カリオロジー|唾液の概日リズム・流量・唾液検査
唾液の量が少ない患者さん。私たちは「安静時唾液◯mL/分」と一度測って、その人の値として扱います。でもその測定は何時に行いましたか。1972年の Journal of Physiology は、8名の若年成人から24時間にわたって唾液を集め続け、流量と組成の日内変動を調べました。非刺激全唾液の流量には8名全員に有意な概日リズムがあり(群としてp<0.01)、平均2.43 mL/5分に対し振幅0.94 mL/5分——山と谷では2倍以上の開きがありました。
①唾液は、一日じゅう同じではない
唾液の量が少ない患者さん。私たちは「安静時唾液◯mL/分」と一度測って、その人の値として扱います。
でも、その測定は何時に行いましたか。1972年の Journal of Physiology は、8名の若年成人から24時間にわたって唾液を集め続け、流量と組成が一日の中でどう動くかを調べました。
②今回の一手:24時間、採り続ける
- 被験者は若年成人8名(うち女性3名)
- 非刺激全唾液と、一定流量(1.0 mL/分)に刺激した耳下腺唾液を、約2時間おきに24時間採取
- 睡眠時間はおよそ23:00〜06:30
- 解析はコサイナー法(cosinor analysis)。平均レベル・振幅・アクロフェーズ(山が来る位相)・周期を推定する
- 口腔温も同時に測定
この方法の要点は、「一日に1回測った値」ではなく「一日の中の動き方」を数式で取り出すところにあります。
③結果その1:一日の中で、これだけ揺れている
群として有意な概日リズムが確認されたのは、流量(p<0.01)・塩化物(p<0.01)・ナトリウム(p<0.05)・ナトリウム/カリウム比(p<0.05)の4項目でした。
一方、蛋白・カリウム・カルシウム・無機リン酸・尿素には、群として有意なリズムは認められませんでした。カルシウムやリン酸——再石灰化に直接関わる成分——が比較的安定していたことは、押さえておく価値があります。
④結果その2:流量は、山と谷で2倍以上ちがう
非刺激全唾液の流量は、平均2.43 ± 0.46 mL/5分(≒0.49 mL/分)、振幅0.94 ± 0.17 mL/5分。山と谷では1.49 → 3.37 mL/5分と、2倍以上の開きがあります。
8名全員に有意な概日リズムが認められました。個人差の話ではなく、誰にでもあるリズムだということです。
周期については、大多数の被験者で最もよく当てはまるコサイン波の周期は23.9〜24.1時間でした。口腔温のリズムも同じく24.0時間周期です。
⑤明日の臨床へ
- 唾液検査の「時刻」を揃える価値があります。流量が2倍以上動くのなら、午前に測った人と午後に測った人を同じ土俵で比べることはできません
- 経過を追うときは、同じ時間帯で測る。「前回より減った」の一部は、測った時刻の違いかもしれません
- カルシウム・リン酸は比較的安定していました。再石灰化のポテンシャルという観点では、流量ほど時刻に振り回されない可能性があります
- ただしこの研究は「睡眠中に唾液が止まる」ことを示したものではありません(⑥へ)
⑥ここだけ、冷静に補助線
とはいえ、24時間にわたって唾液を採り続けるという地道な設計から出てきた「流量は一日で2倍以上動く」という数字は、いまも唾液検査の解釈に効いてきます。一度の測定値をその人の固有値として扱う前に、思い出しておきたい一本です。
今日のひとこと
唾液の流量は一日の中で2倍以上動く——一度の測定値をその人の固有値として扱う前に思い出したい数字。若年成人8名から非刺激全唾液と、一定流量(1.0 mL/分)に刺激した耳下腺唾液を24時間にわたり採取し、コサイナー法で解析した。非刺激全唾液の流量は平均2.43±0.46 mL/5分、振幅0.94±0.17で、山と谷では1.49〜3.37 mL/5分と2倍以上の開きがある。8名全員に有意な概日リズムが認められた(群としてp<0.01)。組成ではナトリウム(p<0.05)・塩化物(p<0.01)・Na/K比(p<0.05)に有意なリズムがある一方、蛋白・カリウム・カルシウム・無機リン酸・尿素には群として有意なリズムは認められなかった。変動係数は Na/K比46.0%・ナトリウム45.7%・塩化物41.9%・流量34.2% に対し、蛋白21.6%・カルシウム18.9%・尿素11.0%・リン酸10.2%・カリウム6.6%。周期は大多数で23.9〜24.1時間、口腔温も24.0時間周期だった。ただし被験者は8名の若年成人、睡眠中の値そのものを測った研究ではなく「就寝中に唾液が止まる」ことを示したものではない。著者らは概日リズムで説明できたのは総変動の50%未満とも述べている。刺激耳下腺唾液では蛋白・ナトリウム・カリウム・カルシウム・塩化物にリズムがあり、非刺激全唾液とは異なる項目だった。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


