1問1答 論文 保存修復

日本の一般開業医で、臼歯部の修復物は10年後に何%残っていたか——そして予後に関連していたのは、患者の年齢でも歯種でもなく咬合支持だった

1問1答 論文 保存修復

札幌市内の一般歯科医院1軒で、1991〜2005年に修復治療を受けた95人・649歯を追跡し、Kaplan-Meier法で生存期間を、Cox比例ハザードモデルで関連要因を検討した日本の後ろ向きコホート研究(青山 2008・口腔衛生学会雑誌)

「この詰め物、何年もちますか」——患者さんに聞かれて、根拠のある数字で答えられているでしょうか。日本のデータは意外なほど少なく、しかも多くは大学病院の患者を対象にしています。北海道大学のグループが、札幌市内の一般歯科医院1軒の記録から、649歯の修復物を最長14年追いかけました。そして多変量解析で予後との関連が残ったのは、年齢でも歯種でも歯髄の状態でもありませんでした。

論文
臼歯部修復物の生存期間に関連する要因
著者
青山貴則、相田潤、竹原順次、森田学(北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座予防歯科学教室)
掲載
口腔衛生学会雑誌 2008;58(1):16-24(J-Stage
種類
後ろ向きコホート研究(札幌市内の一般歯科医院1軒。1991年1月1日〜2005年3月31日に修復治療を受け、その後1回以上再来院した患者95人〔男34・女61、平均33.3±14.2歳〕の臼歯部649歯。対象修復物はコンポジットレジン245歯/メタルインレー103歯/4-5冠58歯/メタルクラウン118歯/メタルブリッジ125歯。生存期間はKaplan-Meier法、関連要因はCox比例ハザードモデル〔共変量=年齢・性別・歯種・アイヒナー分類・歯内療法時の状態〕。担当歯科医師は10名。北海道大学の倫理委員会承認)
出典
PMIDなし(PubMed未収載の国内誌)

「この詰め物、何年もちますか」

チェアサイドで、いちばん答えにくい質問のひとつです。「だいたい5年から10年です」——そう言いながら、根拠を思い出せているでしょうか。

日本のデータは、意外なほど乏しい。しかも既存の報告の多くは大学病院の患者を対象にしたものです。患者数として圧倒的多数を占めるのは一般歯科医院のほうなのに、そこでの数字がない。あるいは、患者の記憶に頼って使用年数を聞き取った研究であったり、再治療になったものだけを集めた研究であったりします(後者だと、問題なく使えている修復物の情報が抜け落ちます)。

北海道大学のグループは、この穴を埋めるために、札幌市内の一般歯科医院1軒のカルテから 649歯を追いかけました。

14年分のカルテを、生存分析にかける

研究の骨格: 札幌市内の一般歯科医院1軒で、1991年1月1日から2005年3月31日のあいだに修復治療を受け、その後1回以上再来院した患者95人(男34・女61、平均33.3±14.2歳)の臼歯部649歯
対象修復物はコンポジットレジン245歯/メタルインレー103歯/4-5冠58歯/メタルクラウン118歯/メタルブリッジ125歯(硬質レジンジャケット冠・メタルボンド・オールセラミックは症例数が少なく除外)。
生存期間は「装着日から最終来院日まで」、再治療または抜歯が必要と判断されればその日まで。判定は担当歯科医師による。Kaplan-Meier法で生存期間を算出し、Cox比例ハザードモデルで関連要因を検討した(共変量=年齢・性別・歯種〔小臼歯/大臼歯〕・アイヒナー分類・歯内療法時の状態)。担当歯科医師は10名。北海道大学の倫理委員会承認。

Kaplan-Meier法を使った意味は大きいところです。この方法なら、まだ問題が起きていない修復物の情報も生存期間の推定に加えられます。「壊れたものだけを数える」設計では見えない全体像が出ます。

