1問1答 論文 歯周病

10年たつと、口蓋から採った差は消えていた

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

根面被覆の標準は結合組織移植(CTG)。ただし口蓋からの採取という「第二の手術」がついてきます。エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)で代われるのか——1年の比較では、角化組織の増え方に差が出ていました。ところが同じ患者を10年後に呼び戻したら、その差は消えていました。

論文
Evaluation of Human Recession Defects Treated With Coronally Advanced Flaps and Either Enamel Matrix Derivative or Connective Tissue: Comparison of Clinical Parameters at 10 Years
著者
McGuire MK, Scheyer ET, Nunn M
掲載
Journal of Periodontology 2012;83(11):1353-1362
種類
スプリットマウスRCTの10年後フォローアップ(元17名中9名・18歯)
PMID
22348698

「第二の手術」を避けられるなら

根面被覆で、結合組織移植(CTG)は長く標準とされてきました。系統的レビューでも、あらゆる評価項目で一貫して有効なのはCTG+冠側移動弁(CAF)だけだ、という見方が続いています特に、時間が経っても被覆が保たれるという点で

ただし、CTGには3つの短所があります。ドナー組織を採るための第二の手術が要るその採取部位の術後不快感が加わるそして採れる量に限りがあるため、1回の来院で治せる部位数が制限されるさらに、CTGで得られる治癒の多くは長い接合上皮または結合組織の付着であって、セメント質・歯根膜線維・骨の再生とは言い切れないという指摘もあります。

そこで代替として検討されてきたのがエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)です。McGuireとNunnは2003年、17名を対象に、同じ患者の左右にEMD+CAFとCTG+CAFを割り付けるスプリットマウス研究を報告しました1年の結果は「早期の治癒・自覚的な不快感・角化組織の増加を除いて、両者は同等」平均被覆率はCTG 93.8%・EMD 95.1%(p=0.82)で差がなく、角化組織だけCTG側が多く増える傾向でした。

先に結論: 10年後、すべての測定項目で両者に有意差なし1年時点で唯一あった角化組織の差も、消えていた

10年後に、同じ9人を測り直す

この論文は、その17名を10年後に呼び戻した報告です。再評価できたのは9名(18歯・44〜74歳、平均55.4歳)8名は脱落し、その内訳は「参加辞退2名・連絡不能2名・試験歯の破折による抜歯1名・補綴装着2名・くさび状欠損の修復1名」でした。後半の4名は、計測の基準点(CEJ)が失われたため定量評価ができなくなったケースで、いずれも退縮の再発や悪化を補うための処置ではありません

計測したのは、10年前の元研究と同じ検者(歯科衛生士1名)です。術式の割り付けを知らされないまま、再校正を受けたうえで測定しています。主要評価項目は退縮の深さの変化副次項目はプロービング深さ・臨床的付着レベル・角化組織の幅・根面被覆率・象牙質知覚過敏・色調と質感と輪郭(隣接組織との比較)・患者満足度です。

術式の違いは2点だけでした。EMD側は全層弁を挙上し、根面を24%EDTAで2分処理してからEMDを塗布CTG側は部分層弁とし、口蓋の小臼歯部から採取した上皮下結合組織を露出根面に固定どちらも弁はCEJの高さまで冠側移動して縫合しています。

差は、時間とともに消えた

0 33.3% 66.7% 100% 平均根面被覆率 (%) 96.3% 94.4% 89.8% 83.3% 1年後 10年後 1年と10年のあいだに有意な低下はなく(CTG p=0.500・EMD p=0.125)、両群のあいだにも有意差はない(10年でp=0.500)
平均根面被覆率。1年から10年でわずかに下がるが、統計学的な低下も群間差もない

退縮の減少は、CTG側が1年3.89mm・10年3.67mm、EMD側が1年3.78mm・10年3.33mmいずれもベースラインから有意に改善(p=0.004)しています。平均根面被覆率はCTG側が96.3%→89.8%(p=0.500)、EMD側が94.4%→83.3%(p=0.125)で、1年から10年のあいだに有意な低下はありません完全被覆(100%)を達成していた割合は、CTG側88.9%→77.8%、EMD側77.8%→55.6%——これも群間・群内ともに有意差なしです(ただしEMD側で完全被覆を外れた2名が、10年時点の見かけの差をつくっています)。

0 1.7mm 3.3mm 5mm 角化組織の幅 (mm) 3.9mm 3mm 4mm 3.6mm 1年後 10年後 1年時点では有意差あり(p=0.031)。10年時点では差が消えた(p=0.359)=この研究で唯一の有意差が時間とともに消失した
角化組織の幅。1年時点で唯一あった有意差が、10年時点では消えている

この研究で唯一の統計学的な有意差は、1年時点の角化組織の幅(CTG 3.89mm vs EMD 3.00mm、p=0.031)でした。ところが10年時点では、CTG 4.00mm・EMD 3.56mmとなり、差は消えています(p=0.359)EMD側は1年時点ではベースラインから有意に増えていなかった(p=0.250)のに、10年かけて増えていたことになります。著者ら自身、このデータだけでは理由を説明できないと述べており、「時間が再生手技の帰結を決める重要な因子である」と結んでいます

