ペリオ|Phase2 歯周外科
根面被覆の標準は結合組織移植(CTG)。ただし口蓋からの採取という「第二の手術」がついてきます。エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)で代われるのか——1年の比較では、角化組織の増え方に差が出ていました。ところが同じ患者を10年後に呼び戻したら、その差は消えていました。
①「第二の手術」を避けられるなら
根面被覆で、結合組織移植(CTG)は長く標準とされてきました。系統的レビューでも、あらゆる評価項目で一貫して有効なのはCTG+冠側移動弁(CAF)だけだ、という見方が続いています。特に、時間が経っても被覆が保たれるという点で。
ただし、CTGには3つの短所があります。ドナー組織を採るための第二の手術が要る。その採取部位の術後不快感が加わる。そして採れる量に限りがあるため、1回の来院で治せる部位数が制限される。さらに、CTGで得られる治癒の多くは長い接合上皮または結合組織の付着であって、セメント質・歯根膜線維・骨の再生とは言い切れないという指摘もあります。
そこで代替として検討されてきたのがエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)です。McGuireとNunnは2003年、17名を対象に、同じ患者の左右にEMD+CAFとCTG+CAFを割り付けるスプリットマウス研究を報告しました。1年の結果は「早期の治癒・自覚的な不快感・角化組織の増加を除いて、両者は同等」。平均被覆率はCTG 93.8%・EMD 95.1%(p=0.82)で差がなく、角化組織だけCTG側が多く増える傾向でした。
②10年後に、同じ9人を測り直す
この論文は、その17名を10年後に呼び戻した報告です。再評価できたのは9名(18歯・44〜74歳、平均55.4歳)。8名は脱落し、その内訳は「参加辞退2名・連絡不能2名・試験歯の破折による抜歯1名・補綴装着2名・くさび状欠損の修復1名」でした。後半の4名は、計測の基準点(CEJ)が失われたため定量評価ができなくなったケースで、いずれも退縮の再発や悪化を補うための処置ではありません。
計測したのは、10年前の元研究と同じ検者(歯科衛生士1名)です。術式の割り付けを知らされないまま、再校正を受けたうえで測定しています。主要評価項目は退縮の深さの変化。副次項目はプロービング深さ・臨床的付着レベル・角化組織の幅・根面被覆率・象牙質知覚過敏・色調と質感と輪郭(隣接組織との比較)・患者満足度です。
術式の違いは2点だけでした。EMD側は全層弁を挙上し、根面を24%EDTAで2分処理してからEMDを塗布。CTG側は部分層弁とし、口蓋の小臼歯部から採取した上皮下結合組織を露出根面に固定。どちらも弁はCEJの高さまで冠側移動して縫合しています。
③差は、時間とともに消えた
退縮の減少は、CTG側が1年3.89mm・10年3.67mm、EMD側が1年3.78mm・10年3.33mm。いずれもベースラインから有意に改善(p=0.004)しています。平均根面被覆率はCTG側が96.3%→89.8%(p=0.500)、EMD側が94.4%→83.3%(p=0.125)で、1年から10年のあいだに有意な低下はありません。完全被覆(100%)を達成していた割合は、CTG側88.9%→77.8%、EMD側77.8%→55.6%——これも群間・群内ともに有意差なしです(ただしEMD側で完全被覆を外れた2名が、10年時点の見かけの差をつくっています)。
この研究で唯一の統計学的な有意差は、1年時点の角化組織の幅(CTG 3.89mm vs EMD 3.00mm、p=0.031)でした。ところが10年時点では、CTG 4.00mm・EMD 3.56mmとなり、差は消えています(p=0.359)。EMD側は1年時点ではベースラインから有意に増えていなかった(p=0.250)のに、10年かけて増えていたことになります。著者ら自身、このデータだけでは理由を説明できないと述べており、「時間が再生手技の帰結を決める重要な因子である」と結んでいます。
