1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

X線ではきれいに治っているのに、まだ痛い——根管治療後にその歯の痛みが残る人は12%。危険因子は「治療前」に揃っていた(2005年)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

ロンドンのイーストマン歯科病院で歯内療法を受けた患者175人を治療の12〜59か月後に呼び戻し、臨床とX線で評価。X線で完全に治癒した103人だけを取り出して、その歯の痛みが残る人の割合と危険因子を調べた横断研究(Polycarpou 2005・International Endodontic Journal・UCL)

根管治療後、X線では根尖部がきれいに治っている。それなのに「まだ変な感じが続きます」と言われる。この論文は、その頻度と背景を数字で出した研究です。ロンドンのイーストマン歯科病院で根管治療(非外科・外科)を受けた患者さん175人を、治療の12〜59か月後に呼び戻して診察とX線で評価しました。X線で完全に治癒していた103人のうち、治療した歯に関連する痛みが残っていたのは21人(20.4%)。これは175人全体に対しては12.0%にあたります。そして単変量のロジスティック回帰で拾い上げられた危険因子の多くは、治療を始める前の患者さんの状態でした(術式=外科か非外科かも挙がっていますが、著者らは境界的として扱っています)——術前の痛みが3か月以上続いていた(オッズ比 8.60/リスク比 6.3)、術前にその歯が痛かった(オッズ比 7.80/リスク比 5.8)、術前に打診痛があった(オッズ比 7.80/リスク比 5.8)、他の部位に慢性痛の既往がある(オッズ比 4.52/リスク比 3.4)、女性(オッズ比 4.47/リスク比 3.5)。ただし三次紹介機関の患者さんが対象で、来院率は43.8%。一般開業医の日常の数字としてそのまま持ち込める研究ではありません。

論文
Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing
著者
N. Polycarpou, Y.-L. Ng, D. Canavan, D. R. Moles, K. Gulabivala(ロンドン大学(UCL)イーストマン歯科研究所 歯内療法学ユニット)
掲載
International Endodontic Journal 2005;38:169-178. doi:10.1111/j.1365-2591.2004.00923.x
種類
横断(後ろ向きの呼び戻し)研究+多重ロジスティック回帰。1997年10月〜2001年5月にイーストマン歯科病院 歯内療法学ユニットで非外科的/外科的歯内療法を受けた全患者400人に連絡し、175人(253歯)が来院=来院率43.8%。治療からの期間は12〜59か月(49.5%が1〜2年前)。1人につき1歯を無作為に選び、175歯を解析。術前・術中のデータは治療時に前向きに記録された専用フォームから抽出し、来院時に2人の術者が問診・詳細な痛みの面接・口腔内外の診察(打診痛・触診痛・瘻孔・動揺・ポケット・修復物の封鎖性、隣在歯と対合歯の確認)を実施。X線は同一角度で撮影し、2人の歯内療法医が盲検で完全治癒/不完全治癒/不確定/失敗の4分類に判定(観察者間κ=0.43=中等度)。危険因子の解析は完全治癒群 n=103 のみを対象にカイ二乗検定とロジスティック回帰で実施
PMID
15743420

①「X線はきれいなんですが、まだ痛いんです」

根管治療から1年。デンタルを撮ると、根尖部の透過像は消え、歯根膜腔もきれいに見える。臨床的にも腫れや瘻孔はない。教科書どおりの成功です。それなのに患者さんは「まだ重い感じが続いています」と言う。

こういうとき、つい「見落とした根管があるのでは」「破折では」と、もう一度器具を入れる方向へ気持ちが動きます。でも、そこで本当に問うべきなのは「この人はもともと痛みが残りやすい人だったのか」かもしれません。

結論を先に言います。ロンドンのイーストマン歯科病院で根管治療を受けた患者さんを呼び戻したところ、X線で完全に治癒していた103人のうち21人(20.4%)に、治療した歯に関連する痛みが残っていました。175人全体で見ると12.0%です。そして拾い上げられた危険因子の多くは、治療を始める前の患者さんの状態でした(術式=外科か非外科かも挙がっていますが、著者らは「境界的」として扱っています)。

