エンド|ポストの研究が「抜けにくさ」ばかりを測ってきた時代に、支えている側(象牙質と骨)にかかる応力を可視化した研究(著者らは、それを記述した先行研究は見当たらないと書いている)。UCLAのStandleeらが、3種のポストを3つの長さで作り、光弾性樹脂に埋めて偏光で応力を見た(Standlee・Caputo・Collard・Pollack 1972・Oral Surg Oral Med Oral Pathol)
支台築造でポストを選ぶとき、判断の軸はたいてい「抜けにくさ」です。平行ポストは維持力が高い、テーパーは合着しやすいがいちばん抜けやすい、ねじ込みは最も維持力があるが技術的に難しい——ここまでは1960年代までの研究で出ていました。しかしStandleeらは論文の冒頭で、ポスト冠は75年使われてきたのに「これらの装置が支えている組織(象牙質と骨)に何をしているか」を記述した研究は見つからないと書いています。そこで彼らが持ち込んだのが光弾性法です。偏光の下で応力に応じた縞(フリンジ)を出す透明樹脂PL-1(報告されている象牙質の弾性係数の下限域に入る材料)を2×2インチの板に切り、上顎中切歯の平均根長13.0 mmに合わせて模擬根管を穿ち、ガッタパーチャの代わりに透明なウレタン系エラストマーを充填。そこへ①滑面テーパー(先端径1.4 mm)②滑面平行(1.4 mm)③ねじ込み(1.5 mm)の3種を、それぞれ4・7・10 mmの長さで合着し、上に銀の円筒冠を被せて歯冠長10.0 mmを再現しました。荷重はBrumfieldの上顎中切歯の値に従い、舌側から26度で30ポンド、圧縮27ポンド、せん断13.5ポンド。結果は形ごとに応力の置き場所が違いました。合着そのものが応力を生むのは平行ポストで、7・10 mmでは根尖に7〜11次のフリンジが出た(4 mmでは3〜4次)。ねじ込みは正しくタップを使えば残留応力はほぼ無いのに、手順を誤ると10次に達し、試験体に亀裂が入りタップが折れた。荷重時は、斜め26度で唇側の応力がテーパー>ねじ込み>平行の順。せん断では7・10 mmのテーパー・平行が肩部3〜4次で済むのに対し、4 mmでは肩部と反対側の根尖に非常に高い応力が出てポストが脱離し、ねじ込みは長さにかかわらずカウンターシート周囲に5〜8次を出しました。著者らの結論は「応力分布の面から見て、ポスト長は解剖学的歯冠長と同程度以上にすべきという臨床の定石は正しいと考えられる」。ただし非解剖学的な樹脂ブロックでの光弾性解析であり、歯根形態・歯根膜・失活象牙質の性質は再現していません。
①「ポストは長いほうがいい」——その根拠を、どこで習いましたか
支台築造でポストの長さを決めるとき、多くの人が「解剖学的な歯冠の長さと同じくらい」を目安にしています。では、その目安はどこから来たのか。維持力の実験からではありません。
1972年、UCLAのStandleeらは論文の1行目でこう書いています。歯科はポスト冠を75年使ってきたが、研究はほとんど維持形態・維持に最適な長さ・製作手技ばかりを扱ってきた。これらの装置が支えている組織(象牙質と骨)に何をしているのかを記述した研究は見つからない——と(この「見つからない」は著者ら自身の文献調査に基づく記述です)。結論を先に言えば、どの荷重様式でもポストが短いほど応力集中は増え、原著はその集中が「とくに肩部(ショルダー)で目立った」と述べています。そして形の違いは「強さ」ではなく「応力をどこに置くか」を変えていました。
②当時わかっていたのは「抜けにくさ」だけだった
1960年代までに、3つのポスト形態の長所と短所はほぼ整理されていました。
並べてみると、すべて「引き抜く力にどれだけ耐えるか」の話です。ところが臨床で困るのは、抜けることよりも歯根が割れることではないでしょうか。維持ピンの研究(Caputoら、Standleeら)では、すでに支持組織の応力分布を知ることが設計上きわめて重要だと指摘されていました。同じ視点をポストに持ち込む——それがこの研究の出発点です。
