ペリオ|ペリオ論文100選
早期接触、非作業側接触、咬耗、動揺、歯根膜腔の拡大——咬合性外傷を疑うサインは教科書にたくさん並んでいます。しかし、そのどれが本当に歯周組織の破壊と結びついているのか。1992年、北京医科大学とカロリンスカ研究所のグループが、32名の全歯を一つずつ調べ、徴候を「使えるもの」と「使えないもの」に仕分けしました。
①咬合性外傷のサインは、どれが本物か
早期接触、非作業側接触、咬耗、動揺、歯根膜腔の拡大、歯槽硬線の変化——咬合性外傷を疑うサインは教科書にいくつも並んでいます。ところがそのほとんどは「臨床的な印象」に基づくもので、実証された裏づけが乏しいと、この論文は冒頭で指摘します。
そこで著者らは、中等度から進行した慢性歯周炎の成人32名について、現存するすべての歯で咬合接触と外傷の徴候を記録し、規格化デンタルエックス線と突き合わせました。目的は、徴候を「歯周破壊と結びつくもの」と「結びつかないもの」に仕分けることです。
②全歯を、一つずつ
- 対象:北京医科大学口腔医学院の歯周科から選ばれた慢性成人歯周炎32名(男17名・女15名、25〜50歳・平均37.6歳)。13歯以上が残存していることが条件
- 咬合の評価:中心位(CRO)での早期接触、側方運動時の非作業側接触、後方歯の前方運動接触、前歯の早期接触の有無を、0.020インチの咬合紙で判定
- 外傷の徴候:動揺度、機能的動揺、咬耗指数、そしてエックス線での歯根膜腔(PDLS)の幅、歯槽硬線の状態
- 歯周炎の重症度:PD、付着喪失(AL)、歯槽骨の高さの割合(%BH)。PDとALは各隣接面の頬側・舌側で測り、エックス線の計測と対応させている
- 再現性:歯根膜腔拡大の判定は術者内一致率96%、歯槽硬線の肥厚93%、消失89%、%BHは87%
③咬合接触の異常は、指標にならなかった
いちばん意外なのがここです。中心位での早期接触、側方運動時の非作業側接触、前歯の早期接触、後方歯の前方運動接触——いずれについても、その接触がある歯とない歯で、PD・AL・%BHに統計学的な差はありませんでした。
ただし、まったく無関係というわけでもありません。中心位での早期接触や非作業側接触がある歯では、歯根膜腔の拡大が有意に多く見られました(早期接触ではP<0.01、非作業側接触ではP<0.05)。つまり咬合接触の異常は歯根膜には反映されるが、それだけでは付着喪失や骨吸収と結びつかない、という構図です。
④差がついたのは、動揺と歯根膜腔
個々の徴候で見ると、次のように分かれました(いずれもP<0.01、咬耗のみP<0.05)。
- 動揺度0〜I:PD 4.4mm・AL 3.0mm・BH 79.4%/動揺度II〜III:PD 5.4mm・AL 5.8mm・BH 63.2%
- 機能的動揺なし:PD 4.6mm・AL 3.5mm・BH 74.3%/あり:PD 5.5mm・AL 5.7mm・BH 62.0%
- 歯根膜腔が正常:PD 4.5mm・AL 3.0mm・BH 76.5%/拡大:PD 5.1mm・AL 4.7mm・BH 67.2%
- 歯槽硬線が肥厚:PD 4.9mm・AL 3.8mm・BH 73.5%/不明瞭または消失:PD 5.5mm・AL 5.4mm・BH 64.2%
- 咬耗指数0〜I:AL 4.2mm/II以上:AL 3.4mm(咬耗が強い歯のほうが付着喪失は少ない)
そこで著者らは、2つの複合指標を提案します。
- 咬合性外傷指数(TOI)=明らかな機能的動揺 + エックス線的な歯根膜腔の拡大
- 適応性指数(AI)=著明な咬耗 + エックス線的な歯槽硬線の肥厚
TOI陽性の63歯はPD 5.7mm・AL 6.1mm・BH 61.4%、TOI陰性の68歯はPD 4.2mm・AL 2.7mm・BH 72.3%。出血指数・歯肉炎指数・プラーク指数も、TOI陽性歯のほうが高い値でした。
そしてAI陽性の47歯は、AL 3.5mm・BH 74.5%。AI陰性の40歯(AL 5.2mm・BH 63.4%)より有意に良好でした(P<0.01)。強い力がかかっていても、咬耗と歯槽硬線の肥厚という形で「適応」している歯は、歯周組織が保たれている——というのが著者らの読みです。
