エンド|根管治療歴のない歯の垂直性歯根破折。歯冠・根管腔・咬耗から診査を考える症例報告
歯冠に亀裂が見えず、根管治療歴もない。それでも歯根は割れていた。Yangらは中国人男性11人・大臼歯12歯を報告し、抜歯した11歯で垂直性歯根破折を確認した。残る1歯は抜歯せず画像所見で判断している。疑う入口はX線上の根管腔の拡大。全歯に中等度〜高度の咬耗があったが、原因は確定していない。
①根管治療をしていない歯でも、根は割れる?
根管治療歴のない奥歯。歯冠に亀裂は見えない。それでも、噛むと痛い、あるいは根の周囲に気になる影がある。そんなとき、垂直性歯根破折を候補に残せるだろうか。
根管治療を受けていない歯にも、垂直性歯根破折は起こる。Yangらが報告したのは、中国人男性11人・大臼歯12歯の症例集積。抜歯した11歯で破折を確認し、残る1歯は抜歯せず画像所見で判断している。「根管治療歴がないから破折ではない」とは言えないことを、実物で示した報告だ。
②歯冠の亀裂と、歯根の破折を分ける
原著が整理する従来の報告では、垂直性歯根破折は主に根管治療後の歯で扱われていた。根管充填時の圧やポスト装着時のくさび作用などが、その原因として挙げられていた。
ただし、ここでいう垂直性歯根破折は、咬合面から亀裂が進むクラックトゥースとは区別される。著者らが先行文献に基づいて定義したのは、歯根に限局する縦方向の破折だ。この報告でも、抜去歯の破折は根管から歯根表面へ達し、頬舌方向に走っていた。
③見つける入口は、根管腔の拡大像
1977〜1992年、台北のVeterans General Hospitalで診断された症例をまとめている。対象は中国人男性11人・大臼歯12歯。いずれも根管治療や補綴治療を受けていなかった。介入や対照群を設けた比較研究ではなく、臨床所見とX線所見を記述した症例集積だ。
破折を疑ったきっかけは、X線上の根管腔の拡大だった。ふだんはX線ではっきり見えにくい下顎大臼歯の近心根管や上顎大臼歯の近心頬側根管が、罹患歯では著しく透過性を増して、あるいは幅広く見えていた。抜歯した歯では、この像と破折が対応していた。
年齢は本文では56〜71歳とされる。ただし表1では、患者A〜Cの年齢は情報なしとなっている。全員の年齢が表にそろっているわけではない。
④下顎大臼歯の近心根に集中していた
上顎大臼歯・近心頬側根
目を引くのは、根の偏りだけではない。歯冠に亀裂は見られず、全歯に中等度〜高度の咬耗があった。小さなアマルガム修復があったのは2歯だった。「歯冠に亀裂なし・全歯に咬耗あり」という組み合わせだ。
なお、表1では患者Gの2歯がともに歯番号19と記載される一方、図2の説明では右と左の下顎第一大臼歯になっている。左右別の内訳は補正せず、図では上下顎と罹患根の区分にとどめた。
⑤EPTに反応した歯もあった
症状は一様ではない。無症状から、温度刺激への過敏、咀嚼時痛、持続痛まで幅があった。電気歯髄診(EPT)の記録を見ると、破折を疑った歯の中には反応する歯も含まれていた。
EPT反応なし
EPT情報なし
原著本文は「11歯中5歯にEPTを行った」と記すが、表1は12歯分あり、陽性4歯・陰性1歯・情報なし7歯となる。図は表の記載をそのまま集計した。本文の分母11歯と表の12歯は一致しないため、検査実施率は示さない。
ほかにも、表1の患者Jでは近心頬側に10 mmのプロービング深さが記録されている。一方、患者Fでは臨床症状も深いプロービング所見もなかった。瘻孔は2歯に記載され、一部には根尖部透過像や歯根吸収もあった。どれか一つの症状だけで、この症例群を言い表すことはできない。
⑥咬耗は共通していた。原因は確定していない
全歯に咬耗があったなら、強い咬合力が原因だったのか。著者らも食習慣や加齢に伴う咬耗を考察している。ほかに歯の形態、歯根の湾曲、遺伝的な素因、象牙質コラーゲンの架橋の変化などを可能性として挙げた。
ただし、いずれも原因を確かめた結果ではない。著者ら自身が、より詳しい病歴と臨床記録を集める前に結論を出すべきではない、と留保している。咬耗は共通所見、原因は確定していない。ここは切り分けて読みたい。
⑦明日の臨床へ
この研究が確かめたことは、根管治療歴のない大臼歯でも、抜歯後に垂直性歯根破折を確認した例があること。ここから先は筆者の臨床的な読みであり、診断手順の有効性を検証した結果ではない。
- 根管治療歴がなくても、破折を候補に残す。歯冠に亀裂が見えないことやEPTの反応だけで、今回のような破折を候補から外さない。
- 根尖の影だけでなく、根管腔の見え方にも目を向ける。この報告で疑う入口になったのは根管腔の拡大像だった。ただし、この像だけで診断できるかは調べていない。
- 所見を組み合わせて読む。咬耗、症状、プロービング、瘻孔、X線所見を照らし合わせる。症状やプロービングなどの所見は一様ではなく、咬耗だけで破折とは言えない。
根尖部に透過像があるときも、その歯に何が起きているのかを問い直す。根管治療歴の有無だけでは見えなくなる、歯根そのものの破折がある。
中国人男性11人・大臼歯12歯の症例集積で、抜歯による確認は11歯。一般集団での発生率、性別や集団間のリスク差、各診査の感度・特異度は求められない。原因も確定していない。年齢の欠測、患者Gの歯番号、EPTの分母には上記の記載上の限界がある。それでも、根管治療歴のない歯でも、歯根の破折を考える余地があると示した点は、診査の視野を広げてくれる。
今日のひとこと
根管治療歴がなく、歯冠に亀裂が見えない歯でも、垂直性歯根破折は起こる。この症例集積では根管腔の拡大像が疑う入口になったが、発生率や診断精度を示した研究ではない。


