1問1答 論文 保存修復

う蝕影響象牙質の接着は、次亜塩素酸15秒で戻る——ただし30秒は健全象牙質を傷める

1問1答 論文 保存修復

保存修復|う蝕影響象牙質・NaOCl前処理・セルフエッチ接着

感染象牙質を取りきったあと、残したう蝕影響象牙質に接着材を塗る——日常の手順ですが、そこは健全象牙質ほど接着してくれません。ヒト大臼歯40本で、6%次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)を15秒/30秒塗ってから接着した研究があります。結果は時間で割れました。15秒ならう蝕影響象牙質の接着強さは27.9→41.6MPaと健全象牙質並みに戻り(クリアフィル プロテクトボンド)、30秒では健全象牙質のほうが44.0→30.4MPaまで落ちる(ボンドフォース)。効くのは秒数の側でした。

論文
Improving the effect of NaOCl pretreatment on bonding to caries-affected dentin using self-etch adhesives
著者
Taniguchi G, Nakajima M, Hosaka K, Iwamoto N, Ikeda M, Foxton RM, Tagami J
掲載
Journal of Dentistry 2009;37(10):769–775(東京医科歯科大学 う蝕制御学分野ほか)
種類
実験室研究(in vitro・う蝕を有するヒト抜去大臼歯40本・微小引張接着試験・各群n=12)
PMID
19589634

残したう蝕影響象牙質は、なぜ接着してくれないのか

う蝕象牙質は2層に分かれます。感染象牙質は細菌に侵され高度に脱灰していて、取りきる必要がある。う蝕影響象牙質は部分的な脱灰にとどまり、細菌に侵されておらず再石灰化しうるので、残すべき層です。原著もその前提から書き起こしています。

ところが実務では、その残した面に接着材を塗ることになります。そして接着強さは健全象牙質より落ちる——これは繰り返し報告されてきました。原著が疑っているのはその面を覆うスメア層です。う蝕影響象牙質のスメア層は有機成分に富んでいるようで、その有機相がモノマーの浸透を妨げるのではないか——原著は「推測される(It was speculated that…)」という慎重な言い方でそう述べています。なお原著は、スメア層の中の乱れたコラーゲンについて「変性はしていない」とも明記しています。

そこで登場するのが次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)。有機質を溶かす薬剤なので、邪魔な有機成分を片づければ接着が戻るのではないか、という発想です。ただしNaOClは強い酸化剤でもあり、残留したラジカルが樹脂の重合を妨げることも知られています。助けにも毒にもなる薬剤を、どのくらい当てればよいのか。

15秒か、30秒か、そこに還元剤を足すか

う蝕のあるヒト抜去大臼歯40本を使い、咬合面側の象牙質面(う蝕影響象牙質を含む)を4条件に分けました。

4条件: 群1=水洗のみ / 群2=6%NaOClを15秒群3=6%NaOClを30秒群4=30秒処理のあとにアクセル(Accel/サンメディカル)を30秒NaOCl処理後はいずれも10秒間の水洗を行う。アクセルはp-トルエンスルフィン酸ナトリウムを含む還元剤で、原著での本来の位置づけはNaOClで洗浄した根管を接着性シーラーで充填する前の前処理である。

その後、水洗・乾燥してから2種類のセルフエッチ接着材——クリアフィル プロテクトボンド(2ステップ)ボンドフォース(1ステップ)——をメーカー指示どおりに塗り、コンポジットレジンを築盛。37℃24時間後に、健全象牙質部とう蝕影響象牙質部をそれぞれ約1mm²の砂時計形に切り出し、微小引張接着試験にかけています。各群n=12です。

同じ歯の中で健全部とう蝕影響部を分けて測る設計なので、歯ごとのばらつきが群間差に紛れ込みにくくなっています。なおn=12は試験片の数で、1歯から健全部・う蝕影響部それぞれ2〜3本を切り出しているため、製品×群あたりの歯は5本前後です。

