1問1答 論文 保存修復

縁が密着していれば、窩洞の中も大丈夫?——牛の歯の窩洞では、隙間は縁より窩底で長くなりやすく、リン酸なしの群では歯根部の窩底が歯冠より長いと報告(OCTで見た実験室研究)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|歯冠と歯根に作った窩洞の、どこに隙間ができるのか。リン酸の前処理の有無も含め、牛の切歯で光干渉断層計(SS-OCT)を使って追いかけた実験室研究(Alshahni ほか 2019・Dental Materials Journal)

レジン充填の縁がぴったり合っていると、窩洞の中まで密着していると思いたくなります。けれど、窩洞の中は外から見えません。東京医科歯科大学・岡山大学などのグループは、牛の切歯の歯冠と歯根に小さな窩洞を作ってレジンを詰め、光干渉断層計(SS-OCT)で壊さずに隙間の長さを測りました。結果は、隙間は多くの条件で縁より窩底で長く、平均値は主に温度サイクルの後に伸び、リン酸を使わない群では歯根部の窩底が歯冠より長いと著者らは報告しています(24時間後は歯冠の歯頸側のほうが長い)。セルフエッチングボンドの前にリン酸を足しても、隙間の長さは全体として有意には変わりませんでした。

論文
Cavity adaptation of composite restorations prepared at crown and root: Optical assessment using SS-OCT
著者
Rima Zakzuk Alshahni, Yasushi Shimada, Yuan Zhou, Masahiro Yoshiyama, Alireza Sadr, Yasunori Sumi, Junji Tagami(東京医科歯科大学/岡山大学/ワシントン大学/国立長寿医療研究センター)
掲載
Dental Materials Journal 2019;38(5):779-789. DOI: 10.4012/dmj.2018-265
種類
実験室研究(in vitro)。牛の切歯20本の歯冠中央1/3・歯冠の歯頸側1/3・歯根の歯頸側1/3に直径2mm・深さ2mmの窩洞を作り、クリアフィル SEボンドのみ(10本)と、リン酸エッチングを追加(10本)の2群でフロアブルレジンを充填。24時間後・温度サイクル5,000回後・さらに水中2か月後に、SS-OCTで縁・DEJ・窩底の隙間の長さを測定
PMID
31341148

縁がぴったりなら、窩洞の中も密着している?

レジンを詰めて研磨し、探針で縁をなぞって段差がない。ここまで確かめると、窩洞の中まで密着している気持ちになります。けれど、窩洞の中は外から見えません。

この論文は、その「見えないところ」を光で覗きました。牛の歯で調べたところ、隙間は多くの条件で縁より窩底で長く、平均値は主に温度サイクルの後に伸びた。リン酸を使わない群では、2か月後の平均値で歯根部の窩洞の窩底が最も長くなりました。

なぜ「場所」で違いうるのか

レジンは固まるときに縮みます。その力で、歯との境目に隙間ができることがあります。隙間のでき方は、窩洞の作り方、レジンや接着材の種類、そしてどこに詰めるかで変わると報告されてきました。

歯の構造は場所で違います。著者らが引用する先行研究では、歯頸部のエナメル質は炭酸塩を多く含んで歯冠中央より硬さが低く、象牙細管の数や太さも歯冠と歯根で異なります。それでも、歯の部位ごとの接着のふるまいは十分に調べられていなかった、と著者らは述べています。

そこで使ったのが、光干渉断層計(SS-OCT)です。近赤外光で断面像を撮るので、試料を切らずに同じ窩洞を何度でも観察できる。時間とともに隙間がどう変わるかを、同じ窩洞で追いかけられます。

今回の実験:部位3か所×前処理2通り×3時点

実験の骨格:ひびのない牛の切歯20本を研磨して平らな面を作り、1本に3か所、直径2mm・深さ2mmの丸い窩洞を形成。
部位3か所:歯冠の中央1/3、歯冠の歯頸側1/3、歯根の歯頸側1/3。
前処理2通り:クリアフィル SEボンドをそのまま使う群(10本)/先にリン酸(Kエッチャント)で窩洞を20秒処理してから同じ手順を行う群(10本)。
充填:フロアブルレジン(エステライト フロークイック A2)を一括で詰め、600 mW/cm²で20秒照射。
評価:37℃の水中24時間後、温度サイクル5,000回(5℃と55℃)後、さらに水中2か月後に、SS-OCTで縁・DEJ(エナメル象牙境)・窩底の隙間の長さを測定。各群6本は最後に切断し、共焦点レーザー顕微鏡の像と照合。

