保存修復|劣化させたコンポジットレジンへのリペア接着強さについて、表面処理の組み合わせを比べた実験室研究(in vitro)26本のシステマティックレビュー+ネットワークメタ解析(Hadilou ほか 2022・BioMed Research International)
古いCRの一部が欠けた、辺縁が着色した。全部やり直すか、悪いところだけリペアするか。リペアを選んだとき次に迷うのが「古いCRの表面をどう処理するか」です。イラン・タブリーズ医科大学のグループは、リペアの前後に温度サイクルや水中保管で劣化させた実験室研究26本を集め、ネットワークメタ解析で表面処理を並べました。ダイヤモンドバー単独と比べ、バーで荒らした後にシランとボンド(セルフエッチ系でもトータルエッチ系でも)を使う組み合わせが、引張でもせん断でも上位に入りました。セルフエッチ系とトータルエッチ系のボンドに差はありませんでした。ただし、すべて実験室の接着強さの話で、研究間のばらつき(異質性)は大きく、シランを足す効果は比較によって結果が割れています。
①古いCRのリペア、表面はどう処理する?
数年前に入れたCRの一部が欠けた、辺縁だけ着色した。全部外して詰め直すより、悪いところだけリペアする選択肢は、健全歯質を削らずに済むぶん魅力的です。ただ、いざリペアとなると迷います。バーで荒らすだけでいいのか。サンドブラストが要るのか。シランは塗るべきか。ボンドはセルフエッチ系かトータルエッチ系か。
この論文は、その表面処理を実験室研究26本のネットワークメタ解析で並べました。結論を先に言うと、ダイヤモンドバー単独と比べ、バーで荒らした後にシランとボンドを使う組み合わせが、引張でもせん断でも上位に入り、セルフエッチ系とトータルエッチ系のボンドには差がありませんでした。すべて抜去歯や試料を使った実験室の接着強さの話である点は、最初に押さえておきます。
②なぜ古いCRには付きにくいのか
著者らは先行研究を引いて、古いCRにはリペアの接着を邪魔する要因があると整理しています。口の中で水を吸って構造が劣化すること。そして、詰めた直後なら表面に残っている未反応のモノマーを含む表層(酸素阻害層)が、時間がたつと失われて化学的に反応しにくくなることです。そこで、表面を荒らして機械的にかみ合わせる処理と、ボンドやシランで化学的に付ける処理が、いろいろ組み合わされてきました。
著者らによれば、それまでで最も新しいメタ解析(Valente ほか 2016)は、主に24時間〜2週間の短い水中保管で劣化させた研究にもとづいていました。長期の接着を見るには厳しい劣化条件が要る。そして表面処理どうしを直接比べた試験は少ない。そこで、直接比較がない処理どうしも間接的に比べられるネットワークメタ解析を使った、というのが今回の出発点です。
③今回の解析:劣化させた実験を26本集めて並べた
対象:直接・間接のメタクリレート系CRを、リペアの前と後の両方で劣化させた実験室研究(温度サイクル5000回以上、または水中保管4週以上)。シロラン系・レジンナノセラミック・UV劣化などは除外。英語論文のみ。
比べた処理:ダイヤモンドバー、アルミナのサンドブラスト、シリカコーティングアルミナのサンドブラスト、耐水ペーパー、レーザー、アルゴンプラズマといった機械的な処理と、シラン・ボンドなどの化学的な処理の組み合わせ。対照はダイヤモンドバー単独(臨床でよく使うため)。リン酸は表面の清掃目的とみなし、表面処理には数えていない。
アウトカム:リペア接着強さ(引張・せん断。微小引張・微小せん断を含む)。
方法:4つのデータベースを2022年7月7日まで検索。5,251件から189本を全文精査し、26本を採用(2007〜2022年、1群5〜66試料)。頻度論的ネットワークメタ解析(ランダム効果モデル)で、ダイヤモンドバー単独との平均差(MD)と95%信頼区間を出し、処理の順位はPスコアで示した。せん断のネットワークに28処理、引張のネットワークに27処理が入った。
26本の内訳は、微小引張が10本、微小せん断が4本、せん断が11本、引張が1本でした。
④結果:バー+シラン+ボンドがバー単独より約32〜39MPa高かった
抄録で著者らが挙げた数字は次のとおりです。ダイヤモンドバーで荒らした後に、
・シラン+トータルエッチ系ボンド:せん断 MD 32.35 MPa(95%CI 18.25〜46.40、Pスコア 0.95)/引張 MD 33.25 MPa(95%CI 25.07〜41.44、Pスコア 0.77)
・シラン+セルフエッチ系ボンド:せん断 MD 38.87 MPa(95%CI 21.60〜56.14、Pスコア 0.99)/引張 MD 32.52 MPa(95%CI 23.74〜41.29、Pスコア 0.73)
・セルフエッチ系とトータルエッチ系のボンドの間:差なし
一方、バーで荒らしてボンドだけを使った場合は、引張ではMD 23.39(セルフエッチ系)と30.14(トータルエッチ系)と上がっていましたが、せん断では10.74(95%CI 0.30〜21.18)と5.95(95%CI −2.88〜14.77)にとどまり、トータルエッチ系は信頼区間が0をまたぎました(図3は符号が逆向きで表示されているため、向きを揃えて記載)。処理なし(MD −1.43)と耐水ペーパー単独(MD −1.17)は、引張でダイヤモンドバー単独と変わりませんでした。
