1問1答 論文 歯周病

歯根膜は、なぜ骨に置き換わらないのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

歯根膜には骨芽細胞にもセメント芽細胞にもなれる細胞がいます。骨とセメント質という硬いものに挟まれ、しかも強い力を受け続けている。ならば埋まってしまってもよさそうなのに、0.15〜0.38mmという幅は保たれ続けます。東京歯科大学のグループが、この「作らせない仕組み」を軸に歯根膜の再生と恒常性を整理しました。

論文
Regulatory Mechanisms of Periodontal Regeneration
著者
Shimono M, Ishikawa T, Ishikawa H, Matsuzaki H, Hashimoto S, Muramatsu T, Shima K, Matsuzaka K, Inoue T
掲載
Microscopy Research and Technique 2003;60(5):491-502
種類
ナラティブ総説(自験データを含む)
PMID
12619125

埋まってもよさそうなのに、埋まらない

歯根膜は、セメント質と歯槽骨のあいだにある0.15〜0.38mmの隙間です。加齢とともに狭くなり、歯の機能状態と密接に関係します。

ここに、よく考えると不思議なことがあります。歯根膜のなかには骨芽細胞にもセメント芽細胞にも分化できる未分化間葉細胞がいて、抜歯を含む損傷刺激で誘導されることが分かっています。歯根膜は骨形成とセメント質形成に必須の組織です。

ならば、両側から硬組織が伸びてきて、この隙間はいずれ埋まってしまいそうなものです。ところが実際には埋まらない。幅は一定に保たれます

東京歯科大学のグループは、ここに「作らせない仕組み」があるはずだと考えました。歯根膜には、骨とセメント質の形成を抑制する機構が備わっており、促進系と抑制系の両方があってはじめて恒常性と修復が成立する——それがこの総説の骨格です。

先に結論: 歯根膜が骨に置き換わらないのは、石灰化を促す仕組みと抑える仕組みが同時に働いているから。bFGFはアルカリフォスファターゼ活性と石灰化結節の形成を抑え、マラッセの上皮遺残は線維芽細胞の増殖を抑制する物質を出しているらしい。

歯根膜は、場所によって別の顔をしている

まず、静かなときの歯根膜。DNA合成を行う細胞はごくわずかで、標識率は1〜4%程度にすぎません。ところが外傷性の損傷を加えると、標識率は約6倍に跳ね上がります。標識された前駆細胞は最初血管周囲腔におり、そこから創部へ移動していきます。

そしてこの論文の面白いところは、歯根膜を3つの領域に分けて数えたことです。

歯根膜は3つの領域で性格が違う(ビーグル犬・正常歯根膜)

細胞の密度(%) 43.5 31.0

血管の占める面積(%) 2.5 17.0 23.4

増殖中の細胞(%) 4.5 5.7 3.3

セメント質側 中間 歯槽骨側

読み取れること ・セメント質側は細胞がもっとも密なのに、血管はほとんどない(2.5%) ・増殖中の細胞は中間層に多く、そのうち69.6%が血管に関連している(セメント質側では27.8%) マラッセの上皮遺残はセメント質側にしか観察されない(2.3%)

細胞密度はセメント質側(43.5±6.6%)が歯槽骨側(31.0±6.2%)より有意に高い(p<0.01)。増殖細胞(PCNA陽性)は中間層(5.7±3.3%)が最多。血管は歯槽骨側に集中し、セメント質側にはほとんどない。セメント質側の細胞の入れ替わりは、歯槽骨側より活発だと著者らは考えています。

促す因子と、止める因子

歯根膜の再生には多くの成長因子が関わりますが、この総説の視点で読むと、役割が二手に分かれていることが見えてきます。

一定の幅は、促進と抑制のつり合いで保たれる

歯根膜 0.15〜0.38mm

促す BMP・TGF-β・IGF PDGF・エムドゲイン

止める bFGF(ALP活性を抑制) マラッセの上皮遺残 幅が保たれる アンキローシスが 起こらない

bFGFは歯根膜細胞の増殖を促す一方で、アルカリフォスファターゼ活性と石灰化結節の形成を抑制する。この二面性が鍵とされる。

促進側では、BMPが歯根膜の形成を許容し骨誘導を担い、PDGFは分裂促進因子として働きます。ただしPDGFは細胞外基質の合成や間葉系の分化には影響しません。IGF-Iは単独では創傷治癒を有意に変えず、PDGF-BBとの併用ではじめて新付着と骨欠損の充填が有意に増えました(4週・12週)。

抑制側の主役がbFGFです。bFGFは歯根膜細胞の増殖を用量依存的に高める(最大の効果は10ng/mL)一方で、アルカリフォスファターゼ活性の誘導と石灰化結節の形成を抑制します。つまり歯根膜細胞が硬組織形成細胞へ分化するのを押しとどめ、未熟な歯根膜細胞を増やす。著者らはこれを、石灰化(アンキローシス)を防ぎ、歯根膜の空間を保つ働きではないかと考えています。

マラッセの上皮遺残という、もうひとつのブレーキ

ここがこの総説のいちばん面白いところです。

マラッセの上皮遺残は、ヘルトヴィッヒ上皮鞘の発生学的な遺残で、歯根膜のなかでも常に歯槽骨よりセメント質に近い側に位置します。長らく「役割不明の残りかす」と見なされてきました。

