1問1答 論文 保存修復

隔離しない口の中は、湿度ほぼ100%・30℃超——バキューム装置でも湿度は半分近くまで下がった

1問1答 論文 保存修復

保存修復|防湿・ラバーダム・口腔内バキューム装置

接着の実験室データは、室温・室内湿度で採られています。ところが実際に接着操作をする場所は、口の中。そこがどんな環境なのかを、温湿度計を突っ込んで測った研究があります。何も隔離しない口の中は、25分間ずっと相対湿度ほぼ100%・温度30℃超のまま動きませんでした。ラバーダムを張ると20分後に41.5%、口腔内バキューム装置(Isolite i2・Coolex)でも51%前後まで下がります。

論文
The effects of three dry-field techniques on intraoral temperature and relative humidity
著者
Kameyama A, Asami M, Noro A, Abo H, Hirai Y, Tsunoda M
掲載
The Journal of the American Dental Association 2011;142(3):274–280(東京歯科大学 千葉病院 総合歯科)
種類
健常ボランティア5名を対象とした口腔内環境の測定(4条件をランダムな順で実施・25分間の温度と相対湿度)
PMID
21357861

接着のデータは、口の中で採られていない

接着材のカタログに載っている数字も、論文の接着強さも、そのほとんどは室温・室内湿度の実験室で採られたものです。ところが臨床で接着操作をする場所は口の中。この落差はどれくらいなのか。

研究者たちは以前から、接着修復は相対湿度(RH)などの環境条件に敏感であることを報告してきました。原著が引く研究では、口腔内条件を模した環境での接着強さは、室内条件より低かったとされています。

ラバーダムは、乾いた術野を保ち汚染を防ぐために使われてきました。しかし原著も率直に書いています——世界中の少なからぬ歯科医師は、接着レジン修復を行う際にラバーダムを一貫して使っているわけではない。手間がかかり、時間がかかり、患者にとって不快だから、と。

そこに近年登場したのが口腔内バキューム装置。乾燥を保つだけでなく、唾液やデブリを持続的に吸引し、舌と頬を排除し、患者は開口を保ったまま顎を休められる。ラバーダムより速く簡単に装着できます。ただし——これらの装置が口腔内環境をどう変えるかは、報告されていませんでした

口の中に温湿度計を入れて、25分間測った

健常ボランティア5名(男性3・女性2、23〜34歳)に対し、4条件をランダムな順序で実施しました。修復処置は行っていない、環境の測定だけの研究です。条件どうしは最低2日あけ、口を開け続けることによる疲労と乾燥を避けています。デンタルチェアによる差を除くため、全実験を同じチェアで行うという徹底ぶりです。

4条件:ラバーダム(下顎左側第一大臼歯にIvory社の56番クランプ+薄手のラテックスシート)②Isolite i2Coolex(いずれも口腔内バキューム装置)④無隔離の対照(バイトブロックで開口を保つのみ)。センサーは下顎左側第一大臼歯の咬頭から1cmの位置に統一。

測定は、開始時・30秒・1・2・3・4・5・10・15・20分。そして20分でラバーダムを外す/バキュームを切ってから、さらに5分間(20.5〜25分)記録を続けます。この「戻り」を測っている点が、この研究のいちばん面白いところです。

結果:隔離しない口の中は、ずっと湿度ほぼ100%

0 36.7% 73.3% 110% 口腔内の相対湿度 (%) 100.0% 41.5% 100.0% 51.0% 100.0% 51.2% 100.0% 99.6% ラバーダム Isolite i2 Coolex 無隔離(対照) 開始時(ベースライン) 20分後 被験者5名・同一のデンタルチェアで測定。室内の相対湿度は各群53.8〜57.1%。5〜20分ではバキューム2機種の湿度がラバーダムより有意に高い
口腔内の相対湿度。無隔離では25分間ほとんど動かず、3手法はいずれも大きく下げた

まず対照群(無隔離)。測定期間を通じて、温度も相対湿度も有意な変化がありませんでした——温度は30℃超、相対湿度は100%近くのままです(抄録の言い方は「RHは95%超」、25分時点の実測は96.5%)。原著は「群4では、口腔内温度30℃超・相対湿度100%かそれに近い高い値が、25分の観察期間中ほとんど注目すべき変化なく続いた」と記しています。接着操作をしている環境は、これです。

ラバーダムでは30秒後には有意に湿度が低下し、外すまで徐々に下がり続けて20分後に41.5%。バキューム装置も同様に低下し、Isolite i2で51.0%、Coolexで51.2%でした。室内の湿度は53.8〜57.1%。つまり室内条件に近いのはバキューム2機種のほうで、ラバーダムはそれをさらに15ポイントほど下回ったことになります。原著のClinical Implicationsも「Isolite i2とCoolexは、材料の機械的性質を調べるためにin vitroで試験体を作るときの室内条件に近い環境を提供しうる」と、この2機種を名指ししています。

0 12.7℃ 25.3℃ 38℃ 口腔内温度 (℃) 32.2℃ 31.6℃ 32.1℃ 27.7℃ 31.8℃ 27.5℃ 32.0℃ 34.0℃ ラバーダム Isolite i2 Coolex 無隔離(対照) 開始時(ベースライン) 20分後 室温は各群24.0〜24.6℃。対照群は測定期間を通じて有意な変化なし。ラバーダム群の温度低下は最初の3分だけ有意で、20分後の31.6℃はベースライン32.2℃と有意差がない
口腔内温度。バキューム装置のほうがラバーダムより低く、室温(24℃前後)に近づいた

