保存修復|3種のセラミック × 5種の表面処理剤 × サーモサイクル。ユニバーサルボンドの「シラン」は効いているのか
「ユニバーサルボンドは補綴物の内面にも塗れる」。その根拠のひとつが、ボトルに入ったシランだ。Nodaらは長石系陶材(AAA)・二ケイ酸リチウム(IPS e.max Press)・ジルコニア(Lava)に5種の表面処理剤を塗り、レジンセメントの微小せん断接着強さを比べた。シラン入りユニバーサルボンド(Scotchbond Universal)のe.maxへの初期接着強さは0.5 MPa。他の4剤は31.0〜40.6 MPaだった。同じボンドが、ジルコニアには26.8 MPaで着いていた。
①ユニバーサルボンド1本で、e.maxは着く?
シランもMDPも入っているから、歯にも、セラミックにも、ジルコニアにも1本で塗ってよい。ユニバーサルボンドはそう説明されて広まった。では、その1本を二ケイ酸リチウム(e.max)の内面に塗ったら、どのくらい着くのか。
シラン入りユニバーサルボンド1本では、e.maxにほぼ着かなかった。Nodaら(東京医科歯科大学)の試験で、Scotchbond Universal(SU)を塗ったIPS e.max Pressへの微小せん断接着強さは0.5 MPa。別立てのシラン処理剤や、直前に2液を混ぜる型は31.0〜40.6 MPaだった。同じSUでも、ジルコニア(Lava)には26.8 MPaで着いている。著者らはこの差を、ボトルの中で水と酸性モノマーによりシランが加水分解し、働きを失っていたためと推定している。「ボトルの中のシランは死んでいる」という題は、この推定を本記事で言い換えたものだ。なお試したユニバーサルボンドはSUの1製品で、他社製品を調べた研究ではない。
②なぜ「1本でよい」と言われたのか
シリカ系セラミック(長石系陶材や二ケイ酸リチウム)への接着では、シランカップリング剤(γ-MPTS)が主役になる。加水分解でできたシラノール基が、セラミック表面の水酸基とシロキサン結合をつくる。この反応は酸性条件でさらに活性化される。一方ジルコニアには、MDPのようなリン酸エステル系の酸性モノマーが効く。
だから処理剤には、γ-MPTSと酸性モノマーと溶媒が組み合わせて入っている。ユニバーサルボンドはさらに、歯質へのセルフエッチングのために水を含む。酸性モノマーは水の中でイオン化して初めて歯を脱灰できるからだ。著者らが問題にしたのはここで、水と酸性モノマーが同じボトルにあると、保管中にγ-MPTSが活性化・加水分解されて劣化しうる。この可能性を、実際の接着強さで確かめたのが今回の研究だ。
③3種のセラミック × 5種の処理剤 × 熱負荷
被着体は長石系陶材(AAA)、二ケイ酸リチウム(IPS e.max Press)、ジルコニア(Lava)の3種。表面は1000番の耐水研磨紙で研磨し、リン酸(K-エッチャント)で15秒洗浄した。フッ酸エッチングやサンドブラストは行っていない。処理剤の化学的な効き目だけを見る設計だ。
処理剤は5種。略号は原著のままにする。
- PB:クリアフィル フォトボンド+ポーセレンボンド アクチベーター(2液を直前に混ぜる。水なし)
- SO:クリアフィル SEワン+ポーセレンボンド アクチベーター(1ステップボンドにシラン液を直前に混ぜる。ボンド側に水あり)
- CP:クリアフィル セラミックプライマー(γ-MPTSとMDPが1本に入っているが、水なし)
- UP:トクヤマ ユニバーサルプライマー(2液を直前に混ぜる。主な酸性モノマーはカルボン酸系のMAC-10。表2にはリン酸エステル系モノマーも併記されるが、著者らはカルボン酸系として扱う。水なし)
- SU:スコッチボンド ユニバーサル(γ-MPTS・MDP・HEMA・水が1本に入ったユニバーサルボンド)
処理後にレジンセメント(クラパール DC)の円柱(内径0.8 mm・高さ0.5 mm)を接着し、37℃の水中に24時間置いた。そのうえでサーモサイクル0回、5,000回、10,000回(5℃と55℃)を加えて微小せん断接着強さを測った。各条件n=12。試験前にOCTで界面を確認し、ギャップや気泡のある試料は除いて作り直している。
④e.maxでは、SUだけが0.5 MPa
シラン入りユニバーサルボンド(SU)
SUの試料は、熱負荷の前からすべて界面で破壊していた。そして5,000回と10,000回のサーモサイクル中に、e.maxのSU試料は全部脱離した(測定不能)。長石系陶材のAAAでも同じ傾向で、SUの初期値は7.8 MPa、他の4剤は31.4〜42.3 MPaだった。
