ペリオ|Phase2 歯周外科
遊離歯肉移植の移植片は、血管がつながる前の数日をどうやって生きているのか。1968年、Oliver・Löe・Karringがアカゲザル7頭を42日間追い、答えを出しました。最初は血漿循環。そして上皮は、いちど剥がれて作り直されます。角化が戻るのは28日でした。
①血管がつながる前の数日を、移植片は何で生きているのか
遊離歯肉移植が歯周治療に持ち込まれたのは1960年代です。1963年にBjörnが予備的な実験を報告し、Nabersが1966年に口腔前庭の拡張と、露出根面の被覆+付着歯肉の獲得という術式を記述。臨床の実験と観察が先行し、それを追いかける形で顕微鏡レベルの治癒研究が必要になった——という順序でした。
手がかりは皮膚移植にありました。遊離皮膚移植では、移植後の最初の2〜3日は無血管の「血漿循環(plasmatic circulation)」で栄養され、その後にゆっくりと血流が再確立されることで一致が得られていました。インディアインクの注入で、移植片の血管と周囲組織の血管の交通も示されています。
ただし論争が残っていました。移植片内にもとからある血管は、宿主組織の血管と吻合したあとも生き残るのか(TaylorとLehrfeld、ConverseとRapaport)、それとも変性して新しい血管網に置き換わるのか(Converse、LjungquistとAlmgård)。
②アカゲザル7頭、12の時点
アカゲザル7頭を用いた研究です。2頭が混合歯列、残りは成獣。上顎と下顎で時期をずらして移植することで、1頭から2つの観察期間を得る設計になっています。
術式は、前歯部で部分層弁を翻転・切除し、骨膜を残した受容床を作製。移植片は小臼歯部の頬側付着歯肉から採取します。歯からやや離した位置に逆斜切開を入れて歯肉溝上皮を除き、受容床の大きさに合わせた粘膜骨膜片を翻転・切除。移植片の大きさは平均4×10mmでした。
すべての移植片は骨膜の上に置かれ、歯冠側の縁を頬側の歯槽骨縁に合わせて、隣接する歯間部組織・付着歯肉・根尖側縁では下の骨膜に縫合。滅菌したラバーダムを移植部位に置き、アクリルステント内の歯周パックで創を保護しました(5日と8日の個体だけはパックなし)。全個体にテラマイシン100mgを術時に筋注し、以後6日間は飲水に100mgを混ぜています。
屠殺は術後0・2・4・5・7・8・11・14・17・21・28・42日。屠殺前に総頸動脈を露出し、インディアインク3:仔牛血清1の混合液を穏やかな圧で血管系へ注入。頭部を10%ホルマリンに入れ、5%硝酸で脱灰したのち移植部位を二分し、片方をパラフィン包埋して5〜10μmの切片にヘマトキシリン・エオジンとvan Gieson染色、もう片方をSpalteholz法で透明化して血管を立体的に観察しました。
③血漿循環 → 吻合 → 毛細血管の萌出
Ⅰ. 初期相(0〜3日)。術直後、受容床は比較的薄い線維性の骨膜の層を呈し、薄いフィブリン層で移植片から隔てられています。2日目の標本では、受容床から移植片へ伸びる血管の所見はありません。移植片のコラーゲン線維のあいだには滲出液の貯留が目立ち、もとからある血管の一部には血球が認められました。上皮では変性が明らかで、外層の剥離が起こり、変性する上皮の内部には白血球が存在していました。
この期間の栄養を担うのが血漿循環です。
Ⅱ. 再血管化相(4〜11日)。移植片下の歯槽骨の骨膜面に吸収は起こらず、7日目の標本で歯槽頂にわずかな吸収が見られた程度。移植片下の骨膜は無傷のまま保たれ、4日目までに線維芽細胞が移植片と骨膜のあいだへ増殖してきます。11日目には、移植片と骨膜のあいだに密な線維性の結合が成立しました。
そして4日目には、注入した炭素粒子が移植片の血管内に存在していました。血流が届いた証拠です。
