永久歯のう蝕で、選択的除去・stepwise・非選択的除去のどれが歯髄を守れるかを比べたシステマティックレビュー+メタ解析(Barros 2020・Clin Oral Investig)
「軟化象牙質は歯髄側に残してよい」——ここ数年で急速に広まった考え方です。ブラジルのグループが、永久歯に絞ってこの問いにメタ解析で答えました。結論は「選択的除去のほうが歯髄の健康を保てる」。ただし、著者らの結論文と、彼ら自身が出したサブグループの数字は、少しだけ食い違っています。
①「削り残してよい」は、どこまで確かめられたのか
軟化象牙質を歯髄側に残して封鎖する。この10年で急速に広まった考え方です。国際合意も学会の見解も、その方向を向いています。
ただ、広まり方には温度差があります。この論文が引用しているのは、「多くの国で大多数の歯科医師は、エビデンスに基づいたう蝕除去の戦略を採っていない」という調査結果です。私たちの手は、まだ取り切る側にあります。
そこには理由もあります。選択的除去の臨床研究の多くは乳歯で行われてきました。永久歯に絞った検証が足りない。ブラジル・セアラ連邦大学のグループは、そこを埋めにいきました。
結論から言えば、選択的除去に軍配が上がっています。ただこの論文は、結論文だけを読むと少し損をするタイプの一本でした。中身から読んでいきます。
②言葉の整理——stepwiseは「選択的除去」ではない
この論文が最初に主張するのは、用語の分類です。
著者らはここで、先行するシステマティックレビューに異を唱えます。「stepwiseを選択的除去の一種として扱う先行研究があるが、それは不適切だ。stepwiseは2段階の非選択的除去である」。
言い分は明快です。stepwiseは最終的に取り切る。取り残さない。だから「削り残す術式」ではなく「削り切るのを2回に分ける術式」だ、と。ただし著者ら自身、再開拡のときに再硬化しきっていない象牙質を意図的に残す形でstepwiseを行うこともありうると留保を付けています——「ただし大半のstepwiseがそう行われていると想定することはできない」と続けたうえでの分類です。この線引きが、後の結果の読み方に効いてきます。
もうひとつ、前提として引かれている数字があります。非選択的除去をしても細菌の25〜50%は残ると報告されている、と著者らは書いています(本研究が測ったわけではなく、先行研究の引用です)。「全部取れば無菌になる」は、そもそも成り立っていません。
③結果——点推定値は同じ、結論の強さは違う
全体では、選択的除去のほうが歯髄の健康維持の成功が高い(リスク比 1.11、95%CI 1.02–1.21)。統計学的に有意です。
ここで、サブグループを見ます。
非選択的除去(硬い象牙質まで取り切る)を対照にした場合、リスク比 1.09(95%CI 1.02–1.17)で有意。一方、stepwiseを対照にした場合は、リスク比 1.10(95%CI 0.88–1.38)で有意差なし。
2つの点推定値(1.09と1.10)はほぼ同じです。違うのは信頼区間の幅で、stepwiseとの比較は下限が0.88=1.0をまたいでいる。つまり「選択的除去のほうが劣る可能性も否定できない」という状態です。おそらく比較対象の研究数が足りず、区間が広がったのでしょう——だがそれは「差が無い」ではなく「わからない」ということです。
露髄については、質的な評価としてこう書かれています。対照群(非選択的除去またはstepwise)を置いた3つの研究すべてで、対照群のほうが露髄のリスクが高かった。ただし、非選択的除去とstepwiseを直接比べた研究では、stepwiseのほうが偶発的露髄は少なかったとも報告されています。
副次的なアウトカム——細菌学的評価、修復物の質、象牙質の沈着(dentin deposition)——については、術式間で同様の結果でした。差がついたのは、露髄と歯髄の健康維持だけです。
④この結果が意味すること
①この解析が明確に支持したのは「非選択的除去より選択的除去」だけです。取り切って露髄させるより、歯髄側に残したほうが歯髄は守れる。ここは信頼区間が1.0をまたいでいません。
②選択的除去とstepwiseのどちらが良いかは、この研究では決着していません。同じ時期に、欧州歯内療法学会(ESE)も別の文書で「選択的1回法とstepwiseは、ランダム化試験で適切に比較されたとは言えない」と述べています(ESE position statement, Int Endod J 2019;52:923-934)。比較する試験そのものは存在します——このメタ解析が使ったMaltzらの研究がまさにそれです。試験が無いのではなく、比較として決着がついていない。統計の側からも、合意文書の側からも、同じ場所に着いたことになります。
③そして、この立場は「取り切って顕微鏡で見てから決める」という流儀とは対立します。これはこの論文の内容ではありませんが、同じ時期にRicucciらが別の論文(J Dent 2019;86:41-52)で、非選択的除去で露髄させ、露髄面を直接観察して処置を選ぶ手順を提案しています。どちらも「歯髄を守る」ことを目的にしながら、手段が逆を向いている——それが、いまのこの領域の実像です。
⑤明日の臨床へ
①深い病変で、露髄を避けたい歯なら、選択的除去。この解析がいちばんはっきり支持しているのはここです。周囲壁は硬い象牙質まで削り切り、髄壁だけ残して、同じ回で確実に封鎖する。
②stepwiseを選ぶなら、「選択的除去より良いから」ではない理由で選ぶ。再開拡して確認したい、患者が定期来院できる、といった実務的な理由です。この解析は、stepwiseが選択的除去に劣るとも優るとも言えていません。
③「取り切れば無菌」という前提を捨てる。非選択的除去でも細菌の25〜50%は残ると報告されています。無菌にすることが目的ではなく、封鎖して兵糧を断つことが目的だと考えたほうが、術式の選択がすっきりします。
④封鎖の質に、術式選択と同じだけの注意を払う。残した象牙質の細菌を不活化するのは修復物の封鎖です。選択的除去は、修復が甘ければ成立しない術式だという点を忘れないこと。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
永久歯において、選択的除去は歯髄の健康維持の成功が対照群より高かった(リスク比 1.11、95%CI 1.02-1.21)。ただしサブグループで見ると、非選択的除去(硬い象牙質まで取り切る)に対しては有意(1.09、1.02-1.17)だったのに対し、stepwiseに対しては有意差が無かった(1.10、0.88-1.38)。著者らは本文末の結論に「stepwiseと非選択的除去の両方より優れる」と書いているが、自分たちのサブグループ解析はstepwiseについてそれを支えていない(抄録と考察はもっと慎重で、抄録は比較対象を書かず、考察では「stepwiseと比べれば同様で満足のいく結果」としている)。露髄については、対照群(非選択的除去またはstepwise)を置いた3研究すべてで、選択的除去のほうがリスクが低かった。なお非選択的除去をしても細菌の25〜50%は残ると報告されている。メタ解析はわずか4研究で、うち1本は後ろ向きコホートである。


