1問1答 論文 虫歯

フロスはフッ素を洗い流すのか──20名クロスオーバーの答えと、洗口液の上乗せ90%

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|フッ化物・セルフケアの順番

フッ素配合歯磨剤で磨いたあと、フロスを通す。当たり前に勧めているこの順番に、ひとつ疑問が向けられました。フロスは、停滞域に残った歯磨剤ごとフッ素を掻き出してしまうのではないか。2009年の Caries Research は、この「最悪のシナリオ」を20名のクロスオーバー試験で実測しました。答えはフロスがフッ素を減らすという結果は得られなかった(歯磨剤のみ 対 +フロスで有意差なし・p=0.392)。そしてそのあとフッ素洗口液を足すと、口腔内のフッ素滞留量は90%以上高くなりました

論文
Effects of Flossing and Rinsing with a Fluoridated Mouthwash after Brushing with a Fluoridated Toothpaste on Salivary Fluoride Clearance
著者
Duckworth RM, Horay C, Huntington E, Mehta V
掲載
Caries Res 2009;43(5):387-390(Short Communication)
種類
ランダム化クロスオーバー試験(単盲検・3レジメン・単回使用)
対象
健常成人24名を募集し20名が完遂(18〜55歳・現在歯18本以上)

「歯磨きのあとにフロスをすると、フッ素まで持っていってしまう?」

フッ素配合歯磨剤で磨く。そのあとフロスを通す。私たちが当たり前に勧めているこの順番に、ひとつ疑問が向けられました。

フロスは、プラークと食渣を取り除きます。でもそれは同時に、歯磨剤が残っている停滞域からフッ素を掻き出してしまう行為ではないのか。もしそうなら、良かれと思って勧めた手順が、フッ素の滞留を減らしていることになります。

2009年の Caries Research のショートコミュニケーションは、この「最悪のシナリオ」を実際に測りました。ついでに、そのあとフッ素洗口液を使ったらどうなるかも。

先に結論: フロスがフッ素を減らすという結果は得られませんでした(歯磨剤のみ 対 歯磨剤+フロスで有意差なし・p=0.392)。そしてそのあとフッ素洗口液を足すと、口腔内のフッ素滞留量(AUC)は他の2つのレジメンより90%以上高くなりました(p=0.00003)。

今回の一手:同じ20名が3つの手順をすべて試す

  • マンチェスターで募集した健常成人24名(18〜55歳・現在歯18本以上)のうち、20名が完遂(1名は唾液量不足、3名はコンプライアンス不良で脱落)
  • 設計はランダム化クロスオーバー。同じ人が3つの手順を1週間おきに1回ずつ試す(分析者に対して単盲検)
  • レジメンA:フッ化ナトリウム配合歯磨剤(1,450 µgF/g)を1gで1分間ブラッシング → 水10mlで5秒すすぐ
  • レジメンB:Aと同じ → そのあとプロによるフロッシング(通常のフロステープ・フッ素は含まない)
  • レジメンC:Bと同じ → そのあとフッ化ナトリウム洗口液(226 mgF/L)20mlで30秒すすぐ
  • 唾液を処置前と10・20・30・60・90・120分後に採取し、フッ素イオン電極で定量
  • 主要評価項目は唾液フッ素クリアランス曲線の下面積(AUC)。試験期間中は自宅でフッ素を含まない歯磨剤を使用
  • 症例数は「30%以上の差なら80%の検出力で拾える」という前提で決められている(著者らの記載)。裏を返せば、それより小さな差は検出できない設計である
「唾液フッ素クリアランス」とは: フッ素配合製品の抗う蝕効果の可能性を評価するときによく使われる指標です。口の中にフッ素がどれだけ、どれくらいの時間とどまったかを、唾液中の濃度の推移から面積で捉えます。う蝕そのものを測っているわけではない点は、あとで押さえます。