②なぜ「痛い=失敗」と読んでしまうのか

歯内療法の世界では、治療後に残る痛みは治療失敗のサインとして扱われてきました。実際、根尖病変が残っていれば痛みも残りやすい。だから「痛い→治っていない→再治療」という線が、ごく自然に引かれます。

ただ、著者らはその前提の弱いところを指摘します。

・X線に病変が写らないことは、病変が無いこととイコールではない(骨の変化が画像に出るには条件がいる)
・逆に、本当に根尖部の病変は無くて、痛みだけが歯原性でないことも起こりうる
・重なる解剖構造が、疑っている歯の像をさらに見えにくくする
・だからこの研究では「痛みの有無」を治療失敗の唯一の判定基準にしていない

歯科治療のあとに残る神経障害性の痛み(ファントムトゥースペイン/非定型歯痛)についての疫学研究は、当時わずか3本しかありませんでした。しかもそのどれも、危険因子までは調べていません。「誰に起こりやすいのか」がわからないまま、臨床だけが進んでいた——そこがこの研究の出発点です。

③今回の一手:「成功例」だけを取り出して、危険因子を探す

この研究の肝は、X線で完全に治癒した症例だけに絞って解析したところにあります。病変が残っている人を混ぜたままでは「痛い理由は病変でした」で終わってしまうからです。

・対象:1997年10月〜2001年5月に、イーストマン歯科病院 歯内療法学ユニットで非外科的/外科的歯内療法を受けた全患者400人。紹介元は一般開業医・二次医療機関・院内他科
・来院:連絡がついて来院したのは175人(253歯)=来院率43.8%。来院しなかった225人の理由は、連絡先不明30%・抜歯15%・非協力9%・死亡2%など
・時期:治療から12〜59か月後(49.5%が1〜2年前、5.8%が4年以上前)
・1人1歯:同じ患者さんの複数歯は独立と見なせないため、1人につき1歯を無作為に選び、175歯を解析
・術前データ:治療時に前向きに記録された専用フォーム(既往歴・術前の痛みの病歴・診断・術式)から抽出
・来院時の評価:2人の術者が問診と詳細な痛みの面接を行い、打診痛・隣接軟組織の触診痛・瘻孔・動揺・ポケット・修復物の封鎖性を記録。咀嚼筋・頸部・肩の触診、顎関節の聴診と触診、開口域も確認。隣在歯と対合歯も調べて痛みの原因から除外
・X線:術前・術直後・来院時を同一角度で撮影(ビームエイミングデバイス+個人用ステント)。2人の歯内療法医が盲検・同一条件下で完全治癒/不完全治癒/不確定/失敗の4分類に判定。複数根の歯は最も悪い根で代表。不一致は協議、決着しなければ第三者が裁定
・統計:カイ二乗検定と、説明変数ごとの単変量ロジスティック回帰。さらに複数変数を同時に入れた多重ロジスティック回帰(4モデル)

治癒像の判定には限界もあります。観察者間のκ係数は0.43(中等度)で、決して高くありません。著者らも初期一致率が低かったことを認めたうえで、意見が割れた症例は再検討し、5例は第三者が裁定したと明記しています。

④結果①:「成功しているのに痛い」は12%いた

まず全体像です。来院した175人のうち37人(21.1%)に、治療した歯に関連する持続痛がありました。そのうち治癒状態別に見ると——

・完全治癒:103人(58.9%)→ うち21人(20.4%)に痛み
・不完全治癒:47人(26.9%)→ うち6人に痛み
・不確定:12人(6.9%)→ うち5人に痛み
・失敗:13人(7.4%)→ うち5人に痛み
・完全治癒群の21人は、175人全体に対して12.0%(21/175)

そして重要なのは、この21人の痛みが一時的なものではなかったことです。著者らは考察で「定義上、この21人(12%)は全員、根管治療後の慢性痛に罹患していた」と書いています。慢性痛の定義はIASP(国際疼痛学会)の「疾患の徴候が消退したあとも続く痛み、または3か月以上にわたる痛み」です。

この12%という数字は、それまでの報告(Marbach 1982=3%、Campbell 1990=5%)より高く出ています。著者らはその理由として、対象が三次紹介機関の患者さんであること——つまり複数の歯科医院を経て紹介されてきた、難症例に偏った集団であることを挙げています。加えて、病院の待機リストが長く術前の痛みの期間が引き延ばされていた可能性にも触れています。

