ペリオ|ペリオ論文100選
「これ、家でも使ってみてくださいね」と染め出し錠を渡す。汚れが見えれば磨く気になるはず——その前提を、1980年のこの研究が検証しました。歯磨き指導だけを受けた群と、指導に加えて自宅で染め出し剤を2週間使った群を比べたところ、プラークスコアの改善に差はありませんでした。それどころか、染め出しをやめたあとにさらに改善しているのです。
①「家でも使ってみてください」の効き目
ブラッシング指導のあと、染め出し錠を数日分お渡しする。汚れが赤く見えれば、患者さんは磨く気になる——僕らはそう信じてきました。
この前提には、はっきりした根拠があったのでしょうか。1980年、TanとWadeは「自宅での染め出し剤の使用は、指導に上乗せの効果があるのか」、そして「やめたらどうなるのか」——この2点を取り出して検証しました。
②2週間ずつ、条件を入れ替える
対象は、ロンドン大学 Royal Dental Hospital の歯周科に通院する患者38人(女性27・男性11、17〜48歳)。無作為抽選で2群に割り付けられ、そのうち第I群が20人でした。
設計は、条件を入れ替える二重クロスオーバーです。
- 第I群:1回目に指導+歯ブラシのみ → 2回目に指導を強化し、ここで染め出し錠とライト付き口腔鏡を渡す → 3回目に評価
- 第II群:1回目に指導+歯ブラシ+染め出し錠とライト付き口腔鏡 → 2回目に指導を強化し、ここで染め出し錠と口腔鏡を回収 → 3回目に評価
来院の間隔はいずれも2週間。染め出し錠は2週間分14錠が渡され、夜の清掃のあとに噛んで、磨き残しをライト付き口腔鏡で確認し、見落としていた部位を清掃し直すように指示されています。
指導内容は両群同じで、バス法のブラッシング(歯ブラシを歯軸に45°で当て、短い前後の振動を加える)。この研究の期間中、歯間清掃用具は一切使っていません。1回目と2回目の来院では全歯を超音波スケーラーでスケーリングし、ラバーカップで研磨してプラークスコアをいったん0に戻してから次の2週間に入ります。
プラークスコアはPodshadley(1968)の口腔清掃状態スコアを改変したもの。10%エリスロシン液で30秒間洗口し、5秒間の水洗のあと、上下の第一大臼歯4本と側切歯4本の計8歯について頬側・舌側それぞれを5区画に分け、プラークの有無で1か0を付けます(満点は80)。染め出したプラークは、初回来院時に、採点後に歯鏡と手鏡で本人に見せられています(2回目以降に見せたかどうかは原著に記載がありません)。いずれにせよ染め出し自体は各来院で行われている——ここが後で効いてきます。
検者は1名。7セット・560件の測定を再測定した結果、検者内再現性は96.8%でした。
③差がつかなかった2週間
結果はこうです。
第I群——指導だけを受けた最初の2週間で、平均プラークスコアは34.0から18.05へ下がりました。統計的に非常に有意な改善(P<0.001)です。口腔衛生指導そのものの力が、まずここで確認されています。
第II群——同じ2週間に自宅で染め出し剤を使っていた群は、40.05から18.61へ。第I群の改善と比べて有意な差はありませんでした(0.10<P<0.35)。つまり自宅の染め出しは、指導に対して上乗せの効果を生まなかったということです。
そして次の2週間。第II群から染め出し錠と口腔鏡を回収したところ、スコアは18.61から14.39へさらに有意に改善しました(P<0.01)。第I群も、染め出し錠を受け取った2週間で12.1まで下がっています。要するに両群とも、染め出しの有無にかかわらず、来院のたびに良くなり続けたのです。
もうひとつ、指導者として耳の痛い所見があります。舌側面のスコアは、どの群のどの来院でも常に頬側面より高い。そして臼歯部のスコアは、どの群のどの来院でも常に前歯部より高い。ライト付き口腔鏡を渡してもなお、です。
④なぜ効かなかったのか
著者らは、視覚的フィードバックが働かなかった理由を3つ挙げています。
- 口の中には、そもそも見えない場所がある。舌側・臼歯部で常にスコアが高かったのは、まさにその裏づけです
- 見えたとしても、そこを磨く手の器用さが要る。到達しにくい部位は、見つけたところで清掃が難しい
- 長く続けてもらえない。Bellini らの先行研究では、使用の規則性は最初の2週を過ぎると次第に低下していました。この研究が2週間という期間を選んだのも、そのためです
では、染め出しをやめたあとに改善した事実はどう読むべきか。著者らは慎重です。「視覚的フィードバックが決定的な動機づけの役割を果たしていないことを示唆する」としつつ、同時に「追加のリコール来院そのものが、より良いプラークコントロールへ向かわせる強化になった可能性がある」と書いています。つまり効いていたのは染め出し剤ではなく、来院と指導の反復だったかもしれない、ということです。
⑤明日の臨床へ
- 染め出し錠を渡すことを「指導した」の代わりにしない。この研究でスコアを動かしたのは、指導そのものと来院の反復でした
- チェアサイドの染め出しはやめない。この研究では両群とも各来院で染め出しを行っています。検証されたのは自宅での上乗せ分だけです
- リコールの間隔そのものが介入かもしれないと考える。著者らは、追加の来院そのものが動機づけの強化になった可能性があると述べています
- 指導の的は舌側と臼歯部。染め出してもここが常に残る、という事実は指導の順番を決める材料になります
- 「見せれば磨く」と思い込まない。見えない・届かない・続かない、の3つが視覚的フィードバックの壁です
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
歯磨き指導だけでプラークスコアは34.0から18.05へ大きく改善した(P<0.001)。そこに自宅での染め出し剤の使用を足しても、上乗せの改善は出なかった(0.10<P<0.35)。さらに最初から自宅で染め出しを使っていた群は、それをやめたあとの2週間でスコアが18.61から14.39へ有意に改善した(P<0.01)。ただし診療室での染め出し自体は両群とも各来院で行われている——比べられたのは「診療室での染め出し」ではなく「自宅での染め出し」の上乗せ効果である。著者らはこう結んでいる——徹底した、繰り返しの口腔衛生指導こそが、十分なプラークコントロールを達成するうえで決定的な要素であるように思われる。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