結果——10年後に残っていたのは、およそ半分だった

0 33.3% 66.7% 100% 生存率(%) 91.6% 88.0% 67.5% 87.0% 73.5% 60.4% 91.2% 78.4% 60.5% 87.0% 74.8% 55.8% 78.8% 55.6% 31.9% メタルインレー コンポジットレジン 4-5冠 メタルクラウン メタルブリッジ 3年 5年 10年 原著表3のKaplan-Meier法による推定生存率。修復物の種類による生存時間の差は有意(ログランク検定 p<0.001)。全修復物をあわせた生存率は3年86.3%/5年72.9%/10年55.0%。1,000日を過ぎたあたりから曲線が分かれ、とくにメタルブリッジが急に落ちる。⚠️原著の考察はメタルクラウンの5年生存率を87.0%と書いているが、これは表3(74.8%)と食い違う。本図は表3を採用した
Kaplan-Meier法による推定生存率。1,000日を過ぎたあたりから、修復物ごとに曲線が分かれる

10年生存率は、メタルインレー 67.5%、4-5冠 60.5%、コンポジットレジン 60.4%、メタルクラウン 55.8%、メタルブリッジ 31.9%。全体では 55.0% です。

平均生存期間で見ると、メタルインレーが 3,804日(約10.4年)と最も長く、次いでコンポジットレジン 3,532日、4-5冠 3,332日、メタルクラウン 3,276日、メタルブリッジが 2,557日(約7.0年)。修復物の種類による差は有意でした(ログランク検定 p<0.001)。

再治療率はメタルブリッジ 60.0%が最も高く、メタルクラウン 37.3%、コンポジットレジン 35.5%、4-5冠 34.5%、メタルインレー 28.2%が最も低い。全体では 39.3% でした。

興味深いのは曲線の形です。著者らは「どの修復物もおおむね1,000日までは差がみられないが、それ以降に差が開く」と書いています。3年目あたりから、修復物の種類による差が出はじめる——これは海外の研究(Van Nieuwenhuysen 2003)でも同様に観察されており、理由は明らかになっていません。

やり直しの原因は、圧倒的に二次う蝕だった

再治療となった255歯のうち、原因が二次う蝕だったものが 122歯(47.8%)で最多でした(原著本文は分母を225歯として54.2%と記載していますが、表2・表4の再治療歯数の合計はいずれも255歯です)。修復物別に見ると、再治療になったコンポジットレジンの 78.2%(68/87歯)、メタルインレーの 72.4%(21/29歯)が二次う蝕によるもので、際立っています。

一方、メタルクラウンでは根尖病巣が最多(36.4%=16/44歯)、メタルブリッジでは脱離が最多(28.0%=21/75歯)でした。著者らはクラウンとブリッジで根尖病巣が多かった理由失活歯の割合で説明しています——メタルクラウンの 95.8%、メタルブリッジの 61.3% が失活歯であるのに対し、4-5冠は 6.7%、メタルインレーは 1.0%、コンポジットレジンは 0%(なお原著はメタルブリッジの失活歯率を、別の箇所では 61.8% とも書いています)。

ブリッジについては、著者らはもうひとつ「辺縁性歯周炎による再治療率が他の修復物と比較して多く、これはポンティック周辺などの清掃性の問題が起因しているのではないか」とも考察しています。

ここで著者らは、こう書いています。「安易な抜髄処置は極力避け、歯髄保護処置を優先して行うことが重要である」。2008年の一般開業医のデータから、そのまま今日の臨床に届く一文です。

もうひとつ、二次う蝕について著者らが正直に書いていることがあります。「日常臨床では、二次う蝕として修復物の辺縁から発生したう蝕というよりも、原発う蝕の感染歯質の取り残しと思われる症例が多く認められる」——つまり「二次う蝕」と記録されているものの中に、最初の治療での取り残しが混ざっている可能性を、著者ら自身が指摘しています。