⑤順位の読み方:Pスコアは「差の大きさ」ではない
Pスコア(表2)で見ると、せん断ではバー+シラン+セルフエッチ系(0.9946)、バー+シラン+トータルエッチ系(0.9552)、レーザー+シラン+トータルエッチ系(0.9288)が上位3つ。引張では、比較の基準として入れた「凝集強さ(修復材そのものの強さ)」(0.9627)の次に、サンドブラスト+フロアブルレジン(0.9357)、バー+サンドブラスト+シラン+トータルエッチ系(0.8707)、シリカコーティングのサンドブラスト+シラン+トータルエッチ系(0.8605)が並び、バー+シラン+トータルエッチ系は5位(0.7727)、バー+シラン+セルフエッチ系は7位(0.7369)でした。
Pスコアは、その処理がほかより上位である確からしさを0〜1で表した確率的な順位です。1位と5位の間に意味のある差があることや、有意差があることを示すものではありません。実際、引張で上位に入った処理のダイヤモンドバー単独との平均差は、おおむね32〜41MPaの範囲に並び、信頼区間も大きく重なっています。著者らが「バー+シラン+ボンド」を結論に据えたのは、両方のネットワークで上位にあり、しかも追加の機器がいらないためです(後述)。
もう1つ、上位の組み合わせでも、引張ではまだ凝集強さより低かったと著者らは述べています(セルフエッチ系で10.25 MPa、トータルエッチ系で9.25 MPa低い〔9.25は原著本文の値。図4の数値から計算すると9.52〕。95%CIはそれぞれ1.18〜19.33、1.20〜17.84)。古いCRへのリペア接着には改善の余地がある、という読みです。
⑥シランは主役か?——結果は割れた
「バー+シラン+ボンド」が上位と聞くと、シランが決め手に見えます。ところが著者ら自身の整理では、そこは単純ではありません。
・引張では、ボンドやシランなどの化学的な処理を足すと接着強さが有意に上がった:12比較中8比較で有効、4比較で差なし
・シランだけを足した群と足さない群の比較は、結論が割れた:せん断・引張あわせて18比較中、10比較で差なし、8比較でシラン側が有利
・シラン専用のメタ解析については、劣化したCRのサブグループでは差がなかったというMendesらの結果を引き、「ボンドと一緒に使うシランの上乗せ効果は小さいようだ」と述べている
一方、図の数字を見ると、せん断ではバーで荒らしてボンドだけを足した場合の上乗せは小さく(セルフエッチ系 MD 10.74〔95%CI 0.30〜21.18〕、トータルエッチ系 MD 5.95〔95%CI −2.88〜14.77〕で有意差なし)、シランを併用した群のほうが大きい値でした(セルフエッチ系 MD 38.87、トータルエッチ系 MD 32.35。バー+シランだけでもMD 24.43で、せん断のPスコア4位)。つまり、引張ではボンドなどを足すと上がり、せん断ではバー+ボンドだけの上乗せは小さく、シランを併用した群が大きかった。ただしシランの上乗せ効果は、比較によって結論が割れた、というのがこの論文の中身です。著者らは、シランは表面のぬれを良くし、露出したフィラーと化学的に結合することで接着を助けうると説明しています。
⑦明日の臨床へ
著者らの考察:80%を超える歯科医師が、リペアにも再修復と同じ表面処理(ダイヤモンドバーで荒らし、エッチングしてボンド)を使う傾向があるという調査(ノルウェー)を引き、バー+シラン+ボンドは入手しやすく、手軽で、費用が低く、追加の機器がいらないため最も実用的だと述べている。一般的な診療設備で許容できるリペア接着強さが得られるので、古いCRは再修復よりリペアを検討してよい、とも書いている。
補足(筆者の読み):
・ダイヤモンドバー、ボンド、シランはどの医院にもそろっている材料です。実験室の接着強さでは、荒らした後に化学的な処理まで組み合わせた群が上位でした。
・実験室の接着強さでは、セルフエッチ系とトータルエッチ系のボンドで差は示されませんでした(著者ら)。普段使っているボンドの系統を無理に変えなくてもよさそう、とは読めますが、根拠は補足資料のリーグ表にもとづく一文で、信頼区間も広いので、あくまで目安です。
・シランは、せん断ではシランを併用した群が大きい値でしたが、シランを足した効果そのものは比較によって割れました。
・「リペアを検討してよい」は著者らの考察です。この解析は接着強さを比べたもので、リペアと再修復の臨床成績(脱離・二次う蝕・寿命)は比べていません。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:劣化させたCRのリペアでは、ダイヤモンドバーで荒らした後にシラン+ボンド(トータルエッチ系またはセルフエッチ系)を使う組み合わせが、引張・せん断のどちらのネットワークでも接着強さを上げる最も効率的な方法に入り、セルフエッチ系とトータルエッチ系に差はなかった。機械的な処理には化学的な処理を組み合わせるべき、としている。ただしこれは実験室の接着強さの比較で、異質性が大きく(I²=82.4%・94.7%)、多くの比較は1本の研究にもとづき、エビデンスの確実性(GRADEなど)の評価は行われていない。Pスコアは「上位である確からしさ」の順位で、差の大きさそのものではない。リペアと再修復の臨床成績は、この解析では比べていない。