温度のほうは、順位が入れ替わります。20分後の口腔内温度はIsolite i2で27.7℃、Coolexで27.5℃、これに対しラバーダムは31.6℃、無隔離は34.0℃。ただしラバーダム群で温度低下が有意だったのは最初の3分だけで、20分後の31.6℃はベースライン32.2℃と有意差がありません。対照群も測定期間を通じて有意な変化はありませんでした。

そしてここが読み違えやすいところです——原著は「象牙質接着強さは相対湿度が低いほど高くなり、しかも温度には実質的に影響されない。接着材の分類や塗布回数によらずその傾向がある」と述べています。つまり温度差は接着強さの話ではない。効いているのは湿度のほうです。

もうひとつ、湿度については正確に押さえておくべき差があります。5〜20分のあいだ、Isolite i2とCoolexの相対湿度は、ラバーダムより有意に高い値でした(同区間のラバーダムは44.5→41.5%)。「バキューム装置はラバーダムと同等」ではありません。接着に効くのが湿度である以上、湿度をいちばん下げられたラバーダムが、この3つの中では有利ということになります(3手法を接着の優劣で比較した研究ではないので、ここは読み手の推論です)。原著自身は考察で、臨床でラバーダムを使うことは接着システムの理想的な性能を損なわず、最適な術野を得るためにラバーダムを使うという伝統的推奨を裏づけると述べています。

そして戻りの速さ。ラバーダムを外すと30秒後には93.3%まで戻り、統計的にはベースラインと差がない水準になりました。バキュームを切った場合も湿度は急速に上がり、Isolite i2は1分後、Coolexは3分後にベースラインへ戻っています。原著の総括は「口腔内の条件は3分以内にベースラインへ戻った」です。

この数字が意味すること

原著の考察が慎重なところも紹介しておきます。臼歯部レジン修復の長期臨床成績では、ラバーダム隔離と綿球による簡易隔離とのあいだに実質的な差はなかったという報告があります。一方でin vivo・in vitroの研究は、環境が接着強さに影響することを示している。この矛盾に対し、著者らはこう整理しています——象牙質接着強さは相対湿度が低いほど高くなり、温度には実質的に影響されない。したがって臨床でラバーダムを使うことは接着システムの理想的な性能を損なわず、最適な術野を得るためにラバーダムを使うという伝統的推奨を裏づける

そのうえで、Isolite i2とCoolexは室内条件に近い環境を提供しうるとされています。つまりラバーダムが難しい症例で、実験室の条件に近づける現実的な選択肢があるということです。ただし原著の結論は同時に、「歯肉からの出血や歯肉溝滲出液の流出といった特定の状況で、これらの新しい手法の臨床的有効性を確かめるには、さらなる研究が必要だ」とも述べています。ラバーダムの役割は乾燥だけでなく汚染の防止にもあり、この研究が測ったのは前者だけです。

明日の臨床へ——「使わない」の前に、もう一段ある

第一に、何も隔離しない口の中は、湿度がほぼ100%のまま動かないと知っておくこと。「唾液を避けて、少し乾かせば大丈夫」というつもりでも、環境そのものは25分間まったく動いていませんでした。

第二に、ラバーダムが難しい症例には、バキューム装置という選択肢がある。湿度はラバーダムに劣るものの、室内条件に近いところまでは下げられます。「ラバーダムか、何もしないか」の二択ではないということです。ただし汚染防止の面での有効性は、この研究では確かめられていません

第三に、外せばすぐ戻る。ラバーダムは30秒で、バキュームは1〜3分でベースラインへ戻りました。ボンディングから重合が終わるまでを、隔離の内側で完結させる——この当たり前を数字が裏づけています。

つまり: 隔離しない口の中は湿度ほぼ100%・30℃超のまま。接着に効くのは湿度で、その点ではラバーダムがいちばん有利。バキューム装置は室内条件に近いところまでは下げられる。そして外せば30秒〜3分で戻る
ここだけ、冷静に補助線
健常ボランティア5名という小さな研究で、測っているのは口腔内の温度と湿度であって、接着強さや修復物の予後そのものではありません。被験機器のIsolite i2とCoolexは、いずれも販売元・メーカーからの提供によるものと原著に明記されています(利益相反の開示)。また原著が引くPlasmansらの先行研究では口腔内RHは78〜94%と報告されており、著者ら自身「我々はより高い値を観察した」と断っています=「湿度100%」はこの研究の測定値であって、確立した定数ではありません。実際の窩洞形成中(注水下の切削)ではなく、装置を置いた状態での測定です。センサーは咬頭から1cmの位置にあり、窩洞内の環境をそのまま表しているわけでもありません。また著者ら自身が引くように、臼歯部レジン修復の長期臨床成績ではラバーダムと簡易隔離に実質的な差がなかったという報告もあります。それでも「隔離しなければ、環境は25分間ほとんど動かない」という観察は、日々の1本の防湿を選び直すのに十分な材料です。

今日のひとこと

隔離しない口の中は、25分間ずっと湿度ほぼ100%・30℃超だった。ラバーダムは湿度を41.5%まで、Isolite i2とCoolexは51%前後まで下げた。原著は「象牙質接着強さは相対湿度が低いほど高くなり、温度には実質的に影響されない」と述べており、効いているのは湿度のほう。「ラバーダムか、何もしないか」の二択ではなく、その間に環境を実際に下げられる選択肢がある——ただし測ったのは温湿度であって、接着強さでも汚染防止でもない。

出典:Kameyama A, Asami M, Noro A, Abo H, Hirai Y, Tsunoda M. The effects of three dry-field techniques on intraoral temperature and relative humidity. J Am Dent Assoc. 2011;142(3):274-280. PMID: 21357861
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。