1問1答 論文 歯周病

再生の成績は変わらず、減ったのは患者の負担だった

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

骨縁下欠損の再生療法は「大きく開けて、材料を入れて、しっかり覆う」が長い常識でした。ところが弁をどんどん小さくしていったら、付着の獲得は落ちないまま、手術時間が半分になり、術後に痛みを訴える患者がいなくなりました。2012年、Cortelliniが10の臨床研究を並べて示した「低侵襲手術」の現在地です。

論文
Minimally Invasive Surgical Techniques in Periodontal Regeneration
著者
Cortellini P
掲載
Journal of Evidence-Based Dental Practice 2012;12(3 Suppl):89-100
種類
文献レビュー(1987〜2011年のPubMed検索・10研究=RCT 4本・コホート5本・後ろ向き1本)
PMID
23040341

大きく開けるほど、よく治るはずだった

骨縁下欠損の再生療法は、長いあいだ「大きく開ける」ことを前提にしてきました。広く剥離すれば欠損がよく見え、器具が入り、バリア膜や骨補填材を確実に置けて、弁を冠側に持ち上げて覆える——理屈は通っています。

ところが、その代償も知られていました。GTRが広まった初期には、膜の露出が「ほぼ100%の症例で起きる」時代があり、乳頭保存弁が使われるようになって5〜6%まで下がったという経緯があります。そして今日でも、再生療法の失敗の多くは、患者側の因子・術式と材料の選択・術者の技量で説明できると整理されています。

ここに逆方向の発想が入ってきました。HarrelとReesが1995年に提案したMIS(低侵襲手術)、CortelliniとTonettiが2007年に提案したMIST、そして2009年のM-MISTMISTは「創と血餅の安定」と「一次閉鎖による血餅の保護」を、M-MISTはさらに「再生のための空間の確保」を設計思想に取り込みました弁を小さくすることが、治癒そのものを助けるのではないか——という仮説です。

先に結論: 付着の獲得は落ちないチェアタイムはほぼ半分、術後に痛みを訴える患者はゼロになった

弁を、どこまで小さくできるか

3つの術式は、乳頭の扱いで区別できます。

MISは、欠損に隣接する歯の周囲に歯肉溝内切開を入れ、舌側で歯間を連結して、乳頭を鋭利に剥離して頬舌の小さな弁を挙上します。MISTは、歯間の幅が2mm以下なら単純化乳頭保存弁(SPPF)、2mmを超えるなら改良型乳頭保存弁(MPPT)で歯間にアクセスし、極小の頬側・舌側弁を挙げて骨頂を露出させます。骨膜減張切開は、弁の翻転が必要なときだけEDTAで2分処理してからEMDを塗布し、単一の内側マットレス縫合1本で閉じます

そしてM-MISTは、さらに踏み込みます。頬側の歯肉溝内切開だけを行い、乳頭の先端にできるだけ近い位置で頬側の水平切開でつなぐ三角形の極小の頬側弁だけを挙上し、乳頭組織にはいっさい触りません欠損を満たしている肉芽組織を、乳頭の下から「削り取る」ように除去し、その小さな頬側の窓から根面を清掃します。口蓋側には手を入れません

著者はこの設計の意味を、こう説明しています。歯間の軟組織が根面に付着したまま残ることで、血餅が満たされる「部屋」の安定した屋根になる宙吊りの乳頭が軟組織の落ち込みを防ぎ、再生のための空間が保たれる骨壁が足りない部分を、弁の設計が「軟組織の壁」で補っている——という見立てです。

この総説は、1987年から2011年までのPubMedを「minimally invasive surgery」で検索し、6か月以上の追跡がある10研究(RCT 4本・コホート5本・後ろ向き1本)を選んで、成績と負担を並べています

材料を足しても、成績は変わらなかった

0 2mm 4mm 6mm 1年後の臨床的付着レベルの獲得 (mm) 4.1mm 4.1mm 3.7mm M-MIST単独 M-MIST+EMD M-MIST+EMD+異種骨 45部位を3群にランダム割り付け。3群とも術前から有意に改善したが、群間に有意差はない(Cortellini & Tonetti 2011)
M-MISTに材料を足した3群比較。1年後の付着の獲得に有意差はない