結果:15秒で戻る、30秒で壊す

0 16.7 33.3 50 微小引張接着強さ μTBS (MPa) 40.9 27.9 42.0 41.6 34.4 33.3 37.5 39.9 水洗のみ NaOCl 15秒 NaOCl 30秒 NaOCl 30秒+アクセル 健全象牙質 う蝕影響象牙質 クリアフィル プロテクトボンド・各群n=12(試験片数。1歯から2〜3本切り出すため歯数は各群5本前後)。SDは3.5〜6.7
クリアフィル プロテクトボンド。う蝕影響象牙質(淡い棒)は水洗のみで27.9MPaだが、NaOCl 15秒で41.6MPaまで戻る

まず水洗のみ(群1)では、両接着材ともう蝕影響象牙質の接着強さが健全象牙質より有意に低い(p<0.05)——プロテクトボンドで40.9→27.9MPa、ボンドフォースで44.0→29.8MPa。これが出発点の問題です。

そこにNaOClを15秒当てると、う蝕影響象牙質はプロテクトボンドで41.6MPa、ボンドフォースで40.6MPaまで上がりました。しかも同じ処理で健全象牙質は変化しません(42.0/43.7MPa)。つまり15秒は、弱いところだけを持ち上げて、良いところには触らない設定でした。

0 16.7 33.3 50 微小引張接着強さ μTBS (MPa) 44.0 29.8 43.7 40.6 30.4 31.4 36.8 35.6 水洗のみ NaOCl 15秒 NaOCl 30秒 NaOCl 30秒+アクセル 健全象牙質 う蝕影響象牙質 ボンドフォース・各群n=12(試験片数)。SDは3.9〜9.9と大きい。健全象牙質では30秒処理で有意に低下。30秒+還元剤(右端)は30秒と有意差なし
ボンドフォース。30秒処理では健全象牙質のほうが44.0→30.4MPaへ有意に低下した

ところが30秒にすると話が変わります。う蝕影響象牙質は33.3/31.4MPaで、水洗のみと有意差がありません——原著の言い方も「30秒の前処理はそれらに影響しなかった」です。上がり方が足りないのではなく、効かなかった。そして健全象牙質のほうが有意に低下——プロテクトボンドで34.4MPa、ボンドフォースでは30.4MPaまで落ちました。長く当てるほど良い、ではまったくなかったわけです。

最後の群4。30秒処理のあとに還元剤アクセルを塗ると、数値はう蝕影響象牙質で39.9/35.6MPa、健全象牙質で37.5/36.8MPaへと上がりました。ただし統計はもっと控えめです——Table 2の記号を追うと、群3と群4のあいだに有意差が付いたのは4つの組み合わせのうちプロテクトボンドのう蝕影響象牙質だけで、残る3つは有意差なし。原著も群4についてはp値を添えず「増加した」「反転させた」としか書いていません。方向としては戻したが、統計的に示せたのは1つだけ——そう読むのが正確です。

なお統計上、接着材どうしには有意差がありません(p=0.32)。効いていたのは前処理の方法(p<0.001)と象牙質の種類(p<0.001)でした。製品選びより、面の処理のほうが効いているという読み方ができます。

なぜ15秒と30秒で逆になるのか

NaOClは2つの顔を持っています。ひとつは有機質を溶かす顔。ここはSEMがはっきり見せていました。

まず処理前。健全象牙質のスメア層は緻密で表面が滑らかで、線維状の構造は見えません。対してう蝕影響象牙質のスメア層は厚く不規則で、スラッジ状の堆積と線維状の構造が観察されました。この差が出発点です。

そこへNaOClを当てると——う蝕影響象牙質では、スメア層が侵食されて薄くなり、線維状の構造は見えなくなりました(15秒でも30秒でも)。原著の結論はこうです——NaOClの前処理は、う蝕影響象牙質のスメア層内の表層コラーゲンを溶かすことができたが、スメア層を完全に除去することはできなかった。「片づけた」ではなく「薄くした」が正確です。

