1問1答 論文 保存修復

抜去歯を使った試験管内実験では、試適でついた唾液と血液は、水洗だけでは戻らない——唾液はMDP塩クリーナーで未汚染と有意差のない水準まで回復したが、血液はどの洗浄材でも戻りきらなかった

1問1答 論文 保存修復

ヒト唾液・ヒト血液で汚染したCAD/CAM用レジンブロックに対し、3種の汚染除去材の効果を微小引張接着強さ(μTBS)とSEM観察で比較した実験研究(吉山知宏・2021年受付/岡山歯学会雑誌 2022)

CAD/CAM冠を口の中で試適する。外して、水で洗って、装着する。この当たり前の流れのなかで、被着面には唾液や血液が付いています。水洗で足りているのか——足りていないとしたら、何をどこまで戻せるのか。岡山大学のグループが、ヒトの唾液とヒトの新鮮血で実際に汚染し、洗浄材3種を突き合わせました。答えは、唾液と血液で別々でした。

論文
唾液または血液汚染されたCAD/CAM用レジンブロックに対する新規汚染除去材の効果
著者
吉山知宏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 歯科保存修復学分野)
掲載
岡山歯学会雑誌 41巻1号, 2022(2021年12月10日受付)/岡山大学学術成果リポジトリ OUSAR 記録番号 63608・本文 K0006601
種類
in vitro 実験研究(ヒト抜去大臼歯50本。ヒト唾液(吐唾法・安静時)とヒト全血(抗凝固剤なしの新鮮血)にレジンブロックの被着面のみを1分間浸漬して汚染し(象牙質側は全群で非汚染)、水洗せずエアブロー後に各洗浄材で処理。カタナ アベンシア ブロック ユニバーサル をパナビアV5で接着し、37℃水中24時間保管後にμTBS試験(n=10)。一元配置分散分析+Tukey法・有意水準5%。破断面はSEMで観察。岡山大学臨床研究審査専門委員会 承認 研1908-015)
PMID
なし(日本語の学位論文。PubMed未収載)

試適して、外して、水で洗う——それで戻っていますか

CAD/CAM冠の装着日。口の中で試適して、隣接面と咬合を確認して、外す。ここで被着面には唾液がつき、歯肉から出血していれば血液もつきます。多くの場合、私たちはスリーウェイシリンジで水洗して、エアで乾かして、そのまま装着しています。

CAD/CAMレジン冠は2014年に小臼歯、2017年に第一大臼歯へ保険適用が広がり、一気に普及しました。それに伴って脱離が散見されるようになった、と著者は書いています。形態不良や窩洞形成の問題に加えて、被着面の汚染が脱離の大きな要因のひとつだと指摘されています。

唾液の除去については先行研究があり、新規の洗浄材が人工唾液に効くことは示されていました。しかしヒトの唾液・ヒトの血液で汚染したCAD/CAMレジンブロックの研究はほとんど無い。岡山大学のグループがそこを埋めました。

ヒトの唾液とヒトの新鮮血で、実際に汚す

研究の骨格: ヒト抜去大臼歯50本に象牙質平滑面を作り、CAD/CAM用レジンブロック(カタナ アベンシア ブロック ユニバーサル)を#600研磨して被着面とした。汚染物質は人から採った唾液(吐唾法・安静時唾液)とヒト全血(抗凝固剤を入れない採取直後の新鮮血)。被着面を1分間浸漬したあと水洗せずにエアブローで乾燥し、各洗浄材でメーカー指示どおりに処理した。
群は唾液・血液それぞれ6群——①CO(汚染なし)②NT(汚染したまま無処理)③WA(汚染後30秒水洗)④IC(汚染後イボクリーン)⑤MT(汚染後マルチエッチャント)⑥DC(汚染後DC-200C)——②〜⑥はいずれも「レジンブロックのみ汚染」で、象牙質側は全群で汚染していない。ブロック側はセラミックプライマープラス、象牙質側はパナビアV5トゥースプライマー20秒で処理し、パナビアV5で接着。37℃水中24時間保管後に約1×1 mm²の切片を作り、μTBS試験(n=10)を行った。

ここで大事なのは、汚染後に水洗をしていない群(NT)と、30秒しっかり水洗した群(WA)が分けてあることです。「水で洗えばいい」が本当かどうかが、この2群の差として直接読めます。

結果——水洗では、半分も戻らなかった

0 12 24 36 微小引張接着強さ μTBS (MPa) 30.1 30.1 6.3 7.1 12.9 10.3 22.9 19.8 19.0 15.9 25.4 22.3 CO汚染なし NT無処理 WA水洗30秒 ICイボクリーン MTマルチエッチャント DCDC-200C 唾液汚染 血液汚染 ヒト抜去大臼歯・n=10(20本測定して上限下限5本ずつを除いたトリム値)・37℃水中24時間後の即時接着強さ。COは汚染なしの共通対照なので両系列に同じ値を置いた。群の並びは原著の図1・図2に合わせている。唾液汚染ではDC群のみCOとの有意差が消えた(p>0.05)。血液汚染ではどの洗浄材でもCOとの有意差は消えず、さらに血液では30秒水洗(WA)は無処理(NT)と有意差がついていない
コントロール(汚染なし)を基準にした各群の微小引張接着強さ。左が唾液汚染、右が血液汚染。水洗(WA)の位置に注目