もっとも印象的なのは、この結果です。45部位の孤立した歯間の骨縁下欠損をM-MISTでアクセスし、「M-MIST単独」「M-MIST+EMD」「M-MIST+EMD+異種骨」の3群にランダムに割り付けた試験で、1年後の付着の獲得は4.1±1.4mm・4.1±1.2mm・3.7±1.3mm3群とも術前から有意に改善(p<0.0001)していますが、群間には統計学的な差がありませんX線的な骨欠損の充填率も77±19%・71±18%・78±27%でした。

同じ傾向は他の研究でも見られますMISTにEMDを加えるか加えないかを比べた30部位のRCTでは、3か月後も6か月後も、臨床的にも画像的にも有意差なし単一弁アプローチ(SFA)にハイドロキシアパタイトとGTR膜を加えるかどうかを比べた24部位でも、付着の獲得は4.7±2.5mm対4.4±1.5mmで差がありません

これらは示唆的です術式が理想的な治癒条件(血餅の安定と創の安定)を用意できているなら、材料の上乗せ効果が見えにくくなる——著者はそう読んでいます。

0 40分 80分 120分 手術時間(チェアタイム・分) 99分 80分 58分 54.2分 大きな乳頭保存弁+バリア膜 大きな乳頭保存弁+EMD MIST+EMD M-MIST+EMD 4つの臨床研究を年代順に並べた歴史的比較(2001年→2011年)。麻酔から手術終了までの実測値
手術時間の歴史的比較。術式が小さくなるほど、チェアタイムは短くなった

そして負担です。チェアタイムは、大きな乳頭保存弁+吸収性バリア膜(2001年)で99±46分、大きな乳頭保存弁+EMD(2004年)で80±34分、MIST+EMD(2007年)で58±11分、M-MIST+EMD(2011年)で54.2±7.4分麻酔から手術終了までの実測で、ほぼ半分になっています

0 20% 40% 60% 術後に該当した患者の割合 (%) 46% 35.7% 50% 29.5% 30% 7.5% 0% 0% 大きな乳頭保存弁+バリア膜 大きな乳頭保存弁+EMD MIST+EMD M-MIST+EMD 同じ4研究での患者報告。鎮痛剤の服用数も4.1錠→4.3錠→1.1錠→0.3錠と減っている
患者が報告した術後の負担。術式が小さくなるほど、痛みも生活への支障も減った

術後に痛みを訴えた患者は46%→50%→30%→0%日常生活に支障が出た患者は35.7%→29.5%→7.5%→0%鎮痛剤の服用数は4.1錠→4.3錠→1.1錠→0.3錠です。MISTとEMDの大きなコホートでは、術中の痛みや不快感を訴えた患者はゼロ、70%が術後の痛みをまったく経験しませんでした痛みを報告した患者でも「中等度(VAS 19±10)」で、平均26±17時間で消えています23名は、術直後と6時間後に飲む2錠以外、鎮痛剤を追加していません

合併症も少なくなりましたMISTでは一次閉鎖が100%達成され、1週間後も95%で維持(単独部位では100%)術後の血腫・化膿・肉芽の露出・弁の離開は、どの部位でも報告されていません

負担を決めていたのは、材料ではなく術式

この総説がはっきり指摘するのは、次の一点です。術後の不快感と痛みは、使った再生材料の種類ではなく、手術アプローチの種類に左右されているように見えるより優しく、より短い低侵襲手術のほうが、術後の問題が少ない

視野の問題も、発想が転換されています。従来は「関心領域を完全に露出させるために大きく開ける」と教わってきましたしかし実際に見たいのは、欠損を取り囲む残存骨壁だけその縁まで弁を挙げれば視認性としては足りるはずですむしろ小さな弁は、視野の角度と光の入り方を狭めることが問題になる——だから拡大視野(ルーペ・手術用顕微鏡)と直接照明が解決策になり、マイクロブレード・ミニキュレット・マイクロシザーと6-0〜8-0の縫合糸が必須になる、という整理です。