質的な評価では、歯肉の輪郭が隣接組織と同等だったのは、EMD側で8/8部位、CTG側では8部位中1部位だけ(p=0.008)。CTG側は隣接組織より「盛り上がって」いたということです。色調(EMD 8/9・CTG 6/9)と質感(EMD 8/9・CTG 5/9)はEMD側が良い傾向ですが、有意差には届きません。知覚過敏が残っていたのはEMD側3部位・CTG側1部位で、これも有意差なしでした。
そして患者の声です。「もう一度選ぶならどちらか」の問いに、9名中6名がEMD、1名がCTG、2名が「どちらでも」と答えました。理由は、口蓋からの採取という第二の手術を避けられること。審美の満足度については、6名が「差はない」、2名がEMD、1名がCTGでした。
④「10年」という物差しの重さ
この論文の価値は、比較の中身よりも「10年」という時間軸そのものにあります。系統的レビューに入るための最低追跡期間は術後6か月で、実際には12か月が主流。2年を超える研究が時折含まれる程度です。10年を追った根面被覆の研究は、当時ほとんど存在しませんでした。
そして時間は、しばしば結論をひっくり返します。Harrisの報告では、無細胞真皮基質(ADM)とCTGの被覆率は3か月時点で93.4%対96.6%とほぼ同じでしたが、4年後にはADMが65.8%まで落ち、CTGは97.0%を保っていました。Nicklesらの10年研究では、CTGの相対的な被覆率が72.7%から43.7%へ、GTRは43.7%から1.9%へ落ちています。短期の同等性が、長期の同等性を保証しない——それがこの領域の教訓です。
その文脈に置くと、この研究の「10年で両群とも80%以上を維持」という結果は、かなり良好な部類に入ります。系統的レビューが6か月〜2年で報告してきた被覆率の上限に近い値を、10年後に保っているわけです。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「採らない選択肢」を、対等な候補として持つ。 10年の時点で、被覆量・付着レベル・角化組織・患者満足度のいずれにも差がありませんでした。Miller I級・II級の単独退縮という条件の中では、EMD+CAFは実際の選択肢になります。
2つ目。多数歯なら、採取量の制約が効いてくる。 CTGは1回の来院で治せる部位数が、採れる組織量で決まります。この制約がない術式は、それだけで計画の自由度を上げます。
3つ目。輪郭の自然さを説明に入れる。 CTG側は隣接組織より輪郭が盛り上がる傾向が、10年後もはっきり残っていました(8部位中7部位)。前歯部の審美領域では、この差は説明の材料になります。
4つ目。1年の差だけで長期を決めない。 角化組織の差が10年で消えたという事実は、「短期の勝敗をそのまま長期に延長してはいけない」という警告です。
今日のひとこと
Miller I級・II級の歯肉退縮を、同じ患者の左右に「EMD+冠側移動弁(CAF)」と「CTG+CAF」を割り付けて比べたスプリットマウスRCT(2003年報告)の、10年後フォローアップ。元の17名のうち9名(18歯)が再評価に応じました。退縮の減少は、CTG側が10年時点で3.67mm、EMD側が3.33mm(いずれもベースラインからp=0.004)。平均根面被覆率はCTG側が1年96.3%→10年89.8%、EMD側が1年94.4%→10年83.3%で、1年から10年のあいだに統計学的に有意な低下はありません。この研究で唯一の有意差は、1年時点の角化組織の幅(CTG 3.89mm vs EMD 3.00mm、p=0.031)でした——ところが10年時点では4.00mm vs 3.56mmとなり、差は消えています(p=0.359)。質的評価では、歯肉の輪郭が隣接組織と同等だったのはEMD側で8/8部位、CTG側では8部位中1部位だけ(p=0.008)。そして「もう一度選ぶなら」の問いに、9名中6名がEMDを選びました(理由は口蓋からの採取という第二の手術を避けたいこと)。審美の満足度は6名が「差はない」と回答しています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


