ペリオ|Phase2 歯周外科
GTRやエムドゲインの成績は、この20年で良くなったのか。術者が慣れれば効果は上がるはずです。2008年、Tuらは骨縁下欠損のRCTを集め、発表年と治療効果の関係を回帰分析しました。答えは意外なところにありました。伸びていたのは、比較対象だったはずのフラップ手術のほうです。
①新しい治療法は、年を追って良くなるのか
医学研究には「報告された効果は年々小さくなる」という現象が知られています。fading of reported effectiveness(効果の色あせ)と呼ばれ、登場直後の熱狂的な報告が、時間とともに現実的な数字へ収束していくという負のトレンドです。
ところが歯周治療の領域では逆のことが言われてきました。GTR(組織再生誘導法)の成績は、術者の経験が積み上がるにつれて向上しているのではないか——つまり正のトレンドです。学習曲線を考えれば自然な発想でもあります。
どちらが本当なのか。この問いは「いつ新しい治療法を採用すべきか」という判断に直結します。負のトレンドなら、初期の良い報告にバイアスがある。正のトレンドなら、初期の控えめな結果で見切ってはいけない。
②RCTだけを集めて、発表年で回帰する
対象は骨縁下欠損に対してGTRまたはEMDを、フラップ手術(対照群)と比較したRCTです。Cochraneレビュー2本(Esposito 2005・Needleman 2006)と同じ選択基準を採用し、2004〜2006年の新しい試験をMEDLINE・EMBASEと主要4誌のサイトから追加検索しました。
除外基準も明確です。4mm未満の浅い骨縁下欠損を扱った研究、骨移植材や他の成長因子と併用した研究は除外。治療後12か月以上の観察が必要で、複数の観察期間がある場合は最長のものを採用しています(患者と臨床家にとって重要なのは長期の結果だからという理由です)。
解析は重み付き2階層の多階層回帰。同じ論文から複数の試験群が出る場合や、同じ研究グループから複数の論文が出る場合を、階層構造として扱えるようにしたものです。各研究のサンプルサイズを重みとして考慮しています。
測るのは2つです。治療効果の「差」(=再生療法とフラップ手術の差=上乗せ効果)と、各群の「治療効果」そのもの(=ベースラインから術後への変化)。最終的にPPDで20試験、CALで22試験がGTRの解析に、EMDでは10試験が解析に入りました。
③差は動かず、対照群だけが伸びていた
GTRとフラップ手術の差(上乗せ効果)に、時間的なトレンドはありませんでした。PPD減少で+0.067mm/年(95%CI −0.125〜0.259、p=0.454)、CAL獲得で+0.013mm/年(−0.126〜0.152、p=0.842)。どちらも「差は変わっていない」という結果です。
ところが群ごとに見ると、話が変わります。GTR側のCAL獲得は+0.131mm/年で伸びていますが、有意ではありません(p=0.149)。一方、対照群であるフラップ手術のCAL獲得は+0.126mm/年で、これは統計学的に有意でした(95%CI 0.032〜0.220、p=0.013)。
両群が同じだけ良くなったから、差が動かなかった——これがこの研究の核心です。
EMDでも同じ形でした。差はPPDで−0.075mm/年(p=0.390)、CALで+0.014mm/年(p=0.871)。群ごとではEMD +0.128mm/年(p=0.189)、対照群 +0.115mm/年(p=0.078)で、どちらも正の方向ですが有意には届いていません。
もうひとつ、材料についての知見があります。膜の種類を共変量に入れると、非吸収性膜を用いたRCTのほうが、PPD減少における上乗せ効果が有意に大きい(0.868mm、95%CI 0.099〜1.637、p=0.031)という結果でした。ただしこれも、時間的なトレンド自体は有意になりません。
④なぜ対照群が伸びたのか
著者らの説明が興味深いところです。
1つ目。乳頭保存術式などの手技が、対照群にも使われるようになった。 これらの手技は本来「再生材料を守り、術後の膜の露出を防ぐため」に設計されたものです。ところが同じ術式が、対照群のフラップ手術にも用いられるようになりました。歯肉弁の扱いが洗練されれば、再生材料がなくても結果は良くなる——これが最も素直な解釈です。
2つ目。平均への回帰という統計現象の可能性。RCTには、ポケットが深くアタッチメントロスが大きい患者・部位が選ばれます。測定誤差があると、こうした部位は再測定で「改善したように見える」ことがあります。ただし著者らがベースラインCALと発表年の関係を調べたところ、対照群では負の関連(−0.239mm/年、p=0.072)で、この説明では対照群の向上を説明できないとしています。
3つ目。出版バイアスや研究の質の変化。ただしこの研究はCochraneレビューと同じ選択基準でRCTのみを集めており、ケースシリーズを含めた解析よりバイアスの影響は小さいと考えられます。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「昔の論文だから成績が低い」と読み替えない。 GTRの上乗せ効果は、1990年代の報告でも2000年代の報告でも変わっていません。古い比較試験の数字を割り引いて読む必要はないということです。
2つ目。対照群のないケースシリーズを信用しすぎない。 著者らの最も実用的なメッセージがここです。対照群の成績自体が年々変わっているのだから、対照群を置かずに「この材料でこれだけ改善した」と示しても、その多くは術式の洗練で説明できるかもしれません。
3つ目。弁の扱いへの投資は、材料と同じくらい効いている可能性がある。 対照群を押し上げたのが乳頭保存術式などの手技だとすれば、それは「再生材料を使わない症例」にもそのまま効きます。術式の研鑽が、材料費のかからない改善であるという読み方ができます。
4つ目。非吸収性膜のデータは残しておく。 PPD減少の上乗せ効果は非吸収性膜のほうが有意に大きいという結果でした。取り扱いの難しさとのトレードオフはありますが、材料選択の議論では踏まえておきたい数字です。
今日のひとこと
骨縁下欠損に対するGTRまたはEMDを、フラップ手術と比較したRCTを集め、発表年と治療効果の関係を重み付き多階層回帰で解析した研究。GTRとフラップの「差(上乗せ効果)」には、時間的なトレンドが認められませんでした(PPD減少 +0.067mm/年(95%CI −0.125〜0.259、p=0.454)、CAL獲得 +0.013mm/年(−0.126〜0.152、p=0.842))。EMDでも同様です(PPD −0.075mm/年(p=0.390)、CAL +0.014mm/年(p=0.871))。ところが群ごとの成績を見ると、対照群であるフラップ手術のCAL獲得だけが、年を追って有意に向上していました(+0.126mm/年、95%CI 0.032〜0.220、p=0.013)。GTR側も+0.131mm/年で伸びていますが有意ではありません(p=0.149)。つまり両群とも同じだけ良くなったため、差は変わらなかったという構図です。著者らは、乳頭保存術式など「再生のための」手技が対照群のフラップ手術にも使われるようになったことを主な説明として挙げ、対照群を置かないケースシリーズで新しい治療法を評価すると、その効果を過大評価しうると結論しています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