もうひとつは酸化する顔。原著が健全象牙質での低下の理由として挙げているのはこれ一本です——30秒処理では、10秒間の水洗で流しきれなかった酸化生成物が象牙質面に残り、レジンの重合を妨げうる。ここでSEMがもう一度効いてきます。健全象牙質では、15秒でも30秒でも表面形態とスメア層の厚みに明らかな変化が見られませんでした。見た目は変わっていないのに接着だけが落ちる——健全象牙質で起きているのは形の問題ではなく、化学の問題だということです。

整理すると、こうなります。う蝕影響象牙質には溶かしてほしい厚く不規則なスメア層があるので、短時間なら「溶かす顔」の得が勝つ。健全象牙質のスメア層はもともと緻密で薄いので、溶かす作用は得にならず、長く当てれば酸化の害だけが残る。同じ薬剤が、面の状態と時間によって助けにも毒にもなる——これが15秒と30秒で逆転した理由です。

そして群4の狙いは、その毒のほうだけを打ち消すことでした。p-トルエンスルフィン酸ナトリウムは還元剤として働き、酸化の負の効果を中和しうる。数値はその方向に動きましたが、上に書いたとおり有意差が付いたのは1つだけです。

明日の臨床へ——秒数を、感覚ではなく時計で

第一に、う蝕影響象牙質を残した窩洞では、6%NaOClの短時間処理が接着の底上げになりうる。水洗のみの27.9MPaが41.6MPaになるというのは、大きな差です。

第二に、そして最も重要なこととして、時間は15秒であって30秒ではない。窩洞の中には、たいてい健全象牙質とう蝕影響象牙質が同居しています。30秒当てても、う蝕影響象牙質は水洗のみと変わらないまま、健全象牙質だけが有意に落ちる。目分量ではなく、時計かタイマーで測りたいところです。

第三に、「長く当てたら還元剤で戻せる」とまでは、この研究では言えません。数値は戻る方向に動いたものの、有意差が付いたのは4つのうち1つだけ。しかもアクセルは本来、根管の接着性シーラー充填前の前処理として使われる製品です。窩洞処置の保険として推奨するには、根拠が足りません。

第四に、製品を替えるより面を整える。2種類のセルフエッチのあいだに有意差はなく、効いたのは前処理と象牙質の種類でした。

つまり: NaOClは15秒で味方、30秒で敵。う蝕影響象牙質だけを持ち上げたいなら短く。15秒のあとは10秒の水洗まで含めて手順である。
ここだけ、冷静に補助線
ヒトの抜去歯を使った実験室研究で、24時間後の測定です。n=12は試験片の数で、歯数は製品×群あたり5本前後=同じ歯から出た試験片が複数入るクラスター構造になっています。標準偏差も3.5〜9.9と大きい。長期の耐久性(サーモサイクルや長期水中保管の後)は評価されていません。う蝕影響象牙質の脱灰の程度は症例ごとに違い、この研究の面が自分の窩洞と同じ状態とは限りません。臨床の脱離率や術後経過を見た研究でもありません。また6%という濃度は歯内療法で使う濃度帯で、歯髄に近い窩底で使う際の刺激性は別途の配慮が要ります。それでも「同じ薬剤が、時間で逆の顔を見せる」という骨格は明快で、日々の窩洞処理を見直す確かな手がかりになります。

今日のひとこと

う蝕影響象牙質が接着しにくいのは、そこを覆うスメア層が有機成分に富んでいるためと考えられている。6%NaOClを15秒だけ当てれば、接着強さは健全象牙質と並ぶところまで戻る。ただし30秒は行き過ぎで、今度は健全象牙質が犠牲になる——残った酸化生成物が重合を妨げるためだ。同じ薬剤・同じ濃度で、15秒と30秒が逆の顔を見せる。ここは時計で管理する処置である。

出典:Taniguchi G, Nakajima M, Hosaka K, Iwamoto N, Ikeda M, Foxton RM, Tagami J. Improving the effect of NaOCl pretreatment on bonding to caries-affected dentin using self-etch adhesives. J Dent. 2009;37(10):769-775. PMID: 19589634
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。