まずコントロール(CO)が30.14±3.25 MPa。ここが目標地点です。

汚染したまま無処理(NT)は、唾液で6.32±2.65、血液で7.13±2.44 MPa。コントロールの2割強まで落ちました。どちらも有意な低下です。

問題は30秒水洗(WA)です。唾液で12.90±5.00、血液で10.26±5.72 MPa。コントロールの半分にも届いていません。しかも標準偏差が5前後と大きく、結果が安定していません。さらに血液汚染では、30秒水洗(WA)は無処理(NT)と統計的な有意差がついていません(原著の図2のTukey符号はどちらもd)。「水で洗ったから大丈夫」は、この数字を見るかぎり成り立ちません。

洗浄材を使うと変わります。唾液汚染では3種すべてが水洗より回復し、なかでもDC-200Cは25.36±4.41 MPaで、コントロールとの統計的な有意差が消えました(p>0.05)。イボクリーン22.86±3.61、マルチエッチャント19.00±3.81と続きます。

ところが血液汚染では、どの洗浄材でもコントロールとの差は消えませんでした。DC-200Cが22.29±3.56で最も高く、イボクリーン19.77±4.31が続きますが、いずれも「コントロールと有意差がある=まだ下がっている」という位置にとどまりました(ただし3種とも水洗より有意に高い)。

なおDC-200Cとイボクリーンの間には、唾液でも血液でも統計的な有意差がありません(原著の図1・図2で有意差記号が共通)。原著の結果文も、血液では「DC群とIC群は、CO群を除いて最も高い接着強さを示した」と2つを並べています。

破断面が語っていること

0 33.3% 66.7% 100% 凝集破壊が占めた割合(%) 90% 30% 40% 60% 50% 70% CO汚染なし NT無処理 WA水洗30秒 ICイボクリーン MTマルチエッチャント DCDC-200C 唾液汚染の破断面観察。原著の表2に示された10本ごとの実数(凝集破壊/界面破壊/混合破壊)から凝集破壊の割合を出した(CO 9:0:1/NT 3:7:0/WA 4:6:0/IC 6:4:0/MT 5:5:0/DC 7:3:0)。凝集破壊が多いほど「接着界面以外(主にレジンセメント内)で壊れている=接着が効いている」ことを意味する
唾液汚染の破断面で、凝集破壊(=接着面ではなくセメント自身が壊れた側)が占めた割合。原著の表2に示された10本ごとの実数から換算した

破断面を分類すると、NT群とWA群では界面破壊(=接着面でスパッと外れる)が多く、洗浄材で処理すると界面破壊が減って凝集破壊(=接着界面以外、主にレジンセメント内で壊れる)が増えるという傾向が出ました。唾液汚染では、凝集破壊と界面破壊の比がマルチエッチャントで5対5、イボクリーンで6対4、DC-200Cで7対3と、段階的に凝集破壊側へ移っています。無処理(NT)は3対7、30秒水洗(WA)は4対6、汚染なし(CO)は9対0(残る1本は混合破壊)でした。1群10本・1本差の傾向ですが、μTBSとほぼ同じ順に並びます。

血液汚染では、原著本文は「IC群とDC群では凝集破壊が主に、NT群・WA群・MT群では界面破壊が主に観察された」と書いています(表3の実数ではMTは5対5、ICとDCは6対4)。

そして1万倍のSEM像。唾液汚染では、水洗群とDC-200C群の被着面に形態学的な差が見えませんでした——見た目は同じでも接着強さは倍近く違う、ということです。一方血液汚染の水洗群では、血球由来のタンパク質が多数観察され、DC-200C群では血球がほとんど観察されませんでした——「血球が見えない」ことと「タンパクが残っていない」ことは別で、著者はまさにその点を結論に置いています。

ここが、この研究のいちばん考えさせる点です。DC-200Cは血球を見た目にはほぼ落としている。それでも接着はコントロールまで戻らない。著者は結論の4番目に、「被着面の血球由来タンパクを除去しきれなかったことが示唆された」と明記しています。過去の研究でも、血球が形態的に見えない場合でも血球タンパク・血漿タンパクは残っていることが確認されています。

なぜMDP塩のクリーナーが効くのか

3つの洗浄材は性格がまるで違います。

イボクリーン… 水酸化Naが有効成分でpH 13.5の強アルカリ性。ジルコニアや卑金属の汚染除去に高い効果が報告されている一方、口腔内での使用は禁忌
マルチエッチャント… リン酸ではなく接着性リン酸モノマー(M-TEG-P)を含みpH 1.6。一般的な35〜45%リン酸よりマイルドで口腔内で使える
DC-200C… 非貴金属接着性モノマーであるMDPを含み pH 4.5 の弱酸性。口腔内で使える。