多変量解析で残ったのは、アイヒナー分類だけだった

0 1.2 2.4 3.6 再治療のハザード比(アイヒナーA を1とする) 1.00 1.88 3.18 2.44 A4つの支持域すべてに対合接触あり B1支持域3つ B2支持域2つ B3支持域1つ Cox比例ハザードモデル(共変量=年齢・性別・歯種・アイヒナー分類・歯内療法時の状態。修復物の種類は入っていない)。95%信頼区間は B1 1.16-3.05/B2 1.93-5.25/B3 1.31-4.53でいずれも1をまたがない。ただしB2の3.18よりB3の2.44が低く、支持域が減るほど悪くなるという単調な関係ではない。B4(支持域外=前歯部にのみ対合接触)はハザード比0.39だが、患者2人・修復物6個しかなく解釈できない。年齢・性別・歯種・歯髄の状態はいずれも有意ではなかった
アイヒナー分類と再治療のハザード比。B1・B2・B3(支持域が3つ・2つ・1つ)はいずれも予後不良だった(ただし単調な関係ではない)

ここがこの論文の心臓部です。Cox比例ハザードモデルに年齢・性別・歯種・アイヒナー分類・歯内療法時の状態の5つを入れたとき、有意な関連が出たのはアイヒナー分類だけでした。

支持域が3つのB1でハザード比 1.88(95%CI 1.16–3.05)、2つのB2で 3.18(1.93–5.25)、1つのB3で 2.44(1.31–4.53)。いずれも信頼区間が1をまたいでいません。ただし「支持域が減るほど悪くなる」という単調な関係ではありません——支持域が最も少ないB3(2.44)は、B2(3.18)より低い値です。原著も「B1、B2、B3といった対合関係が不安定なものにおいて予後不良となり」と述べるにとどめ、勾配は主張していません。

アイヒナー分類とは: 左右の小臼歯群・大臼歯群を「4つの支持域」と見なし、上下が噛み合っている支持域がいくつ残っているかで欠損歯列を分類するもの。A=4つすべてに対合接触あり、B=4つ全部には無い(B1=3つ、B2=2つ、B3=1つ、B4=支持域外〔前歯部〕にのみ接触)、C=対合接触が全く無い。下顎位の安定を、臼歯部の咬合関係で捉える見方である。

そして有意でなかったもののほうも重要です。年齢(27〜39歳 1.35/40歳以上 1.37)、性別(女/男 0.96)、歯種(小臼歯/大臼歯 1.12)、歯髄の状態(麻酔抜髄 0.73/感染根管 1.24)——いずれも信頼区間が1をまたいでいます。

ここは慎重に読む必要があります。このCoxモデルには、修復物の種類が共変量として入っていません。したがってこの研究は「材料と咬合支持のどちらが効くか」を比べたものではありません——別の解析(ログランク検定)では、修復物の種類による生存時間の差も有意でした(p<0.001)。原著の結語も「メタルブリッジの生存期間が最も短く、また咬合の要因が生存期間と関連していることが示唆された」と、両方を並べています。

そのうえで言えるのは、モデルに入れた5つの共変量のうち、予後との関連が残ったのはアイヒナー分類だけだったということ(年齢のハザード比は27歳未満を基準にした値です。なお原著は「対象と方法」で共変量を5項目と書き、考察では「6つの共変量」と書いていて、ここも食い違っています)。目の前の1歯だけを見ていては、この因子は視野に入りません。

なお、著者らは「結果には示していないが、修復物別に同様の検討をしたところ、メタルインレー・メタルクラウン・コンポジットレジンでアイヒナー分類が有意な関連を示している」とも書いています。B4のハザード比 0.39 だけは他より良好に見えますが、患者2人・修復物6個しかなく、解釈できる数字ではありません(著者ら自身がそう注記しています)。