質的な評価では、歯肉の輪郭が隣接組織と同等だったのは、EMD側で8/8部位、CTG側では8部位中1部位だけ(p=0.008)CTG側は隣接組織より「盛り上がって」いたということです。色調(EMD 8/9・CTG 6/9)と質感(EMD 8/9・CTG 5/9)はEMD側が良い傾向ですが、有意差には届きません知覚過敏が残っていたのはEMD側3部位・CTG側1部位で、これも有意差なしでした。

そして患者の声です。「もう一度選ぶならどちらか」の問いに、9名中6名がEMD、1名がCTG、2名が「どちらでも」と答えました理由は、口蓋からの採取という第二の手術を避けられること審美の満足度については、6名が「差はない」、2名がEMD、1名がCTGでした

「10年」という物差しの重さ

この論文の価値は、比較の中身よりも「10年」という時間軸そのものにあります。系統的レビューに入るための最低追跡期間は術後6か月で、実際には12か月が主流2年を超える研究が時折含まれる程度です。10年を追った根面被覆の研究は、当時ほとんど存在しませんでした

そして時間は、しばしば結論をひっくり返します。Harrisの報告では、無細胞真皮基質(ADM)とCTGの被覆率は3か月時点で93.4%対96.6%とほぼ同じでしたが、4年後にはADMが65.8%まで落ち、CTGは97.0%を保っていましたNicklesらの10年研究では、CTGの相対的な被覆率が72.7%から43.7%へ、GTRは43.7%から1.9%へ落ちています短期の同等性が、長期の同等性を保証しない——それがこの領域の教訓です。

その文脈に置くと、この研究の「10年で両群とも80%以上を維持」という結果は、かなり良好な部類に入ります。系統的レビューが6か月〜2年で報告してきた被覆率の上限に近い値を、10年後に保っているわけです。

ここが要点: 1年で見えた差が、10年で追いつくことがある逆に、1年で同じでも10年で崩れる術式もある

明日の臨床へ

1つ目。「採らない選択肢」を、対等な候補として持つ。 10年の時点で、被覆量・付着レベル・角化組織・患者満足度のいずれにも差がありませんでしたMiller I級・II級の単独退縮という条件の中では、EMD+CAFは実際の選択肢になります

2つ目。多数歯なら、採取量の制約が効いてくる。 CTGは1回の来院で治せる部位数が、採れる組織量で決まりますこの制約がない術式は、それだけで計画の自由度を上げます

3つ目。輪郭の自然さを説明に入れる。 CTG側は隣接組織より輪郭が盛り上がる傾向が、10年後もはっきり残っていました(8部位中7部位)前歯部の審美領域では、この差は説明の材料になります

4つ目。1年の差だけで長期を決めない。 角化組織の差が10年で消えたという事実は、「短期の勝敗をそのまま長期に延長してはいけない」という警告です

ここだけ、冷静に補助線。 最大の弱点は脱落です——17名中8名が10年後の評価に至っておらず、残った9名だけの結果です。著者らは脱落が治療結果と無関係(試験歯の破折1名を除けば、退縮の悪化による処置ではない)だと確認していますが、選択バイアスの可能性は残ります事後の検出力分析では、退縮量の0.5mm差を検出する力は84%あるものの、角化組織の0.5mm差では32%しかありません——つまり「差がなかった」の一部は「小さな差を検出できなかった」可能性を含みます対象はMiller I級・II級の単独退縮のみで、患者は全員が白人・喫煙者ゼロという集団です。それでも、同じ患者の左右で、同じ検者が、10年後に測り直したという設計の強さは残ります。短期のデータだけで術式を決めることの危うさを、静かに示した一本です。

今日のひとこと

Miller I級・II級の歯肉退縮を、同じ患者の左右に「EMD+冠側移動弁(CAF)」と「CTG+CAF」を割り付けて比べたスプリットマウスRCT(2003年報告)の、10年後フォローアップ元の17名のうち9名(18歯)が再評価に応じました退縮の減少は、CTG側が10年時点で3.67mm、EMD側が3.33mm(いずれもベースラインからp=0.004)平均根面被覆率はCTG側が1年96.3%→10年89.8%、EMD側が1年94.4%→10年83.3%で、1年から10年のあいだに統計学的に有意な低下はありませんこの研究で唯一の有意差は、1年時点の角化組織の幅(CTG 3.89mm vs EMD 3.00mm、p=0.031)でした——ところが10年時点では4.00mm vs 3.56mmとなり、差は消えています(p=0.359)質的評価では、歯肉の輪郭が隣接組織と同等だったのはEMD側で8/8部位、CTG側では8部位中1部位だけ(p=0.008)そして「もう一度選ぶなら」の問いに、9名中6名がEMDを選びました理由は口蓋からの採取という第二の手術を避けたいこと)。審美の満足度は6名が「差はない」と回答しています。

出典:McGuire MK, Scheyer ET, Nunn M. Evaluation of human recession defects treated with coronally advanced flaps and either enamel matrix derivative or connective tissue: comparison of clinical parameters at 10 years. J Periodontol 2012;83(11):1353-1362. PMID: 22348698
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。