③今回の一手:応力を「見る」ために、歯の形を捨てる
著者らが使ったのは光弾性法です。透明な樹脂の中に応力が生じると、偏光の下で縞(フリンジ)が現れる。この縞の本数=フリンジ次数が応力の目安になります。
ポストは3種×3長さ。滑面テーパー(先端径1.4 mm)、滑面平行(1.4 mm)、ねじ込み(1.5 mm)を、それぞれ4・7・10 mmで用意し、各条件につき模型を2個作っています。リン酸亜鉛セメントで合着し、咬合面から4 mm突出させたポストの上に鋳造銀の円筒冠を被せて、歯冠長10.00 mmを再現しました。つまり「10 mmのポスト=歯冠長と同じ」という比較になります。
荷重はBrumfieldの上顎中切歯の値をそのまま使い、舌側から26度・30ポンド、それを分解した圧縮27ポンドとせん断13.5ポンドの3様式。円偏光・水銀グリーンの単色光下で3倍に拡大して撮影しています。
④結果:まず、合着そのものが応力を生んでいた
いちばん意外なのは、荷重をかける前の話です。ポストを入れた時点で、もう応力が生まれている。しかも形によってまるで違いました。
平行ポストは、合着中にポストが「跳ね上がって」窩洞から浮き上がるため、指で押さえ続ける必要がありました。その結果、7 mmと10 mmでは根尖に7〜11次という高いフリンジが出ています。4 mmでは3〜4次にとどまりました。著者らはこれを、セメントの静水圧的な背圧によるおそらく(probably)の結果だと述べ、そのうえで合着時の圧力が、この型のポストが生む根尖の装着応力の多くの原因かもしれない、平行ポストにはベント(逃げ道)を設ける設計が望ましいかもしれないと続けています(後の2つは原著でmayです)。
テーパーポストは、装着時の応力が3種で最も少なく、長さが増えても変わりませんでした(この点について原著は数値を示していません)。ねじ込みポストについては、2つの別々の観察が書かれています。ひとつはタップを正しく使えば有意な残留応力は生じなかったこと。もうひとつはポストを合着したとき、ポスト根尖部と咬合面側のカウンターシンクで2次という低い応力にとどまったことです。ただし条件付きでした。タップを2回転ごとに抜いて切りくずを掃除しなければ、応力は10次に達し、試験体に亀裂が入り、タップそのものが折れました。さらに、カウンターシンクの長軸と窩洞の長軸が一致していないと、着座の瞬間にカウンターシート周囲に極端に高い応力が出ます(この論文では軸が一致した試験体だけを解析に使っています)。
次に荷重時です。舌側から26度の荷重では、舌側の応力はごくわずかで、応力は唇側に集中しました。その大きさはテーパー>ねじ込み>平行の順で、テーパーが最大。ところが根尖を見ると順序が逆転し、テーパーとねじ込みが2〜3次、平行が3〜5次でした。同じ荷重でも、形によって応力の溜まる場所が入れ替わるわけです。
圧縮荷重では、3種すべてで、短くなるほど応力集中が増えました。平行は肩部と根尖の両方で増加。テーパーは肩部に最大の応力が出て、シャフトに沿って低次のフリンジが並び——これは楔(くさび)として働いている証拠です。ねじ込みはカウンターシート近くに高い応力が出ました。
せん断でも、長いポストのほうが応力を均等に配るという同じ傾向でした。7 mmと10 mmのテーパー・平行は肩部で3〜4次、シャフトで1〜2次。ところが4 mmでは肩部と、反対側の根尖に非常に高い応力が生じ、ポストが脱離しました。ねじ込みは長さにかかわらずカウンターシート周囲に5〜8次を生じているように見えた、と原著は書いています。なお重複して作った模型の間に、測定できる差はありませんでした。
⑤なぜ「長さ」が効き、「鋭い角」が悪いのか