明日の臨床へ

①「5年から10年」という説明は、2000年代の日本のデータとおおむね合っていた。 全体の10年生存率は 55.0%=10年時点の推定で45%が再治療または抜歯に至る計算になる(実際に再治療となったのは観察期間全体で39.3%)。ただしメタルブリッジは10年で31.9%と別格に短い。著者らは、ブリッジで辺縁性歯周炎による再治療が多い理由としてポンティック周辺などの清掃性を疑っている。
②やり直しの最大の原因は二次う蝕。とくにコンポジットレジンとメタルインレーで7〜8割。初回の感染歯質の除去とその後のう蝕管理が、修復物の予後に直結している(著者らも「二次う蝕」と記録されたものに取り残しが混ざっている可能性を疑っている)。
③抜髄を避けることが、修復物の寿命の話でもある。失活歯の割合が高い修復物ほど、根尖病巣による再治療が多かった。
④欠損が増えている患者では、新しく入れる修復物の予後も落ちると考えて説明する。B1・B2・B3(支持域が3つ・2つ・1つ)のハザード比は、Aを1として 1.88〜3.18。欠損補綴の計画と、単独歯の修復の予後は切り離せない。

④は、患者説明の言い方を変える力があります。「奥歯が抜けたままだと、他の歯の詰め物も早くだめになりますよ」——これまで経験則で言っていたことに、日本の一般開業医のデータという裏づけがつきます。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:これは1軒の歯科医院のカルテを後ろ向きに集めた研究です。著者らが挙げている限界がそのまま重要で、①担当歯科医師が10名おり、再治療の判断基準が完全には統一されていない(院長の判断を仰ぐ体制はあった)②再来院した患者だけを評価している=選択バイアスが働きうる ③定期健診で通う患者ほど二次う蝕や根尖病巣が早く見つかり、症状が出てから来る患者ほど生存期間が長く出るという方向のバイアスがある ④修復物ごとにサンプル数のばらつきがある。さらに、咬合力・DMF・歯周状態といった共変量は測られていません——「咬合支持が効いていた」という所見も、アイヒナー分類という代理指標を通して見たものです。そしてデータは1991〜2005年のもので、接着材料もコンポジットレジンの物性も当時とは変わっています。それでも、日本の一般開業医で・保険診療の材料で・多変量解析まで行った研究は今なお貴重で、患者説明の土台として使える数字です。本研究はその一部が平成16年度の財団法人8020推進財団助成金により行われています。

今日のひとこと

10年生存率は、メタルインレー 67.5%、4-5冠 60.5%、コンポジットレジン 60.4%、メタルクラウン 55.8%、メタルブリッジ 31.9%。全体では 55.0%——10年時点の推定で45%が再治療または抜歯に至る計算になる(実際に再治療となったのは観察期間全体で39.3%)。これが2000年代の日本の一般開業医のデータである。修復物の種類による生存時間の差は有意だった(ログランク検定 p<0.001)。そのうえで、この研究のもうひとつの発見が Cox比例ハザードモデルの結果である。年齢・性別・歯種・アイヒナー分類・歯髄の状態の5つを共変量に入れたとき、有意な関連が残ったのはアイヒナー分類だけだった(修復物の種類はこのモデルに入っていないので、材料と咬合支持のどちらが効くかを比べた研究ではない)。支持域が3つのB1でハザード比 1.88(95%CI 1.16–3.05)、2つのB2で 3.18(1.93–5.25)、1つのB3で 2.44(1.31–4.53)——B1・B2・B3(支持域が3つ・2つ・1つ)はいずれも予後不良で、ただし支持域が減るほど悪くなるという単調な関係ではない(B4は患者2人・修復物6個しかなく解釈できない)。年齢・性別・小臼歯か大臼歯か・生活歯か失活歯かは、いずれも有意ではなかった。そして再治療の原因で最も多かったのは二次う蝕(再治療255歯中122歯=47.8%。原著本文は分母を225歯として54.2%と記載)で、とくに再治療になったコンポジットレジン(68/87歯=78.2%)とメタルインレー(21/29歯=72.4%)で目立った。

青山貴則、相田潤、竹原順次、森田学. 臼歯部修復物の生存期間に関連する要因. 口腔衛生学会雑誌 2008;58(1):16-24. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/58/1/58_KJ00004846513/_article/-char/ja/
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。