ここが要点: 患者の負担を決めているのは「何を入れたか」ではなく「どう開けたか」

明日の臨床へ

1つ目。欠損の形で術式を選ぶ。 1〜2壁性で、頬側の小さな窓から清掃が届く欠損ならM-MIST口蓋・舌側まで及んで頬側からは届かない欠損なら、乳頭を挙上してMIST3〜4壁性で重度・頬舌の骨裂開を伴う欠損は、拡大した弁でバリアやフィラーを使う——この順に判断する、というアルゴリズムが提示されています。

2つ目。歯間の幅で切開を選ぶ。 歯間が2mm以下なら単純化乳頭保存弁(SPPF)、2mmを超えるなら改良型乳頭保存弁(MPPT)、欠損の隣が欠損部位なら骨頂切開です。

3つ目。材料は「入れないこと」も選択肢に。 M-MISTなら再生材料なしという選択が成立しうる——3群比較で差が出なかったという事実は、この選択を後押ししますただし著者は、MISTで囲まれていない欠損にはEMD+フィラー、大きな弁を挙げた症例には空間の安定化が要るとしています)。

4つ目。術後管理は「触らせない」。 ドキシサイクリン100mgを1日2回1週間、0.12%クロルヘキシジン洗口を1日3回、抜糸は1週間後治療部位のブラッシング・フロス・咀嚼を6〜10週間避け、1週目からクロルヘキシジンを含ませた軟毛ブラシで優しく拭くEMDを使った症例は4〜5週間で通常の清掃を再開その後3か月ごとのリコールさらに約9か月間、その部位への侵襲的な処置(縁下の器具操作・修復・矯正・追加手術)を避けることが勧められています。

ここだけ、冷静に補助線。 チェアタイムと患者の負担の比較は、同じ試験の中での無作為化比較ではなく、2001年から2011年までの別々の研究を年代順に並べた「歴史的比較」です。術者の習熟・器具の進歩・症例選択の違いが、そのまま差に含まれますまた、これらの研究はいずれも経験を積んだ専門医が、拡大視野とマイクロサージェリー器具を使って行ったもので、どの術者にもそのまま再現できる数字ではありません著者自身「低侵襲手術はすべての症例に適用できるわけではなく、段階的な意思決定アルゴリズムが臨床家を助けるべきだ」と明記しています。それでも、「小さく開けて動かさない」という一点で、成績を落とさずに負担だけを削れるという方向性は、術式選択の考え方そのものを変える一本です。

今日のひとこと

骨縁下欠損に対する低侵襲歯周再生外科(MIS・MIST・M-MIST・単一弁アプローチ)の臨床研究10本を集め、臨床成績・チェアタイム・有害事象・患者の負担を横並びで評価したレビュー10本すべてが、付着の獲得・ポケットの減少・歯肉退縮の少なさで、低侵襲手術の有効性を一貫して支持しました。注目は「材料を足しても成績が変わらない」という結果——45部位を「M-MIST単独」「M-MIST+EMD」「M-MIST+EMD+異種骨」の3群に割り付けたRCTで、1年後の付着の獲得は4.1±1.4mm・4.1±1.2mm・3.7±1.3mmと差がなく(X線的な骨欠損の充填率も77%・71%・78%)単一弁アプローチでも同様の結果(4.7±2.5mm vs 4.4±1.5mm)が報告されています。一方、患者の負担は年代とともにはっきり減りましたチェアタイムは99±46分(大きな乳頭保存弁+バリア膜)→80±34分(同+EMD)→58±11分(MIST+EMD)→54.2±7.4分(M-MIST+EMD)術後に痛みを訴えた患者は46%→50%→30%→0%日常生活に支障が出た患者は35.7%→29.5%→7.5%→0%鎮痛剤の服用数は4.1錠→4.3錠→1.1錠→0.3錠一次閉鎖はMISTで100%達成され、95%が1週間後も維持されました。著者らは「術後の不快感や痛みは、使う再生材料ではなく手術アプローチの種類で決まっているように見える」と述べています。

出典:Cortellini P. Minimally invasive surgical techniques in periodontal regeneration. J Evid Based Dent Pract 2012;12(3 Suppl):89-100. PMID: 23040341
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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