今日の1本 — エビデンスを臨床に
30年予防は報われる?──失う歯は平均1本以下だったスウェーデンの古典
「予防って、本当に意味あるの?」——その問いに30年という時間軸で答えた研究があります。リスクに応じた定期管理を30年続けた257人。失った歯は、若い世代でわずか0.4本でした。予防歯科の”到達点”を見せる古典を読み解きます。
①「予防は意味あるの?」が消えない理由
「痛くなったら治す」が、患者にとっても医院にとっても分かりやすい。予防の価値は数字で見えにくく、差が出るのは何年も先だからです。だから「定期管理、本当に報われるの?」という問いは、なかなか消えません。
その問いに、30年という最長クラスの時間軸で答えたのがこの研究です。
②今回の一手——リスクで分けて30年管理
イェテボリ大学のAxelssonらは、1971〜72年に成人375人を集め、一人ひとりのリスクに応じた間隔で定期管理を行いました。低リスクは年1回、中リスクは半年ごと、高リスクは3か月ごと。毎回プラークの染め出し+セルフケア再指導+PMTC(プロによる機械的歯面清掃)を行い、必要に応じてSRPを加える。これを30年続け、3・6・15・30年の節目で精密に再評価しました。
③結果=30年で失った歯は「ほぼゼロ」
30年で失った歯は、開始時20〜35歳の群で平均0.4本、36〜50歳で0.7本、51〜65歳でも1.8本。年あたりに直すと0.01〜0.06本——ほとんど歯を失わないレベルです。
付着レベル(PAL)も30年で悪化せず、近心面はむしろ0.3〜0.4mm”獲得”。歯周組織の健全さを示すCPITNの健全部位は、1972年の22%から2002年には98%へ。
④何で歯を失ったのか——歯周炎はわずか9本
257人が30年で失った歯は計173本。その内訳を見ると、最多は歯根破折(108本)で、その多くはポストを立てた失活歯でした。歯周炎が原因で失った歯は、30年でわずか9本。う蝕も12本にとどまります。
⑤なぜここまで残せたのか
カギは3つ。①リスクで人を分け、必要な人にだけ密なリコール(全員一律に3か月で呼ばない)。②毎回のPMTCと染め出しでバイオフィルムを定期的にリセット。③患者教育でセルフケアが続いた(30年後も90%超が1日2回ブラッシング、80%超が歯間清掃を継続)。原因であるプラークを”断ち続けた”から、病気が進まなかった——シンプルですが、それを30年やり切ったことが結果を作りました。
⑥明日の臨床へ
全員を3か月ごとに呼ぶ必要はありません。リスクで間隔を変える(高リスクは短く、低リスクは年1回でも維持できる)。メンテの主役は患者のセルフケアで、医院はそれを支える染め出し・PMTC・再指導に徹する。そして失活歯の破折が最後の弱点なので、根管治療後の歯の保護(被覆冠・フェルールの確保)まで含めて「歯を残す設計」を考えたいところです。
⑦ここだけ、冷静に補助線
これは1つの私的診療所で、予防の価値を理解し協力を続けられた人たちの30年です。30年の間に亡くなった方・転居した方は除かれ、“続けられた人”の到達点を示した数字でもあります。そのまま一般集団に当てはめると、ここまでは出にくい点に注意。とはいえ「リスク管理+定期管理を続ければ、ここまで守れる」という上限を実証した、予防歯科の不朽の古典です。
今日のひとこと
リスクに応じた定期管理を30年続ければ、失う歯は若い世代で0.4本・高齢でも1.8本。歯周病とむし歯ではほとんど抜けず、最後の弱点は失活歯の破折だった。30年の歯を決めるのは、年数回の処置より”続けられる仕組み”。
J Clin Periodontol. 2004;31(9):749-757. PMID: 15312097.
※本記事は論文の要点を歯科医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