⑤結果②:危険因子は「治療前の歯の状態」に集中していた

ここからが本題です。完全治癒した103人だけを取り出し、痛みが残った21人と残らなかった82人で背景を比べました。まず治療する歯そのものの、術前の状態から見ます。

0 13.3% 26.7% 40% 持続痛が残った人の割合(%) 30.6% 4.9% 29.7% 5.1% 29.7% 5.1% 術前の痛みが3か月以上 術前にその歯が痛かった 術前に打診痛があった 該当あり 該当なし X線で完全に治った103人のうち、治療歯に関連する持続痛が残ったのは21人。原著Table 3の実数から算出(19/62・2/41、19/64・2/39、19/64・2/39)。リスク比は左から6.3/5.8/5.8、オッズ比は8.60/7.80/7.80
X線で完全に治癒した103人のうち、治療歯に関連する持続痛が残った人の割合。術前の歯の状態別(原著Table 3の実数から算出)
・術前の痛みが3か月以上続いていた:30.6%(19/62)vs 3か月未満 4.9%(2/41)=リスク比 6.3(原著の割合から計算)/オッズ比 8.60(95%CI 1.88〜39.29、P=0.005)
・術前にその歯が痛かった:29.7%(19/64)vs 痛みなし 5.1%(2/39)=リスク比 5.8/オッズ比 7.80(95%CI 1.71〜35.66、P=0.008)
・術前に打診痛があった:29.7%(19/64)vs 打診痛なし 5.1%(2/39)=リスク比 5.8/オッズ比 7.80(95%CI 1.71〜35.66、P=0.008)

逆から読むと、より鮮やかです。術前にその歯が痛くなかった人で、治療後に慢性痛が出たのは5%(2人)だけでした。痛みが残った21人のうち90.5%(19人)は、術前から痛みを抱えていた人だったということです。

面白いのは、術前の痛みの「強さ」は関係しなかったことです。0〜5の痛みだった人と6〜10だった人で、その後の慢性痛の頻度に有意差はありませんでした(P=0.121)。関連していたのは痛みがあったかどうかとどれだけ長く続いたかです。

⑥結果③:患者さん側の背景も関連していた

0 13.3% 26.7% 40% 持続痛が残った人の割合(%) 32.0% 9.4% 31.9% 10.9% 27.7% 7.9% 他部位の慢性痛の既往 口腔顔面で痛い治療の経験 性別 該当あり(性別は女性) 該当なし(性別は男性) 同じ103人を患者さん側の背景で分けたもの。原著Table 3の実数から算出(16/50・5/53、15/47・6/55、18/65・3/38)。リスク比は左から3.4/2.9/3.5、オッズ比は4.52/3.83/4.47
同じ103人を、患者さん側の背景で分けたもの(原著Table 3の実数から算出)
・他の部位に慢性痛の既往がある(首・肩・腰の痛み、顎関節症、頭痛):32.0%(16/50)vs 既往なし 9.4%(5/53)=リスク比 3.4/オッズ比 4.52(95%CI 1.51〜13.52、P=0.007)
・口腔顔面領域で痛い治療を受けた経験がある(一般の修復・外科処置の最中や直後に強い痛みを経験):31.9%(15/47)vs 経験なし 10.9%(6/55)=リスク比 2.9/オッズ比 3.83(95%CI 1.35〜10.90、P=0.012)
・女性:27.7%(18/65)vs 男性 7.9%(3/38)=リスク比 3.5/オッズ比 4.47(95%CI 1.22〜16.37、P=0.024)
・外科的歯内療法を受けた:45.5%(5/11)vs 非外科のみ 17.4%(16/92)=リスク比 2.6/オッズ比 3.96(95%CI 1.08〜14.57、P=0.039)