⑤熱負荷で全部落ちる。落ち方に差がある
どの処理剤でも、どのセラミックでも、5,000回の熱負荷で接着強さは有意に落ちた。例外はジルコニアに対するPBだけだった。10,000回まで進めると、重合触媒を含まないCPとUPはさらに下がる条件が多く(例外はジルコニアへのCP)、e.maxに対するUPは全試料が脱離した。PBとSOは、5,000回と10,000回のあいだに有意差がなかった。著者らは、重合開始剤を含む処理剤(PB・SO・SU)はセメントと一緒に重合できるが、CPとUPは含まないため、酸性になった表面で化学重合セメントとの相性が悪くなりうる、と考察している。
⑥ジルコニアなら、SUは着く
UP(主にカルボン酸系モノマー)
同じSUが、ジルコニアにはMDP入りの他の3剤と同等に着いた。効いているのはMDPだ。リン酸エステル基がジルコニア表面の水酸基と相互作用する。一方、主な酸性モノマーがカルボン酸系(MAC-10)のUPは、初期値が低めで、10,000回後には2.4 MPaまで落ちた。著者らは、MDPがジルコニアへの接着効率を高める、と述べている。
⑦水を含まない1本型は、なぜ効いたか
CPはγ-MPTSとMDPを1本にまとめた製品だが、e.maxに37.2 MPaで着いている。SUとの違いは水を含まないことだ。水がなければ、保管中に酸性モノマーがγ-MPTSを加水分解することはない。塗布後にセラミック表面に残るわずかな水分で酸性モノマーがイオン化し、そこで初めてγ-MPTSが活性化される、と著者らは説明している。
2液を直前に混ぜるPB・SO・UPも同じ理屈で効く。γ-MPTSと酸性モノマーを別のボトルに分けておけば、混ぜた瞬間から反応が始まるので、劣化する前にセラミック表面へ届く。SUだけが、γ-MPTS・MDP・HEMA・水を1本に入れていた。著者らは、この組み合わせではγ-MPTSが加水分解して劣化し、シリカ系セラミックへの接着を最適化できない、と考察している。原著が引く先行研究では、RelyXセラミックプライマーとSUを混ぜて塗るとSU単独より高い接着強さがe.maxで得られ、フッ酸エッチングの有無にかかわらずその差があったことから、シリカ系セラミックにはユニバーサルボンドの前にシラン処理を行うよう勧めている。
⑧明日の臨床へ
この研究が確かめたことは、シラン入りユニバーサルボンド1本では、研磨したシリカ系セラミックにほとんど着かず、ジルコニアには着くこと。ここから先は、原著の考察と結論を臨床の手順に置き換えた読みだ。
- e.maxや陶材の内面には、別立てのシラン処理を一手足す。セラミックプライマーや、アクチベーターを直前に混ぜる型で処理してから、ボンドやセメントに進む。ユニバーサルボンドのシランは代わりにならない。
- ジルコニアには、MDP入りの処理剤を選ぶ。SUを含め、MDPを含む4剤は同等だった。酸性モノマーの種類を確認する価値がある。
- 「1本で何でも」のラベルより、ボトルの中身を見る。水とシランと酸性モノマーが同居していれば、シランの効きを疑う。水を含まない1本型か、2液を直前に混ぜる型かで、意味が変わる。
接着操作を1つ省くために、シリカ系セラミックへの化学的な接着をまるごと手放すのは割に合わない。この論文の数字は、その判断を後押ししてくれる。
in vitroの微小せん断試験で、各条件n=12。セラミック表面は研磨とリン酸洗浄のみで、臨床で行うフッ酸エッチングやサンドブラストは含まれていない。だから数字は「処理剤の化学的な効き目」であって、臨床プロトコル全体の接着強さではない。原著の序論では、フッ酸エッチングやサンドブラストは微小な機械的嵌合を与える処理と整理されている。セメントは1種類(クラパール DC)で、5剤のうち3剤とセメントは同じメーカーの製品。ユニバーサルボンドはSUの1製品だけで、製品は2016年当時の配合だ。資金源と利益相反の記載はない。それでも、「ボトルの中のシランは効いていない」という機序を、材料の組み合わせで筋道立てて示した点で、明日の内面処理を見直すきっかけになる。
今日のひとこと
シラン入りユニバーサルボンド1本では、研磨したe.maxや陶材にはほぼ着かない(この試験ではSU 1製品で0.5 MPa)。同じボンドがジルコニアには着く。効いているのはMDPで、ボトルの中のシランは働きを失っていたと著者らは推定する。シリカ系セラミックには、別立てのシラン処理を一手足す。