結果:フロスは減らさず、洗口液は90%以上増やした

0 2.2 4.3 6.5 唾液フッ素クリアランスのAUC(mmol/L×分) 2.98 2.7 5.68 歯磨剤のみ 歯磨剤+フロス 歯磨剤+フロス+フッ素洗口液 20名のクロスオーバー試験。歯磨剤のみと+フロスの差は有意でない(p=0.392)。洗口液を足すと90%以上高い(p<0.00003)。個人差は大きく、AUCのばらつきも広い
唾液フッ素クリアランス曲線の下面積(AUC・対数変換後の逆変換値、mmol/L×分)。AとBの差は有意でなく(p=0.392)、CはAより90%以上高い(p<0.00003)
  • AUC(antilog)は、歯磨剤のみ2.98/+フロス2.70/+フロス+洗口液5.68
  • 歯磨剤のみと+フロスの差は有意でなかった(p=0.392)。数値上は2.98→2.70とわずかに低いが、著者らは「いかなる減少もごくわずかで統計学的に有意ではなかった」と述べている
  • 洗口液を足したレジメンCは、他の2つより90%以上高い(C対B p=0.00001/C対A p=0.00003)
  • Cは処置前を除くすべての時点で、AとBより有意に高い唾液フッ素濃度を示した(p<0.01)
0 266.7 533.3 800 10分後の唾液フッ素濃度(µmol/L) 351.8 344.4 701.7 歯磨剤のみ 歯磨剤+フロス 歯磨剤+フロス+フッ素洗口液 フロスの有無ではほぼ変わらず、フッ素洗口液を足すと約2倍になる。10分後の標準偏差は平均を上回るほど個人差が大きい
10分後の唾液フッ素濃度(µmol/L)。フロスの有無ではほぼ変わらず、洗口液を足すと約2倍になる
  • 10分後の唾液フッ素濃度:A 351.8/B 344.4/C 701.7 µmol/L
  • 著者らはレジメンCがすべての時点で歯磨剤のみより50%以上高い濃度を示したと述べている(ただし表の値から計算すると20分+43%・30分+30%で、時点によっては50%に届かない)
  • 面白いのは全レジメン共通の所見です。2時間後の唾液フッ素は、処置前の少なくとも5倍ありました。歯磨剤だけでも、フッ素は2時間そこに居続けます(ただし被験者は試験当日の飲食を禁じられています)
  • 個人差は非常に大きく、10分後の標準偏差は平均を上回ります(A 473.4/B 470.5/C 557.7)

なぜフロスで減らなかったのか

著者らが当初想定した「最悪のシナリオ」はこうでした。ブラッシング直後のフロッシングは、フッ素を含んだプラークだけでなく、口の中の停滞域に残った未分散の歯磨剤まで掻き出してしまうのではないか。

結果はそうなりませんでした。著者らの知る限り、通常の(フッ素を含まない)フロスが唾液フッ素クリアランスに与える影響を調べた研究は、これが初めてです。

そして洗口液の効果について、著者らはこう書いています。「フロッシングを含む手順のあとにフッ素洗口液を使うことは、フロッシングによる口腔内フッ素の損失があったとしても、それを補って余りある」

明日の臨床へ

  • 「歯磨きのあとにフロスをするとフッ素が減る」という心配は、この研究からは支持されません。順番を気にして指導を変える必要はなさそうです
  • フッ素洗口液の”上乗せ”は、口の中のフッ素滞留量という指標では明確に効いています。う蝕リスクの高い患者さんへの一手として、根拠のひとつになります
  • ただし洗口液の効果は、フッ素濃度に依存する可能性があります。本研究の226 mgF/Lは、家庭用としてよく使われる100 mgF/Lより高い濃度です
  • 歯磨剤だけでも2時間後に前値の5倍のフッ素が残っている、という所見も覚えておく価値があります。ただし本研究は飲食を禁じた条件での測定であり、飲食した場合との比較は行われていません

