歯周病|再発性歯周炎・縁上プラークコントロール・トリクロサン/コポリマー
「メインテナンスに来ているのに、また深くなっている」。歯周治療を終えた患者さんで、これほど悔しい場面はありません。1997年、イエテボリ大学のRoslingらは、まさにその「再発を繰り返す人たち」40名を集め、3年間いっさい縁下に触れずに、歯磨剤だけを変えて何が起きるかを見ました。
①「来ているのに、また深くなっている」
歯周治療を終えて、3か月ごとのメインテナンスに通ってくれている。それでも一部の部位で、また深くなる。再発しやすい人は確かにいます。
当時わかっていたのは、縁上のプラークコントロールが縁下の細菌叢に影響することでした。ただし報告は割れており、「浅い(3mm以下)〜中等度(4〜6mm)のポケットでは変わる」(Smulow ら 1983、Dahlén ら 1992、McNabb ら 1992。なおサルの実験では Siegrist & Kornman 1982)という研究と、「深いポケットではほとんど効かない」(Lindhe ら 1983、Loos ら 1988、Heijl ら 1991)という研究が並んでいました。
そこで著者らは、条件を極端にしました——再発を繰り返してきた人だけを集め、3年間いっさい縁下に触れない。その上で歯磨剤だけを変える。
②3年間、縁下には触れない
- 対象:40名。3〜5年前に進行した歯周炎を非外科的に治療し、その後3か月ごとのSPTを受けてきた人たち。全員が、その間に再発部位(ポケットの増加と2mm以上の付着喪失)を経験している
- 組み入れ基準:16歯以上/4象限すべてに歯肉炎/各象限で2歯以上に5mmを超えるポケット/歯根長の40%を超える骨吸収。かなり重い集団です
- 割付:無作為に20名ずつ。テスト群はトリクロサン/コポリマー配合のフッ化物歯磨剤、対照群はそれを含まない同等の歯磨剤。白い無地のコード化されたチューブで配布され、検者もメインテナンスを担当する歯科衛生士も中身を知らない
- 介入:ベースラインで詳細な口腔衛生指導。3か月ごとにリコールして清掃状態を確認し、必要なら指導を修正する
- ここが肝:ベースラインから36か月まで、歯肉縁下の専門的処置は一切行わない
- 安全弁:6・12・24か月で付着レベルを測り、2mm以上の追加喪失が出た部位は、その場でデブライドメントを行って以後の観察から外す(外れるのは部位であり、被験者は40名全員が36か月まで残っています)
- 評価部位:各象限の最も深いポケット1部位(1人4部位)。ここから細菌サンプルを採取
ベースラインは両群でよく揃っていました——BoP陽性 35〜46%、PPD 4.2mm(テスト)/3.8mm(対照)、骨レベル 7.2/7.1mm、付着レベル 7.2/6.9mm。臨床指標のいずれにも有意差はありません。
③36か月後——ポケットは浅くなったか、深くなったか
- ポケット深さの変化:テスト群 −0.4mm/対照群 +0.1mm(群間差 p<0.05)
- 付着レベルの変化:テスト群 変化なし/対照群 0.5mmの追加喪失(対照群のみ有意)
- ポケットの分布(テスト群):3mm以下 40→41%、4〜5mm 32→36%、6mm 19→18%、7mm以上 9→5%
- ポケットの分布(対照群):3mm以下 46→41%、4〜5mm 30→35%、6mm 18→15%、7mm以上 6→9%
同じ指導を受け、同じ3か月ごとのリコールを受けていても、方向が逆になった。テスト群では浅い側へ、対照群では深い側へ、3年かけて分布が動いています。
④細菌叢は、量でも質でも動いた
- 総生菌数(TVC):テスト群は17×106 から 9×106 CFU/mL へ有意に減少。対照群は15×106 から 12×106で有意差なし
- P. gingivalis 陽性者:全体で17名→6名(p<0.05)。テスト群では陽性者数だけでなく、検出された試料中の割合も減った
- A. actinomycetemcomitans 陽性者:11名→5名
- P. intermedia:テスト群でより大きく減少した
- 一方で腸内細菌やカンジダが検出された人は、ベースラインの2名から36か月の7名へ増えていました
対照群でも菌は減っている——縁上のプラークコントロールだけでも、縁下は動くのです。しかし、それは進行を止めるには足りなかった。著者らの結論はこの一点に尽きます。
⑤明日の臨床へ
- 「よく磨けているのに再発する人」は実在する。3か月ごとにチェックし、指導を修正し続けても、対照群は3年で0.5mm失いました。患者さんの努力不足のせいにしないための根拠になります
- だからこそ、縁下への定期的な介入に意味がある。この研究は縁下処置を止めた条件での話です。裏を返せば、私たちが3か月ごとにやっている縁下のデブライドメントが、この0.5mmを防いでいるとも読めます
- ハイリスク者では、家庭で使うものの選択が上乗せになりうる。ただしこれは1つの試験の結果であり、成分そのものへの評価は後述のとおり変わりました
- 菌が減っても油断しない。対照群でもP. gingivalis陽性者は減っていました。細菌の指標の改善と、付着の維持は別に追う
今日のひとこと
縁上のプラークコントロールを丁寧に続けるだけでも、縁下の細菌叢はある程度変わる。しかし再発しやすい人では、それだけでは進行を止められなかった——対照群は36か月で平均0.5mmの付着をさらに失った。トリクロサン/コポリマー配合歯磨剤を使った群では、付着の喪失は起きなかった。