もうひとつ、来院間の痛み(inter-appointment pain)もカイ二乗検定では有意(P=0.012)で、単変量のオッズ比は3.93(95%CI 1.44〜10.69)と報告されています。ただし原著Table 3の実数では、来院間の痛みが無かった人のほうが持続痛が多く(35.1%=13/37 vs 12.1%=8/66)、表どうしで方向が食い違っています。多重回帰では10%水準でも有意性を保てず、最終モデルからは外されました。民族もカイ二乗では有意(P=0.007)でしたが、各群の人数が少なすぎて回帰は行われていません。

一方で、関係しなかった因子もはっきりしています。年齢、歯種、外傷の既往、口腔顔面領域の手術歴(一般)、心理的問題の既往、就労状況、術前の痛みの強さ、術前の隣接軟組織の触診痛、治療中の麻酔の効き——いずれも有意な関連はありませんでした。

「心理的問題の既往が効かなかった」点について、著者らは自分たちで釘を刺しています。この研究では正式な心理・精神科的面接も心理テストも行っておらず、スクリーニングの限界による可能性があると。同時に、「女性の痛みは心因性で情動に支配されている」という臨床家の思い込みが文献で指摘されてきたことにも触れています。

複数の因子を同時に入れた多重ロジスティック回帰でも、主要な因子は生き残りました。たとえば術前の痛みが3か月以上・性別・術式を同時に入れたモデル1では、術前の痛みが3か月以上=オッズ比 7.27(95%CI 1.54〜34.29、P=0.012)、女性=オッズ比 3.99(95%CI 1.01〜15.66、P=0.048)。術前の打診痛・口腔顔面での痛い治療の既往・術式を入れたモデル4では、術前の打診痛=オッズ比 8.28(95%CI 1.68〜40.92、P=0.010)、痛い治療の既往=オッズ比 3.27(95%CI 1.08〜9.93、P=0.037)でした。術式(外科か非外科か)だけは、モデルによって有意になったりならなかったりの「境界」で、著者らも「さらなる前向き研究が必要」としています。

⑦なぜ「治療前」が効くのか——著者らの見立て

著者らは、急性痛が慢性痛へ移行するメカニズムを踏まえて考察しています。ここは仮説であって、この研究で検証されたことではありません。

・慢性痛の患者さんは定義上、必ず「治まらなかった急性痛のエピソード」を経験している。急性痛そのものがファントムペイン発症の危険因子だという見方がある
・乳房切除後や四肢切断後の研究でも、術前の痛みの有無・強さ・持続期間がファントムペインの予測因子として報告されている
・Marbach は、ファントムトゥースペインを歯髄の除去による「求心路遮断(deafferentation)」症候群と捉える説を出した。ネコで歯髄組織の除去により体性感覚経路が変化することを示した実験(Hu & Sessle 1989)がこの説を支持する
・他部位の慢性痛がある人に起こりやすいという結果は、頭痛や全身の痛みといった併存症が慢性口腔顔面痛と関連するという他研究の報告と一致する
・口腔顔面領域で痛い治療を受けた経験が効いた理由はこれまで誰も調べていないが、過去の痛い処置が中枢性・末梢性の変化を起こし、その後の慢性口腔顔面痛への脆弱性を高めた可能性がある(著者らの仮説)

そして著者らが示した臨床的な含意が、この論文でいちばん実務に近い一文です。「慢性痛の予防という点で重要なのは、術前の痛みを修復処置と薬物によって速やかに和らげることかもしれない。先取り鎮痛(preemptive analgesia)は、最初の末梢からの入力を減らし、中枢の神経可塑的変化のリスクを最小化するかもしれない」——ただしこれはこの研究で試されてはいません。

⑧明日の臨床へ

この研究は治療法の比較ではないので、「これをやれば防げる」という答えは出ません。でも、目の前の患者さんをどう見るかは確実に変わります。

・初診の問診に一行足す:「この痛みはいつから続いていますか」。3か月以上なら、それだけで頭の片隅に置く因子になる
・他の部位の慢性痛を聞く:首・肩・腰の痛み、顎関節症、頭痛。歯の話だけで問診を閉じない
・「過去に痛い歯科治療をしましたか」も聞く:この研究で初めて浮かんだ因子。まだ他の研究の裏づけはないが、聞くコストはゼロ
・治療前の説明に入れる:該当する患者さんには「きれいに治っても、違和感や痛みが残ることがあります」と先に伝えておく。あとから言うと言い訳になるが、先に言えば信頼になる
・術前の痛みを放置しない:待たせている間に痛みが長引くこと自体が、この研究で拾われた因子と重なる
・治療後に痛みが残ったとき、すぐ再治療・抜歯へ進まない:X線と臨床所見が揃って「治癒」なら、非歯原性の痛みの可能性を検討の土俵に載せる。この研究の21人は全員、ペインマネジメントクリニックへ紹介されている

