カリオロジー|フッ化物・洗口液
洗口液を使う患者さんは増えました。口臭が気になる、さっぱりしたい、歯周病が心配。多くの場合それは「歯磨きの仕上げ」として使われます。ここで問題になるのが、その洗口液にフッ素が入っているかどうかです。2009年の Caries Research は、23名のクロスオーバー試験でこれを実測しました。フッ素を含まない洗口液で仕上げると、唾液フッ素クリアランスのAUCは1.19まで落ちました(歯磨剤のみ2.36/フッ素入り洗口液2.54)。歯磨剤のみと比べたAUCの比は1.98(95%CI 1.46–2.69・p<0.001)——口の中に残るフッ素が、およそ半分になったということです。
①「歯磨きのあとの洗口液、フッ素が入っていなくても大丈夫ですか」
洗口液を使う患者さんは増えました。口臭が気になる、さっぱりしたい、歯周病が心配。理由はさまざまですが、多くの場合それは「歯磨きの仕上げ」として使われます。
ここで問題になるのが、その洗口液にフッ素が入っているかどうかです。フッ素配合歯磨剤で磨いたあと、口の中には歯磨剤由来のフッ素が残っています。そこへ20mlの液体を流し込んで30秒すすげば——。
2009年の Caries Research は、23名のクロスオーバー試験でこれを実測しました。
②今回の一手:仕上げの30秒だけを変える
- 健常成人29名を募集し、23名が完遂(平均31.5歳・20〜49歳)。3名がコンプライアンス不良、3名が個人的理由で脱落
- 設計はランダム化クロスオーバー(分析者に対して単盲検)。同じ人が3つの手順を1週間以上あけて1回ずつ試す
- レジメンA:NaF歯磨剤(1,450 µgF/g)1gで1分ブラッシング → 微量のフッ素を含むボトル水(0.28 mgF/L)10mlで5秒すすぐ
- レジメンB:Aのあと フッ素入り洗口液(100 mgF/L)20mlで30秒すすぐ
- レジメンC:Aのあと フッ素を含まない洗口液20mlで30秒すすぐ
- 唾液を処置前と10・20・30・60・90・120分後に採取。フッ素イオン電極で定量し、台形則でAUC(10〜120分)を算出
- 試験前と試験期間中、自宅ではフッ素を含まない歯磨剤を使用。設計上は24名で90%の検出力とされたが、完遂は23名でわずかに届いていない
③結果:フッ素なしの洗口液だけが、はっきり下げた
- AUC(antilog):歯磨剤のみ2.36/+フッ素洗口液2.54/+フッ素なし洗口液1.19
- AとBの間に有意差は検出されませんでした(すべての比較でp>0.44)。なお算術平均で見ると A 3.28/B 3.14 と順序が逆転します——いずれにせよ両者に差は出ていません
- Cは、AともBとも有意に低い(A対Cの比 1.98[95%CI 1.46–2.69]、B対Cの比 2.13[1.65–2.77]、いずれもp<0.001)
時点ごとに見ると、差が出る時間帯がはっきりします。
- 10分後:254.5/219.9/68.7 µmol/L
- 20分後:75.6/80.5/27.7
- 30分後:28.3/29.9/15.7
- 60分後:11.9/11.6/7.4(ここまでp<0.01で有意)
- 90分後:8.2/7.4/6.7、120分後:5.2/4.5/4.2(この2点は有意差なし)
なお120分・レジメンAの5.2という値は、1名の外れ値(84.2 µmol/L)を8.4に置き換えたうえでの平均です(原著の表の脚注に明記されています)。
④著者らの結論と、そこに付いた但し書き
本文の結語はこうです。「フッ素配合歯磨剤でのブラッシング後に非フッ素洗口液を使うことは、フッ素配合歯磨剤単独のブラッシングが提供する抗う蝕効果を減弱させる可能性がある。少なくとも100 mgF/Lの洗口液を使えば、このリスクは最小化される」。
ただし著者らは、同じ段落で但し書きを付けています。100 mgF/Lの洗口液は歯磨剤の抗う蝕効果を邪魔しないが、「う蝕コントロールという点で、そのレジメンの効果に上乗せする可能性も高くはない」。つまり「入れておけば減らない」であって、「入れれば増える」ではありません。