著者の説明はこうです。一般的な洗浄剤の主成分である界面活性剤は、親水基と疎水基を1分子に併せ持ち、水中でミセルを作って内側に汚れを取り込みます。DC-200Cは、本来水に溶けにくいMDPに塩基性成分を加えて「MDP塩」にすることで水に溶かし、水を溶媒として界面活性効果を発揮させている——だから唾液タンパクの除去効果が他より高い、という推測です(ただしイボクリーンとの接着強さの差は、統計的には示されていません)。

明日の臨床へ

①「水で洗ったから大丈夫」は、この研究では成り立たなかった。 30秒の水洗ではコントロールの半分にも戻っていない。試適の後に洗浄材を使う一手間は、数字で見るかぎり割に合う。
②口腔内で使えるかどうかで分ける。原著によれば、イボクリーンは水酸化Naが有効成分でpH 13.5の強アルカリ、口腔内禁忌。マルチエッチャント(pH 1.6)とDC-200C(pH 4.5)は口腔内で使える。なお本研究のDC-200Cは「新規汚染除去材」としてメーカーから供与された材料で、製品名での入手性は原著からは確認できない。
③唾液は有意差が消えるところまで戻せたが、血液は戻りきらなかった。血液でも、水洗群10.26 MPaに対しDC群は22.29 MPa(コントロールの74%)で、「まったく戻らない」わけではない。ただしこの試験の数字からは、歯肉圧排・止血・防湿を先に済ませて血液を付けないほうが分がよさそうに読める(止血・圧排などの手技そのものの効果を測った研究ではない)。
④見た目で判断しない。唾液汚染では、接着試験後の破断面を電子顕微鏡(1万倍)で見ても水洗群とDC群に形態の差が見えなかったのに、接着強さは倍近く違った。見た目の差がないことは、接着が戻っている証拠にならない。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:これはヒト抜去歯を使った試験管内の研究で、評価しているのは37℃水中24時間後の即時接着強さです。著者自身が考察の末尾で「今後は長期の接着耐久性について検討する必要がある。特にサーマルサイクル負荷試験は、DC-200Cの長期有効性を説明する上で重要であると思われる」と書いています——つまり、DC-200Cの効果が年単位で保つかどうかは、この論文では答えていません。第二に、汚染の作り方が被着面を唾液・血液に1分間浸漬するという強めの条件で、口腔内で試適したときの汚染とそのまま同じではありません。第三に、μTBS試験は自動化された測定系を用いたため実験条件の盲検化をしていないと著者が述べています。またn=10は、20本測定して上限・下限の5本ずつを除いたトリム値です——外れ値を落とした分、標準偏差は実測より小さく出ている点は頭に置いておきたいところです。第四に、材料はカタナ アベンシア ブロック+パナビアV5という1つの組み合わせに限定されており、他のブロックやセメントで同じ順位になるとは限りません。第五に、利益相反にあたる情報があります——原著の謝辞に「本研究の実施に際し、クラレノリタケデンタル株式会社から、DC-200Cの供与を頂いた」と明記されており、さらに使用材料の表を見ると、レジンブロック(カタナ アベンシア)・レジンセメント(パナビアV5)・トゥースプライマー・セラミックプライマープラスも同じクラレノリタケデンタル製です(比較対象のイボクリーンはIvoclar Vivadent、マルチエッチャントはYAMAKIN)。結果を否定する材料ではありませんが、「記事の中心に据えた製品と、その周辺材料の多くが同一メーカー」という構図は知ったうえで読みたいところです。それでも「水洗だけでは戻らない」「唾液と血液は別物として扱う必要がある」という2点は、日々の装着手順を見直すには十分な材料だと思います。

今日のひとこと

水洗30秒では戻らなかった。唾液汚染では未処理6.32 MPaが水洗で12.90 MPaまでしか戻らず、コントロール30.14 MPaには遠く及ばない。MDP塩を含む新規洗浄材DC-200Cだけが25.36 MPaまで戻し、コントロールとの統計的な有意差が消えた(有意差が消えただけで、実測は16%低い)。ところが血液では話が変わる。DC-200Cで22.29 MPaまで戻したが、3種のどの洗浄材でもコントロールとの有意差は残った(ただし3種とも水洗よりは有意に高い。DC-200Cとイボクリーンの間には唾液・血液とも有意差がない)。しかも血液汚染では、30秒水洗は無処理と有意差がついていない。SEMで見ると、水洗群の血液汚染面には血球由来のタンパク質が多数残っており、DC-200C処理面では血球がほとんど見られなかった——それでも接着は戻りきらなかった。この試験の数字からは、試適で血液が付いたときは、洗って取り戻すより付けない工夫のほうが分がよさそうに読める。ただしこれは24時間後の即時接着強さを見た試験管内の研究で、著者自身が長期の接着耐久性(とくにサーマルサイクル)は今後の課題だと書いている。またDC-200Cはメーカーから供与された材料である。

吉山知宏. 唾液または血液汚染されたCAD/CAM用レジンブロックに対する新規汚染除去材の効果. 岡山大学 博士(歯学)学位論文 甲第6601号(2022年3月25日授与). 岡山歯学会雑誌 2022;41(1)(2021年12月10日受付).
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。