理屈は単純です。ポストが受けた力は、どこかで象牙質に受け渡さなければなりません。受け渡す面積が広ければ応力は薄く分散し、狭ければ一点に集まる。長いポストはシャフト全体で少しずつ力を渡せるので、肩部に回る分が減ります。短いポストは渡す面が足りないぶん、肩部に皺寄せが行く——原著が一般化しているのはここまでで、「とくに肩部で目立った」という書き方です。根尖まで一緒に上がるのは、圧縮時の平行ポストと、せん断時の4 mmという条件付きの所見でした。
面白いのは、ねじ込みポストが4 mmという短さでは3種の中で最も均等に応力を配ったことです。著者らはこれを、ねじ山がシャフト全長で均等に噛むことで肩部から応力を引き剥がしているためだろうと述べています(原著はprobablyと書いています)。つまりねじ山は、短いポストの弱点をシャフト側で補う仕掛けでもあるわけです。ただし同じねじ込みが、肩のカウンターシンクを完全に噛ませると高い応力を生む。良い面と悪い面が同じ構造から来ています。
そしてもう1つ、著者らが結論に置いたのが鋭い角です。咬合面側の肩に鋭い角やカウンターシートがあると、機能時の応力がそこに集まる。テーパーポストの楔効果も、肩部に力を押し広げる方向に働きます。形態が生む応力集中は、材料の強さでは相殺できません。
⑥明日の臨床へ:形で「弱点の場所」を選んでいる
著者ら自身、これらのデータは歯根形態と失活歯の象牙質の脆さかもしれない性質を考慮して読むべきだと書き添え、その変数を評価する研究を進めていると述べて論文を閉じています。
⑦ここだけ、冷静に補助線
非解剖学的な樹脂ブロックでの光弾性解析です。歯の形を捨てたのは比較を成立させるための意図的な設計ですが、その代償として歯根形態・歯根膜・歯槽骨・失活象牙質の性質はどれも再現されていません。この研究が示したのは「同じ条件なら、形と長さで応力分布がこう変わる」という相対的な地図で、臨床の破折リスクそのものを測ったわけではありません。
数値の扱いにも注意が要ります。フリンジ次数は応力の目安で、MPaのような絶対値ではありません。また各条件の模型は2個で、統計解析はありません(重複模型の間に測定可能な差はなかったと記述されています)。テーパーの装着時応力や、4 mmで脱離したときの応力は「最も少ない」「非常に高い」という記述で、数値が出ていない箇所もあります。
なおこの1972年の論文には資金源・利益相反の開示がありません。脚注では光弾性樹脂PL-1・テーパーポスト・ねじ込みポスト・ガッタパーチャを模したエラストマー・リン酸亜鉛セメントのメーカーが名指しされており、試験されたポストはいずれも特定メーカーの市販品です。当時の慣行とはいえ、材料を比べた研究として読むときには頭に置いておく価値があります。
それでも、この1972年の論文が半世紀引用され続けているのは、「ポストの良し悪し」という問いを「応力をどこへ逃がすか」という問いに置き換えたからだと思います。維持力の表からは決して出てこない視点です。材料がファイバーとレジンに替わっても、長さと角が応力を決めるという幾何の話は古びません。
今日のひとこと
著者らの結論:ポスト長は解剖学的歯冠長と同程度以上にするという臨床の定石は、応力分布の面からも支持される。どの荷重様式でもポストが短いほど応力集中が増え、原著はその集中がとくに肩部(ショルダー)で目立ったと述べている。形は「応力をどこに置くか」を変える——ねじ込みは短いときは最も均等に配るが、肩のカウンターシートを完全に噛ませると高い応力を生む。テーパーは楔のように働き肩部の応力が最大。平行は根尖の応力が最大で、鋭い角は荷重時にポスト肩の下へ応力を集める。筆者の読みでは、この論文の値打ちは「どのポストが強いか」ではなく「どの形を選ぶと、どこが弱点になるかが決まる」という地図を最初に描いた点にあります。ただし非解剖学的な樹脂ブロックでの光弾性解析で、歯根形態・歯根膜・失活象牙質の脆さは再現しておらず、著者ら自身がその点を次の課題として挙げています。