著者らの結論はこうです。再血管新生は、まず受容床の血管と移植片にもとからある血管との吻合によって始まり、その後に毛細血管の萌出(capillary budding)が移植片内へ侵入する形で進む。血管密度は7日目まで増加し、そこから徐々に減って、14日以降に正常な血管パターンへ戻ります。
縫合に関連すると思われる肉芽組織の孤立した領域と、移植片の結合組織内の炎症細胞は、徐々に置き換わり、11日目には移植片の結合組織はほぼ正常に見えるようになりました。新しい辺縁歯肉は、歯根膜・骨膜・隣接する付着歯肉の領域・歯間乳頭から生じた肉芽組織から形成されています。
④上皮は、いちど剥がれて作り直される
この研究のもうひとつの発見が、上皮の運命です。
移植片の上皮は、そのほとんどが初期にいったん崩壊します。再上皮化は、隣接歯肉からの新生上皮の移動と、移植片上皮の生き残った基底細胞の双方から起こりました。
上皮は14日でほぼ正常な外観になります。ただし新しい角化が現れるのは28日。「見た目が戻った」ことと「角化が戻った」ことのあいだには、2週間の開きがあるということです。
そして注意すべき所見がひとつ。一部の移植片では結合組織が崩壊し、肉芽組織に置き換わって、治癒が遅れました。
⑤明日の臨床へ
①最初の数日は「血流」ではなく「密着」が勝負。 血漿循環しか働いていない時期に、移植片と受容床のあいだにフィブリンより厚い層(血腫・死腔)が入れば、栄養は届きません。圧接と固定の意味は、この相にあります。
②4日目に血流、7日目に血管密度のピーク。 この時期に移植片を動かす操作は、できかけの吻合に触れることになります。
③骨膜を残した受容床では、下の骨は吸収しない。 移植片下の歯槽骨の骨膜面に吸収はなく、7日目の歯槽頂にわずかな吸収があった程度でした。
④「白く見える」=「治った」ではない。 外観が正常になる14日と、角化が現れる28日はずれます。患者さんへの説明も、術後1か月を目安にするほうが実態に合っています。
⑤結合組織が崩れると、治癒はまるごと遅れる。 移植片の厚み・採取の丁寧さ・血腫の排除が、そのまま治癒期間に返ってきます。
今日のひとこと
アカゲザル7頭に遊離歯肉移植を行い、術後0・2・4・5・7・8・11・14・17・21・28・42日の治癒過程を顕微鏡で追った研究(上顎と下顎で時期をずらして移植し、1頭から2つの観察期間を得る設計。移植片は小臼歯部の頬側付着歯肉から採った4×10mm大の粘膜骨膜片で、骨膜を残した受容床に縫合)。屠殺前に総頸動脈からインディアインク3:仔牛血清1の混合液を注入し、片方をH&E・van Gieson染色、もう片方をSpalteholz法で透明化して血管を観察。治癒は3相に分かれます。①初期相(0〜3日):移植片は薄いフィブリン層で受容床から隔てられ、2日目の標本では受容床から移植片へ伸びる血管は認められない。この期間の細胞の栄養は無血管の「血漿循環(plasmatic circulation)」が担う。②再血管化相(4〜11日):4日目には移植片の血管内に炭素粒子が到達。再血管新生は、まず受容床の血管と移植片にもとからある血管との吻合で始まり、その後に毛細血管の萌出(capillary budding)が移植片内へ侵入する形で進む。血管密度は7日目まで増加し、その後は徐々に減って14日目以降に正常な血管パターンへ戻る。骨膜との強固な線維性結合は7〜11日で成立し、移植片下の歯槽骨の骨膜面には吸収が起こらなかった。③上皮は、大部分がいったん崩壊する。再上皮化は隣接歯肉からの新生上皮の移動と、移植片上皮の生き残った基底細胞の双方から起こり、14日でほぼ正常な外観になるが、新しい角化が現れるのは28日。一部の移植片では結合組織が崩壊して肉芽組織に置き換わり、治癒が遅れました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


