない。

⑤白い縁取りがあっても、肉芽腫だった

次は白い縁取り。これがあった13病変を組織で確認すると、内訳はこうだった。

嚢胞(原著の呼称)
上皮を伴う肉芽腫

0 2 4 6 8 10 白い縁取りがあった13病変の内訳 5 8 嚢胞(原著の呼称) 上皮を伴う肉芽腫 白い縁取り=radiopaque lamina。縦軸は病変数。嚢胞5病変、上皮を伴う肉芽腫8病変(結果本文)。嚢胞は原著結果本文の呼称。この5病変に角化嚢胞を含むかは、原著に記載がない。

白い縁取りがあった13病変:嚢胞5病変、上皮を伴う肉芽腫8病変。嚢胞は原著結果本文の呼称。この5病変に角化嚢胞を含むかは、原著に記載がない。原著の結果本文に記載された実数で、全93病変の割合を示した図ではない。

白い縁取りがある病変にも、肉芽腫が含まれていた。しかも、この内訳では肉芽腫のほうが多い。著者らは、白い縁取りの有無だけでも、嚢胞と肉芽腫の鑑別には足りないと結論している。

⑥上皮があることと、嚢胞であることも違う

なぜ見た目だけでは分けきれないのか。この研究では、大きさにも白い縁取りにも、嚢胞と肉芽腫の重なりがあった。組織診断では、さらに別の構造を見ている。

原著の嚢胞の診断基準は、上皮の層が腔を示し、その周囲に線維性の被膜があること。一方、肉芽腫は炎症細胞を主体とし、上皮を含むものも含まないものもある。実際に、肉芽腫67病変のうち12病変に上皮が認められた。上皮の存在だけを嚢胞の証拠にはしていない。

また、原著本文で「嚢胞」とまとめられた20病変には、角化嚢胞2病変が含まれている。単純に「歯根嚢胞が20病変」と置き換えると、組織診断の区分を落としてしまう。

⑦明日の臨床へ

この研究が確かめたことは、手術で採取した持続性根尖病変における、X線所見と組織診断の対応だ。ここから先は筆者の臨床的な読みである。再根管治療と手術のどちらを選ぶと治りやすいかを、この研究は比較していない。

  • 画像所見と病名を分けて伝える。「大きな透過像と白い縁取りがある」と説明し、画像だけで「嚢胞です」と確定した言い方に進まない。
  • 大きさだけで、治療方針まで決めない。嚢胞を疑う所見があっても、この結果から「根管治療では治らない」とは判断できない。
  • 採取した組織で、画像の見立てを確かめる。著者らが鑑別の基準に置いたのは病理組織検査だった。これは、診断のためにすべての病変を手術するという提案ではない。
ここだけ、冷静に補助線

対象は、根管治療後に無症状の病変が残り、歯根端顕微鏡手術を受けた単根の前歯。考察では93病変は無症状だったと記載されている。この割合を、すべての根尖病変に当てはめることはできない。採取時に壊れた17検体は含まれず、真性嚢胞とポケット嚢胞は区別していない。著者らも嚢胞の標本数が少ないことを限界に挙げている。

小・中サイズ群の肉芽腫の割合には、結果本文で82%、考察で82.2%という表記差がある。表5の実数は合計51/62病変で、通常の小数第1位への四捨五入なら82.3%となるため、本記事の図にはこの合算値を使っていない。それでも、実際に採取した組織と突き合わせ、大きさや縁取りだけでは決められないと示した点は、画像の説明を見直す手がかりになる。

今日のひとこと

手術で採取した持続性根尖病変では、大きい群ほど嚢胞の割合が高かった。それでも、大きさや白い縁取りだけでは嚢胞と肉芽腫を区別できず、確定には病理組織検査が必要だった。

Çalışkan MK, Kaval ME, Tekin U, Ünal T. Radiographic and histological evaluation of persistent periapical lesions associated with endodontic failures after apical microsurgery. Int Endod J. 2016;49(11):1011-1019. PMID: 26384024. doi:10.1111/iej.12554
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。