⑤プラークの影響を消して、それでも残った差
ここまでの比較には、明らかな弱点があります。TOI陽性歯はプラーク指数も高い(3.2 vs 2.6)。「外傷のせいで悪い」のか「プラークが多いから悪い」のか、区別がつきません。
著者らはこれをスプリットマウスで潰しにいきました。58名の歯周炎患者から、同一患者の左右対称の臼歯部で、付着喪失・歯肉炎指数・出血指数・プラーク指数がすべて同等で、TOIの有無だけが違うペアを探したところ、11名で11ペアが条件を満たしました。
この11ペアで、付着喪失(X)と骨の高さ(Y)の回帰式を求めた結果がこれです。
- 外傷群:Y=96.41 − 10.47X(r=−0.90)
- 対照群:Y=88.96 − 4.66X(r=−0.86)
同じ付着喪失量でも、咬合性外傷のある歯のほうが骨支持が少ない。しかも傾きが2倍以上違うため、付着喪失が進むほど両者の差は大きくなる。プラークと炎症を揃えたうえで、この差が残ったことが、この論文の核心です。
⑥明日の臨床へ
- 咬合紙のマークだけで「咬合性外傷あり」と判断しない。早期接触や非作業側接触の有無は、歯周破壊の程度と結びついていなかった
- 見るべきは「機能的動揺」と「エックス線での歯根膜腔の拡大」の組み合わせ。この2つが揃う歯は、PDも付着喪失も骨吸収も一段階悪い
- 咬耗が強く、歯槽硬線が厚くなっている歯は、適応している可能性がある。力がかかっている=介入が必要、とは限らない
- ただし因果は証明されていない。動揺は外傷の結果でもあり、付着喪失の結果でもある。この論文は横断研究であり、「外傷が骨吸収を起こした」とは言えない
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
当たっているかどうかではなく、揺れているかどうか。咬合紙で見えるのは接触の位置であって、歯周組織が受けている影響ではありません。機能的動揺と歯根膜腔の拡大——この2つが揃ったときに、初めて「外傷」として扱う。それがこの論文の提案です。
今日のひとこと
中等度から進行した慢性歯周炎の成人32名について、現存するすべての歯で異常咬合接触・咬合性外傷の徴候・歯周炎の重症度を評価し、規格化デンタルエックス線も撮影した。中心位での早期接触、側方運動時の非作業側接触、前歯の早期接触、後方歯の前方運動接触——これら異常咬合接触の有無では、プロービングデプス(PD)・付着喪失(AL)・歯槽骨の高さ(%BH)に有意差がなかった。一方、明らかな動揺(PD 5.4mm・AL 5.8mm・BH 63.2%)や機能的動揺(5.5mm・5.7mm・62.0%)、エックス線的な歯根膜腔の拡大(5.1mm・4.7mm・67.2%)がある歯は、ない歯より一貫して悪かった。逆に、著明な咬耗や歯槽硬線の肥厚がある歯は、ない歯より付着喪失が少なかった。著者らは2つの複合指標を提案した。機能的動揺+歯根膜腔拡大=咬合性外傷指数(TOI)、著明な咬耗+歯槽硬線の肥厚=適応性指数(AI)。TOI陽性歯(63歯)はPD 5.7mm・AL 6.1mm・BH 61.4%、TOI陰性歯(68歯)はPD 4.2mm・AL 2.7mm・BH 72.3%。AI陽性歯(47歯)はAL 3.5mm・BH 74.5%で、AI陰性歯(40歯)のAL 5.2mm・BH 63.4%より良好だった。付着喪失・炎症・プラーク量を揃えた11ペアのスプリットマウス解析では、同じ付着レベルでもTOI陽性歯のほうが骨支持が少なく、その差は付着喪失が大きくなるほど拡大した(外傷群 Y=96.41−10.47X、対照群 Y=88.96−4.66X)。著者らの結論は「咬合接触の異常そのものではなく、機能的動揺と歯根膜腔の拡大の組み合わせが、咬合性外傷の臨床診断に使える」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