OCTで測った隙間の長さは、切断して顕微鏡で測った値と強く相関していました(R²=0.958)。ただし回帰式の傾きは0.53で、値そのものが一致したわけではありません。この測り方の上で、結果を見ていきます。

結果1:隙間は窩底で長く、主に温度サイクルの後に伸びた

0 150 300 450 窩底の隙間の長さ (µm) 37.6 106.6 136.3 93.5 197.8 303.6 73.1 312.1 374.2 歯冠の中央1/3 歯冠の歯頸側1/3 歯根の歯頸側1/3 24時間後 温度サイクル5,000回後 さらに水中2か月後 表2の平均値(リン酸なし=SEボンドのみの群・各10窩洞・牛の切歯)。濃い棒から順に24時間後/温度サイクル後/2か月後。24時間後は歯冠の歯頸側が歯根より長い。著者らは窩底で歯根部が歯冠の2部位より長いと報告(表の記号上、他の2部位より有意に長いのは温度サイクル後だけ。リン酸群では部位差なし)
リン酸を使わない群(SEボンドのみ)の、窩底の隙間の長さ(µm・表2の平均値)。各部位とも左から24時間後/温度サイクル後/水中2か月後

リン酸を使わない群の窩底では、24時間後から2か月後にかけて平均値が、歯冠中央で37.6→136.3 µm、歯冠の歯頸側で93.5→303.6 µm、歯根で73.1→374.2 µmと伸びました(表2の記号では、主に24時間後→温度サイクル後で差があり、その後の2か月では有意な伸びはない)。この群について著者らは本文で、窩底の隙間は歯根部が歯冠の2部位より長かったと、時点を区別せずに報告しています。ただし24時間後の平均値は歯冠の歯頸側(93.5)のほうが歯根(73.1)より長く、表2の記号で歯根が他の2部位より有意に長いのは温度サイクル後だけです。2か月後の歯冠の歯頸側(303.6)との差は、記号上は有意ではありません。縁とDEJでは部位による有意差はありませんでした。一方リン酸を追加した群では、DEJと窩底で部位による有意差はありませんでした(縁では、歯冠中央が24時間後と温度サイクル後に短かった)。

窩洞の中の場所で比べると、歯冠の歯頸側と歯根の窩洞では、両群とも縁の隙間が窩底より、おおむね有意に短かった(原著の表現は「全体として」)。例えばリン酸を使わない群の2か月後は、歯根の窩洞で縁57.3 µmに対し窩底374.2 µm です。ただし歯冠中央の窩洞では、この差が有意だったのは24時間後(両群)とリン酸群の温度サイクル後だけで、2か月後にはどちらの群も有意差がありませんでした。

もう一つ、エナメル質と象牙質の境目(DEJ)に沿ったエナメル質の剥がれも、多くの画像で見えました。この剥がれは、3時点とも歯冠中央より歯冠の歯頸側で有意に大きかったと報告されています。

結果2:リン酸を足すと、隙間は減った?

0 200 400 600 2か月後の隙間の長さ (µm) 36 25 74 62 57 70 78 106 78 177 136 173 304 371 374 461 歯冠中央 歯冠歯頸側 歯根 DEJ歯冠中央 DEJ歯冠歯頸側 窩底歯冠中央 窩底歯冠歯頸側 窩底歯根 SEボンドのみ リン酸を追加 表2の2か月後の平均値(全8部位を掲載・各10窩洞・小数点以下を四捨五入)。濃い棒=SEボンドのみ、淡い棒=リン酸を追加。2か月後に両群で有意差があったのは歯冠歯頸側の縁だけ(SEボンドのみが長い・表4C)。歯根の窩洞にDEJは無い
水中2か月後の隙間の長さ(µm・表2の平均値を四捨五入)。各部位とも左がSEボンドのみ、右がリン酸を追加

平均値だけを見ると、2か月後の窩底とDEJではリン酸を追加した群が長めです。けれど、処理どうしで隙間の長さを全体比較した検定では、3時点とも有意差はありませんでした(p=0.187、0.584、0.949)。部位ごとの比較で有意差が出たのは次の4か所だけです。

部位ごとに有意差があった比較(表4C)
・リン酸群のほうが長い:歯根の窩底(24時間後)歯根の縁(温度サイクル後)
・SEボンドのみのほうが長い:歯冠中央の縁(温度サイクル後)歯冠の歯頸側の縁(2か月後)
・それ以外の部位・時点では有意差なし

エナメル質に囲まれた縁ではリン酸群が短く、象牙質の歯根では長い、という方向の違いが一部で見えた、と読めます。

DEJに沿ったエナメル質の剥がれは、2か月後にリン酸群のほうが有意に大きく(p=0.001)、24時間後(p=0.069)と温度サイクル後(p=0.058)は有意差なしでした。時間による増え方も、SEボンドのみの群では有意でなく(p=0.208)、リン酸群では有意でした(p=0.006)。