著者らはブリティッシュコロンビア大学のBrunette教授の協力を得て、マラッセ上皮遺残と歯根膜線維芽細胞を共培養しました。すると——

  • 線維芽細胞は細胞数が日ごとに等差級数的に増加する。マラッセ上皮の増殖率はずっと低い。
  • ところがマラッセ上皮の細胞は線維芽細胞の層の上でよく育つのに、線維芽細胞はマラッセ上皮の層の上ではうまく育たない
  • 両者を共培養すると、初期は同程度でも、後半はマラッセ上皮のほうが広い面積を占める

この非対称性から、著者らはマラッセ上皮遺残が分泌する何らかの物質が、線維芽細胞の増殖を抑えている可能性を挙げています。恒常性の維持とアンキローシスの防止に関わるのではないか、と。

そして決定的なのが、傷つけた歯根膜の再生を追った実験です。歯根膜そのものは完全に再生したのに、術後2か月でアンキローシスが生じました。再生した歯根膜は正常とよく似ていたのですが、ただ一点、マラッセの上皮遺残だけが欠けていた。そして幅は時間とともに狭くなっていきました

ただし議論は続いている: Sculeanら(1998)は、人工的な骨内欠損に再生した歯根膜ではマラッセ遺残もアンキローシスも認められなかったと報告している。上皮遺残の役割は確定していない。

アンキローシスは、どこで線を越えるのか

移植・再植の文脈でも、数字が出ています。

抜去歯の根面に付着して残る歯根膜の量を計測すると、最小31.5%・最大96.5%、平均55.4±22.5%。歯根膜腔の体積は単根歯で30〜100mm³、複根歯で60〜150mm³です。

そしてAndreasenらの実験によれば、除去した歯根膜の面積が9mm²を超えるとアンキローシスが起きました(再植8週後)。

培養系でも整合的な結果が出ています。歯根膜を皮下組織へ移植しても石灰化は起きません。ところが同じ組織をミリポアフィルターの拡散チャンバーに入れて皮下移植すると、骨組織を作りました。チャンバー内は低酸素で、細胞も血管も入り込めません。また培養線維芽細胞は高いALP活性を保ったまま石灰化しませんでしたが、BMPを豊富に含む脱灰骨や象牙質基質の上で、デキサメタゾンとグリセロリン酸を加えると骨形成が起きました

つまり歯根膜は、置かれた環境しだいで、硬組織を作る側にも作らない側にも振れるということです。

明日の臨床へ

この総説は基礎研究のレビューですが、臨床の判断に接続できる線が3本あります。

1つめ。再生療法は「作る力」を足すだけでは足りない。 エムドゲインが歯根膜細胞の付着・成長・代謝を高め、間葉系細胞の増殖を上皮より優位にすることは、この論文でも触れられています。しかし長期の予後を分けるのは、そのあとに「作らせない仕組み」が戻ってくるかです。幅を保つ機構が働かなければ、再生した歯根膜も次第に狭くなります。

2つめ。再植・移植では、根面の歯根膜を「面積」で守る。 9mm²という数字は覚えておく値打ちがあります。抜歯窩から出したあと、根面をどう扱い、どれだけ乾燥させないかが、そのままアンキローシスの分岐点になります。

3つめ。血管の分布を頭に入れておく。 増殖細胞は中間層に多く、そのうち約7割が血管に関連していました。歯根膜の再生能力は血管に依存している——外科的に歯根膜を扱うとき、血管側(歯槽骨側)をどれだけ残せるかが効いてくる可能性があります。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: これはナラティブ総説で、文献の検索方法や選択基準は示されていません。自験データを多く含みますが、多くはビーグル犬・ラット・培養系の知見で、ヒトの臨床成績に直結するものではありません。マラッセ上皮遺残の役割については著者ら自身が反対の報告(Sculean 1998)を併記しており、結論は出ていません。また2003年の総説であり、その後の再生療法(rhFGF-2製剤など)の展開は含まれていません。それでも、「歯根膜には作る仕組みと作らせない仕組みの両方がある」という視点は、再生療法を単なる足し算として理解しないための補助線になります。日本の研究室から発信された、丁寧な仕事です。

今日のひとこと

歯根膜が骨に置き換わらないのは、石灰化を促す仕組みと抑える仕組みが同時に働いているからです。bFGFはアルカリフォスファターゼ活性と石灰化結節の形成を抑え、マラッセの上皮遺残は線維芽細胞の増殖を抑制する物質を出しているらしい。実際、再生した歯根膜にマラッセ遺残が現れなかった実験では、幅が次第に狭くなりアンキローシスが生じました。再生療法は「作る力」を足す話ですが、同時に「作らせない仕組み」が残っているかどうかが、長期の予後を分けます。

出典:Shimono M, Ishikawa T, Ishikawa H, Matsuzaki H, Hashimoto S, Muramatsu T, Shima K, Matsuzaka K, Inoue T. Regulatory mechanisms of periodontal regeneration. Microsc Res Tech 2003;60(5):491-502. PMID: 12619125(doi: 10.1002/jemt.10290)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。