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線を6つ: ①これは唾液中のフッ素を測った研究で、う蝕そのものを測ってはいません。AUCは抗う蝕効果の代理指標であり、著者ら自身も「臨床的に意味のある効果につながりうる」という書き方をしています。フッ素歯磨剤とフッ素洗口液の併用の臨床効果については先行研究の結果が一致していない(equivocal)と本文にも明記されています。②「フロスで減らなかった」は「減らないことの証明」ではありません。症例数は30%以上の差を拾うことを前提に決められており、それより小さな減少は検出できない設計です。③フロッシングは術者が行っています(professional flossing)。患者さんの自己流のフロスとは条件が異なります。④20名・各手順1回ずつの単回使用で、日常的な反復使用の結果ではありません。10分値のうち1件は欠測を推定で補い、処置前値1件は異常値として解析から除外されています。⑤洗口液は226 mgF/Lで、家庭用の一般的な100 mgF/Lより高濃度です。⑥資金と利益相反——本研究はJohnson & Johnson社の助成を受けています。筆頭著者は独立の研究コンサルタント、共著者の所属する4-Front Research社は複数の口腔ケア企業から受託研究を請ける契約研究会社である、と論文に明記されています。とはいえ設計はクロスオーバーで交絡に強く、結果は明快です。「フロスでフッ素が減る」という素朴な心配に、はっきり答えてくれる一本です。

今日のひとこと

フッ素配合歯磨剤で磨いたあとのフロッシングは、フッ素を含んだプラークだけでなく口腔内の停滞域に残った未分散の歯磨剤まで掻き出し、口腔内のフッ素滞留を減らしてしまうのではないか——著者らはこの「最悪のシナリオ」を検証した。設計は20名が3つの手順を1週間おきに試すランダム化クロスオーバーである。A=NaF歯磨剤(1,450 µgF/g)で1分ブラッシングし水10mlで5秒すすぐ、B=Aのあとプロによるフロッシング、C=BのあとNaF洗口液(226 mgF/L)20mlで30秒すすぐ。唾液を処置前と10・20・30・60・90・120分後に採取し、クリアランス曲線の下面積(AUC)を主要評価項目とした。結果はAUC(対数変換後の逆変換値)が歯磨剤のみ2.98/+フロス2.70/+フロス+洗口液5.68歯磨剤のみと+フロスの差は有意でなく(p=0.392)、フロスがフッ素を洗い流すという結果は得られなかった。ただし症例数は30%以上の差を拾うことを前提に決められており、それより小さな減少は検出できない設計である点は押さえておきたい。一方洗口液を足したレジメンは他の2つより90%以上高く(p<0.00003)、処置前を除くすべての時点で有意に高い唾液フッ素濃度を示した。10分後の濃度は351.8/344.4/701.7 µmol/Lで、洗口液を足すと約2倍である。全レジメン共通の所見として、2時間後の唾液フッ素は処置前の少なくとも5倍あった。著者らは「フロッシングを含む手順のあとの洗口液使用は、フロッシングによる損失があったとしてもそれを補って余りある」と述べている。ただしこれは唾液中のフッ素を測った研究であって、う蝕そのものを測ってはいない。フッ素歯磨剤と洗口液の併用の臨床効果については先行研究の結果が一致していないことも本文に明記されている。洗口液の226 mgF/Lは家庭用の一般的な100 mgF/Lより高濃度であり、フロッシングは術者が実施している。20名の単回使用であること、本研究がJohnson & Johnson社の助成を受けており、著者らの所属先が口腔ケア企業から受託研究を請ける契約研究会社であることも押さえておきたい。それでも「歯磨きのあとにフロスをするとフッ素が減る」という素朴な心配には、はっきり答えてくれる一本である。

出典:Duckworth RM, Horay C, Huntington E, Mehta V. Effects of Flossing and Rinsing with a Fluoridated Mouthwash after Brushing with a Fluoridated Toothpaste on Salivary Fluoride Clearance. Caries Res 2009;43(5):387-390. PMID: 19776569
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。