なぜ窩底と歯根なのか(著者らの推察)

窩底の隙間が長くなった理由を、著者らは重合収縮の応力とCファクターで説明しています。今回の窩洞のCファクターは約3.8だったと述べていますが、そのデータは示されていません。

歯根部の窩底で長かった理由として、著者らは先行研究を引き、歯根や歯頸部の象牙質では象牙細管が少なく細いため、レジンが染み込みにくいのではないかと推察しています。

リン酸の影響については、エナメル質の縁ではエッチングでエナメル質への接着が良くなるという先行研究と、象牙質ではリン酸の前処理で窩底の隙間が増えたという先行研究を挙げ、今回の結果もそれに沿うと述べています。DEJはミネラルが少なく有機質が多いため、リン酸で脱灰されやすいのではないか、というのも著者らの推察です。いずれも、この研究で直接確かめたものではありません。

明日の臨床へ

著者らの結論:SS-OCTでレジン修復まわりの隙間を壊さずに検出できた。リン酸の前処理は、窩洞の窩底とDEJの隙間を増やした。
補足(筆者の読み):
・縁がきれいに仕上がっていても、窩底には隙間がありうる、という前提で見ておきたいところです。今回は深さ2mmの小さな窩洞でも、窩底の隙間は縁より長くなりやすく、平均値は主に温度サイクルの後に伸びました。
・歯根面の窩洞は、窩底の隙間が大きくなりやすかった部位です。根面う蝕の充填など、歯根の象牙質が主体の窩洞では意識しておきたいところです(ただし牛の歯根を研磨した面での結果で、う蝕のある象牙質や硬化象牙質は調べていません)。
・リン酸を足すかどうかは、この研究だけでは決めにくい結果でした。全体比較では有意差がなく、エナメル質の縁と歯根の象牙質とで向きが違う比較もありました。また、この研究は窩洞全体をリン酸で処理しており、エナメル質だけを選んでエッチングする方法は比べていません
いずれも牛の歯を使った実験室の結果で、脱離や二次う蝕など臨床の予後との関係は示されていません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、牛の切歯を使った実験室研究で、1群10本です。窩洞は研磨した平らな面に作った直径2mm・深さ2mmの丸い形で、実際の窩洞の形や咬合の力は再現していません。第二に、接着材(クリアフィル SEボンド)とレジン(フロアブル1種・一括充填)は各1製品だけで、ほかの材料や積層充填で同じになるかはわかりません。第三に、測ったのは隙間の長さで、接着強さ、微小漏洩、二次う蝕との関係は調べていません。第四に、比較の数が多いのに多重比較の補正は書かれておらず、偶然の有意差が混じる余地があります。また、1本の歯に3つの窩洞を作りながら窩洞を独立したデータとして数えていること、順位にもとづく検定なのに平均値だけを表示していること、表2の記号が表4Bや本文と合わない所があることにも注意が要ります。第五に、著者らの結論「リン酸の前処理は窩底の隙間を増やした」に対し、処理の全体比較は3時点とも有意差なし、窩底で有意だったのは歯根の24時間後だけで、結論はデータよりやや強めの書き方です(DEJの剥がれは2か月後に有意)。Cファクター約3.8もデータは示されていません。資金は厚生労働省の長寿科学研究費と日本学術振興会の科研費と記載されています。利益相反の申告欄はなく、メーカーからの資金の記載もありません。それでも、「縁がきれいでも、窩底には隙間ができうる」という視点は、深い窩洞や根面の充填を見直すきっかけになります。

今日のひとこと

著者らの結論:SS-OCTで、レジン修復まわりの隙間を壊さずに検出できた。隙間のでき方は窩洞の中の場所(縁・DEJ・窩底)と窩洞の位置で違い、著者らはリン酸の前処理が窩底とDEJの隙間を増やしたと結論している。ただし隙間の長さを処理どうしで全体比較した検定では有意差はなく、窩底でリン酸群が有意に長かったのは歯根部の24時間後だけだった。牛の歯の平らな面に作った小さな窩洞での実験室の結果である。

Alshahni RZ, Shimada Y, Zhou Y, Yoshiyama M, Sadr A, Sumi Y, Tagami J. Cavity adaptation of composite restorations prepared at crown and root: Optical assessment using SS-OCT. Dent Mater J. 2019;38(5):779-789. PMID: 31341148. DOI: 10.4012/dmj.2018-265
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。