ペリオ|Phase2 歯周外科
歯冠側移動弁(CAF)で根面被覆をするとき、成功を分けるのは何か。弁の厚み、退縮の深さ、術者の腕——いろいろ言われてきました。2005年、Pini Pratoらは60症例を解析し、まったく別の答えを出しています。「手術が終わった瞬間、歯肉縁がCEJより何mm上にあったか」。それだけで完全根面被覆の確率がほぼ決まっていました。
①根面被覆の成否は、何で決まると習ったか
歯肉退縮に対する根面被覆。予後を左右する因子として挙げられてきたのは、患者側の要因(口腔衛生・喫煙)、部位の要因(Miller分類・歯間部の骨レベル・角化歯肉幅・退縮の大きさ)、そして術式の要因(弁の厚み・弁の張力)でした。
弁の厚みが0.8mmを超えると根面被覆率100%、0.8mm未満では完全被覆に至らなかったという報告。張力のない弁のほうが良いという報告。どれも納得できる話です。
そのなかで「手術の終わりに歯肉縁をどこへ置いたか」に注目した報告がありました。CEJより2mm以上歯冠側に縫合すると完全根面被覆が得られやすい——ただし、それを主要な検討課題として正面から解析した研究はありませんでした。
そこでこの研究は、術直後の歯肉縁とCEJの距離(GM₁)だけを軸に据えて、6か月後の完全根面被覆(CRC)と退縮の減少量(RecRed)との関係を調べています。
②60症例を、1人の術者が同じ術式で
対象は2000〜2003年に連続的に登録された60名(男性15・女性45、22〜57歳、平均29.7歳)。1人につき1部位、上顎頬側のMiller I級またはII級で2mm以上の退縮が条件です。CEJが判別できること、歯に生活反応があること、対象部位に溝・修復物・う蝕がないこと、全顎プラークスコアと出血スコアがともに20%未満であることも求められています。
術者は20年以上の経験を持つ1人。全例が同じCAF術式で、歯肉溝内切開+2本の斜切開、歯槽粘膜まで全層弁で剥離し、そこから部分層で骨膜を残して剥離、頬側の筋の緊張を解いて弁を無理なく歯冠側へ動かせるようにするという流れです。乳頭部は脱上皮し、可能なかぎりCEJを完全に覆う位置で縫合しています。
計測の要は切縁(IM)を固定基準点にした引き算です。術前に切縁からCEJまでの距離(IMCEJ)を測り、術直後に切縁から歯肉縁までの距離(IMGM)を測る。その差がGM₁=縫合直後の歯肉縁がCEJより何mm歯冠側にあるかになります。計測は別の経験ある術者が、0.5mm単位で実施しました。
③GM₁が0.5mm違うだけで、達成率が変わる
まず全体の成績です。ベースラインの退縮は3.18±1.06mm、6か月後は0.32±0.49mm。退縮の減少量は2.86±0.99mm、平均被覆率は90.5%で、完全根面被覆(CRC)は33部位(55%)に達しました。知覚過敏は術前33歯(55%)から6か月後11部位(18%)へ減少しています。
そして本題です。ロジスティック回帰で、GM₁はCRCと強く関連していました(P=0.0003)。一方、ベースラインの退縮の深さはCRCと関連しません(P=0.6029)。
実データを並べると、傾向は一目です。GM₁がCEJと同じ高さ(0mm)だった13症例のCRC達成率は15%。0.5mmで40%(10症例)、1.0mmで71%(17症例)、1.5mmで75%(8症例)。そして2.0mm(6症例)と2.5mm(3症例)は、いずれも100%でした。GM₁がCEJより根尖側だった3症例では、CRCは1例も得られていません。
3mmの退縮を想定したロジスティックモデルでは、CEJと同じ高さで縫合したときの期待CRC率は約17%、2.5mm歯冠側なら100%に近づきます。
④なぜ「上に置く」必要があるのか
理由は治癒の過程にあります。術直後から6か月までのあいだに、歯肉縁は平均1.17±0.64mm根尖側へ移動していました。歯肉粘膜境も0.82±0.81mm根尖側へ戻り、角化歯肉幅は0.37±0.55mm減少しています。
弁を歯冠側へ動かすと、歯肉粘膜境も一緒に平均4.03mm歯冠側へ移動します。ところが歯肉粘膜境には遺伝的に決まった位置があり、時間とともにそこへ戻っていく——先行研究で示されてきた現象が、ここでも再現されました。
角化歯肉幅がわずかに減るのは、切開によって辺縁の歯肉組織への血流が一時的に落ちるためと説明されています。
つまり「CEJぴったりに縫う」は、1mm強の後戻りを計算に入れていないということです。後戻りの分を先に上乗せしておく——それが2mmという数字の意味になります。
⑤明日の臨床へ
1つ目。縫合前に「今、歯肉縁はCEJより何mm上か」を目視で確認する。 この研究で100%のCRCが得られたのはGM₁が2.0mm以上の群です。プローブを当てて確かめる一手間が、6か月後の結果を変える可能性があります。
2つ目。歯冠側へ十分動かせないなら、その原因を先に解く。 弁を2mm歯冠側へ無理なく置くには、減張切開と骨膜上の剥離で緊張をゼロに近づける必要があります。張力が残ったまま縫えば、弁は縫合糸に引かれて根尖側へ落ちます。
3つ目。深い退縮でも諦めない。 この研究では、もとの退縮の深さとCRCの成否に関連がありませんでした。むしろ深い退縮ほど歯冠側移動量を稼げず、そこが不利に働くと著者らは考察しています。問題は退縮の深さそのものではなく、それを十分に覆えるだけ弁を動かせたかどうかです。
4つ目。患者説明に使える数字がある。 平均被覆率90.5%・完全被覆55%・知覚過敏は55%から18%へ。「完全に隠れるとは限らないが、9割は覆え、しみる症状は大きく減る」——現実的な説明ができます。
今日のひとこと
Miller I級の上顎頬側歯肉退縮(2mm以上)を持つ60名を、1人の術者がCAFで治療し、術直後の歯肉縁とCEJの距離(GM₁)が6か月後の完全根面被覆(CRC)にどう影響するかを解析した研究。ベースラインの退縮は3.18mm、6か月後は0.32mm(平均被覆率90.5%)、CRC達成は33部位(55%)。ロジスティック回帰では、GM₁がCRCと強く関連(P=0.0003)する一方で、もとの退縮の深さ(Rec₀)はCRCと関連しませんでした(P=0.6029)。GM₁別のCRC達成率は、CEJと同じ高さ(0mm)で15%、0.5mmで40%、1.0mmで71%、1.5mmで75%、2.0mm以上では100%。縫合時に歯肉縁がCEJより根尖側にあった3症例では、CRCは一例も得られていません。背景には治癒中に歯肉縁が平均1.17mm根尖側へ戻るという現象があります(歯肉粘膜境も0.82mm根尖側へ移動、角化歯肉幅は0.37mm減少)。結論は「縫い終わりの歯肉縁は、CEJより十分に歯冠側へ置く」——術式選択の前に、最後の一針で決まる部分があるということです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