最後の点は特に大きいと思います。筆者の補足ですが、「原因の歯を探し続けて、健全な歯が次々に削られ、最後に抜かれる」——非定型歯痛の症例報告で繰り返し描かれてきた経過です。X線で治っている歯に痛みが残ったとき、「12%はそうなる」と知っているだけで、手が一度止まります。

⑨ここだけ、冷静に補助線

これはある一時点で呼び戻して調べた横断研究であり、介入研究ではありません。示されたのは関連であって、因果ではない点にまず注意がいります。「術前の痛みが慢性痛を引き起こした」と読むのは行き過ぎです。
対象はロンドンの三次紹介機関(イーストマン歯科病院)の患者さんです。著者ら自身、「複雑な症例や難治例が紹介されてくるため、この研究に含まれた患者は偏った集団を代表する」と明記しています。一般開業医の日常の数字として12%をそのまま持ち込むことはできません。
来院率が43.8%(400人中175人)というのも小さくない点です。来なかった人の中に、痛みがないから来なかった人が多ければ12%は過大評価になり、逆に痛くて他院へ移った人が多ければ過小評価になります。どちらに振れるかは、この研究からはわかりません。
信頼区間の広さも見ておきたいところです。術前の痛みが3か月以上のオッズ比8.60は、95%信頼区間が1.88〜39.29。「1より大きい」ことは言えても、本当の値が1.88に近いのか39.29に近いのかを、この研究では絞り込めていないという幅です。痛みが残った人が21人しかいないので、これは避けられません。だから本記事では、原著の割合から計算できるリスク比(6.3など)を併記しています。オッズ比は、アウトカムが多い集団では「何倍なりやすいか」より大きめの数字になるためです。
女性で多かったという結果も、そのまま受け取るには注意がいります。著者ら自身、この研究は性差の検出を主目的とした設計ではないと限定し、性差を認めなかった過去の研究も併記しています。「女性だから痛みが残りやすい」と単純化しないほうがよさそうです。
また、X線の治癒判定の観察者間κは0.43(中等度)で、「完全治癒」の線引きにはぶれがあります。著者らも、破折や見落とされた根尖病変を現在の臨床・画像評価で完全には除外できないと認めています。
ここからは筆者の読みです。それでもこの論文の価値は、「成功例だけを取り出して、それでも残る痛みを数えた」という設計そのものにあります。失敗例を混ぜていれば、この21人は「治っていない人」に埋もれて見えなかったはずです。20年前の論文ですが、問診の一行を変える力はまだ十分に残っています。

今日のひとこと

X線で完全に治っているのに、その歯の痛みが続いている人が完全治癒群103人中21人(20.4%)、全体175人に対して12.0%いました。そして拾い上げられた危険因子は、術前の痛みの有無と長さ、術前の打診痛、他部位の慢性痛の既往、口腔顔面で痛い治療を受けた経験、女性——ほとんどが治療を始める前から揃っていたものです。持ち帰りたいのは「根管治療の予後を、X線の治癒像だけで説明しない」という視点。術前に長く痛みを抱えている患者さんや、他に慢性痛を持つ患者さんでは、治療前の説明の段階で「痛みが残る可能性」に触れておく——それだけで、治療後の再治療や抜歯へ急ぐ流れを一段止められます。ただしこれは三次紹介機関の来院率43.8%の横断研究で、信頼区間も広い(例:オッズ比8.60の95%CI 1.88〜39.29)。関連であって、因果の証明ではありません。

Polycarpou N, Ng Y-L, Canavan D, Moles DR, Gulabivala K. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. International Endodontic Journal. 2005;38(3):169-178. doi:10.1111/j.1365-2591.2004.00923.x. PMID: 15743420
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。