カリオロジー|ミュータンス菌の定着時期・乳前歯のプラーク・う蝕リスク
「早く菌が住みつくと虫歯が多くなる」。この言い方の出どころのひとつが、この論文です。ヘルシンキ大学のAlaluusuaとRenkonenが、2歳の子ども39人を4歳まで年1回追いかけ、乳前歯のプラークからミュータンス菌を採り続けました。結果はきれいに分かれます——ただし、5人と26人を比べた話であることは、忘れずに持っておく必要があります。
①「早く菌が住みつくと、虫歯が多くなる」の出どころ
2歳児健診で、私たちはよくこう言います——「今の時期に菌が定着すると、あとが大変になります」。
この言い方には出どころがあります。1983年、ヘルシンキ大学のAlaluusuaとRenkonenが、2歳の子どもを4歳まで年1回追いかけ、乳前歯のプラークからミュータンス菌を採り続けた研究です。
当時わかっていなかったのは、「いつ定着したか」が結果を分けるのかどうかでした。年長児や大人では「菌がいる=リスクが高い」ことが示されていましたが、乳幼児の口の中の細菌叢は年長児とはかなり違うため、その指標をそのまま持ち込めるとは限らなかったのです。
②唾液も採ったが、決め手は乳前歯のプラークだった
- 対象:ヘルシンキ郊外の2つの地区から、社会経済的に多様な集団を選び45名を登録。開始時生後23〜25か月。転居や疾病により39名で解析
- 追跡:12か月間隔で3回(計24か月)。2歳・3歳・4歳の3時点
- 採取部位:上顎乳前歯の唇側隣接面のプラークと、第二乳臼歯の咬合面小窩裂溝のプラーク。2歳時点では第二乳臼歯がまだ萌出していないため、前歯のプラークのみ。同時に非刺激全唾液も採取
- 培養:MS寒天とMSFA寒天。コロニーはSHKLAIR & KEENEの生化学的分類で同定し、総ストレプトコッカスに占める割合(%)として数えた
- う蝕診断:ミラーと探針。エックス線写真は撮っていない。臼歯は裂溝の探針の引っかかり、前歯は象牙質う蝕が見えるもの
プラークと唾液の両方を採ったうえで、指標になったのはプラークのほうでした。理由は後で効いてきます。
③定着した時期で、2年後がきれいに分かれた
研究期間中にミュータンス菌が検出されたのは39人中15人(38%)(※原著は本文で15人、Table 2の群分けでは13人=5+8と、記載が一致していません)。時点別では2歳で5人(13%)、3歳で12人(31%)、4歳で13人(33%)でした。
集団全体のう蝕は2歳でdfs 0.05±0.3(う蝕のある子1人)→ 3歳で1.0±2.5(9人)→ 4歳で2.3±4.0(16人)と増えていきます。39人中23人は4歳まで無う蝕でした。
そして定着時期で分けると、こうなります。
- 2歳より前に定着(5名):2歳 0.4±0.9 → 3歳 5.4±4.2 → 4歳 10.6±5.3
- 2〜4歳の間に定着(8名):0 → 1.0±2.1 → 3.4±1.8
- 最後まで検出されず(26名):0 → 0.1±0.4 → 0.3±1.1
4歳時点で、1群 対 2群 が p<0.005、1群 対 3群 が p<0.0003。
もう一つの数字が印象的です。この5人だけで、集団全体のう蝕病変の約60%を占めていました。残りの34人が40%です。病変の内訳を見ると、5人が4歳までに経験した53病変は小窩裂溝16・隣接面28・平滑面9。34人の36病変は小窩裂溝13・隣接面19・平滑面4——どちらの群でも隣接面が最も多いのは、乳歯列を見るうえで押さえておきたいところです。
④唾液では、まだ拾えなかった
この論文のもう一つの発見は、唾液が使えなかったことです。
- プラーク検体189のうち、ミュータンス菌が分離できたのは41検体。うち11検体では総ストレプトコッカスの50〜100%を占めていた
- 一方唾液検体113のうち、検出できたのはわずか8検体。しかもそのうち7検体では割合が1%未満
年長児や大人では、刺激唾液中のミュータンス菌がリスクの指標として使えます。しかし幼児から刺激唾液を採るのは難しく、この研究の非刺激唾液では菌量が低く、必ずしもリスクを反映しませんでした(ただし著者らは「高度に感染した児では唾液からも検出される傾向はあった」とも書いています)。著者らの言い方は控えめです——「幼児では、唾液よりプラークを評価するほうが実際的で信頼できそうだ」。
なお、分離された52株はすべてc/e/f血清型群に属していました。
⑤明日の臨床へ
- 2歳という時期を、ただの節目にしない。この研究では2歳での定着の有無が、4歳の姿を大きく分けました
- ただし著者ら自身が、条件を付けてこう書いています——「哺乳瓶う蝕を含む、よりう蝕活動性の高い集団では2歳では遅く、最初の評価を1歳か1歳半に置くべきかもしれない」と。日本の1歳半健診の位置づけを考えるうえで、この一文は重い
- 乳歯列では隣接面が多い——両群とも隣接面が最多でした。前歯部の唇側だけを見て「きれいですね」と言わない
- ハイリスクは集中する。39人中5人が病変の6割。限られた予防の資源をどこへ置くかという問いに、この分布はそのまま答えています
今日のひとこと
2歳の時点で乳前歯のプラークにミュータンス菌がいた5人は、4歳でdfs 10.6±5.3。2〜4歳の間に定着した8人は3.4±1.8(p<0.005)、最後まで検出されなかった26人は0.3±1.1(p<0.0003)。この5人が、集団全体のう蝕病変の約6割を占めていた。