もうひとつ、著者ら自身が挙げているCの低値の説明も重要です。「レジメンAと比べてレジメンCの唾液フッ素濃度が有意に低かったのは、すすぎの合計時間が長く(35秒)、量も多かった(低フッ素水10ml+非フッ素洗口液20ml)ことに帰せられる」——つまり洗口液の組成そのものではなく、「35秒・30mlすすいだ」という条件の影響かもしれないということです。
そして著者らは、洗口液を使うタイミングについても示唆しています。多くの人は1日2回しか歯を磨きません。フッ素洗口液を「ブラッシングの合間」に使えば、フッ素を届ける機会をもう一度増やせるのではないか——ただしこれは今後の検証が必要な仮説だと本人たちが書いています。
⑤明日の臨床へ
- 「歯磨きの仕上げに洗口液」を勧めるなら、フッ素が入っているかを確認する。入っていなければ、フッ素滞留は半分ほどになります
- 100 mgF/L程度のフッ素洗口液なら、歯磨剤のフッ素滞留を有意に下げませんでした。ただし著者らが書くとおり、上乗せの予防効果まで期待できる根拠ではありません
- フッ素を含まない洗口液を使いたい患者さんに「時間をあけて使う」という選択肢は理屈のうえでは考えられますが、本研究はブラッシング直後の洗口しか検証していません。どれだけあければよいかは、このデータからは答えられません
- う蝕リスクの高い患者さんへの「ブラッシングの合間にフッ素洗口液」も、著者らの示唆であって検証済みの方法ではありません
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
フッ素配合歯磨剤で磨いたあと、口の中には歯磨剤由来のフッ素が残っている。そこへ洗口液20mlを流し込んで30秒すすいだら何が起きるか——本研究は歯磨剤のみ(A)/+フッ素入り洗口液100 mgF/L(B)/+フッ素なし洗口液(C)の3レジメンを、同じ23名が1週間以上あけて1回ずつ試すランダム化クロスオーバーで比べた。唾液を処置前と10・20・30・60・90・120分後に採取し、台形則でAUC(10〜120分)を算出している。結果はAUC(対数変換後の逆変換値)がA 2.36/B 2.54/C 1.19。AとBに有意差はなく(すべての比較でp>0.44)、Cだけが両者より有意に低かった(A対Cの比 1.98[95%CI 1.46–2.69]、B対Cの比 2.13[1.65–2.77]、いずれもp<0.001)。時点別では10分後が254.5/219.9/68.7 µmol/Lで、有意差は10・20・30・60分に出るが、90分と120分では3群がほぼ同じ値に収束する。つまりフッ素なし洗口液が奪っているのは、ブラッシング直後の「濃い時間帯」である。著者らの結語は明快だ——「フッ素配合歯磨剤でのブラッシング後に非フッ素洗口液を使うことは、フッ素配合歯磨剤単独のブラッシングが提供する抗う蝕効果を減弱させる可能性がある。少なくとも100 mgF/Lの洗口液を使えば、このリスクは最小化される」。ただし著者らは同じ段落で「100 mgF/Lの洗口液は歯磨剤の抗う蝕効果を邪魔しないが、う蝕コントロールという点でレジメンの効果に上乗せする可能性も高くはない」と但し書きを付けている。さらにCが低い理由について、著者ら自身が「すすぎの合計時間が長く(35秒)、量も多かった(合計30ml)ことに帰せられる」と説明しており、洗口液の組成そのものだけが原因とは限らない。ただし測っているのは唾液中のフッ素であって、う蝕の発生そのものではない。23名・各手順1回ずつの単回使用であり(設計上必要とされた24名にも届いていない)、特定の製品組成での結果である。そして本研究はJohnson & Johnson社の研究助成を受けており、試験に使われた2種の洗口液はいずれも同社製品(Listerine)である。筆頭著者が複数の口腔ケア企業から仕事を請ける独立の研究コンサルタントであることも押さえておきたい。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


